470、リースリング村 〜竜神様の子達は
光が現れるまで?
空はまだ、光の精霊様の術が維持されているから明るいが、時間的には、ようやく日が沈んだばかりだ。朝になるまで待てということか? さすがに魔力がもたないよな。
光の精霊様が言った言葉の意味を考えていると、突然、目の前に強く光る何かが現れた。背中に、白いぷよぷよしたものを3つ乗せている。
「キュッ、キューッ」
あれ? なぜ父さんがいるの? 精霊さんが助けてって言ったよね?
「キュ〜ッ!」
精霊さんから父さんの気配がする。
「キュキュ」
父さんが召喚したんだよ。だから、輝きが強いみたい。
白い不思議な魔物……竜神様の子達を乗せた雷獣だ。六精霊が呼んだのかな。この子達の話す言葉は、ラフレアになってからは僕にもわかる。
だけど、この子達は、それに気づいてないみたいなんだよな。僕の考えを察する力があるはずなんだけど。
竜神様の子達は、僕が、どんな姿に変わっていても気づく。いま、僕は大天使様の姿に変化している状態だ。
変化を解除したらリースリング村が異界に飲み込まれると、光の精霊様に言われたから、この姿を維持したままだ。
完全に光が通れないように囲まれてると、光の精霊様は言っていたっけ。
彼女の言葉にはよくわからない部分もあるけど、この付近の影の世界に、異界の住人が集まってきていることは、僕も気づいている。
この世界じゃなくて、影の世界だから関係ないと思ったんだけど、それがどうやら違うらしいんだ。
「光の精霊様、光が現れるまでって、まさか朝までじゃないですよね? 魔法陣の維持と、変化を両方維持するのは、さすがに魔力が不安なんですけど」
僕がそう尋ねると、光の精霊様は僕の方を向いた。
彼女は、なんだか、ものすごく……間抜けな顔をしている。僕の言葉に呆れているのかもしれない。
まぁ、魔力はエリクサーを食べれば回復できる。だけど今、この姿では、魔法袋から取り出せない。フロリスちゃんかアラン様なら、持ってるだろうけど。
『ちょっと、ヴァン。何を言ってるのっ? まさか、見えてないのっ?』
「はい? ウチの子達しか見えませんけど」
なぜかシーンとしてしまった。光の精霊様がポカンとしている。
『ヴァン、光の精霊が待っていたのは、この子達のことだ。もう、術を解除しても構わないぞ』
土の精霊様がそう教えてくれた。この子達が、光? あっ、雷獣のことか。一角獣は、強い光を放っている。
「土の精霊様、僕が元の姿に戻っても大丈夫なんですか」
『あぁ、これで揃ったからな。ただ、魔法陣は維持しておく方がいい。俺の結界だけでは、不安だからな』
「わかりました」
光の精霊様の方に視線を移しても、僕を制する気はないようだ。静かなのは、竜神様の子達と念話で話しているのだろうか。
僕は、変化を解除した。
そして即座に、木いちごのエリクサーを口に放り込んだ。だけど、あまり回復した感覚はない。ラフレアになったことで、魔力量がバケモノ級になったんだと実感する。
空では、ブラビィがまだ、楽しそうに飛び回っている。もう、空に裂け目はできていない。この場所に降りてこないのは、天兎のハンター、ぷぅちゃんがいるからだろうか。
「キュ〜ッ!」
なぜ、こんなことしてるの!
竜神様の子達が、雷獣の背中から降りてきた。ぽよんぽよんと飛び跳ね、僕の前を通り抜けて、死竜の方へと向かっていく。
「ちょっと、危ないよ!」
僕がそういうと、1体は立ち止まったけど、他の2体は死竜に近寄っていく。ほんと最近、あんまり言うことを聞いてくれないんだよな。反抗期かな。
「キュッ! キュキュ〜!」
アンタのせいで、父さんが怒ってる。ぼく達が悪い子だと思われるじゃないか!
「キュ〜キュ!」
なぜ、戦闘になってるの。なぜ、この村を攻める準備をしたの!
竜神様の子達が、死竜に怒りをぶつけている。そして、この子達の声で、影の世界が動いた。僕のラフレアの根は、もう甘い何かの気配を感じない。ここから離れたのか。
「キュキュ〜ッ!」
父さんを怒らせたら、知らないよ! ラフレアは影の世界の霊をすべて浄化できるんだからね!
「キュッ、キュ〜」
お気楽うさぎは、聖天使になったよ。影の世界の獣を、ほとんど殺せるよ。
竜神様の子達が近寄っていくと、死竜は震えている。
「光さま……お許しください。先に攻めないと勝てないと言われて……」
光さま? 竜神様の子達のこと?
