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456、自由の町デネブ 〜慌てるトロッケン家の神官達

 ピンと張り詰めた空気感……ギルド内にいる冒険者達は、誰ひとりとして口を開かない。


 ゼクトさんの言葉は、トロッケン家の神官達より、この町の冒険者達にグサリと刺さったようだ。


 トロッケン家の人達は、おそらく現状が理解できていないのだろう。ノレア神父が、北の大陸の氷の神獣テンウッドのことは、ひた隠しにしているらしいからな。



「ふん、狂人が何をわめこうが、誰の耳にも届かぬわ」


 アリアさんを警護する神官が、ゼクトさんを馬鹿にするように鼻で笑っている。


「ヴァンに、こんな拘束の……まさか、殺すつもりなの!?」


 僕を覆う光の檻が、バチッと音を立てたことで、フラン様が、アリアさんをキッと睨んだ。


「これくらいしないと、ヴァンさんは捕らえられないでしょう? ラフレアなら魔力が枯渇したとしても、死ぬわけはないわ」


 魔力が枯渇? 僕を捕らえた光の檻は、魔力を奪うのか? だけど魔力を奪われているようには感じない。フラン様があんなに慌てているということは……危険な檻なんだろうけど。



「フラン様、僕は大丈夫ですよ」


 そう言って、僕はやわらかな笑顔を見せた。だけど、彼女の心配そうな表情は変わらない。



「連行しなさい!」


 アリアさんがそう命じると、トロッケン家の神官達は、光の檻に鎖のようなものを引っ掛けた。ふわんと鎖から漏れる魔力が、光の檻と一体になったと感じる。


 僕をどこへ連れて行く気だろう? 下手に逆らうと彼らは、この町の住人を人質にしてしまうか。


 でも、行きたくないな。


 そう考えると、僕の足元に気配を感じた。なるほど、これがラフレアの花が歩く仕組みか。



「なっ? 何かが……」


 鎖のような物を持ち、転移しようとしていた神官達が、焦りの表情を浮かべた。


 彼らは、今、ラフレアの根の上に立っている。見えてないだろうけど、ラフレアの根が、彼らの足にも絡まっているんだよな。



「僕を殺せと言っているのは、誰ですか? ノレア神父以外に思い当たりませんが。トロッケン家は、僕を利用したいのでしょうけど、僕はドゥ家の者ですからお断りします。仕事の依頼なら、冒険者ギルドを通してください」


 僕は、アリアさんの目を真っ直ぐに見て、そう話した。僕を転移させられないことに、彼女は焦りを感じているようだ。


「そんなこと、教えられるわけないでしょう? 国王様を拉致監禁した重罪人がドゥ家の当主の伴侶なら、ドゥ家は取り潰し間違いないわね」


 強い口調の彼女だが、もう先程までの余裕はないようだ。彼ら自身も、転移できないだろうな。ブラビィが転移阻害をしている気配がする。


 トロッケン家としては、ドゥ家を潰す理由も探しているようだ。新家潰しは、神官三家のお家芸かよ。



 パンッ!



「誰がどこに監禁されているのだ?」


 扉を乱暴に開けて入ってきた人物に、トロッケン家の神官達は明らかに動揺している。


 彼に続いて、マルクが入ってきた。そして僕に親指を立ててみせた。そっか、マルクが呼んできてくれたんだ。



「これは、何事かな。トロッケン家が勝手に何をしている? この建物は、ドルチェ家の所有物だ。ドゥ家以外の神官家の立ち入りは許可してないんだけどね」


 マルクの後から入ってきた奥さんのフリージアさんが、口を開いた。ギルドの建物は、ドルチェ家の物なのか?


 彼女は、小さな男の子と手を繋いでいる。ふふっ、マルクの息子のカインくんだな。マルクにそっくりだ。



「国王様……や、やはり、このバケモノに拉致監禁されていたのですね。助けに参りました」


 アリアさんが、妙な芝居をしている。国王様は、僕ではなく、マルクと一緒に入ってきたのに。


「私が、拉致監禁などされるような無様な王だと言っているのか、アリア」


 低い声でそう言った国王様からは、僕達には見せない王の風格を感じる。あっ、覇王を使っているのか?


