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484、自由の町デネブ 〜ヴァン、二十歳になる

「貴方達と共闘? 私達が、ですの?」


「あぁ、こちらは強い冒険者を集める。影の世界の住人と共闘しないと、ゲナードは完全に消滅させられないからな」


 イザンさんが強い冒険者と言ったことで、ご婦人方の目はキラリと輝いた。いや違うな、ギラギラと輝いた。


 ゴップスのリーダーで、しかもLランク冒険者のイザンさんなら、強い冒険者の知り合いも多いだろう。


 彼は、ご婦人方の性格というか生態を、知り尽くしているようだな。彼女達が、こんな表情を見せたのは初めてだ。



「強き者をたくさん見ることができるのですわね?」


「その中から、より強き者を探し出すのは、さらに難しい宝探しかしら。はぅぅ、意地悪ですわねぇ」


「それこそ、極上の宝探しですわ。なんて贅沢な娯楽を、私達に提案してくださるのかしら」


 ご婦人方のトロンとした表情は、アブナイ妄想癖の人を超越したような危なさがある。なんだろう……僕は、ゾワリと寒気を感じた。



「そうと決まれば、世話役と調整役はボレロだ。ボレロは、ギルマスよりもデキる奴だからな。それに、俺やヴァンの担当者でもある」


 イザンさんがそう説明すると、ご婦人方の興味はボレロさんに向いた。これまでの邪険な扱いを詫びるかのように、くねくねしているご婦人もいる。


「まぁっ、貴方は、強き者を操る猛者なのですわね」


「ちっとも気づきませんでしたわ。この世界の強き者は、そうやって隠れているのですわね。なんて意地悪なのかしらぁ」


 ご婦人方に不思議な色香を向けられて、ボレロさんは慌てている。これで、彼女達は、ボレロさんに従うだろうな。イザンさんの立ち回り方は、学ぶ点が多い。



「とりあえず、宿に戻りましょうか。収穫祭も中断してしまいましたが、もう時間が遅い。こちらの世界の人間の多くは、夜は眠るのですよ」


 ボレロさんがそう説明すると、ご婦人方は素直に頷いている。


「この姿に化けていると、確かに眠くなってきましたわ。神矢の力は偉大ですわね」


「グリンフォード様も、夜、暗くなると眠るとおっしゃっていましたわ。私には理解できなかったのですけど、確かに私も眠くなってきましたわ」


「こんなに、闇が深くなって居心地の良い時間になってきたのに、不思議ですわね」


 ご婦人方は空を見上げて、首を傾げている。


 ボレロさんが説明するかと思っていたけど、なぜか僕に、合図をしてくる。


 あー、そうか。『道化師』の神矢は、海竜が集めてしまうから、変化へんげができる超級以上の人は、ほとんど居ないんだっけ。



「皆さんが使われているスキル『道化師』のなりきり変化へんげは、その種族になりきるのですよ」


 僕は、ご婦人方にそう説明した。


「貴方も、姿を変えられるのでしたわね?」


「はい、僕も使えますよ。この世界では、『道化師』の神矢を手に入れた人間は少ないのです。海竜が集めてしまうので」


 海竜という言葉に、ご婦人方はなぜかギクッとしたらしい。


「それは、竜神様が集めておられるのかしら?」


 あー、そうか。影の世界の竜神様は厳しいんだ。ご婦人方は、竜神様が集める神矢を横取りしたかと焦っているのか。


「竜神様ではありません。海の竜神様と親しいようですが、海竜は海を守るドラゴンですから」


「そう、でしたの。私達の世界では、海竜は竜神様の姿の一つですのよ。驚きましたわ」


 ご婦人方は、ホッとしたのか、額の汗をぬぐう仕草をした。暑いのだろうか? 彼女達の額にはジワリと汗がにじむ。かなり肌寒い夜なのにな。



「海竜は、人の姿を得るために、神矢を集めるのかしら?」


「陸に上がりたいのかもしれませんわね」


 ご婦人方の話に、僕はハッとさせられた。海竜の守る海は……特に北の海は、今、かなり良くない状態だ。白き海竜マリンさんは、辛い状況かもしれない。



「ささ、皆さん、そろそろデネブに戻りましょう。我々がいると、収穫祭の片付けができないようですから」


 ボレロさんは、そう言うと、僕に目配せをして、ご婦人方をデネブへと連れ戻った。



 残された僕は、イザンさんと手分けをして、カベルネ村の浄化を済ませた。イザンさんが、弱っているカベルネのぶどうの妖精を回復し、僕が村全体に残るマナの汚れを、ラフレアの根で吸収した感じだ。


