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472、リースリング村 〜ラフレアと竜神

 ラフレアの巨大な赤い花は、空を泳ぐモノと地面にペタリと広がるモノに分かれた。


 村にいる人達はも、現れた黒い獣も、赤いラフレアのじゅうたんに乗っている状態だ。


 僕のスキルで村の人達を、ゴム玉で一人一人覆っている。スキル『道化師』のゴム玉に、何か別の能力も結びついているようだ。ラフレアのつぼみの歌声を聴いても、誰も状態異常になっていない。


 花の隙間からは、僕の魔法陣の光が漏れてくる。次第に赤いじゅうたんに魔法陣が描かれているように見えてきた。融合しているのか?


 赤い花の中心にある白っぽい人面部分は、みんな僕を見ている。ラフレアの赤い花には、僕の姿はラフレアに見えているみたいだな。


 人間には、竜に見えるらしい。影の世界からの侵略者には、どちらに見えているのだろうか。


 この姿に変化へんげしていると、影の世界の様子も見える。魔道具のサーチを弾く人工物、氷の神獣テンウッドの操り人形である獣が、強いエネルギーを発していることまで見える。




『ヴァンサマ、ジュンビガ オワリマシタ』


 赤い花から声が聞こえる。村を覆い尽くしたラフレアの赤い花。空にも大量の赤い花が泳いでいる。


 空では、ブラビィがリースリングの妖精を集めているのが見えた。保護してくれているみたいだな。


 雷獣も、竜神様の子達を背に乗せて、ブラビィの近くに浮かんでいる。竜神様の子達はおとなしい。雷獣の背でジッとしているみたいだ。やはり怯えているんだな。


 六精霊は、空中のあちこちに浮かんでいる。光の精霊様も、妙に静かだ。これから起こることを想定して構えているのだろうか。


 僕が依頼した、村が壊れないようにということだけじゃなく、他への影響への警戒もしてくれているようだ。



「よし、じゃあ、侵略者を一掃しよう。みんな、狩りの時間だ!」


 僕はそう言うと共に、身体から魔力を放つ。スキル全開放中だから、僕自身は何の力を使っているかわからない。



 空を泳ぐラフレアの赤い花が、一斉に黄色い花粉を飛ばした。それを地面に広がる赤い花が吸い寄せているのか、視界が真っ黄色に染まる。


 ゴム玉にも黄色い花粉が大量に付着したようだ。


 あぁ、目隠しか。



 冷たい風が強く吹いた。氷の神獣テンウッドが、影の世界の操り人形を経由して、ラフレアの花粉を散らそうとしているようだ。


 だが、空を泳ぐ赤い花と地面に広がる赤い花の間で、黄色い花粉はクルクルと舞っている。



『ヴァン、そろそろいいわ』


 ラフレアの本体からの声が聞こえた。じゃあ、一掃しようと考えた瞬間、不思議なことが起こる。



『人間の村をエサ場にしようとする獣たち、それを操るのはゲナードか。堕ちた神獣ゲナード、二つの世界を潰そうとする行為は、この世界の秩序を守るモノとして、許さない!』


 えっ? ゲナード?


