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494、漁師町リゲル 〜神獣探知器?

 それから数日後、僕達は、漁師町リゲルへ向かった。


 この町で竜神様が怒り、すべてを海に流してから、もう3年ほどになる。あのときに竜神様の子達が生まれ、そして僕に託されたんだよな。


 一時期は、リゲルの住人は町に戻っていたけど、今は、北の海での漁のためだけの町になっている。住人はデネブに住み、仕事のときだけリゲルへ通う生活を送っているんだ。


 だけど、この町が放置されているわけではない。誰も居なくなると、北の大陸に住むベーレン家に生まれた人達やレピュールを追放された奴らが、この町を占拠しかねない。


 そのため、交代制で数人の住人が漁港の灯台で、監視をしている。冒険者も数名、町の管理に雇われている状態だ。


 そして、あのときの竜神様の子供達で、僕に託されていない水辺の魔物ウォーグの子供達が、主に、この漁師町を守っているんだ。見た目は、普通のウォーグに見えるが、知能はかなり高いようだ。さすが竜神様の子供だよな。


 僕の目には、リゲルは、漁師町として復興したように見える。北の大陸の脅威が無くなれば、みんな、この町に戻れるんだけどな。




「これは、ルファス様! 今日はどのような……うひゃ、なんだかすごい人達を連れて来られたのですね」


 町の門では、門番の男がマルクを見つけ、そして僕達に視線を移して固まっている。マルクは、ドルチェ家としても、この漁師町にたまに来ているようだ。


 そういえば、以前からそうだったよな。マルクの顔の広さには、驚かされる。マルクは僕のことを、有名人だとか知らない人はいないと、よく言っているけど、僕よりもマルクの方が圧倒的に知られてるんだ。



「おう! ちょっと魚釣りに来たぜ。宿屋は、やってるか?」


 元ギルマスのオールスさんは、門番に明るい声をかけている。だが、どう考えても、このメンバーは魚釣りじゃないよな。


「は、はぁ、宿屋は営業しています。冒険者の方も利用されるので……」


「ふふん、よかったよ。まぁ、テントも持ってきたがな」


 オールスさんは、行楽に来たかのような雰囲気だ。


「何名が泊まられるのでしょうか? 部屋の空きはあるはずですが、料理は……」


 門番は本気で、魚釣りに来たと思ってるのか?


