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460、自由の町デネブ 〜観戦?

 夜が更けると、いつもなら賑やかな町は、シーンと静まり返っていた。国王様から外出禁止の命令が出たためだ。


 僕はゼクトさんと二人で、池のそばに立っている。


「ゼクトさん、そろそろですか?」


「あぁ、そろそろだな」



 今夜、北の大陸に二度目の神矢が降る。ゼクトさんは、北の海の方をジッと見ている。


 前回は、北の大陸に神矢を拾いに行った影の世界の住人達が、この世界に広がって、あちこちで少し暴れたようだ。


 近くのカベルネ村には、ブラビィがバリアを張っていたし、すぐ横のシャルドネ村には、聖なる泉がある。だから、ぶどう農家には害はなかったようだ。


 しかし王都は、かなりの被害を受けたらしい。


 影の世界の住人は、北の大陸からこの町を通過して王都まで行ったようだ。その先にラフレアの森があったから、王都に留まるやつが増えたかもしれないと、ゼクトさんは言っていた。


 まぁ、ラフレアの森には、とんでもない数のつぼみと花があるから、影の世界の住人は立ち入れないよな。ラフレアにとって、悪霊はエサなんだから。



「ゼクトさん、僕達はこの町を守ればいいんですよね?」


「ククッ、王都は無視するか」


「いや、そういうつもりでもないんですが、王都にはたくさん精霊師がいますし」


「俺の予想では、今回はどちらかだな」


「うん? どちらか?」


 僕が尋ねると、ゼクトさんは空を見たまま、ニヤリと笑っている。ブラビィが食い止めるか、僕が食い止めるかってことかな?


 あっ、ブラビィは聖天使になったから、闇系のチカラは消えたのだろうか。もしそうなら、ブラビィの結界バリアに不安が生じる。


 ゼクトさんがいるから、大丈夫だと思うけど……ブラビィが張っているこの町の結界は、今回は破られてしまうかもしれない。



 あー、甘い。


 地下水脈に、一気にマナの汚れが押し寄せてきた。かなりの量の悪霊だ。


 そうか、前回は水脈を使って、井戸や池から町の中に侵入したんだっけ。建物に張ったバリアにも、変なものが突き刺さっていたよな。


 今回も、狙われそうな人達は一ヶ所に集められている。その方が守りやすいからだ。



「ゼクトさん、地下水脈がかなり汚れてきました」


「ラフレアの株があると気付いてないのか。まぁ、ヴァンの場合、まだラフレアハンターのサーチにも引っかからねぇからな」


「そうなんですか? まだ、つぼみだからかな?」


 僕がそう呟くと、ゼクトさんは僕に視線を移した。なんだか不思議そうな表情に見える。


「ヴァン、まだ、つぼみなんか出来ないだろう? つぼみをつけるということは、ラフレアの生殖行動だ。動くラフレアが花を咲かせることはないはずだぜ?」


「えっ? あー、緑色の人面花は、確かに、こんな小さな株では無理ですね。動くラフレアでも、長く生きる魔物なら花を咲かせることはあるようですが」


「じゃあ、何の話だ?」


 ゼクトさんは、怪訝な表情を浮かべた。いつもとは違って、余裕がない。最悪の事態を想定して警戒しているのだろう。



「銀色の花です」


「へ? ラフレアに、銀色の花なんてあるのか?」


「はい、僕の株から生えた小さな銀色のつぼみが、池の真ん中あたりの水面に浮かんでいます。ブラビィにも見えないみたいですけど」


「へぇ、そんな知識は、ラフレアハンターにはないぜ」


 ゼクトさんは、一瞬ワクワクしたような表情を浮かべた。だけど、すぐに表情は戻ったけど。


「ラフレアの森には、とても大きな銀色の花が咲いています。地中深い場所で、根に覆われていますが、ラフレアの株には銀色の花が咲くのだと思いますよ」


「地中に咲くのか? それがラフレアの本体か」


「ラフレアの森の銀色の花は、地中深くに咲いています。それが本体というか、まぁラフレアですね。この世界か影の世界かはわからないですが、小さな銀色の花は、結構な数が咲いています。今、僕が見える範囲でも30個はあります」


