451、自由の町デネブ 〜うん?
「ヴァンさん、昨夜、ここに居てもらって正解でしたよ」
町の中心にある池は、真っ黒に変色していた。王宮の魔導士達が大勢、池を取り囲んでいる。
「ボレロさん、町の結界もあったはずですが、破られたのでしょうか? 他の被害は?」
「結界は無事です。だから、地下水脈からの侵入ですね。ゼクトさんが昨夜、見回りをしてくれていたので、人への被害は今のところ大丈夫です」
そう聞いて、僕は少しホッとした。
昨夜、クリスティさんが来たのは、僕達を守るためか。それにゼクトさんが、ここに貴族を集めたのも、パーティに出ないと言ったのも、このためだ。
「これは、昨夜に降った神矢の影響でしょうか」
僕がそう尋ねると、ボレロさんは険しい表情で頷いた。
北の大陸には、スキル『道化師』の神矢が降った。それを異界の住人に拾わせるために、昨夜は、影の世界との行き来が緩められていたようだ。
番人をしている闇の精霊達が、神の指示によって、門を開いたのだと思う。
だけど、この状況は……。
「昨夜は、皆、家から出ないようにと指示されていました。平地側の建物には、ゼクトさんが、結界を張ってくれたんです。だから、獲物を得られない悪霊達が、朝になっても留まってしまったようです」
「池の底ですか」
「すべての井戸も黒く染まっています。それに、おそらく……」
ボレロさんは、声をひそめた。
「昨夜は、警戒していたので対応できましたが、2種類いるようです」
「悪霊と、異界の住人ということですか?」
「いえ。目的の無いモノと、狙いのあるモノです」
ボレロさんの視線は、一瞬、階段へ向いた。フロリスちゃんか……国王様もかな。
「あの、ちょっといいですか」
窓の外を見ていると、ギルドの職員が近寄ってきた。ボレロさんに用事かと思ったら、彼は僕をまっすぐに見ている。
「やはり、ヴァンさんに依頼するしかないかな」
ボレロさんがそう尋ねると、職員さんは頷いた。ちょ、何? 嫌な予感がする。
「ヴァンさん、いま、ジョブ『神官』の方々や、聖魔法を使える人達に、井戸の浄化をしてもらっています。ですが、キリがなくて……」
ボレロさんは、申し訳なさそうに、とんでもないことを言っている。
王宮からも、魔導士がたくさん来ている。そんな彼らに抑えられないものを、僕に排除できるわけがない。
闇の精霊に誘導を依頼しても、何モノかに命じられて池に潜んでいるモノは、闇の精霊の指示では動かないだろう。
強制的に排除するなら、デュラハンか。
だけどデュラハンも、昨夜は疲れただろうな。日の出とともに、異界との行き来を止めるために、かなりの力を使ったはずだ。
「ボレロさん、ゼクトさんに無理なことなら、僕には絶対に無理ですよ」
「いえ、ゼクトさんには依頼できていません。彼は、明け方までずっと対応してくれていたので、今は休んでもらっています」
「あっ、そうですよね」
あちこちに結界を張るだけじゃなくて、それを維持しなければいけない。ゼクトさんは徹夜だったはずだ。
「王宮から精霊師を呼べたら良いんですが、王都も同じ状態です。特に王宮付近がひどい。だから、ここへは派遣できないと断られました」
国王様がいるとわかっていて断るのか。ノレア神父だろうな。
もしかしたらノレア神父自身も、奴らのターゲットなのかもしれない。国王様だけが狙われているというのもおかしいもんな。
「影の世界の住人は、王都にまで行ったんですか。北の大陸からは距離があるのに」
「ヴァンさん、この町とそれほど離れていませんよ。昨夜は、この町の上空が真っ暗になったんです。悪霊に埋め尽くされていたようです」
それは、想定していた。だから、ブラビィは結界を強化していたはずだ。だけど、地下水脈にまではブラビィの結界は及ばないか。
でも結界が破られてないなら、井戸を通れる大きさの悪霊は入ってきても、巨大な影の住人の侵入は、完全に防げたということだ。
「町の結界がなければ、今頃は全員アンデッドにされていましたよ」
職員さんは、そう言うと、ガタガタと震えている。アンデッドとは少し違うと思うけど……。
「ヴァンさん達は、無事だったでしょうけどね。なんとか、お願いできますか?」
ボレロさんのお世辞にもならない言葉に、僕はあいまいな笑みを浮かべるしかなかった。
「とりあえず、池の様子を見てみます」
僕が階段の方を振り返ると、国王様は軽く合図を送ってきた。フロリスちゃんは任せろってことだろう。
「助かります。扉も今、封鎖しているので、魔道具を使って出ますね」