『チビちゃん達、来てくれてありがとっ。村の中で強い力は使えないから、助かったよっ』
そうか、光の精霊様が、竜神様の子達を呼んだんだ。
「キュッ、キュ」
精霊さん、父さんにちゃんと説明して。ぼく達が悪い子だと思われちゃう。
『うん? 説明? あっ、ヴァンはわかってないんだっけ』
光の精霊様が尋ねると、竜神様の子達は、ぽよんぽよんと飛び跳ねている。やはり、僕が言葉を理解していることに気づいてないよな。
『ヴァン、チビちゃん達が光だってことを、知らなかったんだよねっ。びっくりしたぁ?』
「光の精霊様、光の意味がわかりません」
そう答えると、彼女はまた間抜けな顔をして固まっている。すると、闇の精霊様がふわっと近寄ってきた。
『ヴァン、影の世界では、竜神の赤ん坊を「光」と呼んでいる。竜神だけでなく、あらゆる神の赤ん坊の総称だ。体内に秘めたマナのために、影の住人の目には強い光にしか見えないからだ』
「闇の精霊様、それは知らなかったです。竜神様の子には、死竜や、この付近に集まっていた獣は従うのですね」
『うむ? 竜神の子ではあるが、少し理解が違うようだな。この子達は、竜神の赤ん坊だ。すなわち、成長すると竜神になる』
「ええっ!?」
竜神様の子って、竜神にはならないよな?
『ふっ、やはりそれを知らなかったか。この世界の竜神は、既に役割ごとに多数存在している。自分の担当以外には興味がないらしい。だから、あまり住人にも干渉しないが、影の世界にいる竜神は違う。闇属性の竜神しか存在しないから、権限も力も集約しているし、何より厳しい。だから影の世界の住人は、竜神を畏れている』
闇の精霊様は、わかりやすく淡々と説明してくれた。だけど、僕の頭の中は混乱している。
竜神様が、竜神となる子をつくることがあるなんて、知らなかった。だけど、この世界では、何体もの竜神様がいる。もう役割分担ができているんだから、増やす必要はないよな。
なのに3体も……? 竜神様には寿命はない。だけど、死ぬことはあるのかもしれない。
『ヴァン、こちらの世界の竜神が何かの理由で死を迎えた後は、闇属性の竜神の一部に吸収される。この子達は、竜神に何かあったときのためのものだ。竜神の誰かが死を迎えると、この子達が新たな竜神となるのだ』
僕が考えたことの補足を、闇の精霊様がしてくれた。
すると、影の世界の人の王、グリンフォードさんが口を開く。
「影の世界の竜神様が弱ると、こちらの世界の竜神様が死ぬと聞いたことがある。俺達は、竜神様の分身がこちらの世界に来ていると考えていた。別々の個体なのか」
えっ? 竜神様もラフレアみたいに繋がっているのか?
『人の王か。ふむ、竜神は、神の護衛をしているモノが一族の長らしい。その子供達が、地上に降りた。確か100を越える数だ。その半数は、影の世界の竜神になっている』
僕達が竜神様と呼んでいたのは、竜神様の子供なのか。全然、知らなかった。ということは、あの子達は、正確に言えば竜神様の孫? でも竜神様が欠けたら、あの子達が代わりに竜神様になるんだよね?
頭がこんがらがってきた。
グリンフォードさんも、混乱しているみたいだ。だけど天兎のぷぅちゃんは、つまらなさそうにしている。知ってたのか。
「キュッ!」
なぜ? お気楽うさぎが慌ててる!
「キュッ〜、キュキュ!」
何かが干渉してる。操られてるのかも。今夜が決戦だって言ってるよ!
竜神様の子達が、ぽよんぽよんと動き回っている。
あっ、ラフレアの根が、甘い何かに触れた。それと同時に、何かの波動を感じる。怒り? いや、焦り? よくわからない感情も伝わってくる。
『ちょっと、なぜ、解散しないのっ!? きゃっ!』
光の精霊様が、バタンと転んだ。精霊が転ぶなんて……何かに異界から、攻撃を受けたのか?
空が一気に暗くなってきた。光の精霊様の術が消えたんだ。
「あぁああぁ……グォォオッ!!」
死竜の様子が変わった。
すると竜神様の子達は、死竜にぽよんぽよんと体当たりを始めた。だが死竜は、白い不思議な魔物を長い尻尾でなぎ払った。




