表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

473/574

473、リースリング村 〜後始末

「ヴァン、大丈夫か? 魔力切れで倒れるなよ?」


 国王様が気遣いの言葉をかけてくれた。


「フリックさん、大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 僕は今もまだ、邪霊の分解・消滅の魔法陣を、維持し続けている。この大陸全体に広がる巨大すぎる魔法陣だ。


 だけど、魔力の枯渇を感じない。


 地中には、まだまだとんでもない量のマナが蓄えられているからかな。正確にいえば、ラフレアが浄化してマナに変えたものだ。


 僕は、地中に伸ばしている根から、そのマナを吸収することができる。


『ラフレアは繋がっている』


 それは、あらゆる事を指しているのだと実感する。思念的な繋がり、そして物理的な繋がりも……。ラフレアは、もともとはひとつだったから、こんな繋がりがあるのだろうか。


 ある意味、この世界の何よりも不思議な生き物かもしれない。動物でも植物でもない。ラフレアという分類があるのは、そのためかな。




「彼をここに残したのは、竜神様の意思かな」


 影の世界の人の王グリンフォードさんが、死竜を睨みながら、そう呟いた。影の世界から、この地を襲撃したのは獣だ。それを率いていたのが、どうやらこの死竜らしい。


 死竜は、この世界の人間の姿を持っている。何人かの人間を喰って得たようだ。リースリング村には、人間として、収穫の手伝いの仕事で滞在している。この村を勧めたのは、ゲナードか。


 ただ、竜神様の子達には、従う素振りを見せていた。


 結果的には、あの子達を尻尾でなぎ払ったけど、それは、死竜に指示を出していた氷の神獣テンウッドに操られてのことだろう。


 僕は、テンウッドがこの襲撃の元凶だと思っていたけど、さっきの竜神様やラフレアの声では、堕ちた神獣ゲナードを名指ししていた。


 神に氷の檻に閉じ込められている神獣テンウッドと、天兎のハンターが討ったはずの悪霊ゲナード。両者の関係がよくわからない。


 ゲナードは、テンウッドの下僕になっていると言う人が多い。だから、元凶はテンウッドだと思ってたけど……わからないな。



「いつまで、まがまがしいオーラを放っている? だからヴァンが、この魔法陣を消せないのだ。人間の姿を持つのだろう?」


 国王様がそう言うと、死竜は、人間の姿に変わった。瀕死のダメージを負っているのがわかる。


 だが、僕の魔法陣は消えない。この村は大丈夫でも、他の場所の浄化が終わってないようだ。


 ラフレアの地下茎を通じて、なんとなく伝わってくる。影の世界の獣が一斉に襲撃したのは、十数ヶ所の小さな村や集落か。ブラビィと火の精霊様が、獣は蹴散らしたが、その屍の浄化がまだ終わらない。


 中途半端な状態で放置すると、その屍から闇系のおかしな魔物が生まれてしまう。



「クッ、魔法陣が消えないではないか」


 人間の姿になると、死竜は魔法陣の光が辛いらしい。まがまがしいオーラで魔法陣の光から身体を守っていたのか。瀕死の大怪我だもんな。


 僕は、異界の薬草を魔法袋から取り出し、怪我を治療するための薬を調合した。


「これを飲んでください。傷薬です」


 僕が小瓶を差し出すと、死竜は首を横に振る。不信感の塊のような目で睨んでくる。毒薬だと思っているのか。


「異界の薬草で作りました。薬で殺そうとか操ろうという気はありませんよ。そんなものを使わなくても、僕はキミを殺せるし操れる」


 半分は、ハッタリだ。スキルを駆使すれば、当然、死竜を殺すことも操ることもできる。だけど僕は性格的に、そんなことをする度胸はない。


 一瞬ギラリとした殺意を向けたが、死竜は小瓶を受け取った。そして、すぐに飲み干している。よほど辛かったのだろうな。



「ふあっ? こ、これは……」


 死竜は目を見開き、空になった小瓶を見つめている。サーチか何かをしているのだろうか。


 僕は、薬師の目を使って、彼の状態を確認した。うん、予想以上に効いているようだ。今すぐ逃げ出す力も戻っている。


「言っておきますが、キミは、ラフレアの花粉を浴びた。だから、どこに逃げてもラフレアには見えますよ」


 先手必勝だ。僕は冷たい声で抑揚なく、そう告げた。


「クッ、わ、わかっている。逃げるつもりはない。俺は、影の世界の竜の神だからな」


 竜神とは言わないんだな。その違いは僕にはわからないが、竜の神と言うことは、竜神を詐称していることにはならないのか?




