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469、リースリング村 〜光が現れるまで

 空に浮かぶ聖天使ブラビィが金色の弓を射ると、無数の金色の光が空を駆け抜けていく。


 こんなときなのに、光の精霊様が放った白い光とのコントラストが、息を飲むほど美しいと感じた。


 幻想的なその光景にボーっと見惚れていると、その光の矢は、空の亀裂から出てきた黒い魔物に、正確に命中していった。


 す、すごい!


 一方で、天兎のハンターぷぅちゃんも、その手には銀色の弓を持つ。だが弓を構えることもなく、死竜を睨んでいる。いや、死竜の後方にいる光の精霊様を睨んでいるのか。



「こんなことは……」


 死竜は、先程までの勢いを失っていた。


 空では、光の精霊様が放った光が、夕暮れの空を白く染めている。夕方とは思えない明るさだ。


 火の精霊様が放った小さな火の玉は、裂け目から出てきた悪霊を次々と燃やしているようだ。そしてブラビィは、出てくる魔物を金色の矢を使って、すべて狩っている。


 リースリング村の上空だけじゃない。他の襲撃場所へもブラビィは、瞬時に転移していく。火の精霊様の火の玉は、まるでブラビィに操られるかのように、付いていくんだ。


 聖天使って、精霊の術を預かることができるのだろうか。堕天使だった頃は、ブラビィはこんな戦い方はしなかった。




「ドラゴンは、オレには厳しいぞ。この世界の人間の実体をいくつも持っている」


 天兎のハンターは、珍しく僕に助けを求めた。


 確かに、天兎は神獣には強いが、人間に対しては、特別な攻撃力を持っていない。


 ブラビィは元偽神獣で、悪霊になった後に黒い天兎になったから、相手がどんな種族でも、それなりに戦える。でも神獣が相手なら、決定的な攻撃力はないんだけど。



「うん、わかった」


 僕は、ぷぅちゃんに返事をして、死竜に近寄っていく。死竜は僕が近寄ると、戸惑っているのか動きを止めた。


「おまえは、一体……」


「僕は、この村で生まれた人間だよ。いろいろなスキルがあるけどね」


「う、嘘だ! 人間が大天使様に化けられるわけがない。人間の中に、隠れていたのはなぜだ。やはり影の世界を潰すためか」


 はい? 大天使様? 


 天兎の何かに変化へんげしたような気がしていたけど……。なぜ、大天使様の姿を借りることができたのだろう?



『この世界と共存する気のない子は、さっさと帰りなさいっ! じゃないと、知らないよっ。ヴァンが本気で怒ったら、影の世界は簡単に潰せるよっ。ヴァンは、聖天使を従えてるだけじゃなくって、竜を統べる資格も竜神様から認められた動くラフレアなんだからねっ!』


 ビシッと死竜を脅す光の精霊様……。精霊が、こんなハッタリを言っても大丈夫なのだろうか。


「竜を統べる者……」


 死竜は、ズルズルと後退している。逃げている? いや、違うな。そう見せかけているだけか。



「ねぇ、キミ、なぜ影の世界が潰されると思ったんだ? 誰に何を言われた?」


 僕は、手に持っていた杖を、死竜に向けた。杖の先には、ホワンとやわらかな光が灯っている。


 手に魔力を込めると、杖の先の光は、ぶわっと大きくなったように見える。何かが飛んいくわけじゃない。ただ光が灯っているだけだ。


 だけど……。


 ダダンッ!


 死竜が、崩れるように倒れた。


「お、お許しください……ググゥッ」


 いや、何もしてないよ?


 死竜は、必死に僕の方を見つめる。さっき、後退するフリをしていたように見えたけど、本当に逃げようとしていたのか?


「なぜ、影の世界が潰されると考えたのですか」


 僕が再び問いかけると、死竜は苦しそうに自分の喉を引っ掻いている。



「ヴァン、許してやってくれ。その獣は、爺と同じだと思う。神獣テンウッドが力を貸すと言った。その配下のゲナードが伝令の使者だ」


 グリンフォードさんにそう言われても、僕は何もしていない。ただ、杖を向けただけだ。


 僕が杖をおろすと、死竜は静かになった。杖の先の光で苦しんでいたのか?


