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471、リースリング村 〜氷の神獣の操り人形

 僕は慌てて、死竜に飛ばされて空を舞う白い魔物を受け止めようと走った。このまま地面に叩きつけられたら、あの子達は無事では済まない!


 すると地面から、大量の根が一気に伸びてきた。ラフレアの根だ。そして、竜神様の子達をラフレアの根がキャッチした。


 ふぅ、焦った。あっ、しびれてないかな?



 竜神様の子達を尻尾でなぎ払った死竜は、動きがおかしい。混乱しているように見える。自分の行動と考えが一致しないのか。



「キュッ?」


 あれ? なぜ空中で止まってるの?


「キュキュ」


 モゾモゾくすぐったいよ〜。何? 誰? 



 あの子達にも、ラフレアの根は見えないのか。


 僕は、白い不思議な魔物達を抱きかかえる。もう手で抱えるには、2体はキツイな。ラフレアの根を使って、転げ落ちそうな子の背中を支えた。



「キュッ〜?」


 もしかして、父さんが受け止めてくれたの?


「キュッキュッ〜」


 くすぐったいのは、父さんの根だったのかも。見えないけど、父さんの気配がしたもん。


「キュッ〜!!」


 ぼくも、乗りたい! でも、父さんが倒れるかな。



 僕の足元で、死竜に飛ばされなかった1体がウズウズと揺れている。うん、倒れるからやめてくれ。



 しかし……どうしようか。


 竜神様の子達のことを光さまと呼び、この子達に従う素振りを見せていた死竜。だが突然、様子が変わったのは、空が真っ暗になったためか? 今もまだ混乱状態で、固まっているようだが。


 光の精霊様は、転んだ場所から動かない。動けないのだろうか。精霊の動きを封じるなんて……まさか……。


 六精霊は、誰も動かない。


 そしてリースリング村の人達は、何かに操られるかのように、外に出てきた。みんな怯えているように見える。操られているというより、脅されているのか?



「キュッ、キュ〜ッ」


 変なのが来た。どうする? お気楽うさぎを呼ぶ?


「キュキュ〜」


 お気楽うさぎは、忙しいみたい。天兎は?


「キュ〜」


 ぼくも乗りたい。



 うげっ。僕の足元にいた子が、僕が抱える2体の上に飛び乗ってきた。


「ちょっと〜」


 僕は、当然、支えきれずに、尻もちをつく。


 だけど、たぶん、これは悪戯ではない。この子達も怯えてるんだ。



 雷獣が、僕の近くに立った。この子達を迎えに来たのだろう。だけど、竜神様の子達は、僕から離れない。



 邪霊の分解・消滅の魔法陣は、当然、維持している。空は真っ暗だが地面の明るさで、村の中も外も見渡せる。


 魔法陣があることで、黒石峠のときみたいに地面から石壁が生えるように出てくることはないはずだ。しかし、ドラゴンは嫌がっていない。強い獣には効果はないようだ。悪霊を浄化する技能だから、まぁ当然だ。




「ヴァン、ちょっとマズイな」


 国王様が、魔道具を僕に見せに来た。僕は、竜神様の子達を地面に降ろして立ち上がる。


 魔道具は、影の世界を映しているようだ。この付近を多くの獣が取り囲んでいるのがわかる。また、近寄ってきたか。


 そして国王様が指差しているのは、種族サーチの結果かな。


「精霊イーター? なぜ異界にいるんですか? 悪霊を喰う魔物ならわかりますが」


「ヴァン、それはどうでもいい。その上だ。魔道具が識別できない魔物がいるんだ」


 国王様が言いたいことは、僕の視点とは違った。国王様が識別できないという魔物は、魔物ではない。


「フリックさん、そのエラーが出ているものは、おそらく人工物です。神獣の操り人形ですよ。それより精霊イーターがなぜ……」



 グリンフォードさんが、口を開く。


「精霊イーターは、ある集落の人間が持ち込んだモノだ。堕ちた霊も喰うから、勝手に繁殖したようだ。ラフレアを寄せつけないから、我々としても便利使いしている」


「もしかして、こちらの世界と戦乱になったときに、精霊イーターを兵器として使うつもりでしたか」


 僕がそう返すと、グリンフォードさんは、ギュッと口を固く閉ざした。図星か。


「ヴァン、そんな言い方をするな。互いに疑心暗鬼になっていると言っていたのは、誰だ? 共存の道を歩むのだろう?」


 国王様はそう言うと、グリンフォードさんの肩をポンポンと叩いた。するとグリンフォードさんの表情は、少しやわらかくなった。


 ほんと、国王様には敵わないな。



「グリンフォード、精霊イーターは、この村の近くで繁殖しているのだな」


 国王様がそう尋ねると、グリンフォードさんは首を横に振った。


「精霊イーターが繁殖するのは、死神様の鎌が落ちている近くだ。ここまでは、かなりの距離がある。精霊イーターの行動範囲外だ」


 黒石峠か。


「ということは、なぜ、これだけの数がここに集まっている?」


 国王様は、グリンフォードさんに何を言わせたいんだ?



