表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

511/574

511、自由の町デネブ 〜嫌な伝言

 情報交換が終わると、ゼクトはオールスさんと一緒に帰っていった。去り際にオールスさんは、嫌な伝言を残していった。


「ヴァン、貴族達が近いうちにボックス山脈の王都専用地区で、水辺のお茶会をやるらしいぜ。ルーミント家から俺に護衛依頼が来たが、おまえが空いている日に設定すると言っておけってさ」


 ルーミント家って、ラスクさんのことだよな。当主である奥様からの依頼かもしれないけど。


 水辺のお茶会は、水質調査をするために貴族が集まっているんだっけ。白魔導系貴族ルーミント家が、その水質調査の役割を担っている。


 貴族を集めるのは、問題意識を共有するためだと思うけど、水辺のお茶会では、いつも何か変なことが起こるんだよな。そういう場所を選んで、開催しているのかもしれないけど。




「ヴァン、王都専用地区の『100』地区は、安全とはいえないぞ。以前は、ボックス山脈から逃げ出した弱い魔物を収監していたが、今は、正体不明な魔物が水辺に大量発生している」


 国王様は、そう言いつつも嬉しそうなんだよな。


「そうですよね……」


「オールスが護衛なら、あの場所を取り戻せるよな?」


「さぁ、魔物だらけなら、どうでしょう?」


「ふふっ、任せた!」


「いやいや、無茶振りですよ? フリックさん」



 本来なら、王都専用地区は、人間が管理できていた檻だ。堕ちた神獣ゲナードが、あの付近を6〜7年前にぐちゃぐちゃにしてからは、立ち入れない状態が続いていたようだ。


 今もゲナードは、王都専用地区付近をナワバリにしているらしい。神獣テンウッドは、ゲナードがボックス山脈から出てくると、嬉々として襲撃しに行っている。


 そのうちゲナードも、ボックス山脈から出ることを諦めると思うけど……そんなゲナードのナワバリで、水辺のお茶会だなんて。


 たぶんルーミント家は、ボックス山脈の王都専用地区から、ゲナードを追い出したいんだろうな。


 ボックス山脈は広い。だからもっと他の場所に、いくらでもナワバリをつくれるはずだ。


 だけど、ゲナードが王都専用地区付近に居座るのは、やはり、ボックス山脈に定住する気がないからだろう。


 人間との関わりを断ちたくないのか……いや、人間を支配したいという願望を捨てられないということか。



 国王様も、あの付近がゲナードのナワバリになっていることは知っているはずだ。水辺のお茶会をキッカケに、ゲナードを王都専用地区から追い出せと言ってるんだと思うけど……。


 だけど、急には無理だよな。


 僕は、神獣テンウッドには、ゲナードがボックス山脈から出てきたらボコっていいと、指示している。


 ゲナードは、殺すと悪霊となって影の世界をぐちゃぐちゃにするから、殺せない。いや、神獣テンウッドの力なら、ゲナードを完全に消滅させることが可能かもしれないけど……今の僕には、まだその決断はできない。


 テンウッドが、神の怒りを買って氷の檻に封じられていたのは、ひどすぎる戦闘狂だからだろう。


 テンちゃは、今は人間の姿を楽しんでいる。だけど、これは僕の娘ルージュがまだ幼いからかもしれない。ルージュが成長して、テンウッドと折り合いが悪くなると、テンウッドは、厄災級の危険な獣となるかもしれない。


 やはり、ゲナードを止めるという役割は継続すべきだと思う。結界を簡単にすり抜ける神獣は、ボックス山脈に閉じ込めることができないもんな。




「あっ、主人あるじぃ、帰ってたの?」


 噂をすればじゃないけど、青い髪の少女が奥の屋敷から、教会へと入ってきた。ルージュが寝たんだな。神獣テンウッドはこのまま、どこかへ出掛けるつもりだろう。


「テンちゃ、ただいま」


「おかえりなさいませ〜って言わせたいのね!」


 はい? はぁ、まぁいっか、


「ただいまと言ったら、おかえりでしょう? バーバラさんに、また叱られるよ」


「はぁ〜? あんな土ネズミが怒っても何も怖くないよ!」


「ルージュに叱られるよ?」


「はうぅ……主人あるじ、性格悪いよ!」


 ふふっ。ほんと、ルージュのこと、大好きだよな。



「テンちゃは、お出掛けかな? いってらっしゃい」


「いってきます〜って言わせたいのね!」


 はぁ、ったく。僕をビシッと指差して、ドヤ顔だよ。


「うん、言わせたいんだよ。テンちゃは言える? ルージュなら言えるよ?」


「はうぅ……い、言えるわよ! いってきます! ほら、言えたでしょ!」


 両手を腰に当てて、ふんすと鼻を鳴らしている。まぁ、いいか。


「うん、言えたね。いってらっしゃい」


 そう返答すると、ふふんと笑みを浮かべて、てくてくと歩いていく。後ろ姿は、10歳くらいのかわいい少女なんだけどな。




 ビービー!