 僕がグリンフォードさんに視線を移すと、彼は僕に向かって祈りの仕草をした。いやいや、僕は、大天使様じゃないよ。


「ゲナードが、こちらの世界を潰そうと提案したのですか」


「それは俺にはわからない。神獣テンウッドの言葉なのか、ゲナードの考えなのかは……獣になら、わかるだろうか」


 グリンフォードさんは、死竜に視線を向けた。そうか、神獣もドラゴンも獣扱いか。堕ちた神獣ゲナードは悪霊だろうけど。



 すると死竜が、生気のない目で、口を開く。


「わからない。ただ、先に攻撃しないと勝てないと言われた。だから、各地で一斉に闇の深い今夜決行しようと、準備をしていた。この村を標的にすれば必ず上手くいくと、策をくれたのはゲナードだ」


 また、ゲナード……。


 ぷぅちゃんの不機嫌が、ピリピリと伝わってくる。天兎のハンターとして、ゲナードを消せないことにイラついているのか。


「あの悪霊が、引っかき回しているのか!? 確実に仕留めたはずなのに、いつまでも消滅しないのは、やはり氷の神獣のせいだ。ヴァン、さっさとぶっ殺してこいよ!」


 イケメンすぎるその顔でそんなことを言うと、怖いよ? ブラビィよりも、過激だよな。



「ぷぅちゃん、僕にはそんなことできないよ」


「は? ラフレアの大群で行けば、よゆーじゃねーか。おまえのファンクラブのつぼみや花が、数えられない数になったぞ」


 ラフレアの森のつぼみか。確かに、かなりの数になっている。だけど、狂っていく花は減ったよな。



「ぷぅ太郎、その姿で過激なことを言うなよ。こちらの世界の脅威だと伝わる」


 国王様が、ぷぅちゃんのことをぷぅ太郎と呼んだ。ゼクトさんの真似だな。


「おい、フリック! おまえ、狂人化してきてるぞ」


「あはは、ゼクトは、私の幼児期の先生だからな」


「フンッ、オレはもう帰る!」


 ぷぅちゃんがそう言った瞬間、また、光の精霊様から輪っかが飛んできた。


 そして、捕獲される天兎のハンター。


 だが、これは誰にも避けられないな。輪っかに見えたけど、輪っかじゃない。おそらく光を浴びただけで、絶対に捕獲される術だ。



『天兎のハンターがここにいるから、あの子が派手なことをしていられるんだよっ!』


 光の精霊様が言いたいことはわかる。だけど、ぷぅちゃんの気持ちもわかる。


 きっとブラビィが、ぷぅちゃんの仕事を横取りしたんだ。



 僕は、大天使様の姿に変化へんげしているけど、同時にこの魔法陣を維持しているから、戦力にはならない。


 だから、次の何かに備えて、天兎のハンターがここに居ることが重要なんだ。いつ異界から何が出てくるかわからないからな。


 ラフレアの根は、この付近に集まるご馳走の気配を感じている。すなわち、この村の影の世界に、異界の住人が集まってきているんだ。


 今のところは、僕が維持する魔法陣を嫌って、何も出てこない。


 だがドラゴンは、この魔法陣を気にしないようだ。他にも、ヤバイ魔獣がたくさんいたはずだ。




 精霊様達が、戻ってきた。


『ヴァン、囲まれているぞ。だが、他の場所への襲撃は収まった。大地からの侵入はできないようにしてある』


 土の精霊様がそう言うと、国王様はグリンフォードさんの方を向いた。グリンフォードさんは軽く頷く。その表情に余裕はない。


「土の精霊様、この付近に集まっているのは、獣ですよね?」


『あぁ、その死竜が指揮している。影の世界の獣には、一切の情はない。騙されないことだ』


 土の精霊様は、相変わらず厳しい。



 代わって、水の精霊様が口を開く。


『ヴァン、水辺からの侵入も大丈夫よ。地下茎がすごいことになっているわね。動くラフレアは、生まれた直後は無敵ね。ラフレアの保護欲には驚かされるわ。私まで敵視される。ヴァンが召喚してなかったら、近寄れないわ』


「僕は、まだラフレアの赤ん坊だと言われていますからね……」


『だから、咲いた赤い花が狂わなくなったのね。常にヴァンの心配をしているみたいだわ。いまヴァンが居る場所は、神殿の次に安全ね』


 水の精霊様が、やわらかな表情を浮かべている。珍しい。


「ええっと、そうだといいんですが……。あの、僕はどうすれば……」


 この今の状態が、少し辛くなってきた。


 囲まれていると言っても、それは異界の話だ。死竜を影の世界へ帰らせれば、しばらくは襲ってこないよな?



『ヴァンは、そのまま、大天使をしてなさいっ! 変化へんげを解除すると、この村が異界に飲み込まれるよっ。完全に光が通れないように囲まれてるもん』


 光の精霊様は、めちゃくちゃ怖いことをさらりと口にした。


「い、いつまで?」


『光が現れるまでよっ』


 精霊様達は、空を見上げている。朝までってこと?



日曜日はお休み。

次回は、4月11日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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