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450、自由の町デネブ 〜ゆったりした時間

 国王様は、ほとんどの貴族に素性がバレているのに、堂々と、ドゥ教会の見習い神官だと言い切った。


 当然、誰もそれを否定する人はいない。国王様に、ツッコミを入れることなんてできないよな。


 まぁ、見習い神官と言い張るんだから、彼への無礼な言動も罰せられることはないだろう。



「フリックは、フランちゃんの教会で、キチンとお仕事してるよ。言葉遣いが悪いのは、子供の頃、農家の村にいたから仕方ないの」


 フロリスちゃんは、国王様を擁護するように、貴族の冒険者達に説明している。このピリピリした雰囲気を、少女は勘違いしたみたいだ。


「フロリス、ありがとな」


 国王様にそう言われて、少女は力強く頷いている。


「フリックは言葉遣いは悪いけど、良い子だからっ。だよね? ヴァン」


「はい、フロリス様」


 僕が返事をすると、少女は安心したようだ。ふわぁ〜っと大きなあくびをしている。もう深夜だもんな。



「もう遅いから、話の続きは明日にしようよ。この建物には結界を張ったから出られないよ。出た人は、異界の住人だと判断するね〜」


 クリスティさんがそう言うと、貴族達は頷いた。


 王都の暗殺貴族レーモンド家の当主の提案に逆らえる人はいない。それに、もともと宿泊する予定で、みんな来ているはずだ。



 長かったパーティは、やっとお開きになった。



 ◇◇◇



 僕は、フロリスちゃんと同じ部屋に泊まることになっていた。二人っきりではない。国王様も同室だ。さらに、急遽やってきたクリスティさんも……。


「ヴァン、一緒に泊まるのって久しぶりね〜」


 ちょ、クリスティさん……。


「へぇ、ヴァンとクリスティは、そういう関係か」


 いやいや、国王様……。


「私は、それでもいいんだけど、フランさんが怒るかも〜。フリックさんこそ、フロリスちゃんのことを気に入ってるんじゃないの?」


「あはは、私には妻はいるぞ」


「でも、そこに愛はないよね〜。ドゥ教会って愛の教会って言われてるんだよ。ドゥ教会の神官になるなら、愛を知らないとね〜」


 ちょ、クリスティさん……。


「六精霊の壺か。あれは見事だ。人々の善の心が集まっている」


「フロリスちゃんはファシルド家だから、身分的にも十分だわ。いま、10歳だっけ?」


「身体は小さいが、11歳だと言っていた。私より8つ年下だな」


「フリックさんって、ヴァンと同い年だっけ。ヴァンは年上好きなんだよ。よかったね、ライバルじゃなくて」


「おいおい、私は、さすがに未成年に手出しはしないぞ」


「ふぅん、うふっ、楽しい〜。あっ、フロリスちゃんのことを応援してあげるから、ヴァンが私の伴侶になるように王命を出してよ」


 はい? クリスティさんには幼馴染の彼がいるじゃないか。


「あはは、敵わないな。そろそろ寝ないと明日が辛いぞ」


「私は、寝なくても平気よ。こんなに楽しい夜は久しぶりだもの〜」




 ワインを飲みながらそんな話をしている二人を横目で見ながら、僕は、フロリスちゃんの寝支度をしている。


 フロリスちゃんは、一人でシャワー室に入っていった。幼い頃のイメージが強いから、大丈夫かと気になってしまう、


 僕は、脱衣所にそっと着替えを置く。そして、ベッドの特有の臭いを消し、枕の高さを整えた。少女の世話は、彼女が5歳の頃にしていたが、意外と覚えている。



「ヴァン、髪乾かして〜」


 シャワーを終えた少女は、びしゃびしゃな髪のまま、駆け寄ってくる。いつもなら、メイドがすぐに髪をふいていたっけ。


「フロリス様、着替えた寝衣が、びしゃびしゃですよ」


「パジャマも乾かして〜」


「はい、かしこまりました」


 僕は、弱い風魔法と火魔法を発動する。すると、少女は暖かい風にぶわっと包まれた。


「うふふ、やっぱりヴァンは、髪を乾かすのが上手ね。私がやると、髪の毛が逆立っちゃうの」


「それは、フロリス様の魔力が高すぎるからですよ。僕は、たいした魔法は使えないから、調整も楽なんです」


 フロリスちゃんは、ニコニコと笑顔を浮かべ、髪をペタペタと触っている。こうして見ると、成長を感じる。あの頃は、表情を失っていたもんな。



「さぁ、もう遅いので、おやすみください。ぷぅちゃんが居ないけど、寝られますか?」


「寝るまでヴァンがいて。あっ、天兎に化けられない?」


