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455、自由の町デネブ 〜計測、そして招かれざる客

「ヴァン、ちょっと計測しようぜ!」


 ゼクトさんが銀色のマナ玉を池に沈めると、元ギルマスのオールスさんは、ウキウキとした表情で、僕の腕を掴んだ。


 たぶんこれは、僕のためだ。僕を見る人々の視線が……怯えたままだからな。


 僕が本当にラフレアになったのか、どんなバケモノに変わったのかを、皆が知りたがっているんだ。



 僕は、10日もの間、池のほとりで眠っていたらしい。しかも、誰も触れない状態だったそうだ。


 ときどき、半透明になっていたらしく、神官様が祈りを捧げてくれたり、ゼクトさんが固定氷結というよくわからない魔法を使って、僕の魂を繋ぎ止めてくれていたそうだ。


 眠っていたときに感じたやわらかな光や、ぴゅーっと冷たい風は、これだったんだな。


 二人のおかげで、僕はいま、人として生きていられるのかもしれない。




 僕は、池の側にある冒険者ギルドへと連れて行かれた。


「おーい、バケモノを計測してくれ〜」


 元ギルマスのオールスさんは、明るい声で、そんなことを言った。


「間抜けなオールス、おまえ、俺のことを言ってるのか」


 ゼクトさんがそう言うと、オールスさんはガハハと豪快に笑った。


 僕の姿を見て凍りついていた職員さん達も、つられて笑っている。やはり、オールスさんの力って凄いよな。


 僕達の後ろから入ってきた現ギルマスは……まぁ、うん、さみしそうな笑顔だ。




「じゃあ、こちらの魔道具に手を乗せてください」


 計測って、こんな魔道具を使ったっけ? そういえば、もう何年も計測なんてしてない。


 僕の担当でもあるボレロさんは、カウンター内に入り、職員さんと交代している。所長自らが計測してくれるらしい。



「やはり、ヴァンさんはバケモノ化してますね。だけど、宝の持ち腐れかな。あっ、主な用途は変化へんげだから、大丈夫ですね」


 ボレロさんが何を言っているのかわからない。


「俺とどっちが上だ?」


 ゼクトさんがそう尋ねると、ボレロさんは両手を挙げてお手上げのポーズだ。


「ゼクトさんの場合は、スキルで変動するから比較できませんよ。ただ、単純な量だけなら、3倍くらいですね」


「ククッ、まぁ、ヴァンはバケモノだからな」


 ちょ、3倍って? 


「俺の10倍かぁ。人間じゃねぇな、あはは」


 オールスさんも楽しそうに笑う。何が10倍なんだよ? そんなに強くなった気はしない。



「あの、僕の何がバケモノ級なんですか」


 そう尋ねると、職員さんが真面目な顔で口を開く。


「魔力量です。以前の測定では、超級黒魔導士並みでしたが、その10倍の極級魔導士の平均値のさらに10倍くらいです」


 あぁ、魔力量……だけか。10倍のさらに10倍ってことは、以前の100倍? エリクサーいらないかも。


 だけど、それだけ容量が多いと、丸1日寝ても回復しないか。やはりエリクサーは必要だ。



「ヴァンさんは、魔力量が増えただけなんですか」


 現ギルマスがそう尋ねると、ボレロさんは首を横に振っている。僕は強くなった気はしないんだけど?


「ラフレアのつぼみが持つ能力を保有しているみたいです。これは、技能でもなくステイタスにも現れない、個性でしょうかね」


「特殊結界か……測定不能ですね」


「はい、ヴァンさんの防御系の数値は、エラーが出て測定できませんから」


 特殊結界って何? ギルマスがサラリと言った言葉に、みんな頷いている。


 ラフレアのつぼみが持つ能力と、ボレロさんは言った。


 うーむ……ラフレアのつぼみには攻撃が効かないんだっけ? もしかして、その能力? 


 だけど、さっきブラビィが僕の足を蹴ったとき、いつも通り、地味に痛かったんだけどな。



「ボレロ、測定できないのは、俺もだろ? 大幅に変動するタイプだ。ラフレアのつぼみは、敵意を向けられると完全防御するからな。逆に警戒する必要のない相手からの不測の攻撃には弱いぜ」


