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468、リースリング村 〜その男の正体は

 光の精霊様が放った光で、空が白く光った。今までに見たことがないほどのパワーだ。


『風の精霊はぶわっとして、土の精霊は他の場所をふむふむして、水の精霊はあっちの池にしゅわっとして、火の精霊はぶばばばばっとしてちょうだいっ』


 光の精霊様の指示が全くわからない。


『あっ、闇の精霊は、ヴァンのおねだりを聞いてあげてっ。みんな、いくよ〜っ? せーのっ!』


 光の精霊様の掛け声で、風土水の精霊様は姿を消した。そして火の精霊様は無数の火の玉を作り出して空に放った。


 彼らには、光の精霊様の指示が理解できるんだ。



『ヴァン、これで広げても大丈夫だ。ワシの闇のオーラを魔法陣に重ねた。人間を助けている悪霊は排除されない』


 闇の精霊様にそう言われて魔法陣を見ると、キラキラとした青い光も混ざっている。だが……。


「広げるって……えっと?」


 この邪霊の分解・消滅の魔法陣を広げるってこと? リースリング村には既に全域に広がっている。




『みんな〜っ! 今からヴァンが、ラフレアの地下茎を使って一気に魔法陣を広げるよーっ! 邪霊は消滅するからね〜。空はどこに裂け目を作っても無駄だよーっ! あたしが、びゅっとするよーっ!』


 な、何? 光の精霊様の声が、精霊の声を聞くチカラのない人にも、全員に届いている? 


 あー、風の精霊様の力か? だけど、基本精霊なのに、こんなことできるの?



 光の精霊様は、空を見上げ、そして僕の方を見た。


『ヴァン、いくよ〜っ、せーのっ!』


 仕方ない……。

 掛け声に従わないと、面倒くさいことになる。


 僕は、広げられる範囲に魔法陣を広げようと意識する。すると、僕の身体から大量の魔力が溢れ出す。ラフレアになった僕の、バケモノ級の魔力だ。


 魔法陣が目を開けていられないほど、強く輝く。


 そして、グンと一気に放出した魔力は、まるで生き物かのように魔法陣を広げていく。その範囲は広大だ。どこまでも地上を広がっていく。


 あっ、弾かれた。これは、ボックス山脈の結界か。うん? なぜ、僕にはそれがわかるんだ?


 僕の目に見える範囲は限られている。普通の視界だ。


 だが、魔法陣がどこまで届いているのかを感じる。これは、ラフレアの力か。



 魔法陣の広がりが止まった。あちこちから、悪霊の悲鳴が聞こえてくる。だが、この技能は、霊にしか効かない。


 でも、空に浮かぶ黒い魔物は、地上に降りられないようだな。とりあえずの足止めは成功だ。



 空には、何度も光が走る。雷ではなく、白い光だ。


 さっき、光の精霊様が放った白い光玉から、空のあちこちに光が走っていくんだ。流れ星とは違うけど、綺麗な光景だな。


 その光は、空にできた裂け目を強制的に閉じている。だが、閉じても閉じてもキリがないようだ。



『もぉっ! どうして、帰らないのっ。あっ、ヴァンのせいね。ヴァンがデネブを離れたから、チャンスだと思ったんでしょ! 影の世界の子は、ラフレアのこと、わかってないよねっ。ヴァンは、どこにいても扱えるのよっ。だから動くラフレアなのよっ!』


 光の精霊様が、全員に聞こえる声で、爆弾発言をしている。


 だが、確かに変だよな。なぜ、一斉に異界の獣が襲ってきたんだ? 光の精霊様が言うように、僕がデネブを離れたからか?




「ふっふ、所詮はこの程度か。こんなものを脅威だと騒ぐ人の王には、呆れて言葉も出ないな」


 魔法陣が輝く上を、ひとりの男がこちらに歩いてくる。


「その男は、死竜だ。気をつけろ」


 グリンフォードさんが、叫んだ。竜? ドラゴン? 


 この世界の人間を喰って、リースリング村に潜入して収穫の手伝いをしていた獣なんだよな? 誇り高いドラゴンが、そんなことをするのか?