ボレロさんは、手に持つ魔道具を作動させると壁の一部が透明になった。僕達は、そこから外へ出た。
魔道具を通り、僕の後ろから来るボレロさんに話しかけようと振り返って、僕は、そこで息を飲んだ。
建物の外壁の一部が変色しているように見える。クリスティさんが張った結界に突っ込んで、そのまま動けなくなったのだろう。悪霊ではない。これは……。
「ボレロさん、このせいで扉を開けられないんですね」
「はい。結界が捕獲している状態だそうです。気持ち悪い魔物ですよね」
ボレロさんには、魔物に見えるのか。僕から見れば、奇妙な多肉植物だ。まぁ、植物系の魔物かもしれない。
手の届く範囲は切られているが、池から勢いよく飛び出してきたのだろう。クリスティさんの結界がなかったら、建物を突き抜けたかもしれない。
角度からして……やはり、僕達の部屋が狙われたか。僕は全く気配すら感じず、爆睡していた。
「あぁ、ヴァンか。お手上げだよ」
池に近寄っていくと、顔見知りの王宮の魔導士が話しかけてきた。
彼らは池から何も出てこないようにと、水面を聖魔法のベールで覆っている。
「覗いても大丈夫ですか?」
「あぁ、今は完全に眠っている。やはり、日の光には弱いらしい」
池の中を覗くと……池の中からも無数の目が、こっちを見ていた。思わず叫びそうになる。この目は何だ? 人というより動物っぽい。
だが、ボレロさんの話とは違う印象を受けた。池の底でジッとしている奴らには、怯えしかない。
この町の人を喰うために、夜が来るのを待っているようには見えないな。
「この動物っぽいのは、異界の魔物でしょうか。たくさん居ますね」
僕がそう言うと、王宮の魔導士は首を傾げた。
「悪霊じゃないんですか? 夜になる前に浄化しないと大変なことになります。王都も、いま、地下水脈が使えない状態です」
彼には見えてないのか。
「悪霊もいますが、動物の方が多いです。あの建物の結界に突き刺さっている多肉植物は、魔物かもしれません。だけど、池の底には……あぁ、居ますね」
自由に動き回るから植物とは言えないか。だけどクリスティさんの結界バリアに突き刺さっているのは、植物に見える。
影の世界の住人は排除するのではなく、共存すべきなんだ。やはり、この町から始めなければいけないか。
だけど、どうしようか。
僕は、ジョブボードを開いてみる。うん?
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.7)New!
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.6)New!
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.3)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』極級(Lv.Max)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
●魔獣サーチ
●異界サーチ
●族長
●覇王
『道化師』極級(Lv.4)New!
●ポーカーフェイス
●玉乗り
●着せかえ
●なりきりジョブ
●なりきり変化(質量変化、無制限)
●喜怒哀楽
『木工職人』中級(Lv.10)
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』超級(Lv.10)New!
●精霊使い
●六属性の加護(超)
●属性精霊の憑依
●邪霊の分解・消滅
●広域回復
●精霊ブリリアントの加護(極大)
●デュラハンの加護(極大)
●ラフレア
『釣り人』上級(Lv.10)
●釣りの基礎技術
●魚探知(中)
●魚群誘導
『備え人』上級(Lv.3)
●体力魔力交換
●体力タンク(1倍)
●魔力タンク(1倍)
『トレジャーハンター』中級(Lv.3)
●宝探知(中)
●トラップ予感
『神官』下級(Lv.7)New!
●祈り
『薬草ハンター』超級(Lv.1)New!
●薬草の知識
●毒薬草の知識
●薬草のサーチ(大)
●異界の薬草サーチ(中)
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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日曜日はお休み。
次回は、3月21日(月)に更新予定です。
よろしくお願いします。




