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500、北の海 〜絶体絶命

 神獣ゲナードが、キラリと光る爪を振り上げた瞬間、僕は、手からラフレアの根を伸ばし、ゲナードに向けて勢いよく放った。


 炎を纏うゲナードは、何の防御もしない。海底から伸ばしたラフレアの根をすべて焼き払ったからだろう。



 プス! プスプスプスッ!


『なっ!? 何?』



 僕が伸ばしたラフレアの根は、竜神様のオーラを纏っている。海底から伸びてきたモノとは別物だ。


 白銀色に輝く獣の身体を、ラフレアの根が串刺しにした。



『バ、バカな!』


 動きを止めたゲナードに、すかさず海底から伸びてきたラフレアの根が絡みつく。


 だが、さすが神獣か。ラフレアの根に触れると痺れるはずなのに、突き刺さった僕の根を鋭い爪で切り裂き、逃れようと暴れている。



 突然、天兎アマピュラスの二人が壁を維持して止めていたエネルギー波が、スッと消えた。一瞬、吸収が完了したのかと思ったけど、どうやら違うようだ。


 ラフレアの根に絡みつかれていたゲナードが、ボォッと強い炎を身体から放った。エネルギー波を吸収したのは、ゲナードか。


 クッ、奴に突き刺した根をつたって、僕の手にも強烈な熱さが伝わってきた。


 無数の根が次々とゲナードを覆うが、強い炎によって焼かれていく。


 次第にその炎の色が、少しずつ変色していった。黒みを帯びていく炎。これは、闇属性を混ぜているのか。


 アマピュラスの姿に変化へんげしている僕には、ヒリヒリと痛い炎だ。竜神様の加護を纏っている状態でなければ、手は、熱さに耐えられなかったと思う。


 ゲナードは、神獣の姿になっても、悪霊のときのチカラを使えるのか。そしてその炎は、ラフレアが苦手とする死竜の放つオーラを帯びた炎に変わった。




『ゲナード、許さぬぞ!』


『神獣の皮を被った悪霊、実体を得たことがおまえの失策だ』


 二人のアマピュラスは、ふわりと空中に浮かんだ。その姿を見たゲナードは、やっと彼らが本物だと気づいたらしい。



 奴は一瞬、逃げようと向きを変えたが、ラフレアの根が絡みつく。これは僕の意思ではない。ラフレアの本体が、ゲナードを逃がさないようにと、根を伸ばしている。


 ゲナードが纏う炎によって、どんどん焼き切られていくラフレアの根。痛みは感じないが、苦しさは伝わってくる。


 僕も、再び手から根を伸ばす。だが、炎に勢いを減速させられ、奴に刺さる前に爪で切り裂かれる。


 クッ、どうすればいいんだ? 変化へんげを変えるか? だが数本の根は、まだゲナードに突き刺さっている。技能を発動すると、おそらくこの根が消える。


 そうなると、海底からのラフレアの根だけでは、ゲナードの動きを止められない。




 アマピュラスの一人が、手に剣を出した。もう一人は、弓を持っている。あっ、あの弓は……。


 シュッ!


 弓を持つアマピュラスが、炎を纏う獣に矢を放った。だがその矢は、奴の炎に焼かれて届かない。


 すると、弓を放ったアマピュラスは、ニヤリと笑った。


『ゲナード、この矢が届かないということは、堕ちた証。ふっ、おまえはもはや神獣ではない!』


 あの弓から放たれるのは、裁定の矢だ。アマピュラスだけが扱う真偽の矢でもある。すべての人間、そして神獣にも天兎にも使われる。


 どんなに暴れていても、神への信仰心が少しでも残っていれば、あの矢は刺さる。そして矢の色が変色し、罪の程度を裁定するのだ。



『はん、我が姿を見よ! これこそが真の神獣。すべてを統べるにふさわしいのは、神獣ゲナード様だ!』


 ゲナードは、堕ちたという裁定さえ無視している。



 ゴォッ!


 さらに纏う炎に魔力を注いだらしい。アマピュラスの二人は、たまらず結界を張った。すると、ゲナードはニヤリと牙を見せる。


『この程度で近寄れないか。ハハハハ、所詮はうさぎだな。もはや、敵でもないわ』


 ゲナードはそう言うと、アマピュラスの二人に黒みを帯びた炎の刃を飛ばした。ガチッと嫌な音を立てて、彼らの結界を破壊する。


 とんでもない威力だ。だがアマピュラスの二人は、結界が壊された後に飛んできた炎の刃を、それぞれ叩き落としている。


 こごえる海に落ちた炎の刃は、海の上を炎に変えた。何なんだ? あの炎は? 海に落ちても消えずに浮かんでいる。



 アマピュラスに変化へんげしている僕は、下からの炎にも苦しさを感じる。この炎は、一体……。



 シュッ!