「人の王グリンフォード、我は死竜ではない。竜の神だ。こちらの世界では、圧倒的に我の方が強いぞ?」


 その男がニヤリと不気味に笑った。一方で、グリンフォードさんが、ギリリと歯を噛みしめたのが伝わってくる。


 そうか、グリンフォードさんは、変化へんげを使って人間になっているから、思うように本来のチカラが使えないんだ。それに、まだ夕方だ。そして、邪霊の分解・消滅の魔法陣は、さらに彼の力を弱めるのだろう。



『ちょっとぉ! 竜の神だと言うなら、こんなことやめなさーいっ! どうして、この世界を侵略するの? そんなの神を名乗る資格なんてないよっ!』


 光の精霊様が、ビシッと男を指差す。


 だけど、全然、ビビらないんだよな。まぁ、光の精霊様の見た目は幼女だし、絵の才能も幼女だけど……。


「光の精霊か。初めて見たが、こんなまがまがしい不気味なオーラを放つバケモノだとはな」


 その男は、可愛い見た目の光の精霊様を、バケモノと言った。異界の住人には、そう見えるのか。


『はぁ? あたしのどこがバケモノなのよぉっ! ふふん、あたしがリーダーだから、ビビったのねっ』


 光の精霊様は、余裕の……ない笑顔だ。


 闇と光は、諸刃の剣だ。互いに得意とするが、互いに弱点でもある。



 空の亀裂が生まれては消えていく。そうか、死竜がこちらの世界にいるためだ。だから、二つの世界の門番である闇系の精霊にも、この多発する亀裂を抑えられない。


 僕が死蝶に化けたとき、異界の魔物の様子がおかしくなったよな。死という言葉が付く魔獣は、影の世界ではその種族の最高種だ。


 この男は、影の世界の竜の最高種。だから、竜の神か。



「我が、霊にビビるわけないだろう? だが霊を片付けないと、獣が怯えているようだな。ふむ、仕方ない。この村は諦めるか」


 ピキッ!


 変な音がした次の瞬間、その男は姿を変えた。


 村にいた人達から悲鳴があがる。そして、ひっくり返りながらも、その男から必死に離れていく。


 近くにいる婆ちゃんには、国王様がバリアをかけてくれた。国王様が何を言ったのかわからないけど、婆ちゃんは落ち着いている。



 グォォオォッ!



 まがまがしいオーラを放つ漆黒のドラゴンだ。だが、そのオーラは、魔法陣から立ち昇る淡い光が浄化していく。


 この魔法陣を使っておいてよかった。なければ、一瞬で村は朽ちてしまうかもしれない。



「ヴァン、なんとかしろよ。光の精霊ちゃんには厳しいぜ」


 国王様が、ワクワクしている。


 確かに、僕もビビっていない。こちらの世界の住人の方が、地の利がある。絶対に有利なはずだ。だが、ラフレアは違う。このドラゴンが放つオーラに触れると、根は燃えてしまうようだ。


 光の精霊様は冷や汗状態、そして精霊系のラフレアは、土の中に根を隠してしまっている。


 精霊は死竜に弱いのか。それなら……。



 グォォオォッ!


 再び咆哮をあげた死竜。狙いは僕達ではない。光の精霊様だ。


 闇の精霊様が、彼女をかばうように浮かんいる。だが、闇の精霊様にも、無理だと感じた。



 僕は、左手に握っていた木いちごのエリクサーを口に放り込み、スキル『道化師』の変化へんげを使う。


 死竜を倒せなくても、再びこの世界を襲う気にならないように、警戒させるモノ……。そう意識すると、ボンッと音がした。


 そして、僕の視点は、なぜか僅かに低くなった。


 ちょ、ドラゴンじゃないの? 竜神様〜っ!




 僕は、巨大な死竜を見上げた。


「はぁ? な、何?」


 死竜は、ドラゴンの姿でも、よどみなく喋る。だが、明らかに動揺しているのが伝わってくる。



 僕の変化を見た光の精霊様は、一瞬ポカンとした表情を浮かべた。闇の精霊様の視線も感じるが、彼の表情はわからない。



「この世界と共存する気のないモノは、自分の居場所に戻りなさい。ここは、僕の村です。キミの思い通りにはさせない」


 僕は、静かにそう話した。だが、そんなことで引き下がるわけはないか。



 グォォオォッ!


 また、吼えてる。状態異常を狙っているのか。だけど、精霊様達にその術は届かない。



『ヴァン、そ、それになれるなら、最初っから、そうしてよーっ。畑で転がってる子も加勢しなさいっ!』


 光の精霊様は、僕の家の畑の方に光の輪を飛ばした。彼女が、くいっと引っ張ると……輪っかには、ちょー不機嫌な白い天兎が捕獲されていた。



「チッ、うぜーな」


 文句を言いながらも、白い天兎は人の姿に変わった。めちゃくちゃ羨ましいイケメンすぎる天兎のハンターの姿だ。



「オレもオレも〜」


 空から、ぷぅちゃんに対抗するような声が聞こえてきた。ブラビィだ。やはり聖天使の姿をして、空に浮かんでいる。これまでの、堕天使や偽神獣のチカラは失ったのだろうか。


「ふんっ、性悪うさぎが聖天使だと?」


 ぷぅちゃんは、空を睨んでイラついているようだ。敵は、死竜だよ?



『さぁっ、みんな、いっくよ〜っ? せーのっ!』


 光の精霊様は、ビシッと死竜を指差した。



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