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522、自由の町デネブ 〜ヴァン、二十三歳になる

 僕の問いかけに、白き海竜マリンさんは、ふわりと微笑んだ。人化していると、彼女には妖艶すぎる色気がある。


 彼女にチラッと視線を向けられたゼクトは、スッと目を逸らした。警戒したんだな。マリンさんは僕の近くにいるときは、なぜか魅了系の術を常に発動してると、ゼクトが言っていたっけ。


 僕も、なんとなくそんな気はしている。マリンさんは僕の従属だけど、本当の意味で従えているわけじゃないからな。いつでも術返しができるんだと思う。


 それなのに、ずっと従属でいてくれるんだよな。単に、僕の従属でいることを気に入っているようだけど、理由はそれだけじゃない。


 彼女は千年も生きているらしいけど、今もまだ子供を定期的に産んでいる。僕はまだ子供すぎると言われているけど、ゼクトは、マリンさん好みの年齢に近づいてきたもんな。



「うふふ、この子が引き継いだフェニックスの魔石は、小さい子供のものみたいだけど、300年は生きてたんじゃないかしら? だから、神矢の吸収には問題ないわ」


 ひぇ〜、300年!? 魔物の年齢って理解不能だよな。


「じゃあ、使えるのかな?」


「使えるわぁ。チビちゃ、これに触れてみてちょうだい」


 マリンさんはそう言って、神矢を魔力で浮かせ、巨大な鳥の方ヘ近づけた。だけどマリンさんを恐れているのか、僕に助けを求めるような視線を送ってくる。やはり、ほんと臆病な子だな。



「チビちゃ、その神矢に触れて、人の姿になりたいと念じると、僕みたいな姿になるよ」


『えっ!? あたちも、にいにのなかまになるの?』


 仲間というか……。どう説明すればいいんだ?


「僕は、人間という種族なんだ。氷の神獣は自力で化けてるけど、神矢を持ってきてくれた海竜は、この神矢を使ってるんだ」


『あたちも?』


「うん、チビちゃもできるよ」


 やわらかな笑みを見せると、褐色の巨大な鳥は恐る恐る翼を広げた。するとマリンさんは、巨大な鳥に、シュッと神矢を飛ばした。


 ギクッと身体を震わせたけど、すぐに、ボンッと変化へんげを使う音がした。スキル『道化師』のなりきり変化へんげを使うと、魔物や霊は人化できるけど、他の魔物には化けられないらしい。


 だから褐色の鳥は、その年齢に応じた人の姿になる。300年も生きているなら……うん?



「チビちゃ! かわいい〜。あはっ、スッポンポーン!!」


 青い髪の少女が駆け寄っていく。はぁ、羞恥心はないのか。


「あら〜、可愛らしいわね〜。食べちゃいたいくらいだわ」


 マリンさんがそう言うと、人化した新種の魔物は、心底怯えた表情をしている。


「マリンさん、怖がらせて遊ばないでくださいよ」


「うふふ、ヴァンってば、お父さんみたいね〜」


 まぁ、そうだな。僕は魔法袋から、寝具に使う厚手のジャージを取り出した。やわらかな生地だから、これなら大丈夫だろう。



「チビちゃ、僕の寝具しかないから、ちょっとこれを着ておいて」


 そう言って、人化した子に着せた。ジャージの上だけで、ロングドレスのようになっている。


「にいにのにおいがする。あっ、あれ? あれれれ?」


 言葉も、念話じゃなくて普通に話せるみたいだな。見た目は、立っているのが不思議なくらい小さい。身長は2歳児くらいだろうか。肩までの赤い髪に、クリッとした茶色の目。素っ裸を見なかったら、性別はわからないところだったな。


 そんな新種の魔物の姿に、チビっ子好きなテンウッドは、目を輝かせている。



「やっぱり、チビちゃは、かわいいね。ルージュと同じくらいかな? でも男の子だから、あたしとはお揃いの服は着れないよ」


 確かに、僕の娘も、歳のわりには小さいんだよな。フラン様が華奢きゃしゃだからかもしれない。


 服がどうのと言っても、この子には理解できないだろう。


「あたち、にいにのがあるもん。あったかいもの」


 厚手のジャージを着せてよかった。


「チビちゃ、男の子なのに、あたちって言うのはおかしくない?」


 テンウッドがそう尋ねても、小さい男の子は首を傾げる。見た目は2歳児でも、中身は生まれたばかりの新種の魔物だからな。




「ヴァン、とりあえずデネブに戻るだろ? この草原は、六精霊に任せておけばいい。何かあれば、王宮が動く」


 ゼクトは、僕についていてくれるつもりみたいだ。この新種の魔物が、人化を維持できるかわからないもんな。


「うん、戻るよ。さっきの話を詳しく聞きたいし、朝食を作るよ」


「おっ! 今日は、ファシルド家の朝食が食いたいぜ」


 はい? はぁ、まぁ、いいけど。ニカニカと悪戯っ子のような笑みを浮かべるゼクトに、何も言えなくなる。こないだは、レモネ家の朝食って言ってたよな?