「へぇ、その話は、酒でも飲みながら聞きたいぜ」


 僕は口を閉じ、コクリと頷いた。こんな話は、ゼクトさんの邪魔になっているのかもしれない。




「あぁ? なんだ?」


 ゼクトさんが一気に警戒を強めた。だけど、僕は落ち着いていた。なぜこんなに冷静なのか、逆に自分でも疑問だ。


 空を何かが移動しているのが見えた。真夜中だから、その正体がわからない。


「ヴァン、閃光弾を使う」


「はい!」


 ゼクトさんは、空に閃光弾を放り投げた。ピカッと弾けて、空は昼間のように明るくなる。



「えっ?」


 空が赤黒い。正確に言えば、空に浮かぶ巨大な黒い人が、赤い花に襲われている。


 さらに、地面の至る場所から空へと、とんでもない量の根が伸びている。そして、空を漂う悪霊を次々と喰っているようだ。


 僕の根ではない。僕は、地下水脈の浄化をしているだけだ。



「ヴァン、おまえ、何だ、これ」


 ゼクトさんは、呆然としている。


「空を泳ぐ花は、たぶん僕を守ってくれています。そして、とんでもない量の根も……」


「根? ラフレアの根か? どこにあるんだ?」


 ゼクトさんは地面を探している。やはり、見えないんだ。ブラビィも、見えてなさそうだったもんな。


「ゼクトさん、根は至る所にあります。触れると痺れますから、動かないでください。地面から空へ向かって何億本いや何十億本の根が伸びています」


 僕がそう言うと、ゼクトさんは呆けた表情で固まっている。だけど、大げさな言い方はしていない。



「だが、結界バリアがあるだろ?」


「ラフレアには効かないみたいですね。あー、いえ、赤い花は弾いています。根は、結界がないかのように、空で自由に狩りをしています」


「そ、そうか。ここに座っても大丈夫か?」


 ゼクトさんは空を見上げながらそう言うと、僕の返事を待たずにヘナヘナと座り込んだ。


 結界バリアのおかげで、赤い花と影の世界の巨大な黒い人との戦いの影響は受けない。


 うわ、根の方がヤバイな。


 ラフレアは、赤い花が危ないと思っていたけど、根の方が圧倒的に戦闘力が高い。異界では、ラフレアが害獣だと言われる意味がわかった。これは植物ではない。まさに獣だ。


 赤い花が劣勢になると、ピシッと根のムチが飛んでいき、影の世界の住人に致命傷を与えている。影の世界の住人にも根は見えていないらしい。


 この町の上空に赤い花がいるからか、後から来る奴らは、次第にこの場所を避けて王都へ向い始める。


 すると、根が網の目のように空に罠を作り出した。


 根に触れるだけで、浮遊していた巨大な黒い人は、ダメージを受けている。根が見えないだろうから、どこから攻撃されたかわからず混乱しているようだ。



「ヴァン、あれは空に伸びた根のせいか?」


 ゼクトさんが、不自然な動きをする巨大な黒い人を指差している。


 すると、その黒い人は、こちらに向かってきた……が、結界バリアに弾かれている。


「ゼクトさん、指差すと、術者だと思われます」


「ククッ、いいじゃねーか。アイツらにも、ラフレアの根は見えないのか」


「ええ、見えないみたいですね。見えてたら、わざわざ罠に突っ込んでいかないはずです」


「ラフレアは、花よりも根の方がヤバそうだな」


 ゼクトさんは、なんだか楽しくなってきたらしい。空に閃光弾を追加して、空の争いを観戦している。


「ラフレアは、根の方が圧倒的に強いですね。赤い花が劣勢になると、それを助けようとして、根のムチが飛んできます」


「あー、それって、いきなり足が千切れたアレか」


 また、指差してる……。


「それも、根ですね。一撃で致命傷を与えています」




 やがて、空が明るくなってくると、影の世界の住人達は、影の世界へと戻っていった。だが、こっちに攻めてきたほとんどが、ラフレアにやられたみたいだな。


「ヴァン、そろそろ終わりだな。根は、どうなっている?」


「空に浮かんでいた根は、もう撤収しています。赤い花は、まだ残っていますが」


「そうか、なぜ、今回はラフレアが守ったんだ? ヴァンがいる場所を守るだけならわかるが、王都へ行かないように止めていただろう?」


 確かに、そうだよな。


「僕にもわかりません」


「おまえが依頼したわけでも……うぉっ」


 ゼクトさんがビクリとした。僕も少し驚いたんだよな。僕達が座り込んだ地面の上にラフレアの赤い花が現れたんだ。しかも人面部分が、ゼクトさんが手をついていた場所に。



『ヴァンサマ、オケガハ アリマセンカ』


「大丈夫ですよ。ありがとう」


『フフフ、ヨカッタ。ヴァンサマハ、ラフレアノ アカンボウ。ワタシタチガ、オマモリシマス』


 赤い花は、スーッと消えていった。



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