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445、自由の町デネブ 〜貴族のパーティへ

 僕は、久しぶりに黒服を着ている。ファシルド家から以前、大量に支給されたものだ。


 そして、なぜか国王様も黒服なんだ。フロリスちゃんと服を買いに行って、黒服を買ってもらったようだ。



「カラーチーフを胸ポケットに入れるのよ。はい、これはヴァンの分ね」


 フロリスちゃんから、赤い小さな布を渡された。そういえば、簡易なパーティでは、貴族は黒いスーツを着て、胸ポケットに小さなハンカチを入れていたっけ。


「ありがとうございます……えーっと」


 折り方がわからない。



「はぁ、もう、不器用ね。貸しなさい」


 神官様は、ため息をつきつつ、僕から赤い布を取り上げた。そして不思議な形に折って、僕の胸ポケットへ入れてくれた。


 こういうのって、いいな。彼女がぷりぷりと怒るのは、おそらく照れ隠しだ。ふふっ、かわいい。



 国王様は、自分でささっと折っている。自分で出来るなんて、ちょっと意外な気がした。彼のチーフは青だ。


「色が違うんですね」


 思わず、そう口に出すと、フロリスちゃんがため息をついた。神官様のため息にそっくりだな。彼女の真似をしているのだろうか。


「ヴァン、赤は神官家、緑は貴族、青は従者よ。派遣執事をやってるのに、なぜ知らないの?」


 フロリスちゃんに叱られた。


「すみません、初耳です」


 そういえば、フロリスちゃんも緑色のふわふわした飾りを、ワンピースの腰につけている。簡易なパーティで女性がよく身につけているアクセサリーだ。流行かと思っていたけど、そういう意味があったのか。


 だがしかし……国王様が従者の色でいいのか? まぁ、何よりの変装とも言えるか。まさか国王様が従者のフリをしているとは、誰も思わないだろう。


「私の青のチーフは、綺麗な色だな」


 気に入ってるし……。




「ヴァン、貴方の役割はわかっているわね?」


 神官様は、何を言わせたいんだ? 僕は、フロリスちゃんを大勢の中に隠して守るために同行する。


 今夜、北の大陸に神矢が降る。


 普通、神矢は青空が広がる昼間に降るものだ。だけど今回は、影の世界の人達のために、スキル『道化師』の青い神矢が降るんだ。


 だから、影の世界の住人が活動しやすい夜に降る。


 ゼクトさんからの話では、マルクの屋敷に仕える使用人には、異界の住人が何人もいるそうだ。今回の神矢の連絡は、ドルチェ家の使用人を通じて、影の世界へ広められたらしい。


 確かに、スピカのマルクの屋敷の地下には、不思議な能力を持つ人がいた。倉庫の防衛担当だと言ってたっけ。


 あの人は、マルクのことをルファスさんと呼んでいた。ドルチェ家に雇われているというより、マルクが雇っている感じだったな。



 僕が黙っていたからか、神官様は片眉をあげた。フロリスちゃんがいる前で、本当の目的を言わせるわけはないよな。


「えーっと……」


 ダメだ、何も思い浮かばない。



 今夜は、異界の住人がたくさん地上に出てくる。だから、黒石峠みたいなことが起こらないように、フロリスちゃんを守る必要があるんだ。


 だから、そのための貴族のパーティだ。これから向かうのは、冒険者をしている貴族が警備隊を作るための集まりだという。


 僕は、派遣執事として何度も貴族のパーティの手伝いをしたことがあるが、客として行くのは初めてだ。緊張する。



 ゼクトさんは、フロリスちゃんを天兎のぷぅちゃんと引き離す方が安全だと、考えたらしい。貴族のパーティには、獣人は入れないからな。


 天兎は個性が強く、影の世界の住人から見て目立つ存在らしい。彼は、フロリスちゃんを狙う者達は、まず天兎を探すだろうと言っていた。



「ヴァン、貴方の目的は、これよ! わかってる?」


 神官様は、ドゥ教会に飾る教会のマークを指差している。だけど彼女は、本気で布教しようとは考えていないだろう。フロリスちゃんに、偽の目的を伝えたいのか。


「フラン、だから私が一緒に行くのだ。見習い神官の私がな」


 国王様は、すぐに彼女に話を合わせた。やはり賢いな。


「フリック、おまえ、見習いのくせに、ドゥ家の当主の名前を呼び捨てか?」


 ゼクトさんは、もっともな指摘をした。だけど、彼は国王様なんだよな。


「ゼクト、細かいことを気にするな。私はこういう話し方しかできない」


「おまえなー、従者が偉そうにしてどうすんだよ?」


 呆れ顔のゼクトさんの言葉を完全に無視する国王様。ふふっ、拗ねたのかな?