 そして、カベルネ村に泊まるというイザンさんと別れ、僕はデネブに戻った。



 ◇◇◇



 それからしばらくの時が流れた。短い秋は終わり、寒い冬が過ぎ、春を迎えた。



 あれから、ボレロさんの頑張りにより、影の世界の人達との交流はうまくいっている。


 国王様が影の世界の人の王グリンフォードさんと仲良くなったことが、何より大きな成功要因だと、ゼクトさんは言っていた。



 そして今では、イザンさんの周りには、影の世界の女性によるハーレムが形成されている。最も大きなハーレムは、イザンさんなんだけど、それに負けないほどのハーレムもできているそうだ。僕は会ったことはないけど、イザンさんの相棒らしい。


 この話を聞いたときは、ゼクトさんのハーレムかと思った。だけど、ゼクトさんは、彼女達の眼中に入っていないようだ。


 おそらく、わざと、ゼクトさんは弱いハズレのフリをしているのだと思う。彼の人嫌いは、だいぶマシになったけど、まだ克服できてないんだよな。




「ヴァンくぅん、先生、困っちゃって……」


「ノワ先生、でも僕は入ってくるなと、キツく命じられてるんです」


「だよね、そうよね、どうしよう。でも、フロリス様が大丈夫って言ってるから、大丈夫よね?」


「大丈夫ですよ。それにフラン様は、白魔導士として冒険者登録をしてますし」


「そ、そうよね、でも、呼んだらすぐに来てくれるよね? ヴァンくん〜」


「もちろんです!」


 僕がそう返事をすると、ファシルド家の常勤薬師ノワ先生は、フラン様の部屋へと戻っていった。




「落ち着きがないよな、ノワ先生は」


 僕の部屋には、深夜にもかかわらず、マルクが来てくれている。こういうときに、親友が居てくれるのは心強い。


「うん、でもファシルド家の薬師は、ずっと続いてるよ。最近は、虫を見ても爆破しなくなったらしいよ。確実に成長してる」


 ノワ先生は、僕達の魔導学校の頃の座学の先生だった人だ。その素性は、すごい血筋というか家系なんだけど、ノワ先生本人は、ずっと変わらない。


「だけど、まだ血はダメなんだろ? 薬師として大丈夫か?」


 マルクは、まともすぎる指摘をする。最近のマルクは少し厳しいんだよな。息子のカインくんが4歳になって、とても元気すぎる反抗期だから……なのかもしれない。


「ノワ先生は、血が流れてなければ大丈夫になってきたみたいだよ。こないだ、青い顔で怪我人の手当てをしてるのを見たよ」


 僕がそう言っても、マルクは渋い表情で、首を横に振る。だが何かに気付いたのか、ハッと僕の顔を見た。



「ヴァン、もしかして、俺に追いついた?」


「うん? マルク、何が?」


「20歳になったかってこと。空が少し明るくなってるし」


 うーん? あー、そういえばそうかもしれない。昨夜からバタバタしていたから、忘れていた。


「うん、今日は20歳の誕生日だね。いつの間にか、日付が変わってた。マルクに追いついたよ」


 するとマルクは、ニヤッと笑った。何か企んでる?



「ヴァン、20歳になったら、新たな家を立ち上げることができる。神官家は21歳からだけど、下級貴族は20歳からだ」


「へ? 僕は、ドゥ教会の旦那さんだよ?」


「ドゥ家の当主は、フランさんだろ? ヴァンはジョブ神官じゃないから、神官家の立ち上げはできない。だけど下級貴族は、何かの専門があれば、新たな家を作れる」


 マルクは、目をキラキラさせてるんだよな。


「でも、僕は農家の生まれだし、そもそもフラン様のことを一生裏切るつもりもないし」


「あはは、こんな日に彼女を捨てるなんて言ったら、人間を辞めたと思われるよ。違うって。ドゥ教会のためにも、ヴァンは、家名を持つ方がいい。俺だって、ルファスとドルチェ、両方使えるぜ?」


 僕には、マルクの言いたいことがわからない。


「マルク、わけわからない」


「ヴァンが貴族の名前を持てば、貴族への布教もやりやすいだろ。それに、貴族にしかできないことができる。今日、決断しろよな、ヴァン」


「なぜ、今日?」


「俺も、同じタイミングで決断したんだ。ルファス家の後継争いに名乗りをあげようって。俺も、父親になった日に決めたんだよ」



 パン!


 乱暴に部屋の扉が開いた。


 半泣きな顔のノワ先生が飛び込んできた。彼女のその表情に……僕は頭から血の気が引いた。



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