表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

458/574

458、自由の町デネブ 〜しばらくはラフレアとして

「地上に降りちゃった聖天使? ふぅん、ブラビィは、神官三家の統制役なんだ」


「ふん、おまえのせいだからな。おまえがラフレアになったから、オレが面倒くさいことになったじゃねーか」


 なるほど、だからか。ブラビィは、トロッケン家の神官達が危険な檻を使ったから、止めに来たんだ。


 ついさっきまでは、池で、ラフレアの根と遊んでたみたいだけど。



「おまえら、もういい加減、帰れ! まじで神官のジョブを剥奪するぞっ」


 ブラビィが怒鳴ると、アリアさんは一瞬だけひざまずいた。これは命令に従うという意味か。


 そしてトロッケン家の神官達は、ブラビィに深々と頭を下げ、スッと消えていった。




「まさか、堕天使が聖天使になるとは、驚いたな」


 国王様はそう言いつつ、ブラビィに軽く頭を下げた。すると、ブラビィは不機嫌そうに口を開く。


「おい、フリック! オレは聖天使じゃねーぞ。地上に降りちゃった聖天使だ。あんな性悪なクソと一緒にすんじゃねー。ってか、オレは、お気楽うさぎのブラビィ様だっ!」


 意味不明なことを言うとブラビィは、黒い兎に姿を変えた。聖天使様のことを知っているのか。



「ヴァン、しばらくはラフレアとして、ここでおとなしく掃除してろよ」


 めちゃくちゃ不機嫌なブラビィは、そう言い残すと姿を消した。何か、神から仕事を命じられたんだろうな。


 掃除? あっ、そうか、浄化か。


 僕の株はまだまだ小さいけど、この町の地下を通る浅い地下水脈にまでなら根も届く。


 根を地下へと意識すると、動いていくのがわかる。こんな風に植物の根を動かせるなんて、農家の感覚がくつがえされてしまうよな。


 あー、甘い。


 地下水脈に根がたどり着くと、身体に甘さだけが伝わってきた。いま、ラフレアの株は池の底に置いてある。だけど離れていても、伝わってくるんだから不思議だ。


 甘いということは、地下水脈が汚れているということだ。ラフレアは、マナの汚れを甘いと感じる。浅い地下水脈は、悪霊の通り道になっているからだな。


 しかし、不思議だな。僕の足には根は絡まっていない。完全に分離されている状態だ。


 物理的な繋がりはなくても、思念は繋がっているってことか。そういえば、ラフレアの森で、それを実感したっけ。ラフレアの赤い花は、互いに情報を共有していた。




「ブラビィは、なんだかんだ言っても、ヴァンを心配してるみたいだな。ヴァンは10日も飯を食ってないからな」


 ゼクトさんにそう言われて、僕は空腹に気づいた。身体の中にマナは十分あるみたいだけど、確かに胃が気持ち悪い。


「そうね、ヴァンが池の近くで倒れてから、ブラビィが一番、頑張っていたわね。戸惑う私達にあれこれと指示してくれたのよ」


 フラン様は、やっと笑顔だ。よかった。


「いつまでもヴァンが目覚めないから、俺達が慌て始めても、ブラビィは絶対に何とかするって言い切ってたしな。アイツ、聖天使の役割が与えられるまでは、張り切ってたぜ」


 ゼクトさんがそう言うと、元ギルマスのオールスさんも、大きく頷いた。もちろんマルクもだ。


 それに、国王様もボレロさんも……僕と目が合うと、みんな優しく頷いてくれる。


 あぁ僕は、みんなに、とんでもなく心配をかけていたんだよな。


「ヴァン、とりあえず、帰ろう」


「はい、フラン様」


 僕は、みんなにお礼を言って、ドゥ教会へと戻っていった。




 ◇◆◇◆◇



 それから、しばらくの時が流れた。


 僕がラフレアになったことで、いろいろなことが変わってしまったんだ。この町が、第二の王都だとか聖都だと言われているらしい。



 でも僕自身には、大した変化はない。魔力量がバケモノ級になったことと、地下水脈が汚れたら気づく程度だ。


 味覚も特に変わらない。だけど口から甘い物を食べているわけじゃないのに、僕は甘い物を避けるようになった。地下水脈の汚れのせいだと思う。甘い物に飽きたのかな。



 僕の住むこの町には、国王様が本格的に引っ越してきた。町に隣接する山の一部を切り拓いて、国王様に仕える人達の屋敷まで出来ている。


 国王様としては、王都に戻りたくない理由があるらしい。


 だが対外的には、ここに引っ越した理由は、北の大陸にいる神獣に狙われているからだということになっている。これは、以前と同じ理由だ。


