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454、自由の町デネブ 〜銀色のマナ玉とラフレアの繋がり

 僕は、神官様をなだめるように、彼女の背中をぽんぽんと叩いた。だけど泣き止んでくれない。それほど心配させてしまったということだ。


 10日ほど眠っていたと言われたが、僕としてはそんな感覚はない。だけど周りを見回しても、真っ黒だった池も壁も、綺麗に元に戻っている。


 それだけの時間が経過したようだ。



「ヴァン、おまえ、どうしてこうなった? ボレロの話じゃ、全然わからねぇ」


 ゼクトさんが口を開くと、やっと神官様は僕から離れた。だけど、何かのサーチをしているらしい。彼女は、淡く光り始めた。


「僕にもよくわからないんです。ジョブボードの話をしていたら、急に足の裏に違和感を感じて、立っていられなくなって……」


「ブラビィ、なぜ止めなかった!? 近くにいただろ」


 うん? ブラビィは居たっけ? 


 僕の足元で、何かを集めていた黒い兎が、顔をあげた。


「これで、俺は永遠に自由だ」


 ブラビィが変なことを言ってる。


 すると、ゼクトさんが大きなため息をついた。


「おまえなー、下手をすると、ヴァンはこのまま死んでたかもしれないんだぜ?」


「死なねーよ。ラフレアになるだけだ。ラフレアは不死だからな」


 えっ? ちょ、ブラビィ……。やはり、コイツは元偽神獣、いや元悪霊だな。僕がラフレアになればいいと思ってたんだ。


 いや、でも、そもそも……ラフレアに株分けされた時点で僕はラフレアなのか?



「ヴァン、性悪うさぎが集めている銀色の玉は、どうした? おまえの身体から出てきた光玉が、おまえが目を覚ますと突然銀色に変わった。どう見てもこれは……」


「狂人! オレのだぞっ」


「ヴァンのものだろ」


 ゼクトさんは、何かの術を使って、ブラビィが集めていた銀色の玉を取り上げた。


「くそっ! ふんっ」


 お気楽うさぎは、池の方へぴょんぴょんと飛び跳ねて行った。池に落ちた玉を拾う気だな。




「僕の身体から出たのは、大量の汗と何かよくわからないものです」


 僕がそういうと、ゼクトさんはニヤリと笑った。彼が視線を向けた先には、元ギルマスのオールスさんがいる。


「狂人、マナ玉を生み出すのは、ラフレアだってことが証明されたぜ。死の花が咲く近くには、マナ玉が落ちているって言っただろ」


 僕は、池に視線を移した。


 池の真ん中には、銀色のつぼみが浮かんでいるように見える。あの下に、僕の株があるんだよな。


「死の花を見た者も死ぬんだろ? 死人に咲く銀色の花か? ラフレアとは関係ねぇよ」


 死人に咲く花? あれ? 二人には銀色のつぼみが見えないのか?



 マナ玉だと聞いて、僕の足元に注目していた人達は、色めき立つ。あっ、マナ玉は争いの元だ。


 しかし、お腹がいっぱいになって、さらに甘い何かを吸収して……身体から出たものがマナ玉なのか?



「おまえら、マナ玉に触れるなよ? ヴァンに喰われるぜ」


 ゼクトさんが変なことを言ってる。だけど、僕を見る人達の表情が、恐怖に染まっているんだよな。


「僕は人を食べたりしませんよ?」


「だが、おまえの花は、喰うだろ?」


 ゼクトさんの視線は、僕の背後に向いている。振り返って、僕は言葉を失った。


 ラフレアの巨大な赤い花が、僕の後ろの地面に咲いていたんだ。




『ヴァンサマ、ゴアイサツニ マイリマシタ』


「キミは、いつの間に?」


『フフフ、ラフレアハ ツナガッテイマスワ』



 突然現れたラフレアの赤い花に、この場にいた人達が固まっている。赤い花の言葉も聞こえているらしい。



「キミは、ラフレアの森から来たの?」


『ハイ、ヴァンサマハ マダ、ツヨキハナヲ サカセラレマセン。デスカラ、ケイゴガヒツヨウナラ、ワタシタチガ』


「警護? 大丈夫だよ?」


『デモ、ヴァンサマノ カブヲ ネラウ ケダモノガ……』


 池の方に視線を移すと、黒い兎が、ピクピクとけいれんしている。アイツ、何をやってんだ? 


「あの兎は、僕の従属だから大丈夫だよ。ありがとう」


『マァ! ソレナラ、シカタアリマセンワ。アマソウナ ニオイガスルゲド』


 甘そうな匂い? た、食べる気?



「キュッ?」


 何をしに来たのっ?


「キュキュ〜ッ!」


 お気楽うさぎは、お友達だよっ!



 えっ? 竜神様の子供達の言葉がわかる。


『マァ、アイラシイコ。ウフフ』



「キュキュ〜ッ!」


 お気楽うさぎも父さんも、いじめちゃだめっ!