 竜神様の声とラフレアの声が重なった声が、頭の中に響いた。僕の頭の中だけではない。一斉に半透明な竜かラフレアの姿に化けている僕に、みんなの視線が集まった。



 僕の身体から、強い光が放射状にほとばしる。不思議な光だ。様々な属性を持つ白い光だ。


 光は、刃に姿を変えた。


「グギャァ!」


「オオオオォォ」


 音もなく走る光の刃に切り裂かれ、影の世界の獣達は、次々と倒れていく。



 冷たい風が強く吹いた。


 操り人形からの撤退命令か。よかった、これで……。


『ヴァン、戦いはこれからよ。根からマナを吸収して!』


 えっ? あ、はい。


 僕は、スゥゥッと息を深く吸う。すると身体全身で甘いと感じた。悪霊を浄化したときよりも、さらに濃厚な甘さだ。


 ラフレアの赤い花は、倒した異界の獣を瞬時に喰い、僕が維持している魔法陣がマナに分解し、それを地中に蓄えているのか。


 すごい循環だな。


 身体の中の魔力が大幅に回復されていくのがわかる。バケモノ級の魔力タンクは満タンになり、それでもまだ地中には、大量のマナが溢れている。



 襲撃してきた獣達は、次々と異界へ戻っていく。


『逃さぬ! 堕ちた神獣ゲナード、滅びよ!!』


 また、竜神様とラフレアの声が重なったような不思議な声が聞こえた。


 僕は直感で、1体の獣に向かって魔力を放った。小さく何の特徴もない黒い獣だ。だけど、僕はなんだかその獣にゾワリとしたんだ。


 放った白い光は、影の世界へと吸い込まれていく。


 そうか、ラフレアの花粉か。


 影の世界に逃げた獣は、僕の目には色鮮やかに見える。そして、狙った1体だけでなく、僕の目に見えた獣を次々と光が貫いていく。


 だが、影の世界から指示をしていた操り人形には、光の攻撃は当たらない。一方で、どんなに遠くに転移で逃げても、光は追いかけていく。



 影の世界の住人達が、この光の襲撃に驚いている様子が見えた。


 まぁ、当然だろう。謎の光が次々と獣を切り刻むのだから。



『影の世界のモノ、怯える必要はない。先程、色ある世界へ大規模な襲撃があった。色ある世界の竜神達が、それを排除したまでだ。だが、元凶となった堕ちた神獣は、まだ分身を隠しているか。皆のモノ、惑わされるな。色ある世界は、影の世界との共存を望んでいる』


 今度は、竜神様の声だ。だけど少し違う。いつもよりも厳格な印象を受けた。これは、影の世界の竜神様の声なのだろうか。



『あら、いいところを持っていかれちゃったわね。私達を融合して撃退したのは、ヴァンなのにね』


 ラフレアの本体の声だ。僕だけへ語りかけている?


『ふふっ、ラフレア達に語りかけているわ。ここに集まった子達は、ヴァンのことが大好きな子達なの。みんな食べたくないものを食べちゃったわね』


 えっ? あ、影の世界の獣達を……。


『ええ、でも安心しなさい。この子達は、魔物は生み出さないわ。ヴァンが望む新たな植物を生み出すはずよ』



 僕は、村に広がる赤い花を見回した。


 そっか、この子達は、僕の村を守るために来てくれたんだ。



 ありがとう。



 僕が感謝の気持ちを抱くと、赤い花は地面へと沈むように消えていった。地中奥深くの地下茎を通って、ラフレアの森の地中に戻っていく。


 赤いじゅうたんが消えると、僕が維持している魔法陣が、付近の浄化を始めたようだ。淡い光が空へと立ち昇る。


 空を泳いでいた赤い花も、ラフレアの森へと帰っていった。



 ラフレアの赤い花がいなくなると、村の人達を覆っていたゴム玉は、パチンと弾けるように消えた。


 みんな、口をあんぐりと開けてるんだよな。めちゃくちゃ驚かせてしまった。


「いったい、どうなってるんだい?」


「あの美しい竜は……」


「赤いバケモノの花は、黒い獣を食って死んだのかい?」


「あぁ、食って死んだように見えたぞ」


「まるで、赤い花の魂が天に昇っていくようだね。あれは一体、なんだったんだ?」


 村の人達の問いかけに、冒険者をしている貴族が答える。


「赤い花は、ラフレアという精霊系の植物だ。だが、ちょっとおかしい。なぜ無事だったんだ?」


「あぁ、ラフレアの森では、赤い花は1つでも遭遇すると、命がないと言われている凶暴な花なんだが……」


 次第に、みんなの視線が、僕に集まってくる。どうしよう。



 すると光の精霊様が、ふわりと空から降りてきた。


『みんなー、大丈夫? 体調の悪い子はいないかなー?』


 さすが、リーダー!


 光の精霊様の声は、ぶどう農家には聞こえる。妖精の声を聞く力のない人には、聞こえる人が教えている。


『このキラキラしてる派手な子がヴァンだよっ。ヴァンは、ラフレアになったの。竜神様の姿を借りる許しもあるの。だから、こんな派手っハデなんだよっ』


 えっ……ちょ……。


『さっき襲撃してきた黒い獣は、ヴァンというか、ラフレアと竜神様が追い払ったよ。影の世界にも悪い子がいるの。この世界と一緒ねっ。すっごく悪い子は、ラフレアと竜神様が怒るから、気をつけなさいっ。ちょっとだけ悪い子は、ヴァンが怒るだけだから平気よっ』


 話の後半は、全く意味がわからない……。


 クスクスと笑いが起こった。そうか、光の精霊様は、僕がみんなからバケモノ扱いされないようにしてくれたのか。


 ラフレアの花が、すべてラフレアの森にたどり着いたことが伝わってきた。


 すると、僕の視点はスーッと下がっていく。


 右手の甲の熱も収まってきた。スキル全開放状態が、解除されたみたいだ。


 僕の姿が人間に戻ったのを見て、村にいる人達はざわざわしている。変化へんげを見せたのは初めてだからか。



『ヴァン、後のことはよろしくねっ。あたし、眠くなっちゃった。じゃあ、みんな、解散っ』


 光の精霊様の一方的な解散指令で、六精霊はスーッと姿を消した。空に浮かんでいた竜神様の子達を乗せた雷獣も、空を駆けて離れていった。



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