表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

465/574

465、リースリング村 〜国王フリックが策士すぎる

「グリンフォード、なぜこの村なんだ?」


 国王様は、異界から来た彼に何かを言わせたいようだ。二人とも笑顔だけど、ピリピリとした緊張感が漂う。


「夢に出てきた爺さんは、何と言っていた?」


 異界から来たグリンフォードさんは、逆に国王様に尋ねている。質問に質問を返されて、国王様は一瞬黙った。


 するとグリンフォードさんは、国王様が座る斜め前の椅子に座った。話し合いをするつもりだろうか。



「彼は、自然あふれる場所へ、我々の王が会いに行くだろうと言っていたな。そして、そのときが最期かもしれぬとな」


 えっ? 国王様は、ここで異界の王様と会えるとわかっていたのか。そんな平気な顔で、最期かもって……。


「ふっ、俺は、この村の次は堕天使が守るという町に行く予定だった。フリックとは、そこで会えるかと思っていたのだが」


 グリンフォードさんは、デネブに来るつもりだったんだ。だけど、なぜリースリング村に来たかは、話さないんだな。話せない事情があるのだろうか。



「そうか、だが会うならデネブじゃない方がいいと思った。あの町には、影の世界の住人が嫌がるモノがある」


「そのようだな。二度目の神矢を拾った後、我々の通り道から多くの悪霊がこちらの世界に出て行った。だが、ほとんどが海を渡った先で、奇妙な花に襲われたようだ。アレは何だ?」


 デネブでのあの夜のことも知ってるのか。僕はゼクトさんと、ただ観戦してただけだったけど。


「さぁ? 私は知人の屋敷のパーティに参加していたから気づかなかったな。悪霊が放つマナの汚れを浄化するのは、ラフレアの役割だ。デネブでラフレアの花を見たことはないが」


 国王様は、しらばっくれている。僕は、ヒヤヒヤしすぎて心臓がもたない。


 グリンフォードさんが黙った。国王様の言葉に気分を害したのだろうか。それとも、何かを考えているのか?



「キミは、さっきからずっと百面相をしているな。キミがフリックをここに連れて来たのだな。俺の居場所をネズミに探らせたか」


 へっ? 百面相?


「えーっと、顔に出てました?」


「あぁ、ずっとハラハラしているようだが。しかし、なぜ、キミの力は見えないのだろうな」


 グリンフォードさんは、僕に興味を持ったのか。僕が弱いことはわかっているはずだ。何かを隠しているとすれば、ブラビィだろうけど。


 僕が国王様の方をチラッと見ると、彼は頷いた。その意味はわからない。僕は助けてくれと言いたいのに、国王様は何かの許可を求めたと勘違いしたようだ。


 はぁ、もう仕方ないな。ここは僕の村だ。僕が話す方がいいということか。



「グリンフォードさん、僕がここに来たのは、影の世界の住人が二人、人間のフリをして潜入していると従属から報告を受けたためです。フリックさんは、ちょうどその場にいました」


「ほう? 二人か。俺を追って来たわけじゃないのか」


 僕の話は、彼の予想とは違ったらしい。


「僕の従属は、貴方のことを王と言っていましたが、僕は、それはスキルか技能のことだと思っていました。王の技能を持つ人は、それなりの数がいますから」


「キミは役割としての王ではなく、スキルとしての王か。神矢には王のスキルもあるのだな」


 うん? あー、そうだよね。スキル『王』の神矢もある。


 僕が軽く頷くと、グリンフォードさんは納得した表情を浮かべた。僕みたいに弱い人間が、王だとは思えなかったのだろう。



「グリンフォードさんは、王様なのですよね? なぜ、単独で行動するのですか? こんな田舎の村に、なぜ立ち寄ったのですか?」


 僕がそう尋ねると、彼はフッと笑った。なんだかバカにされたように感じる。


「キミは、影の世界を知らないようだね。影の世界では、最もチカラを持つ者が王となる。こちらの世界では、血筋らしいな。だから、フリックのような弱き者が王となるのだ」


 やはり、バカにしている。でも、国王様は平気な顔をしているんだよな。悔しくないのか?