「ヴァン、おまえは底無しに恐ろしい奴だな」


 グリンフォードさんがそんなことを言った。僕が死竜を脅しすぎたのだろうか。


「グリンフォード、ヴァンは神官のスキルを持つ。だから、治療をしたのは慈悲の心だよ。異界の住人には理解できないかもしれないが」


 うん? 治療?


 国王様がそう言うと、グリンフォードさんは小さなため息をついた。


「フリック、我々は、どうやら勘違いをしていたらしい。こちらの世界は脆弱だと思っていた。だから、影の世界を潰そうとしているという噂を耳にしたとき、心底怒りを感じたよ。身の程知らずな愚か者だと思った。ふっ、身の程知らずだったのは、我々の方だな」


 いやいや、異界の住人の方が圧倒的に強いじゃないか。


 だが国王様はニヤニヤしていて、何も反論しない。やはり策士すぎる。国王様の余裕な笑みにより、グリンフォードさんはまた小さなため息をついた。



「グリンフォード、2つの世界は共存すべきだ。私も、影の世界を観光してみたい」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、国王様はグリンフォードさんの肩をポンポンと叩いた。


「観光? なんだ? それは」


「知らない土地を見て、楽しむことだ。知らない食べ物や酒、そして景色や価値観、いろいろな学びや気づきもあるだろう」


「確かに、こちらの世界に来て、俺は多くのことを知った。ラフレアの真の恐ろしさもな。なるほど、互いに観光をすることで、理解が深まるな」


「知らない統治方法を知ることで、王としての器も磨かれることだろう」


「確かに。フリックは、こんな世界で人の王をしているから知識が豊富だ。俺も学ぶ必要がある」


 グリンフォードさんは、基本的に素直というか正直な人だよな。国王様が策士すぎるのか。


 二人の話が難しくなってきた。そんな話を死竜も聞いている。影の世界では、人と獣の距離感が近いのかもしれない。こちらの世界では……。


 僕の頭の中には、ほへっ? っと首を傾げるチビドラゴンが浮かんできた。ふふっ、いい奴なんだよな。


 協力関係という点では、こちらの世界の方が密なのかもしれない。魔獣使いというスキルが、そうさせるのか。




 魔法陣の光がスーッと消えていく。村には、夜の暗闇が戻ってきた。もう、かなり夜が更けてきたな。


 外に出ていた村の人達も、皆、自分の家に戻っていく。口数は少ない。みんな疲れ果てているようだ。



 村長様の使用人がやってきた。


「ヴァンさん、今回の件で、村長様がお呼びです」


 やはり、そうなると思った。だが、もう夜も遅い。フロリスちゃん達に宿泊してもらう宿も決まっていない。


 宿がなければ、デネブに戻ろうかと思っていたけど……。



「村長への話なら、私が行く。グリンフォードと死竜も来い。ヴァンは、フロリスを寝かせてやれ」


 国王様がそう言ってくれた。だけど、使用人は了承しないだろうな。


「貴方は、貴族の屋敷にかくまわれていた子ですね。村長様は、ヴァンさんを呼んでいます。貴方には、今回の件の後始末をするチカラはないでしょう?」


 使用人は、冷たく言い放つ。すると、国王様は楽しくてたまらないような笑みを浮かべた。


「私では役不足か?」


「当然です! ヴァンさんは、精霊師でもあるので、王宮への出入りも許可されています。貴族の生まれだというだけの貴方よりも……」


 これ以上はダメだ!


「待ってください! さすがに失礼ですよ」


 僕がそう言うと、使用人はハッと手を口に当てた。ただの下級貴族への言葉としても、不適切だ。


「ククッ、とりあえず、案内してくれ。ヴァンは、フロリスを頼む。一応、アランを連れて行くからな」


 こんな顔をしている国王様は誰にも止められない。僕が軽く頷くと、彼らは村長様の屋敷へと歩き出す。


 はぁ、ほんと悪ガキだよな。いつ、身分を明かすのだろう?




「おい、コイツを追い払えよ」


 天兎のぷぅちゃんは、いつの間にかフロリスちゃんの腕の中に戻っていた。そして僕の腰には、アクセサリーのフリをして、黒い毛玉がぶら下がっている。


「ぷぅちゃん、ダメだよ。ヴァン、私、少し眠くなってきたわ」


「では、家へどうぞ」


 結局、ウチの狭い客間に、フロリスちゃんを泊めることになった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