「それは、大丈夫だ。派遣執事も連れてきたからな」


 オールスさんは、そう言って僕に視線を移す。話を振られたのだろうか……。


「ひぇっ、ヴァンさんを派遣執事として連れて来られたのですか」


「おう! 影の世界の人の王が一緒だからな」


 オールスさんは、そんなことまでぶっちゃけた。だけど、国王様も一緒なんだけど……そこは隠すのか。


「うひゃっ!? 異界の……あの、この漁師町を支配しようと……」


 門番は、気の毒になるほどビビっている。この町は、北の大陸からの悪霊の通り道になっている。だから、そういう言葉が出てくるのだろう。



「ぐちゃぐちゃ言ってないで、さっさと通せ!」


 イライラしていたのか、ゼクトさんが怒鳴った。すると、門番は、白目をむいて倒れてしまった。あぁ、緊張が限界を超えてしまったんだ。


「狂人、おまえ、魔石持ち並みの咆哮を覚えたのか? ヴァン、なんとかしてやれ」


 オールスさんが、笑いをこらえながら、倒れた門番を抱き起こす。町の中から、住人がこちらに向かってくる。灯台から見えたのだろうな。



「少し待ってくださいね」


 僕は、魔法袋から薬草を取り出し、気付け薬を作って、門番の口に入れた。


「う、うぅっ……ハッ! 俺は……えっ、ギルマス!?」


「ガハハ、大丈夫か? 狂人が吼えたからな」


 オールスさんに支えられ、門番は立ち上がった。


「す、すみません。失礼しました。お通りください」


 駆け寄ってきた住人に知られたくないのか、門番は慌てて許可を出している。もう、見られた後だと思うけど。




「あの、一体なにが……」


 僕達がゾロゾロと町に入っていくと、駆け寄ってきた住人が、ビクビクしながら、マルクに問いかけた。


「こんにちは。うーん、オールスさんが魚釣りをしたいって言ってて……」


 マルクも、返事に困っている。


 僕達は、この町に魚釣りに来たわけじゃない。国王様が、神獣2体を無力化しろという命令を下し、それを実行するための一環として、やってきたんだ。


 命令した国王様までが、グリンフォードさんと一緒に、なぜかついて来てしまったんだけど。



「ガハハ、魚釣りと、まぁ観光だな。影の世界の人の王を連れてきた。青い海を見たことがないらしいぞ」


 オールスさんが、上手くごまかしている。だけど、やはり、暴露してしまうんだな。まぁ、隠すことではないのかもしれないけど。


「ひっ、異界の……王族の方ですか」


 住人は、グリンフォードさんに視線を移し、うやうやしく頭を下げた。すぐ横にいる国王様は、ドゥ教会の見習い神官として認知されているようだ。


「王族ってのとは違うらしいぜ。影の世界では、一番強い者が王になるんだってさ。同じ基準でいけば、この世界なら、誰が王になるんだろうな」


 オールスさんは、国王様の前で、何を言ってるんだ? すると、国王様が口を開く。


「それなら、ゼクトじゃないか? さっき門番を咆哮で倒してただろ」


「ガハハ、そうかもな。やべぇな、狂人」


 なんだか、二人してゼクトさんをからかっているような気もするけど……ゼクトさん自身は、フンと鼻を鳴らしたけど、全く気にしてないようだ。


 僕は、こういう関係が少しうらやましい。ゼクトさんに、こんなことは言えないな。




「こちらの宿屋は、しばらくは、誰も宿泊予定がありません。ご自由にお使いください」


 住人は、漁港から少し離れた居住地区にある宿屋へと、僕達を案内してくれた。


 いくつもの民家が立ち並ぶエリアには、ほとんど人の姿はない。配慮してくれたのか、遠ざけられたのかは定かではない。


「へぇ、貸し切りか、なんだかワクワクするよな、ヴァン」


 オールスさんのワクワクの意味がわからない。僕は、曖昧な笑みを浮かべておいた、


「じゃあ、早速、釣りだな。この付近の海は、住人が釣りをする場所だろ?」


 オールスさんがそう尋ねると、案内してくれた住人が頷いた。


「そちらの岸壁から釣ると、よく釣れます。漁港から離れているので、漁船に邪魔されることもないです」


 なるほど。魚釣りって言ったから、配慮してくれた結果が、居住地区なんだ。



「おし! 部屋を決めたら、釣りに行くぞ。ヴァンは、魚釣りなんてやったことねぇだろ?」


 オールスさんがそう言うと、なぜかマルクが得意げに口を開く。


「オールスさん、俺達は、海釣りはないけど、池では何度も釣りをしてますよ。魔導学校で講師をしてましたからね〜。学生の引率をすることもありましたし」


「は? マジかよ」


 オールスさんは、なぜかゼクトさんの方を向いた。僕に、そういうスキルがあるかを確認したいのかな。


「間抜けなオールス、少しは頭を使え。ヴァンは、こんなことになってるが、ハンター志望だぜ?」


 こんなことって、何?


「あぁ、そういえばそうだったな。海竜の件を片付けたのは、おまえらだったか。海辺の町なら、お魚ハンターの神矢は大量に落ちているよな」


「俺がヴァンに雇われておりしたアレだな。だが、逆に、俺がお守りされちまったぜ」


 ゼクトさんは、少し遠い目をしている。海竜の島で、ゼクトさんは殺されそうになっていたもんな。




 僕達が宿屋の中に入るのを見届けると、案内をしてくれた住人は、用があれば灯台に来るようにと言い残して、立ち去った。


「さてと、釣り竿は、あったかな?」


 オールスさんは、本気で魚釣りをするつもりらしい。


「オールス、打ち合わせは変更かな?」


 国王様がそう尋ねると、オールスさんはニッと悪ガキのような笑みを浮かべた。


 当初の予定では、宿を取ったら、まず仮眠をしようということになっていた。


 そして、影の世界からの悪霊が活発に動くようになる夕方から、交代制で海辺の偵察をする。悪霊が、この町にいる人間を襲うという情報を得ているためだ。その悪霊を捕まえて、北の大陸にいる氷の神獣を訪ねる、という作戦だ。



「変更だな。夕方まで待つ必要はない。もう、この町に侵入者がいるからな」


「えっ? 魔道具のサーチをくぐり抜けた悪霊がいるのか」


「いや、もっといいもんを見つけたぜ。そいつを釣る」


 オールスさんの話に、国王様は首を傾げている。当然、僕にもわからない。


「間抜けなオールスは、神獣の寝床になっていた時期があるからな。神獣探知器なんだよ。で? どっちだ?」


 神獣探知器? ゼクトさんはニヤッと笑った。



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