「い、いえ、まさか、そんな……」


 アリアさんは、言葉を失っている。



「この物騒な檻は、何ですか! 魔獣用の魔道具は、こんな町の中での使用は禁じられているはずです。周りにいる人の魔力まで吸っているじゃないですか!」


 マルクが怒鳴った。普段は見せない威圧的な表情をしている。


「これくらいの檻でないと、バケモノは……」


 アリアさんの言葉は続かない。


「すぐに檻を消しなさい! さもなくば、神官三家の最高会議に、ルファス家から抗議を入れますよ!」


「じゃあ、ドルチェ家は、トロッケン家との取引を停止しようかね」


 マルクのルファス家は、黒魔導系の有力貴族だ。そしてフリージアさんのドルチェ家は、王都最大の商人貴族だ。二人とも、次期当主だと噂されている。



「いや、この魔道具は、一度起動したら消せないのです。囚われたモノが死ぬまでは……」


 アリアさんの語尾は、あまりにも弱々しい。


「消せないなら、壊せばいいでしょう? アナタ達が」


 マルクは、さらに冷ややかな態度だ。


「無理ですよ、ルファスさんもご存知でしょう?」


 ニヘラニヘラと、愛想笑いを浮かべる神官達。コイツら、きっと、頭の中は高速回転中だろうな。


「そんなモノをヴァンに、なぜ使った? 誰の命令だ?」


 マルクが詰め寄る。


 だけど、誰も答えられないらしい。



「ふぇっ」


 あちゃ、カインくんが怖がっている。なぜ、こんなところにチビっ子を連れてきたんだ?


 フリージアさんは、慌ててカインくんを抱きかかえた。確か、3歳だっけ。冒険者ギルドに立ち入れる年齢じゃないよな。




「ヴァン、そろそろ何とかしろよ」


 ゼクトさんが、ニヤニヤしながら、僕に拳を突き出すような身振りをした。ぶち壊せってこと?


 僕は、小さく首を横に振り、ニッと笑みを返す。


 そして、アリアさんの方を向いた。



「アリア・トロッケン様、僕を魔獣扱いされていますが、貴女達は何もわかっていない。トロッケン家も、氷の神獣テンウッドからすれば、滅ぼすべき対象ですよ?」


「そんな神獣など……」


 あれ? 王宮で国王様が、きっちり説明されたはずなんだけどな。


「貴女は、国王様の話を信じていませんね? だから、僕が洗脳したとか言うんだ。あまりにも、国王様に対して失礼じゃないですか」


「な、何を無礼な!」


 アリアさんに話しているのに、トロッケン家の神官が、反射的に反論した。プライドが高すぎるんだよな。


「それに、ラフレアのことをバケモノだと言ってましたよね? 僕が得たのは、精霊師のレア技能ですよ。それに、ラフレアの役割も知らないようですね」


「失礼ね! ラフレアが新たな種を生み出す植物だということは、誰もが知っているわ。そして、いま異常繁殖して、王都を危険にさらしていることもね!」


 アリアさんが、声を荒げた。


 ピリピリとした空気感に、一瞬、シーンと静まる。



「ヴァン、周りにも、檻の影響が出る。先に何とかしろ」


 ゼクトさんに急かされた。だけど僕がここから出ると、余計に騒ぎそうじゃないか? あっ、でも、小さな子がいるか。



 僕は、スキル『道化師』の変化へんげを使って、檻の隙間から出ようと考えた。


 だけど、技能が使えない。僕が発した魔力は、光の檻に吸収される。


 ならばと、ジョブボードを使って発動しようと思いついたけど、ジョブボードが開かない。


「この檻の中では、スキルが使えないんですね」


 思わずそう呟くと、トロッケン家の神官達は、口元に弧を描いている。



 はぁ、仕方ないな。バケモノ扱いされそうだけど……。


 僕は、光の檻から、スーッと出た。正確に言えば、一旦、影の世界に入って移動したんだ。


 ラフレアは、根があるところへは自由に行ける。


 影の世界にも足を突っ込む感じで根を伸ばせば、ワープをするかのように移動できる。障害物を避けて歩くために、影の世界に一瞬出入りするんだ。



「えっ? な、なぜ?」


 アリアさんが呆然としている横で、剣に手をかける神官もいる。室内で剣を抜く気か? 


 だが、まずは、光の檻の始末か。


「檻の中ではスキルは使えなくても、これくらいはできますよ。ちょっと離れてください。巻き添えになっても知りませんからね」


 僕がそう言うと、ゼクトさんやマルクがバリアを張った。もちろん、トロッケン家以外の全員にだ。



 この室内で、物騒な檻を壊すには……何を使おうかな?


 ゼクトさんの方を見ると、ニヤニヤと笑っている。僕が何を選ぶか、オールスさんと賭けでもしているのかな。



「おまえら! いい加減にしろよ」


 うん? ブラビィの声だ。


 高くない天井から、堕天使が降りてきた。あれ? 堕天使? 


 ブラビィがバサリと翼をはためかせると、トロッケン家の神官達は、慌ててひざまずいた。



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