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515、ラフレアの森 〜寒い寒い寒い

 ブラビィからの提案に、僕は一抹いちまつの不安を感じた。あんな奇妙な魔物に変化へんげしたら、僕まで取り込まれてしまわないだろうか。



 さっき天兎のぷぅちゃんは、ラフレアの森全体に毒薬を撒けば、この新種の魔物を倒せると、考えたようだ。


 僕も、その案に賛成した。だが赤い液体のような魔物をよく調べてみると、毒薬を使っても、睡眠状態になるだけのようだ。


 森全体に毒薬を撒いておけば、飛び散った赤い液体は、毒薬によって眠ることになるだろう。だが、ただの一時しのぎにしかならない。



 それに、今あの液体の魔物は、草食の小型の魔物の中に入り込んで集まっているが、天兎でさえあらがえないなら、何よりも危険な魔物だと言える。


 強い魔物に入り込んで乗っ取ってしまうなら、あの赤い液体の魔物は、最強じゃないか。そもそも毒薬もほとんど効かない。状態異常への耐性を持つ魔物に入り込むと、さっきのように追い出すこともできなくなりそうだ。




『ヴァン、未知の新種の魔物だ。考えていても答えなんかねーぞ』


 ブラビィは、僕に変化へんげを使えと言ってくる。だけど、そもそも、変化は姿を借りる技能だ。新種の魔物と会話したわけでもない。許可がなければ、化けられない。


『おまえなー。ラフレアが生み出した魔物だぜ? おまえもラフレアじゃねーのかよ。許可なんて不要だろ』


 そうかな? でも、変化へんげを使って赤い液体になったら、僕まで集められない?


『は? 別の個体だろ? テンウッドが何を言ってるかわからねーが、たぶん、1体の魔物だ。バラバラになっても獣の中に集まろうとする習性があるみてーだぜ』


 僕も、テンちゃの話は半分もわからないけど……。とりあえず、僕まで取り込まれないなら、いいんだけどさ。


『なんか、震えてるみたいだから、そんな力はねぇだろ、知らんけど』


 ちょ、語尾! 知らんけどって、無責任すぎない?


『ふふん、そろそろ全部集まったんじゃねーか? 早くしろよ。テンウッドがまた、ぐちゃぐちゃにするぞ』


 ブラビィは、上空からでも見えているのか。




「テンちゃ、ちょっと待って!」


 今、まさに飛びかかろうとしている青く輝く神獣に、僕は待てを命じた。


「はぁ? 待てって、いつまで?」


 めちゃくちゃ不満げだな、さすが戦闘狂。


「僕が、ちょっと姿を変えて話してみるよ」


「はぁ? はぁぁあ? 主人あるじがアレに化けるの?」


 テンウッドは不満MAXだけど、一応、僕の指示には従ってくれるらしい。覇王効果なんて、神獣にはほとんど効いてないと思うけど。


「うん、だから、ちょっと待って。あっ、僕が取り込まれそうになったら助けてね」


「どうして、主人あるじが取り込まれるの?」


 青く輝く神獣は、その輝きを白っぽいものに変えている。戦闘狂スイッチがオフになったみたいだな。ホケ〜ッと呆けた顔をしている。


「だって、赤い魔物は液体だから、混ざるかもしれないじゃん」


「はぁぁ? 主人あるじが何を言ってるのか、あたし、全然わかんなーい」


 あっそ。まぁ、いいや。




「ヴァン、大丈夫なの?」


 フロリスちゃんが心配そうにしてくれる。すると、天兎のぷぅちゃんは、フンと鼻を鳴らして口を開く。


「あの赤いヤツは、獣にしか入り込まねぇよ。人間は持ってねーだろ」


 僕は、ぷぅちゃんが、何を言ってるのかわからない。話が変わった? 変化へんげしたら、液体だから、混ざってしまうかもしれないと言ってたんだけどな。


「ぷぅちゃん、私達が何を持ってないの?」


 フロリスちゃんがそう尋ねると、獣人の少年は表情を変えた。上から目線だった態度が一転し、かなり焦っているようだ。


「フロリスちゃん、赤いヤツは、オレの核となる部分にまとわりつくんだ。だから、意識が奪われる」


 核となる部分? あー、魔石か。フロリスちゃんは、首を傾げている。彼女は、天兎の成体が魔石を持つことを知らないのかもしれない。


 僕達は、長く生きる魔物の体内にマナが蓄積されていって魔石が生まれると、魔導学校で習った。ただ、それは間違いではないけど、正しいわけでもない。魔石が魔物の体内にできる過程は、いくつもあるみたいだからな。



