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489、自由の町デネブ 〜霊には強いはずの人が

「皆さんは、教会の中にいてください。ここには六精霊の壺があるから、悪霊は入ってきません」


 僕はそう叫ぶと、急ぎ足で教会の出入り口へと向かう。僕が狙われているなら、ここにいるわけにはいかない。



「わっ! ヴァン、ちょうどいいところに」


 ドゥ教会に飛び込んできたマルクと、出入り口でぶつかりそうになった。マルクは、奥さんのフリージアさんと息子のカインくんを迎えに来たのか。


 だが、マルクの表情は険しい。


「マルク、僕はちょっと……。カインくんは、教会の奥にいるよ」


「いま、従属のネズミくんから聞いた。王都の襲撃は、たぶん陽動だ。本当の狙いは、ここ、デネブだ」


 マルクは、どこまで知っているのだろう? 下手なことを言うと教会にいる人達を不安にさせてしまう。


「うん、マルク、僕はちょっとここから離れないと……」


 そう話し始めると、教会の中のすべての人が聞き耳をたてているように感じた。不安にさせてはいけない。影の世界を移動するラフレアの花は、普通の人の目には見えないんだから。




「ヴァンさんは、いらっしゃいますか!?」


 門の外から、大きな声が聞こえた。そして、すぐに数人の警備兵が、教会の門を壊しそうな勢いで、駆け込んできた。


 僕とマルクの姿を見つけ、警備兵達は、明らかにホッとしている。ラフレアの花が、僕の銀色のつぼみを見つけたか。



「どうしたんだ?」


 マルクが、そう応えると、警備兵達は、身振り手振りで何かを表している。走ってきたから言葉が出てこないらしい。


「ぎ、ギルド前の池に、奇妙なラフレアと思われる人面花が集まってきています」


「たくさん、たくさんです!」


「池を取り囲んでいて、ボレロさんから、ヴァンさんを呼んでくるようにと言われました!」


「影の世界のご婦人方が、奇妙なラフレアを倒そうとされていますが……攻撃が効かないのです!」


 死んだラフレアの花は、影の世界からこちらの世界に、全部出てきたのだろうか。いや、まだ、影の世界にもいるな。


 ご婦人方は、ゲナードが操っていることに気づいたのだろう。じゃなきゃボレロさんが、彼女達に任せるわけがない。


 悪霊が相手だと、影の世界の人達は、めっぽう強い。


 影の世界では、獣と霊と人の関係は、三すくみの関係らしい。人は霊に強く、霊は獣に強く、獣は人に強い。こちらの世界とは違うんだよな。だが、それで上手いバランスが保たれてれいるらしい。


 だから、人の王であるグリンフォードさんは、死竜を厄介だと言っている。逆に、霊は、かわいいと言ったこともあったっけ。



「皆さん、大丈夫ですよ。落ち着いてください。そのラフレアの花は、死んでいます。操るモノの能力しか持ちません。そして、対峙している人達は、その操るモノを得意とします」


 僕は、なるべく穏やかな声でそう言った。


「アンデッドなのですか!?」


「いえ、操り人形の状態ですかね。悪霊が入り込んでいます。だから、ラフレア本来の状態異常は起こせない。ただ、まだら模様の花は戦闘力は上がっていますが、問題はないでしょう」