「えっ……それは、ぷぅちゃんに怒られそうです」


 フロリスちゃんと添い寝をするなんて……いろいろとマズそうだ。


「じゃあ、さっきのふわふわな獣は?」


 ビードロか。いやいや……。


「せっかくベッドの消臭をしたので、アレは……」


「むぅ〜、じゃあ、ヴァンでいいや」


 ベッドに入ったフロリスちゃんは、左手を僕の方に出した。手を繋ぐってことか。


「はい、じゃあ、おやすみなさいませ」


 僕は、ベッド横の床に座り、少女の小さな手を握る。以前より大きくなったよな。当たり前だけど。


「うん、ふわぁぁ、おやふにゅ……」


 フロリスちゃんは一瞬で眠りに落ちていった。だけど、手はがっちり握られている。うーん、離せないな……。


 僕も、いつの間にか睡魔に襲われた。




 ◇◇◇



「ヴァン、なぜ床で寝てるの? ベッドから落ちたの?」


 何かが、頭をペチペチと叩く。


 ゆっくりと目を開けると、僕はフロリスちゃんのベッド横の床で寝ていたようだ。身体には毛布が掛けられている。


「ええっと……」


「ふふっ、ヴァンってば、おこちゃまね〜。あれ? シャワーしなかったの? 昨夜の黒服のままで、くしゃくしゃよ」


「あぁ、はぁ……」


 僕が現状把握のためにキョロキョロしていると、フロリスちゃんはクスクスと笑っている。


 昨夜はあのまま、寝てしまったらしい。毛布を掛けてくれたのは、クリスティさんだろうか。



「えーっと、朝食は用意されているのかな。昨夜の会場へ行きましょうか」


 僕は立ち上がり、身体に水魔法と風魔法を混ぜたものを発動する。背中がバキバキだから、ゆっくり風呂に入りたいけど、今はそれどころじゃない。


 国王様とクリスティさんの姿はなかった。


「ヴァン、ごはんならテーブルに置いてあるよ。フリックが、持ってきてくれたよ〜」


 えっ!? 国王様が?


「フロリス様、フリックさんは……」


「クリスティさんと一緒に、貴族の話し合いに行ったよ」


「げっ……僕は気づかずに寝てましたね」


「ふふっ、ヴァンを起こしてごはんを食べたら、昨日の会場に来てって言ってたよ〜」


 あわわわわ。マズイ、大失態だ。



 僕は、フロリスちゃんと一緒に、朝食を食べた。慌てる僕を、ニコニコと見ている少女は、なんというか母性のような優しさを感じる。


「フロリス様、随分、大人っぽくなりましたね」


「そぉ? ヴァンは、大人だと思ってたけど、おこちゃまなときがあるね。フランちゃんの言う通りだよ〜」


「ひぇ、フラン様が何か言ってました?」


「うふふっ、教えなーい」


 そう言って微笑む少女は、楽しくてたまらないらしい。足がぴょこぴょこと動く気配がする。


 神官様は、フロリスちゃんが成長しないと心配しているけど、年相応な、おませな一面もあるんだ。



 ◇◇◇



 朝食後、僕はフロリスちゃんと一緒に、一階へと降りて行った。服は着替える方がいいと言われたので、軽装に着替えた。


 確かに、パーティでは黒いスーツの人が多いけど、朝からそんな格好はしない。貴族の集まりだが、みんな冒険者だから、僕はいつもの軽装を選んだ。


 フロリスちゃんは、昨日とは違うワンピースを着ている。学校に行くときによく着ている服だ。




「やっと起きたか」


 階段に座っていた国王様が、僕達に気づいた。室内には、昨夜とほぼ同じくらいの人数がいる。


 だが、メンバーは入れ替わっているようだな。冒険者ギルドの職員の姿も何人か見える。



「フリックさん、すみません。気づきませんでした」


「だろうな。まぁ、昨日は、かなり疲れていたのだろう? クリスティが、起きるまで放っておけと言っていた」


「あ、はぁ、すみません。あの、今はどういう状況ですか? 階段に座って……」


「ふむ、私が離れている方が、話し合いをしやすいらしい。ここに座っていろとクリスティに命じられた」


 あー、なるほど、国王様を高い場所に座らせたのか。みんな、彼の素性に気付いているからだな。



 僕の姿を見つけたボレロさんが近寄ってきた。彼は、この町の冒険者ギルドの所長であり、僕の担当者だ。


「ヴァンさん、ちょっとお願いできますか」


 ボレロさんは、フロリスちゃんにやわらかく微笑んだが、僕に向けた表情は険しい。


 僕は頷き、フロリスちゃんを国王様に任せる。



 ボレロさんと窓の方へ近寄り、僕は言葉を失った。



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