 ゼクトさんが、そう説明してくれた。そういえば、ラフレアの森で、つぼみがたくさん折られたよな。赤い花……茶色のぶちのある赤い花に……。


 ラフレアを狩るのは、ラフレアなんだ。そう考えると、僕はある可能性に気づいた。


 大量のラフレアのつぼみは、この世界の脅威にはならないんじゃないかな。増えすぎたら、ラフレアが減らすことができる。


 赤い花にできるのだから、ラフレアの株なら当然可能だろう。


 ラフレアは繋がっていると、僕に挨拶に来た赤い花が言っていた。あたたかな言葉だと思ったけど、それは違うのかもしれない。


 ラフレアは互いに監視している、のかな。




「ヴァン……」


 池のサーチを終えたのか、神官様が冒険者ギルドの出入り口から僕を呼んだ。なぜか、中には入ってこない。


 僕は、ゼクトさんに目配せをして、扉の方へと歩いていく。


「はい、フラン様、池はどうでした?」


「うん? あー、うん、それよりね……」


 なんだか彼女は言いにくそうだな。表情が暗い。


「僕の体調は、大丈夫ですよ? 10日もの長い間、眠っていたような気はしないですけど……あ、あぁ」


 そういうことか。


 トロッケン家の神官達が、池のほとりで待ち構えている。あの制服は、制圧部隊かな。そして、珍しい顔も見える。


 外が静かなことに気づいたオールスさんが、窓から外を見て、眉間にシワを寄せた。


 ゼクトさんは、気配でわかったようだ。その表情から笑みは消えている。ずっと神官家に利用されてきたもんな。



「ヴァンが、その……」


 フラン様は、やっと笑ってくれたのに、また僕のせいで辛そうな顔をしている。




「フランさん、私から話すわ。ヴァンさん、お久しぶりね」


 彼女は相変わらず、上品な威圧感を漂わせる。


「アリア・トロッケン様、ご無沙汰しております」


 僕は大きな声で、彼女のフルネームを口にした。すると、騒がしかったギルド内も、シーンと静まった。


「あら、随分と偉そうな子になったわね。リースリング村にいた頃とは、まるで別人ね」


 そう。彼女は、僕を捕まえようとしていたっけ。超級薬師だとわかってから、毒薬作りもさせられた。


「あれから、もう5年経ちましたからね。アリア・トロッケン様は、相変わらずお美しい」


「ふふっ、そんなことも言えるようになったのね。私が来た理由は、わかっているみたいね」


「はて? 僕は寝起きなので、頭が働いてないのですが?」


 軽くすっとぼけてみると、アリアさんが連れているトロッケン家の神官が、ピクピクと眉を動かした。怒っているらしい。



「ヴァンさん、貴方を拘束します」


 やはり、そうだと思った。


「なぜですか? トロッケン家に拘束されるようなことをした記憶がありませんが」


「国王様を拉致監禁した罪です」


 はい? また、変なことを……。



「おい! ここに国王など居ないぞ。またトロッケン家は、変な言いがかりをつけて、自分が欲しい人間を傀儡くぐつにしようってことか」


 ゼクトさんが怒鳴った。


 その次の瞬間、ギルド内にトロッケン家の制服を着た男達が入り込んでいた。出入り口には僕がいる。どこから入ったんだ?


「国王様が、ここで執務をしていたでしょう? 今朝まで」


 今朝まで? 国王様は、王都に戻ったのか? チラッとゼクトさんの方を見ると、首を横に振っている。



「僕は、誰かを監禁したりしませんよ?」


 僕がそう反論すると、トロッケン家の制服を着た男達が、何かの魔道具らしき物を取り出した。



「ヴァン、逃げろ!」


 ゼクトさんが叫んだ。な、何?


「もう、遅いわ」


 魔道具が強く輝くと、僕を覆う光の檻に変わった。


 げっ、捕獲された!



「アリアさん! ヴァンに手荒なことはしないと言ったじゃないですか!」


 フラン様が、声を荒げた。


「あら? 貴女も反逆者かしら?」


 アリアさんにそう言われると、フラン様はワナワナしながらも、口を閉ざした。



「アリア・トロッケン様、なぜ僕を捕らえるのですか」


 僕は、なぜか落ち着いていた。


「ヴァンさん、貴方は存在自体が許されざる者。ジョブ『ソムリエ』の分際で、神官家の名を名乗り、国王様を洗脳し、悪霊を誘導し、数々の脅威となる下僕をつくり、さらには、自らがラフレアへと化したバケモノです」


 はい? 


「それが、僕を捕獲する理由ですか」


「ええ、貴方の存在は危険すぎるわ。生かしておくわけにはいかなくなったの」


 殺される、のか。


 だけど、僕は冷静だった。



「アリア! おまえ、頭おかしいだろ。ヴァンを殺す気か。殺せるわけがないぜ」


 オールスさんが、怒鳴った。

 一方で、ゼクトさんはニヤッと笑っている。


「ヴァンを幽閉するつもりだろう? この町やリースリング村の人間すべてを人質にするつもりだな。だが、そうすると、この世界が潰されるだけだ」



大変遅くなりましたぁ〜m(_ _)m

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