『アラアラ、チガウワヨ。ワタシハ、ゴアイサツニ キタノ。フフフ、アイラシイワ』


 竜神様の子達が、ラフレアの赤い花の上で、ポヨンポヨンと飛び跳ねて威嚇している。



「心配して来てくれたんだね。だけど人間はキミを怖がるからさ……」


 僕がそう言うと、赤い花は空へと浮かんだ。立ち上がったってことかな。


 竜神様の子達は、花からポテポテと転がり落ちた。


『コノバショヲ、ミテオコウト オモッタノ。フフフ、マタ、アソビニキマス』


「いや、ここに来ちゃダメだよ。人間は怖がるから」


『アチラノ モリナラ イイカシラ。フフフ』


「精霊の森? 精霊シルフィ様に尋ねてみないと……って、もう居ないじゃん」


 ワープしたのか?



「キュ〜ッ!」


 異界を通ってる!


「キュキュ〜ッ!」


 悪さしないかな、見回りに行かなきゃっ!



 竜神様の子達は、雷獣を呼び、スッと姿を消した。めちゃくちゃ張り切ってるよね。


 僕があの子達の言葉がわかるようになったのは、ラフレアになったからなのか? でも、あの子達は、そんな僕にお構いなしだ。気づいてないのだろうか。




「ヴァン、なんだか面白いことになってねぇか? ククッ」


 ゼクトさんは、楽しそうなんだよな。だけど、僕を見る人達の目は、明らかに怯えている。


 僕がバケモノになったから、か。



 突然、左足に蹴りが入った。うん? ブラビィか。


「なぜ、池の中に入るとピリピリするんだ? 変なことしてんじゃねーぞ。それに、池の中の玉をどこに隠したんだ!」


「うん? さっき、けいれんしてたのって、池の水のせい?」



 僕は、池に近寄っていく。以前よりも澄んだ水だ。あぁ、根か。もしかして、ブラビィを悪霊だと感じて……ふふっ。


 池の水に触れても特に何も感じない。だけどここまで根を伸ばすのは良くないよな。そう考えると、根はスルスルと引っ込んだ。


「ブラビィ、まだ、ピリピリする?」


「あぁん? めちゃくちゃビビビッと……しねーな。おまえ、何やったんだよ! せっかく面白かったのに」


 はい? どっちだよ?


「池の底には、ラフレアの根があるんだよ。悪霊は甘いからさ。その根に触れたんじゃない?」


「オレは、悪霊じゃねーぞ!」


 そう言うと、黒い兎は池の中へ飛び込んでいった。そして、銀色のつぼみをすり抜けている。あれ? ブラビィにも見えてないのかな。


 水の中に潜って、何か暴れているみたいだ。ふふっ、楽しそうだし、放っておこう。




「ヴァン、これ、どうする?」


「だいたい集めたぜ」


 ゼクトさんとオールスさんが、何かの術を使って、無数の銀色の玉を空中に浮かせている。直接触れると吸収してしまうからだな。


 銀色の玉も、僕の目には、甘そうに見える。


 そうか。マナ玉は、ラフレアの非常食なのか。食べ過ぎたときに近くに放出し、必要になったら吸収するんだ。


 だけど、僕は人間として生きている限り、この非常食は必要ないと感じた。


 あっ、育てた株には必要なのかな? 池の中には、かなりの量のマナ玉が沈んでいる。根が絡まっているためか、ブラビィにも見えないみたいだけど。



「ゼクトさん、オールスさん、それは好きにしてください。おそらく、養分を吸収しすぎたときにラフレアが排出するものです」


「ククッ、やはりな。池の水の大半は、ヴァンのしょんべんで、マナ玉はヴァンの糞らしいぜ」


 ゼクトさんは、また子供みたいなことを言って、オールスさんとゲラゲラ笑ってる。


「だが、この量のマナ玉だ……この町の全員分はないが……」


 マナ玉を吸収すると、魔力量が増えるんだよな。僕は、以前、オールスさんを経由して、ゼクトさんからマナ玉を受け取った。


 おかげで、超級魔導士並みの魔力量になったんだ。



「だが、マナ玉は争いの元だ。池に入れたら溶けちまうみたいだが……どうする? ギルマス」


 元ギルマスのオールスさんは、現ギルマスに問いかけた。いつから居たんだ?


「うーん、この皆さんの目つきを見ても、これだけの量のマナ玉は、町を潰す危険があります」


 ギルマスがそう言ったことで、人々が落胆したのが伝わってきた。だけど、それでいいはずだ。


 池に入れても沈むだけで、溶けるわけじゃないんだけどな。



 ゼクトさんは、空中に浮かべていた銀色の玉を池へ落とした。


 すると、根がスルスルと伸びて、一瞬で銀色の玉を抱えてしまった。



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