 あっ、ファシルド家の呼び出しの魔道具だ。


 今も、薬師契約は継続している。だけど、僕が派遣執事に専念してからは、呼び出し回数を減らすために、ファシルド家は、もうひとり薬師を雇ったんだ。


 だから、よほどのことがないと、呼び出されることはなくなった。逆に、呼び出されたときは、たいてい大量の怪我人がいる。


 僕は、魔道具に触れて応答する。


「どうされました?」


『あぁ、よかった。ヴァンさん、いま大丈夫ですか? どこかの貴族の屋敷ですか』


 バトラーさんの声だ。少し慌てている。


「いえ、今はドゥ教会ですよ。今夜はこのまま、ゆっくりするつもりでしたから、大丈夫ですよ」


『そうですか、よかった。ちょっとお願いがあるんです』


 僕がゆっくりするつもりだと言ったからか、バトラーさんは遠慮がちに、そう言った。


「はい、遠慮なくどうぞ」


『ヴァンさん、いつもすみません。夕方から、ウチの薬師がラフレアの森に素材を採りに行ったのですが、連絡が途切れてしまいまして……』


「夕方からということは、異界の薬草探しですか」


『はい、フロリス様が護衛すると言って同行されているので、ちょっと心配になりまして……』


「天兎のぷぅちゃんもですよね?」


『はい、ぷぅちゃんが一緒だから、他に警護は付けなかったのです。ですが、呼び出しの魔道具に反応がなく、もう戻るはずの時間なのですが……』


「わかりました。僕が見てきます。異界の薬草の群生地はいくつかありますが、王都側の出入り口から入られてますよね?」


『はい、通行証の確認があるので、王都側から入ったはずです』


「じゃあ、行ってみますね」


『ヴァンさん、よろしくお願いします』


 心配そうなバトラーさんは、やっと通信を切ってくれた。




「ちょっと出掛けてきますね〜」


 近くにいた神官見習いの子にそう言うと、僕は教会の出入り口に向かいながら、ラフレアの根を地下茎に伸ばす。


 なるほど。ラフレアの森の一部は、今は戦闘状態だ。だから、ラフレアの赤い花の花粉で、様々な魔道具が使えなくなっているようだな。


 ラフレアの森にも、新たな魔物が生まれている。だから、それを狙った冒険者が、頻繁に入り込んでいるようだ。本来なら、王宮の許可がないと入れないんだけど、いろいろな抜け道があるらしい。




主人あるじぃ〜、あたしも行く!」


 教会を出て、スキルを使おうとした瞬間、僕の手を青い髪の少女が握った。振りほどけない力なんだよな。


「テンちゃ、僕はラフレアの森に行くんだ。あそこは、王宮の許可がないと立ち入ることはできない決まりだよ?」


「あたしに入れない場所はないわ!」


 ふんすと鼻を鳴らす青い髪の少女……。決まりだと言っても通用しないらしい。どうしてもと言うと、国王様を脅して許可証を出させそうだよね。


「テンちゃは、ゲナードの見張りが仕事でしょう?」


「はぁ〜? あの獣なら、まだしばらく動けないよ! おとといボッコボコにしたもん。だから、あたし、暇なの。暇すぎて頭が悪くなるよ」


 なぜ、暇すぎると頭が悪くなる?


「テンちゃ、じゃあ、ルージュが起きるまで一緒に寝てたらいいんじゃない?」


「あたし、ちょっとしか寝ないもん。もう、今日は寝たもん。強い人間は酔っ払ってるし、暇すぎるんだもん!」


 ゼクトは、また飲みに行ったのか。


 ここまでうるさい神獣テンウッドは、放置すると面倒なことになる。仕方ないか。



「テンちゃ、ラフレアの森を吹き飛ばさないって約束できる?」


「えー、わかんない」


「ラフレアの森が吹き飛ぶと、僕も死ぬかもしれないよ? ラフレアは繋がっているんだからね」


「えー、主人あるじが死んだら、あたしの自由がなくなるわ。そんなの困る」


 神獣テンウッドは、僕との従属契約が切れると、また氷の檻に戻ることになるからな。


「じゃあ、ラフレアの株を傷つけないって約束できる?」


「できるよ! 早く行こ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