45、リースリング村 〜たくさんのスキルをゲット
だよね、びっくりするよね。
転移屋を利用して、僕達がリースリング村に戻ってくると、村の人はみな驚いた顔で固まっていた。
マルクは、やわらかな笑みを浮かべ、軽く会釈をしながら村長様の家に向かっている。その後ろから、ゾロゾロと二十人近くの立派な服を着た人達がついていったんだ。
彼らは、キャンプ場では冒険者風の服装だった。といっても、十分高そうな服だったんだけど……。それが、今は、貴族らしい豪華な服に着替えている。商談するからだそうだけど、これも彼らのプライドの一種なのかもしれない。
「村長さん、突然、すみません。商談をしたいという方々をご案内しました」
マルクがそう説明している間に、鎧を着た人が転移によって現れた。もう、トロッケン家が来たのかと緊張したが、そうではなさそうだ。貴族の人達の護衛らしい。
「あの、皆さんは……」
「ヴァンくんと、知り合いになりましてね。この村が、魔物の襲撃に困っていると聞いて来たんですよ。我々が、村の護衛を引き受ける代わりに、リースリング種のぶどうの取引をお願いできないかと思いましてね」
打ち合わせ通りだ。トロッケン家のことは、一切言わないようにして、魔物からの守護を条件に、商談に来たことになっている。
「ヴァン、あとは大丈夫だから、家に帰っていいよ」
「マルクは?」
「俺は、橋渡し役をするから」
僕は、きっと邪魔だよね。魔物の襲撃を理由にするわけだから、僕が居る必要はないか。本当は、僕がトロッケン家に狙われているから、なんだけどな。
「うん、わかったよ。皆さん、失礼します」
僕が家に戻ると、何人かの村の人が集まっていた。
「婆ちゃん、ただいま」
「ヴァンちゃん、おかえり。怪我はないかい?」
「うん、大丈夫だよ。みんな、どうしたの?」
「ヴァンちゃんが、立派な人達と一緒に戻ってきたからさ。あの方々は、どういう知り合いなんだい?」
僕は、打ち合わせしていた通り、説明した。
「マルクと、立ち寄った宿泊地で知り合ったんだ。貴族だけど冒険者だから、魔物の襲撃で困っている村を放っておけないんだって」
「おぉ、なんと慈悲深い方々なのじゃ」
彼らは、慈悲深いわけではない。たぶん僕に恩を売って、ソムリエの知識を、自分の家の使用人に伝授してほしいだけなんだ。薬師だというのも理由のひとつかもしれない。
マルクは僕に、貴族という人達の扱い方を教えてくれているんだと思う。彼らのプライドをくすぐりつつ、自分が導きたい方向へと誘導する話術。
きっと、これが処世術なんだ。
「婆ちゃん、僕、疲れたから、ちょっと寝るね」
「晩ごはんができたら起きるんだよ」
「うん、わかった」
僕は、私室に戻った。
ふぅ、ほんとに疲れたよ。でも、山からの湧き水の改善ができてよかった。一応、ガメイの荒野にも行かなきゃな。
あっ、そういえば、ジョブボードの確認をしていなかったな。地図のスキルが増えていたみたいだけど。
僕は、印に触れ、ジョブボードを表示した。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.1)
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.1)
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.1)New!
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』上級(Lv.3)New!
●友達
●通訳
●従属
●拡張
『道化師』中級(Lv.1)New!
●笑顔
●ポーカーフェイス
『木工職人』中級(Lv.1)New!
●木工の初級技術
●小物の木工
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜
わっ、『迷い人』が上級になってる。地図の技能は、マッピングか。めちゃくちゃ便利だね。いらない残念なスキルだと思っていたけど、すごく使えそう。
『魔獣使い』は、レベルが1上がってる。ひとつ下の中級の神矢を得たみたいだ。
それから『道化師』って何? またふざけたスキルだ。笑顔とかポーカーフェイスとか……うーん、使えるのかな?
