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475、自由の町デネブ 〜不機嫌なフラン

 朝食の後は、リースリング村から戻ってきた人達は、僕も含めて少し仮眠をとった。


 異界の二人には宿屋を紹介しようとしたけど、国王様が王家の屋敷がガラ空きだと言って、連れて行ったんだ。


 アラン様は、デネブに造ったミニ王宮に彼らを引き入れることを、かなり心配しているみたいだけど、国王様はお構いなしなんだよな。



 ◇◇◇



「ヴァン、お客さんだよ」


 僕が自室で、薬草用の魔法袋を整理していると、神官様が入ってきた。そろそろ夕方か。


「お客さん? 誰ですか」


「うーん、ボレロさん以外は、私の知らない人ね。ヴァン、何か約束していたの?」


「へ? 何も、記憶にないけど」


 そう返答すると、彼女の片眉があがった。ちょっと、ご機嫌が悪そうだな。女性客だろうか。


「とりあえず、教会で待っているって。その前に、解毒薬を作ってくれる?」


 お客さんが待っているのに解毒薬?


「誰か、毒の症状の人がいるのですか? 毒の種類によって……」


「違うわよ。これから大量に発生するじゃない。昨日は、前夜祭なのに、ひどかったんだからね」


 前夜祭? あー、隣のカベルネ村のことか。教会に、酔っぱらいが押し寄せたのだろうか。


「じゃあ、お酒を分解する薬ですね」


「うん。たくさん作っておいて。すぐにできるよね? こんなに部屋の中が薬草だらけなんだもん。密林みたいじゃない。もう少し片付けなさい」


「まぁ、はぁ……」


 なぜか叱られた。


 こないだは、自分の部屋なら、散らかしてもいいって言ってたのにな……。オンナゴコロは、コロコロ変わるんだよね。



「じゃあ、お客さんの用事が終わったら……」


 僕が部屋を出ようと立ち上がると、彼女は僕を制した。


「解毒薬が先よ。私、何個エリクサーを食べたか、わかんないんだからねっ」


 そう言うと神官様は、部屋から出て行った。


 昨夜、解毒でかなりの魔力を使ったみたいだな。ふふっ、どさくさに紛れて、エリクサーも減ったと言いたかったのかな。



 僕は適当な薬草から、アルコールを分解する薬を作った。


 ポーションを使えばいいんだけど、そうすると酔いも覚めてしまうから、酔っぱらいはポーションを嫌がるんだよな。


 だから、アルコールの分解を補助する薬を作る。似た物は、二日酔い防止の薬として、よく売られているが、なぜか値段はポーションよりも高いみたいだ。



 僕は、小さな魔法袋に、完成した薬を放り込む。ついでに、僕が一人で作ったぶどうのエリクサーも、大量に放り込んでおく。


 彼女は、このぶどうのエリクサーが、ちょうどいいらしい。僕が単独で作ったものは、魔力タンクの回復はできないし、魔力量の多すぎる人の場合は全回復できないんだけど。


 また近いうちに、マルクとボックス山脈に行きたいんだよな。



 ◇◇◇



 教会へと移動すると、ボレロさんが僕を見つけて、満面の笑みを浮かべた。嫌な予感がする。


 そして、神官様が不機嫌な理由もわかった。ボレロさんが連れてきたのは、着飾った女性達だ。だけど、知らない人達だな。



 僕は、近くにいた神官様に、横を通るときに魔法袋を渡した。


「ぶどうも入れてます」


 そう小声で伝えると、彼女は少し機嫌がなおったようだ。手持ちのエリクサーの数が減って、不安だったのかもしれない。


 最近、彼女は不安定なんだよな。すぐに怒るし、すぐに不安になる。僕がラフレアになったからだろうか。




「ボレロさん、僕にご用ですか」


 とりあえず、着飾った女性達には、気づかないフリをしておこう。


「ヴァンさん、お願いがありまして……」


 だろうな。


「ええっと、僕にできることでしょうか?」


「たぶん、ヴァンさんにしかできません。もちろん、ボレロもサポート致します」


 嫌な予感しかしない。また、討伐だろうか。この女性達の住む街に行けとか、無茶なことを言われそうだよな。


「はぁ……一応、お話だけは伺いますが」


 するとボレロさんは、僕の腕をつかみ、女性達の方へと連れて行く。何かを企んでいるかのような彼の横顔に、僕は小さなため息をついた。



「ヴァンさん、ご紹介します。こちらのご婦人方は、スキル『道化師』の神矢を得ていらっしゃいます」


 はい? えーっと、もしかして?