「そうですか。価値観はそれぞれ違って当たり前だと思います。こちらの世界では、単純な戦闘力だけで国王が決まるわけではありませんから」


 僕は、自分でも鼻息が荒くなっていることに気づいていた。だけど、言い返さずにはいられなかった。


「ほう、キミはまるで、自分が強いかのような話し方をする。フッ、妙な自信家が多いのは、こちらの世界の特徴だな」


 はい? そんな言い方をしたつもりはない。あっ、影の世界の王に、反論したからか。


 だけど、確かに……僕は、グリンフォードさんを恐れていない。逆に彼が、僕のチカラが見えないと言っていたのは、彼の焦りだろうか。



「グリンフォードの方こそ、わかってないみたいだな。力を持つことが弊害となっているらしい」


 国王様が、彼を挑発するような言い方をした。グリンフォードさんから放つオーラが、変化へんげを越えて外に溢れ出た。


 だがラフレアの根が、そんな彼の闇のオーラを……食べている。僕には、甘い感覚が伝わってくる。


 どうやらラフレアの根は、僕がいる場所に現れるようだ。確かに株はデネブの池の中に、今も沈んでいるんだけどな。


『ラフレアは繋がっている』


 赤い花がそう言っていた意味が、ようやく僕にも理解できた。株をどこに置いていても、動くラフレアの周りには、自分の根だけではなく、ラフレアの花もやってくる。


 ラフレアは、そうやって、この世界すべてを監視しているんだ。



「フリック、それは、どういう意味だ?」


 グリンフォードさんは、怒りをコントロールしながら、口を開いた。彼の身体からは、もうオーラは漏れていない。


「こちらの世界には、暗殺貴族がいる。治安を維持するための仕組みだ。神官家も貴族も、その暗殺貴族を怖れている。その暗殺貴族の当主が、対人戦ではおそらく一番戦闘力が高い」


 国王様が静かに話し始めた。そ、そっか。暗殺貴族レーモンド家の当主クリスティさんは、誰もが名前を聞くだけで震え上がる。治安維持の抑止力になっているんだ。


「ほう? それは初耳だな。対人戦ということは、この世界の人間の中では、という意味か」


 グリンフォードさんは、フンと鼻を鳴らしている。こちらの世界の人間は弱いから、だよな。


「あぁ、そうだ。そしてその暗殺貴族の当主には、暗殺できない人間が十数名いる。対象とすることを禁じられている王族や、暗殺貴族の身内を除くと、一人だけだな」


 国王様はそう言うと、僕の方を向いた。嫌な予感がする。


「それが、この者か? ネズミを従えているというチカラが阻むのか」


 グリンフォードさんも、僕の方を向いた。


「彼は、動くラフレアだ。だから、私も彼に頼ることにした。異界の住人にとって、ラフレアは天敵だろう?」


 国王様が、声をひそめてそう言うと、グリンフォードさんは目を見開いた。そして、ぶるっと身震いしている。


 影の世界の住人にとって、ラフレアは害獣だもんな。


 異界には、ラフレアの大きな株はない。だけど、こちらの世界には、森を形成するほどの大きなラフレアがいる。すべてのラフレアの本体だともいえる。



 しばらく、沈黙の時間が流れた。



 そして、グリンフォードさんが顔をあげたときには、何かが吹っ切れたような表情をしていた。


「なるほどな。ようやく理解した。だから、神獣だったゲナードは討たれたのか。神獣テンウッドは俺に味方すると言っていたが、アレは、影の世界を潰すつもりだな」


 うん? 話が違う。テンウッドは、こちらの世界を潰すために、影の世界に味方するんじゃないのか?


 グリンフォードさんの話に、国王様はやわらかな笑みを浮かべているだけだ。否定も肯定もしない。だが、その笑顔は、肯定に見える。



「はぁ、危なかった。爺は完全にテンウッドに騙されている。そもそも、神が閉じ込めている神獣だ。混乱と混沌を生み出す存在だということを忘れていた」


 グリンフォードさんは、絶対に誤解している。だけど、国王様は、その誤解を利用しているのか。とんでもない策士だ。


「ヴァンが従えているのは、ネズミだけではない。異界が警戒している堕天使も、ヴァンの従属だ。そして、このリースリング村のこの家は、ヴァンが生まれ育った家だ。グリンフォード、わかるな?」


 国王様が何が言いたいのか、僕には全くわからない。だけど、グリンフォードさんは、軽く頷いたんだ。



「この村を訪問先に選んだ理由を話そう」


 突然、話が飛んだ。



 国王様が頷くと、グリンフォードさんは口を開く。


「獣が、この村をエサ場に選んだためだ。今夜、決行するつもりらしい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