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498、北の海 〜青い髪の白すぎる少女

『ほう? 愚かな人間を擁護するのか、人の王』


 青い髪の少女は、口を動かすことなく、グリンフォードさんに問いかけた。グリンフォードさんのことを知っているのか。


 あぁ、そういえば、北の大陸には、影の世界との出入り口がある。それに、グリンフォードさんが得たスキル『道化師』の神矢は、北の大陸に降ったものだよな。



「俺は、事実を述べただけだ。ゲナードは、わざとヴァンのマナ玉を狙ったのだ。影の世界にいた悪霊なら、普通はボックス山脈を狙う。もっと簡単に大量のマナ玉を奪えるからな」


 グリンフォードさんは、少女に厳しい口調で話している。キラキラと光る青い髪と白すぎる肌は、光の加減によっては透き通って見える。やはり幽霊なのだろうか。


 もし幽霊なら、影の世界の住人になるのかな。だけど、それなら、グリンフォードさんの態度はおかしい。


 影の世界では、人と霊と獣は、三すくみの関係なんだよな? 人は霊に強く、かわいいとまで言っていた。でも彼の少女への態度は、真逆な印象を受ける。



『ふむ、精霊師は何も知らぬのか。滑稽こっけいだな』


 青い髪の少女は、僕を敵視しているようだ。ベーレン家に生まれた子だったとしても、異界の霊だとしても、僕のことを嫌う理由は、いくらでもありそうだからな。


 しかし……僕の考えていることは、少女には完全に覗かれているようだ。少女の明らかな挑発に、僕は、やわらかな笑みを返した。


「僕は、いろいろな経験が足りないので、難しい話は理解できないのですよ」


 ちょっと嫌味だったかな。青い髪の少女は、凍りつくような冷たい視線を僕に向けた。



『なぜ、破壊と共に現れた? 下等な神獣から逃れるために、海を駆けるという道化どうけに、何の意図がある?』


 少女は僕に尋ねているのだろうか。僕が何も知らないとわかっているくせに? 僕は何も答えられない。逆に僕の方が聞きたいくらいだ。なぜスキル『道化師』の玉乗りの玉を使って、海を駆けてきたんだ?



 すると、グリンフォードさんが口を開く。


「俺は、この世界のあちこちを見て回っている。今日は、案内役が釣りをして、釣りたての魚を焼いて食おうと提案した。漁の邪魔にならない場所を町の者に教えられて、楽しい時間を過ごしていたのだ。そこを、ゲナードに襲撃された。逃げ場は、海しかなかったのだ」


『人の王、おまえなら、影の世界へと案内役を逃がすことも出来よう。なぜ、海を駆けた?』


「俺達がいた砂浜は、あの時間、無マナ領域に入ったのだ。海からの魔物を防ぐ竜神様の結界と、町の者が張った結界とが衝突してできた領域だ。影の世界への出入り口も開けない。町に逃げ込むと町に被害が及ぶ。だから俺達は、魔法が使える領域まで走るしかなかった」


 あの時間? だから奴は、天兎を呼べないと言っていたのか。無マナ領域なんて初耳だ。マナがなければ、確かに魔法は発動しない。



『それならば、海を北上し続けたのはなぜだ?』


 確かに、ずっと走っていったよな? でもすぐに、ゲナードの咆哮で吹き飛ばされたけど。


「奴は、海には入ってこないとわかっていた。海には竜神様がいらっしゃる。だが、おそらく俺達が海から離れると、ゲナードの餌食になる。奴は、俺達が海から離れるのを待っていたからな」