「グリンフォード様が、こちらにしばらく滞在するとおっしゃるので、私も参りましたの」


 グリンフォード、さま? やはり、影の世界の住人か。


「あの、彼は、教会ではなく王宮の方に……」


「もちろん、存じておりますわ! 私が訪ねて行くと、グリンフォード様は、それはそれは、楽しそうな笑みを浮かべてくださいました」


「は、はぁ」


 僕にしゃべる隙を与えない……。


「ちょっと! 貴女のことは、おわかりにならなかったじゃないの! 私の艶やかな姿に見惚れて、笑みを浮かべられたのよ」


 うわぁ、な、なんだ?


「違うわ! 貴女達は何をおっしゃっているのです? グリンフォード様は、私のこの衣装が似合うと、笑みを浮かべられたのですよ」


 ボレロさんの方を見ると、相変わらずの笑みだ。もしかして、僕に押し付けるつもりか。サポートをするとは言っていたけど……。


 口うるさそうな女性が3人。そして、それぞれの侍女らしき女性も3人。この人達は、グリンフォードさんのファンなのだろうか。



「ボレロさん、あの、僕は……」


「おわっ、ヴァンさん、断るとかは無しですからね。ジョブ『ソムリエ』でしょう? お願いしますよ」


 はい? なぜ、ここでジョブが出てくるんだ?


 女性の一人が、僕を値踏みするような視線を向けて口を開く。


「貴方、本当にグリンフォード様が認めた人なのかしら? 私は弱き者には、吐き気を感じますの」


 えーっと、いま吐きそうってこと?


「あら、珍しく私も同じ意見だわ。貴方よりも、彼の方がまだマシね。だけど、イライラさせられるわね」


 ボレロさんの方に、冷ややかな視線を向ける女性。これは、一体、どうすれば良いのだろう?



「ボレロさん、あの、どんな方針で……」


 小声で尋ねると、ボレロさんは、やはり笑みを浮かべる。


「ヴァンさん、貴方が共存の話を始めたそうですね。国王様からは、ヴァンに丸投げしておけと言われています。とりあえず、カベルネ村の収穫祭にお連れしようかと」


 なるほど、だから、ジョブ『ソムリエ』と言い出したのか。僕を巻き込むための、国王様の入れ知恵だな。


「でも、僕を見ると、吐き気を感じるご婦人も……」


「この種族の方々は、タバラと同じタイプのようです。ゼクトさんがそう言っていました。なのでヴァンさんにしか、お任せできません」


 タバラ? 何、まさか、地中虫のタバラ? 


「そのタバラって……」


 僕が床を指差すと、ボレロさんは頷いた。地中虫のタバラだ!



「何をコソコソ話しているのかしら?」


「はぁ、本格的にイライラしてきましたわ」


 それは、こっちのセリフだ。


 チラッと神官様の方を見ると、やはり不機嫌そうなんだよな。だけど、タバラという言葉が聞こえたらしい。ジワジワと離れていく。


 もう、仕方ないな。僕は、スゥハァと息を整える。



「では、ご婦人方、カベルネ村へご案内します」


「ええ〜っ、なんだか……えっ? あら、貴方!?」


「まぁっ、貴方も?」


 やっぱりな。


 僕は今、デュラハンの加護を強めている。見た目も、鎧騎士に変わっていて、まがまがしいオーラを放っている。


 デュラハンさん、もういいよ、ありがとう。


『ふん、こんなことにオレを使うなよな。影の世界の王に近寄る女は、切り刻んでやればいいんだよ』


 デュラハンは、ぶつぶつと文句を言うと、加護を弱めた。



「あら? また、その姿に戻ったの? イライラするわ」


「何なの? 嫌がらせかしら。幻影でしたのね。イライラするわね」


 はぁ、仕方ない。ここは教会なんだけどな。


「ご婦人方、イライラしてお困りのようでしたら、僕が、切り刻んで差し上げましょうか?」


 張り付けた笑顔を浮かべ、低い声でそう言ってみた。


 ゼクトさんからの伝言が、地中虫タバラに似ているということは、そうしろってことだよな。



 しばらく、シーンと静かになった。失敗したか?



「きゃあぁっ、はわわわわ」


「いやぁん、あっふぅん」


 ご婦人方は、その目をトロンとさせ、クネクネと身を悶えさせていらっしゃる。



 うっ、神官様の視線が痛い。



「ヴァンさんは、死神様にも変化へんげできるそうですよ」


 ここぞとばかり、ボレロさんが変なことを言う。


「はぅうっ」


 恍惚とした表情のご婦人方。地中虫タバラよりも酷くないか?



「いつまでクネクネしているのですか。行きますよ」


 僕が冷たい口調で言い放つと……ご婦人方は、クネクネしながら、歩き始めた。



日曜日はお休み。

次回は、4月18日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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