 銀色の一筋の光が、海に落ちた。


 あっ、急に呼吸が楽になった。海の上ではまだ炎は残っているが、その色は明るいものに変わっている。



「はぁ、ったく、何やってんだよ」


 僕が浮かぶ位置よりもさらに上空に現れたのは、翼を広げた聖天使。あれ? 一方の翼が黒い。堕天使?


「ブラビィ! 翼はどうしたの? なんか変だよ」


「は? おまえの方が変だろ。なんだよ、そのアマピュラスもどきは? あー、うるさいジジィを纏っているのか」


 アマピュラスもどきって……。



『おまえのように低俗なバケモノに、真の神獣ゲナード様の相手が務まるとでも思っているのか!』


 ゲナードが、ブラビィを挑発している? ブラビィを闇堕ちさせるつもりだろうか。ってか、もう闇堕ちしてるのかもしれないけど。


「はぁ、うっぜーな。おまえみたいな変態がいるから、オレは忙しいんだ。天兎、さっさと捕まえろよ!」


 ブラビィは、アマピュラス二人にも、上から目線だ。聖天使よりアマピュラスの方が、地位は上だと思うんだけど。



『そのハーフは、おまえの従属か。ふむ、それなら話は別だ』


 アマピュラスの一人が、意味不明なことを言っている。何の話?


『その前に、希望を聞く必要がある。少し待て』


 もう一人のアマピュラスが姿を消した。ちょ、逃げた?



 ゲナードは、また炎の刃を飛ばしてきた。今度は、僕も狙っている。しかし、僕の両手は塞がっている。手から根を伸ばしているんだから……。


「ヴァン、動くなよ」


 そう言うと、ブラビィは僕の前に現れた。えっ? 盾になる気?



 シュッ! シュシュシュッ!



 ブラビィは、素早く弓矢を放った。いつ弓を出したのかさえ、速すぎて僕には見えなかった。


 ブラビィの矢は、炎の刃に正確に命中していく。そして、弾かれた炎の刃は、海にポトポトと落ちていった。


 海に落ちた炎の刃は、やはり海に浮かび燃えている。だけど苦しくはない、明るい炎に変わっている。


 アマピュラスに放たれた炎の刃も、アマピュラスが弾き飛ばして海に落ちる。やはり海に浮かんでいる黒みを帯びた炎は、次第に明るい炎へと変わっていく。


 これは、聖天使のチカラなのか。



『チッ! 面倒だな。だが、おまえらに出来ることは、せいぜいここまでだ』


 ゲナードは逃げる気か?


 奴を覆うラフレアの根が、激しい炎に包まれた。ゲナードを逃がさないように、ラフレアはさらに海底から根を伸ばす。


 ゲナードは、海底に向けて炎を放った。海面に浮かんでいた炎が、奴の攻撃の通り道を作っている。炎を操っているのか?


 苦しい……ラフレアの感覚が伝わってくる。痛みはない、だが、海底のラフレアの根を狙って放たれた炎は、一気に地下茎を通って燃え広がる。


 ラフレアの本体の気配がフッと消えた。


 まさか、ラフレアが……。



 僕は、地下茎に根を伸ばそうとした。だが、何かに阻まれる。


『ヴァン、伸ばしてはいけない。あの子達が、遮断したようだ』


 えっ? 竜神様?


『フッ、あの子達は強いな。ワシの後継にふさわしい』


 ええっ!? 竜神様!


 まさか、竜神様までゲナードにやられた!? なぜ? あっ、僕を守ってくださっているから……。


 どうしよう。僕は、僕は……。



 再びまた、ゲナードが僕を狙って……いや、ブラビィを狙って、炎の刃を飛ばしてきた。


「うわぁ!」


 僕は思わず叫んでしまった。こんな数の刃なんて、絶対にブラビィにも落とせない!


「くそっ、面倒くせーな」


 ブラビィは、翼を広げて僕を覆った。


「ちょ、ブラビィ! そんな……」


 僕の盾になる……気……なんだね。



 時の流れが、変わって見える。すべての動きがスローモーションに見えている。何も音が聞こえなくなってきた。


 あぁ、もしかして、僕は死ぬのか。死ぬ前には、いろいろな思い出が頭を駆け巡るんだって、子供の頃に聞いたことがある。


 だけど、いざとなると、何も思い浮かばない。


 あぁ、ボックス山脈でも死にかけたことがあったな。あのときは、爺ちゃんや婆ちゃんに謝ってたっけ。


 凍った海の上にいるゼクトさん達は大丈夫だろうか。


 彼らがいるはずの方向へ目を向ける。だけど、何も見えないや。僕はブラビィの黒い翼で覆われている。翼の隙間からは、なんだか青い光が見えるんだよね。


「ブラビィ、ごめん。ありがとう」



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