 僕は、そう話しながら、影の世界をジッと見ていた。


 ドゥ教会の周りを探っていた死んだラフレアの花も、池の方へと移動した。ここに僕がいることがわかっているはずなのにな。


 屋敷の付近にラフレアの株が無いことを調べたようだ。やはり、ラフレアの株を……僕の銀色のつぼみを狙っているのか。



「ヴァンさん……でも、攻撃が効かないから……」


 僕を急かすように、警備兵が声をかけてきた。


 だけど、まだ僕の株へは、死んだラフレアはたどり着いていない。あの池の中へは入れないようだ。ラフレアが排出した水だからな。いわゆる聖水の素材になる水だ。



「マルクは、念のため、ここに居てくれる?」


 僕がそう言うと、マルクは首を横に振った。


「奴らが狙っているものは、わかってる。池の中にあるだろ? 教会の中には、奴らは入って来ないよ。なんだか妙に、コソコソしてる気がするけど」


 マルクは、何とも言えない微妙な表情だ。



「池の中って……」


 教会の中にいた人達が、少しザワザワし始めた。だけど、表情は少しマシかな。マルクが、ラフレアの花は教会には入ってこないと言ったからだ。


 神官様は、聖魔法を使ってバリアを張った。


「私のバリアも重ねたよ。無いよりはマシだと思う。ヴァン、早く行きなさい」


 僕は軽く頷き、教会をあとにした。


 マルクも、従属のネズミくんを教会に残して、僕についていくと言う。ドゥ教会には、彼の家族もいるのに……。



 ◇◇◇



 マルクの転移魔法で、僕達は池のほとりへと移動した。


 僕が来たためか、死んだラフレアの人面花が一斉にこちらを見た。やはり、どの顔も同じ顔だ。


 ラフレアの森にいる人面花は、すべて異なる顔をしている。そのことからも、ラフレアの花が死んでいることは明らかだ。


 僕は、怒りが湧き上がるのを感じた。これは動くラフレアとしての怒りか。


 不思議と恐怖心はない。マルクが一緒なのは、やはり心強いな。



「ヴァンさん! マルクさんも! コイツらおかしいんです。花びらがあまりにも小さくて……」


 確かに、ラフレアの赤い花は巨大な花だ。花の中央の人面部分には、ほとんど気づかないくらいに大きい。だけど、集まっている死んだラフレアの花は、その花びらは小さい。だから、奇妙なラフレアと言っていたんだな。


 残っている花びらは、つぼみのときからある、花ではない部分だ。花びらに見えるけど、人面部分を支えている茎の一部だ。


「ボレロさん、これは死んだ花です。地下茎から養分は得られません。それに、取り憑いた悪霊が花肉を食ったみたいですから」


 おそらく、これもラフレアの本体が言っていたように、計算なのだろう。死んだラフレアの花肉を喰うことで、取り憑いた悪霊は莫大なマナを得る。


 それに、この大きさだからこそ、あちこちを探し回ることができるのだ。花びらがほとんど無い状態だから、おそらく戦闘力は高くない。



 ラフレアの本体は、襲撃が、計算し尽くされていると言っていたっけ。


 それなのに、僕の株が池に沈んでいることは、ゲナードの想定外だったのだろうか。


 僕はなにか、見落としてないか?




 僕が、池に近寄っていくと、死んだラフレアの人面花……ゲナードは、ニタニタしながら、僕の動きを眺めている。


「ヴァンさん、ゲナードが乗っ取ってるわ!」


「なのに、霊を分解できないわ。獣のゲナードでさえ、これを使えば簡単に分解できるのに」


 ご婦人方は、人形を指した。侍女の姿を持つアンドロイド型の人形か、戦闘用の別の人形かはわからない。


「奴は、ラフレアを使って防御しています。花肉を喰ってラフレアのマナをまとい、つぼみの状態に擬態しています。ラフレアのつぼみには、ほとんどの攻撃は効かないんです」


「なんですって!? ラフレアごときが……あっ、失礼、ヴァンさんのことではありませんのよ?」


「わかっていますよ。コイツらは……何を狙っているんだ?」


 何だろう? 僕は、ゲナードの顔の人面花を見ても、全く恐怖を感じない。僕の株を……銀色のつぼみを狙っているのか?


 なぜ、コイツらは、ニタニタしている? 僕がこの場に来たら、逆に警戒するべきだろう?


 今、僕が立つ地面の下には、ラフレアの株からの根が伸びてきている。死んだラフレアの花が地下茎を踏んでいるが、何も動きを邪魔されていない。


 僕は、さらに根を移動させていく。


 よし! すべての死んだ花には、もう僕の根が届く。ゲナードが動きを見せたら、僕は根を使って、死んだラフレアを一掃できる。



「ヴァン、何か、おかしくないか? おとなしすぎる」


 マルクにそう言われて、僕は影の世界にも視線を向ける。これもおとりだとすると、ゲナードは何を狙っている?


 だが、大量のラフレアを乗っ取って襲撃してきたのは、やはり、ラフレアの本体が言うように、ラフレアの株を探すためだよな。


 池の水が、本当に想定外だったのか?



「マルク、僕も少し違和感がある」


 僕がそう言うと、マルクは教会の方を見た。僕達をここに誘き寄せて、ドゥ教会を襲う? だが、影の世界には動きはない。


「まさか、氷の神獣テンウッドが来るんじゃないよな?」


 マルクは、そう言うとサーチ魔法を使ったようだ。



 嫌な時間が流れる。


 僕は、さらに根を伸ばした。銀色のつぼみが乗っ取られることがないように、つぼみの周りを囲むように、根を伸ばす。



 バシャッ!!



 突然、奴らは一斉に動いた。池に飛び込んだのだ。



 僕は、根を使って、すべての死んだ花を切り裂いた。



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