「そろそろ行くか」


 国王様が一番乗り気だ。


 もう真夜中だ。こんな時間からのパーティ……フロリスちゃんは大丈夫だろうか。僕は少し仮眠をとったけど、国王様とフロリスちゃんは買い物に行っていたよな。


「ゼクトさん、こんな真夜中のパーティって……」


「時間指定は、俺がした。今夜集まれる人間は、本物だからな」


 本物? あー、そっか。夜に神矢が降ると、異界の住人は北の大陸に拾いにいくはずだ。警備隊のメンバーをこの世界の住人だけに絞れる。


「心配するな。真夜中のパーティだから、会場への従者の同行が許可されている。それに世話係も大量にいるはずだ」


 世話係? 宿泊をともなうパーティか。だから僕の魔法袋に、フロリスちゃんの着替えを放り込まれたのか。


「じゃあ、送ってやる」


 ゼクトさんは、本当に行かないのかな?


 僕達は、ゼクトさんの放った転移魔法の光に包まれた。



 ◇◇◇



「おや、珍しい方々ですな」


 きっちりとした礼服に身を包んだ新人のギルマスが、受付にいた。彼は、貴族だったっけ。緑色のチーフを胸ポケットに飾っている。


「こんばんは。ゼクトさんに、たまには堅苦しい集まりに行って来いと言われまして……」


 僕がそう言うと、ギルマスは、やわらかな微笑みを浮かべた。オールスさんとは違って品がある……というと叱られるだろうか。だが、僕としては、彼をギルマスとは呼びにくい。


 なんというか、オールスさんには引退した今も、圧倒的な威圧感があるんだよな。それが荒っぽい冒険者も黙らせる。


 だけど、新人のギルマスは、もう新人とは言えないんだけど、冒険者を抑える力が足りない。



「なるほど、だからヴァンさんは、赤いチーフですか。今のところ神官家の方は、ヴァンさんだけです。勧誘し放題ですね」


「まぁ、今回は警備隊についての話し合いだと聞いていますから、ほどほどにしますが」



 僕は、軽く会釈をして会場へと入る。だが、新人のギルマスが僕達に付いてきた。居心地が悪いらしい。ギルマスなのにな。


 国王様はキョロキョロしている。だけど、青いチーフのおかげか、誰も彼に気づかない。それが、彼としては楽しいらしい。


 ギルマスでさえ、少し首を傾げたが、気づかないようだ。フロリスちゃんに目を移し、軽く頷いている。少女の従者だと勘違いしているのか。


 あー、フロリスちゃんが、国王様の袖を握っているからか。いつもぷぅちゃんと手を繋いでいるから、何かを持っていないと不安なようだ。



 パーティ会場は、デネブの中心の池のほとりの集会所だった。すぐ近くにはギルドの建物がある。集まりの主題から場所を選んだのだろうか。


 だけど、僕としてはちょっと意外だった。貴族の別邸が並ぶ山側のどこかだと予想していたが。


 しかし会場内は、よくある貴族のパーティのような雰囲気だ。ズラリと料理が並び、黒服やメイドがせっせと忙しそうにしている。



 だけど、少しピリピリとした雰囲気だな。奥に人が集まっている付近は、特に様子がおかしい。何かあったのだろうか。


 料理が並んでいる間は、パーティの時間だ。談笑したり商談したり、表面的にはみんな穏やかな顔をしている。


 何かの目的があって集まるときは、食事の後に、黒服やメイドを部屋から追い出して、話し合いが始まるんだ。



「ヴァン、どれを食べればいいの?」


 フロリスちゃんは、料理を見てお腹が空いたようだ。だけど、毒殺を恐れているんだよな。


「フロリス様、好きなものを取って、食べる前に見せてください」


「うん、わかった!」


 お皿を渡すと、少女は目をキラキラと輝かせている。立食パーティの料理は、基本、安全なはずだ。でもフロリスちゃんは不安だろうから、一応、確認しようか。


「ヴァン、取ってきたよ」


「ヴァン、私もだ」


 ちょ、国王様? フロリスちゃんと競うようにお皿におてんこ盛りだ。おそらく、わざとだろうな。


 僕は薬師の目を使って、毒が紛れていないかを確認する。


「お二人とも大丈夫ですよ。しかし、そんなに食べられますか?」


「任せろ! 余裕だ」


「うん! 余裕よ」


 二人は気が合うみたいだな。



 ガシャン!


 奥の人達の方から、何かが割れる音が聞こえた。



皆様、いつもありがとうございます♪

日曜日はお休み。

次回は、3月14日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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