「フロリス様、とりあえず、僕はあの魔物と話してみるので、技能を使いますね。もしものときは、フォローをお願いします」


「わかったわ! 任せて」


 フロリスちゃんは、ポンと自分の胸を叩いて頷いてくれた。ほんと、強くなられた。ちょっと嬉し涙が出そうになるよ。




 僕は、少し後退し、そしてスキル『道化師』の変化へんげを使う。液体に化けたことがないから、緊張する。口はなさそうだから話せないよな? だが、ラフレアが生み出した魔物だ。念話は使えるだろう。


 ボンッと音がして、僕の視点は、かなり高くなった。ラフレアの森のどの木よりも高い。それに、液体ではない。磁器のような肌、色は褐色だろうか。だけど、なんかスカスカだな。



 サワサワと木々を揺らす風が吹いた。


『さ、寒い!!』


 僕は、手を動かそうとすると……手が地面に落ちた!?


『へ!?』


 地面を見ようと下を向くと……首が落ちた!!



「きゃー! ヴァン!!」


 フロリスちゃんの悲鳴が聞こえた。だけど僕は全く痛くない。地面から見上げると、僕の胴体が見える。これは、ゴーレムだな。


『うー、寒い。ふぇっくしょん!』


 僕がくしゃみをすると、胴体が腰をかがめたまま、ポキリと折れて地面に転がった。寒い。めちゃくちゃ寒い!


 すると折れた胴体が、互いにこすり始めた。寒風摩擦のような原理か。少しだけ寒さがマシになってきた。


 だけど、ゴーレムのように見えた胴体はもろいのか、どんどん削れるようにして小さな石に変わっていく。だけど、この方が温かい。寒いんだけどマシだ。



『獣の中に入らないと、凍っちゃうよ?』


 この声は……。


『どうやって入るの?』


『温かい石を見てたら、入れるよ。早くしないと凍っちゃうよ』


 この声は、赤い液体の魔物だよな? 自分が取り込む気はないのか?


 ふと、近くにいたぷぅちゃんの身体の中に、燃えているようなモノが見えた。あれは、魔石か。確かに温かそうだ。つい、手を伸ばしたくなる。


 僕の胴体は、互いに擦りあい、赤く変色していた。だけど、液体ではない。小さな石だ。風が吹くたびに寒くてたまらない。



「おまえ、オレを狙ってんじゃねーだろーな」


 ぷぅちゃんは、僕の頭とは別の方を向いて、怒鳴っている。


『寒いんだよ、めちゃくちゃ』


 声なき声でそう言うと、ぷぅちゃんは僕の小さな粒になった赤い身体に、火魔法を放った。おっ、少し温かい。うん? 少し? だけど、すぐに冷えてきてしまう。



「ぷぅちゃん! ヴァンを消し炭にする気!?」


 フロリスちゃんには、僕の声は聞こえていないらしい。


「違うよ、コイツが寒いって言うから」


「明らかに攻撃魔法じゃない!」


 フロリスちゃんに叱られ、獣人の少年はしょんぼりしている。テンちゃが、何か企んでいる顔だな。そろそろ戻ろうか。


 僕は、変化へんげを解除した。あちこちに散らばっていた小石が集まってきて、なんとか元の姿に戻ることができた。




『キミは、変なんだね。ラフレアなの? 半分だけ、人間なの?』


 変化へんげを解除すると、僕の近くに草食の小型の魔物が近寄ってきた。だが、奇妙なオーラを放っている。


 人間の姿に戻っても、話がわかるんだな。あー、ラフレアの森の力か。足の裏がモゾモゾする。


「僕は、動くラフレアと呼ばれているよ。この森のマザーから株分けされたんだ。もともとは普通の人間だよ」


『へぇ、人間なら寒くない?』


 ここは、寒くないとは言わない方が良さそうだな。


「人間は、体温が低いからね。キミが同居しようとしても、生きていられないんじゃないかな」


『やっぱり? 人間には温かい石がないもんね。でもこの獣も寒いよ。あの獣の方が温かそう』


 奇妙なオーラを放つ魔物は、ぷぅちゃんの方に視線を向けた。魔石なら、神獣の方が大きなものを持っている。だけど、テンウッドには近寄らないんだな。


 さっき見たとき、氷の神獣の身体の中には、凍てつくような冷たそうなエネルギーが見えた。だから、テンウッドは、この魔物に乗っ取られないんだ。



「あの獣は、天兎だからダメだよ。キミを排除する力がある」


『そうかな? 大丈夫そうだと思ったよ』


 このやり取りを、ぷぅちゃんは警戒しながら聞いている。この魔物は成長を続けているようだ。小型の魔物の中には、収まりきらない。


 これが、テンウッドが言っていた、増えるということか。もともとのゴーレムの大きさに戻ろうとしているのかもしれない。



『あっちにする!』


 小型の魔物は、パーンと弾けた。



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