 だが今は、そんなことを議論している場合ではない。冷たい冬を思わせる風が吹いた瞬間、空気感が変わったんだ。


 これまで、僕は全く恐怖を感じてなかった。だが、この冷たい空気感に、嫌な汗が出てくる。



 天兎のハンター、ぷぅちゃんがスッと姿を消した。フロリスちゃんのすぐそばに移動したな。


 空を見上げると、真っ暗な空にブラビィが浮かんでいる。さっきのように飛び回ってはいない。空中で静止し警戒しているようだ。



 僕の目には、銀色の何かが見えた。

 あっ、また、見えた。


 何? 何かを伝えようとしている?


 六精霊は動かない。精霊イーターが、影の世界から狙っているのか? 念話も聞こえない。この状況は……。


 また、何かが見えた。

 念話が封じられているのか? もしかして……。


 僕は、ラフレアの根を地中深くへ伸ばした。株は離れた場所にあるから、あまり根は伸びない。できる限り深く……あっ、見えた!


 銀色の大きな花。ラフレアの本体だ。何かが僕に流れ込んでくる。ラフレアの思念? 上手く受信できない。


 だけど、僕の右手の甲が熱くなってきた。ジョブの印だ。



 僕は、自分の感覚に従う。左手を右手のジョブの印に重ねる。そして……。



「う、うわぁあ!!」


「か、怪物が」


「魔物だ、空中に裂け目ができた」


「嫌だ! 俺達を喰うと言っている」


「家から出たのに! 家の中にいる者を喰うと言ったじゃないか!」



 村の人達が騒ぎ始めた。至る所から、黒い獣が首を出している。魔法陣の上に降りるかを迷っているようだ。


 よかった、足止めができている。



「みんな、僕から離れて!」


 僕は、スキルを全開放した。



『ヴァン、よく気づいたわね。貴方の力と融合しましょう』


 ラフレアの声だ。



 僕の視点はどんどん高くなっていく。あれ? この姿って……ボックス山脈で使った、細長い半透明な竜神様の姿に似ている。だけど、さらに半透明なローブをまとっているかのようだ。



「ヴァン、な、何……」


 国王様は、僕を見上げて、呆然としている。


「な、なんと美しい……七色に輝く神々しき竜だ」


 グリンフォードさんの言葉から、やはり竜神様の姿を借りていることがわかる。



 冷たい空気が揺れた。いや、空気の揺れではない。氷の神獣テンウッドの波動だ。北の大陸から、こんなに離れた場所まで……あの操り人形か。あの人形を経由して、チカラを使っているのだな。


『ヴァン、潰しましょう! 貴方の加護を子供達に』


 えっ? 僕の加護? 



 あちこちの裂け目から、獣が出てくる!



 僕は、村にいる人達を守ろうと強く願った。


 魔法陣の色が変わった。そして、村にいる人達、一人一人を透明なゴム玉が包んでいく。スキル全開放中だから、おかしな融合が起こっているようだ。



『ヴァン! 動けるようになったよっ。やるじゃないっ。もぉっ、あたし、怒ったんだからねーっ』


 光の精霊様が復活した。他の精霊様達も、動けるようだ。


「光の精霊様、防御系をお願いできますか。村が壊れないように」


『ええっ? ちょっ、ふえぇ?』


 光の精霊様が、変な声を出している。


 それと同時に、空中からポロポロとこぼれ落ちるように、異界の獣が、村に一気に現れた。


 だが、光の精霊様の視線は、もっと高いモノに向いている。



「ぎゃーっ!」


「な、なんだ? ば、バケモノ」


 ま、マズイ。お年寄りがショック死してしまう。



『ラーララ、ララ〜』



「皆さん、落ち着いてください! ヴァンが作った、そのゴム玉の中にいれば安全です。みんなで観戦しましょう」


 国王様が、拡声の魔道具を使って、そう呼びかけてくれた。



『ララ〜、ラーララ』


「グルルル」



 僕は、半透明な身体から魔力を放つ。その光は、ラフレアの子供達を覆うバリアとなった。



「さぁ、狩りの始まりだ!」


 僕が強い光を放つと同時に、集まってきていた大量の緑色の人面花……ラフレアのつぼみが、一斉に巨大な赤い花を咲かせた。



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