あと、これは便利だね。村でも何人かが持っているスキル『木工職人』は、家具作りの生産職だ。でも、小物かぁ。小屋を造るのは無理そうだな。だけど、修理は上手くなるかもしれない。
でも、ほんと、生きていてよかった。あっ、【富】の神矢をマルクと分けるんだっけ。でも、どんな富なのか、中身がわからないんだよな。
僕は、ベッドに寝転ぶと、すぐに眠りに落ちていった。
◇◆◇◆◇
しばらくの時が流れた。
心配していたトロッケン家からの接触はなく、雨季は終わり、夏が過ぎ、そろそろ秋が訪れる。
リースリング村には、貴族の大きな屋敷が建てられた。村長様の家よりも大きくて圧倒される。屋敷の敷地には、小さなワイン醸造所が作られている。
「ヴァン、泣き虫ヴァン、なんとかしなさーい」
「下手っぴすぎるの。あの人達、ちっとも言うことを聞かないの」
「妖精さん、彼らは農家じゃないから、声は聞こえないよ」
「どうして、こんなに小さな醸造所なの?」
「趣味なの? バカなの?」
「下手っぴすぎるの。下手っぴなの」
「彼らは、ワイン好きな貴族の家の使用人だよ」
「やっちゃダメなことばっかりしてるよ」
「趣味なの? バカなの?」
新たな醸造所の登場に、リースリングの妖精さん達は、大騒ぎだ。というのも、貴族の家の使用人達がワイン作りをしているけど、あまり上手くいかないらしい。
最近は、妖精さん達も諦めたのか、辛辣な毒舌っ娘になって、ストレスを発散しているようだ。八つ当たりされる僕は、苦笑いするしかないんだよね。こんなところで、『道化師』のポーカーフェイスが役立っている。
彼らは今は、収穫したばかりのぶどうで、フレッシュな新酒を作っているみたいだ。
僕は、いま、去年と同じように、村長様の畑の収穫を手伝っている。妖精さんにうるさく付きまとわれるから、去年よりも効率よく収穫できるようになったんだ。
そして、魔導学校の新学期が始まる少し前に、アウスレーゼ家のあの神官様がリースリング村にやってきたんだ。
村長様に呼ばれて、畑仕事の途中で村長様の家にお邪魔して……僕の額に、嫌な汗が流れた。
「ヴァン、あなた、随分と派手なことをやっているわね」
うわっ、怖っ。
彼女は、腕を組み、僕に冷ややかな笑顔を向けている。何を怒ってるのだろうか。いや、でも笑顔だよね?
「神官様、ご無沙汰しています。あの、学校が始まってから、スピカに行く予定なのですが」
「そんなことは、わかっているわよ」
じゃあ、何?
村長様に助けを求めようとしたけど、部屋から出ていってしまった。いま、広いリビングには、僕と彼女の二人っきりだ。隠れる場所もない。
貴族の護衛の人達は、なぜか彼女を客として通したみたいだ。家の門の近くにいるけど、トロッケン家しか警戒していないのかな。
「僕、いま、畑仕事の途中でして……」
「私が迎えに来てあげたのよ? すぐに荷物をまとめなさい。スピカへ行くわよ」
「えっ? 僕を誘拐する気ですか」
「は? 何を言っているのかしら。私があなたの面倒を見る約束をしていたでしょ」
あー、確かに……。
「秋からということでしたよね?」
そう確認すると、彼女は、眉をピクリと動かした。えっ? な、何? 反論したから怒ってる? いや、もともと怒ってるよね?
「あなたが派手なことをしているから、それでは間に合わないのよ。ちょっと、右手を貸しなさい」
そう言うと、神官様は、僕の手を握った。
ドキッ!
わっ、わっ。不覚にもドキドキしてしまった。
「ジョブボードを表示しなさい」
「どうしてですか。個人情報だから……痛っ」
「さっさとしなさい。それとも強制的に表示しましょうか?」
いま、思いっきり、つねったよね? 無茶苦茶だ。でも、この人は、他人のジョブボードが見えるんだっけ。成人の儀をとり行う能力があるから、勝手に表示させることもできるのか。
僕は、印に触れてジョブボードを表示した。
「は? 何もないじゃない」
うん? 見えないってこと?