 そうなのか。確かに、空に飛翔した瞬間、消し炭にされそうだし、転移すると魔力跡を追って来るだろう。そうしたら、僕達が転移した先に、甚大な被害が……。



『ふむ、あたしに助けを求めに来たわけではないのか。人の王、おまえが一緒にいるのは、人間の王だな?』


 うん? 少女は、人と人間を使い分けている。グリンフォードさんのことを人の王、そして国王様のことを人間の王と言っている。


 なんだか、妙な言い方だな。



「あぁ、そうだ。フリックとは親しくなった。色のある世界の方がドロドロとしていることもわかった」


『ふむ、あたしが言った通りだろう? おまえも、いったん潰して作り直す時期だと思ったであろう?』


 えっ? この少女は、過激すぎることを言ってる。やはりベーレン家か。レピュールの関係者かもしれない。だけど……幽霊だろうな。


 まだ10歳くらいなのに、成人の儀を迎えずに亡くなったのか。次は良い人生になればいいな。


 そっか、神官はそのために祈るのか。


 僕は、まだ下級神官だから、何の力もないけど……少女が、こんな冷たい表情をしなくていいように、次の人生が楽しいものになるようにと、祈った。



「潰すには、惜しいと思ったよ。まだ俺は知らない場所の方が多い。その判断は、すべてを見てからでもよいはずだ。それに、色のある世界と交流することは、有益だと感じた」


『汚れた大地に、何が……。ふむ、祈りか。無知もここまでくると、笑う気にもなれないな』


 青い髪の少女は、僕を睨みつけた。ベーレン家の子じゃないんだな。神官家に生まれた子なら、こんなことは言わない。レピュールの方か。




「笑う気にもなれないのは、こっちのセリフだ!」


 突然、ゼクトさんが怒鳴った。


 ひぃ〜、危なかった。僕達6人は、僕が作る透明な玉の中にいる。僕は、ゼクトさんの声に驚き、スキルを解除しそうになってしまった。


「おい、狂人、わめくな。耳が痛い。おまえだけ、玉の外に蹴り出すぞ」


 オールスさんがそう言うと、ゼクトさんは僕の方を見て、軽く手をあげた。謝ってくれたのかな。


 もし玉の外に蹴り出されたら、一瞬で凍ってしまう。オールスさんの言葉はいつもの冗談だとは思うけど……。


 外の気温がさらに下がっている気がする。ゴム玉が、凍り始めているように見えるんだよな。



『神の導きの者、それに神獣の加護を得た者、あたしの前で、よくもまぁ、そんな口が利けるものだな。それに人の王は、人間の王にたぶらかされたか』


 何なんだ? この子。


 ピキッとゴム玉に亀裂が入った、やはり、凍ってきたか。僕は、ゴム玉を作り直そうとしたが、なぜかスキルが発動できない。寒すぎるからだろうか? あっ、この場所も、無マナ領域?



「この覆いがないと、俺以外の5人は死ぬぞ? そのオーラを鎮めるか、海を元に戻せ。罪なきこの者達を殺せば、確実におまえは堕ちるぞ」


 堕ちる? 悪霊になるってことか。グリンフォードさんがそう言うと、ゴム玉の亀裂は止まった。僕は、内側に、ゴム玉を作り直した。


 今度は、スキルは普通に発動できた。さっきのは何だったんだろう? やはり、無マナ領域? 北の海の上は、マナの流れが複雑なのかもしれない。



『立ち去れ。おまえ達のせいで、あたしの世話をする人間が減った。人の王、おまえもここには来るな、怒りを感じる』


「俺達のせいじゃないだろ。すべては、ゲナードがわざとやったことだ。俺達を攻撃するフリをして、広い範囲に衝撃波を放ったのだからな」


 グリンフォードさんが反論しても、青い髪の少女は、首を横に振るだけだった。


 まぁ、八つ当たりしたくなるよな。少女の知る人間が、犠牲になったのだろう。




「帰りましょう」


 僕がそう言うと、グリンフォードさんは驚いた顔をした。何? 帰っちゃマズイのか? 少女と話していても仕方ないじゃないか。


 北の大陸が、こんなことになったから、おそらく神獣テンウッドは怒っているはずだ。話をしてみたかったけど……出直す方がいいと思う。



『精霊師、神獣テンウッドに会いに来たのか?』


 げっ!? また、頭の中を覗かれた。


「えーっと……」


 僕は、頭が真っ白になり、何も言葉が出てこない。


『ふむ、道化どうけだな』


 少女が何を言っているのか、わからない。道化……。


「道化師のスキルは使っていますが……」


 いや、違う。僕は何を言ってるんだ?



 突然、青い髪の少女は、強く青く輝くオーラを纏った。うわ、怒らせた?


「ヴァン、来るぞ」


 ゼクトさんが叫んだ。マズイ……だけど……?


「ゼクトさん、なぜ、反対を向いてるんですか」


 ゼクトさんだけじゃない。マルクもオールスさんも、少女に背を向けている、


「は? バカなことを言ってねぇで、おまえも何とかしろ。何かに化けろ」


「へ?」


 僕の思考が停止していると、ゼクトさんは、6人個別に透明なゴム玉で覆った。


 バラバラで戦えってこと? だけど、どっちを見てるん……あっ!? まさかの追撃?



 海のはるか遠くの空が、銀色に染まっていた。そして、チリチリと異常な魔力反応……。


 やばっ! ゲナードだ! あんなものに当たったら……。



 僕は、スキル『道化師』の変化へんげを使う。神獣の放つ、ぶっ壊れ系の攻撃を阻止するには、アレしかない。


 ボンッと音を立てて、僕の視界は少し高くなった。



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