 そこに、もうひとつ理由が追加された。


 この町には、聖天使様のすまいがあるから、王宮の兵で守る必要があるというものだ。そのために国王様が認めた兵を、この町に呼び集めたようだ。


 ゼクトさんは、前国王派と現国王派が対立しているから、第二の王都を作ったのだと言っていた。互いに認め合うための時間と距離が必要だそうだ。


 離れる方が分断してしまって逆効果だと思うんだけど、僕のその考え方は、違うらしい。王族のことは難しすぎて、僕には理解できない。



 それから、僕がラフレアになったことは、僕に近い人以外は忘れてしまっているんだ。


 動くラフレアの持つ個性がそうさせていると、ゼクトさんは言っていた。


 ラフレアハンターの彼は、動くラフレアに関する知識も、少しあるようだ。だけど、その知識もすぐに忘れていくらしい。ジョブボードに触れて、ハッとすると言っていた。



 あと、僕がラフレアになったことで、一番変わったのは、町の水なんだ。畑に使う用水路の水も、井戸の水も、味も質もがガラッと変わった。


 ラフレアが常に浄化しているからだろうけど、そのこと自体は、僕に近い人以外、みんな忘れてしまっている。


 だから、いつの間にか、聖天使様が暮らしているからだと言われるようになった。ブラビィは、めちゃくちゃ嫌がっている。だけど普段は、黒い兎の姿で知らんぷりをしているから、特に影響はなさそうだ。


 そうそう、町の中央にある池には、王宮の魔導士がよく水を汲みにくる。そのたびにゼクトさんは、僕のしょんべんって言うんだよね。




「ヴァン、体調はどうだ?」


 ドゥ教会で、僕がいつものように薬草に埋もれていると、国王様が、国王としてやってきた。


 信者さん達が、慌てて頭を下げている。


 昨日は、ここで見習い神官をしていたのにな。服を着替えるだけで、別人に見える。ドゥ教会の信者さんも、ほとんど気づいていないみたいだ。



「国王様、大丈夫です。何か、ありましたか?」


「あぁ、北の大陸に二度目の神矢が、今夜降るらしい。前回は、この町から王都にかけて、異界の者達に覆い尽くされただろう? 特に王都では、大変な犠牲が出た」


 あー、その翌朝、僕は池のほとりで……。


「王都の犠牲は、知りませんでした」


「まぁ、ヴァンは眠っていたからな。今夜はどう警戒すればいいか、相談に来たのだ」


 国王様の背後には、見慣れない騎士がいる。僕と目が合うと、彼は僕に深々と頭を下げた。



「あの、国王様、彼は……」


 そう尋ねると、国王様はニヤッと悪ガキのような表情に変わった。ちょ、そんな顔をすると信者さん達にバレますよ?


「ファシルド家に生まれたらしいが、ヴァンが知らないとはな」


 えっ……ファシルド家?


「僕は、ファシルド家の薬師契約は継続中ですが……あまり行かないので」


「ヴァンは、彼の命の恩人らしいが?」


「ええっと……」


 僕が作った薬を使ったってことだよな? これまでにファシルド家には、どれだけの薬を渡したかわからない。



「俺のことを忘れたのか。さすがに傷つく」


 騎士は兜を外した。あっ、めちゃくちゃ変わっているけど、面影はある。


「もしかして、アラン様?」


 僕がそう言うと、彼はニッと笑った。フロリスちゃんに唯一優しく接していたアラン様だ。


 彼の誕生日に花を贈るために、フロリスちゃんは、僕が教えた生育魔法を必死に練習したんだ。小さな花束ができたんだよな。


 アラン様は、成人の儀を終えるとすぐに、母親のルーシー奥様の実家へ隠されたんだっけ。ファシルド家の後継争いで、何度も殺されかけたからだ。



「あぁ、久しぶりだな。今日からこの町で護衛に就くことになった。会う人は、皆、俺に驚くが、ヴァンは平気らしいな」


「えっと? あの〜」


「おい、アラン。おまえが一番ガキなんだから、言葉には気をつけろよ? ヴァンの方が、誕生日は早いのだろう? 私はヴァンよりさらに早いがな」


 国王様は……ここにいると、神官見習いのフリックさんに戻ってしまうらしい。


 アラン様も、僕と同い年だったな。



 コホンと咳払いをして、アラン様が口を開く。


「ヴァン、俺は、国王様の近衛騎士となった。なぜだかわかるか?」


 僕は首を傾げる。わかるわけないよ。


「俺が、覇王を得たからだ」


 うん?



大変遅くなりました(´・д・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