 ゼクトが高台にいる人達に、簡単に状況を説明しに行った。


 ほんの数年前まではゼクトを狂人呼ばわりしていたのに、冒険者達のゼクトに対する態度はガラリと変わった。ゼクトは、Lランク冒険者であり伝説の極級ハンターなんだから、これが本来の当然の扱いだ。



「にいに〜」


 そう言いつつ、小さな男の子は、突然僕にくっついてきた。少し身体が震えているようだ。


「チビちゃ、寒い?」


「うん、にいにのそばは、あたたかいの」


 そういえば、鳥の姿では褐色だったな。



「あら、私が抱っこしてあげようかしら〜」


「マリンちゃんはダメ。あたしが抱っこするよ!」


 マリンさんとテンちゃが言い争いを始めると、やはり小さな男の子は、怯えた表情で震えている。まぁ、赤ん坊だもんな。


「マリンさんもテンちゃも、この子より圧倒的に体温が低いから、今はダメだよ。さっき、褐色になってたから寒いんだ」


 僕は、男の子を抱きかかえた。すると僕の体温を吸収しようとするかのように、ピチャリとくっついてくる。僕は、男の子を抱く手にヒート魔法をまとわせた。


「にいに、あったかい」


 そう呟くと、ピチャリとくっついたまま、スーッと眠ってしまった。



「ヴァン、その子は眠ると、変化へんげが解除されちゃうかもしれないわよ。しばらくは、私も見張りにつくよ」


 そう言いつつ、マリンさんの視線はゼクトに向いていた。あぁ、完全にロックオンされてるね。


 まぁ、でも、マリンさんがいてくれるのは心強い。ブラビィはいつの間にか、僕の腰にぶら下がっている。融合が完了したと言っていたけど、やはりまだ、この子は危険なんだな。




 ◇◇◇



 僕達は、ゼクトの転移魔法で、デネブのドゥ教会へ戻ってきた。


 新種の魔物は、まだ起きる気配はない。眠るたびに成長するみたいだから、なんだか起きるのが怖いよな。



「ヴァン、どうしたの? その女の子」


 フラン様が、僕が抱きかかえている子を見つけて……なんだか、こわい顔をしている。


「フラン様、男の子みたいですよ」


「どっちでもいいわよ! どういうことか、説明しなさい」


 あれ? 新種の魔物を連れてきたから怒ってる? 


「えーっと、あとで、バーバラさんに預けに行くけど……」


「は? そんな幼い子を従属に預けるって、どういうこと!?」


 フラン様は、腕を組んで仁王立ちだ。何を怒ってるんだろ?



「ククッ、フラン、おまえ嫉妬か? ヴァンが他で子供を作ったと思ってるんだろ」


 はい? ゼクトは何を言ってるんだ?


「じゃなきゃ、なぜ、こんな服もろくに着せてない子供を抱えているのよ! 色白で気の弱そうな顔は、ヴァンにソックリだわ!」


 へ? 


「ぷはははっ、ついて来てよかったぜ。このネタで2年は旨い酒が飲める。ククッ、フラン、おまえ、どんだけヴァンに惚れてんだ?」


「なっ!? 何を……。私は、ヴァンに聞いてるのよっ! 正直に話しなさい!!」


 ひゃ〜、めちゃくちゃ怒ってるよ。ふふっ、かわいい。



「フラン様、この子は、フェニックスの変異種の魔石に、ラフレアが生んだ新種の鉱物系の魔物を融合させた個体です。ラフレアのマザーから託されました」


 僕は、彼女を諭すようにそう話すと、フラン様の顔はみるみるうちに赤くなった。


「魔物? ラフレアの子?」


「はい、そうです。いま、ずっとヒート魔法を使っているから眠ってますけど、まだ生まれて2日くらいだから、自分で体温調節できないんですよ」


「そ、そう、なのね。ヴァンに似ているから……」


「似てますか? だとするとこの子が似せて変化へんげを使ったのかな」


「あー、もうっ! 知らないっ」


 なぜか突然、フラン様は拗ねてしまった。女心は難しいな。



 ◇◇◇



 しばらく時が流れた。毎日、複数の従属が交代で、チビちゃの監視を続けている。


 やはり、この子は、臆病な性格のようだ。娘のルージュにまで怯えている。女性が怖いのかも。



 そして、僕は23歳、娘は3歳になった。



皆様、いつもありがとうございます♪


日曜日はお休み。

次回は、6月13日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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