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443、自由の町デネブ 〜技能としての精霊使い

 僕がデュラハンに呼びかけると、面倒くさそうな気配が伝わってきた。


『何? オレ忙しいんだけど』


 あのさー、デュラハンさんの加護を強めた状態で、弱い霊に触れたらどうなるかな? 人に取り憑いている弱い霊の体力を回復したいんだ。


『あぁ? オレの加護はいらねーだろ。精霊を見下す技能で強制命令すりゃいいじゃねーか』


 何それ? あっ、今、使ってる精霊使いのこと? これは、お婆さんに取り憑いている霊と話すために使ったんだ。体内にいる弱い霊の声は、僕は聞こえないから。


『フン、じゃ、それで命令すりゃいいだろ』


 ちょ、わからないんだけど。何を命じるの? 精霊ブリリアント様の加護を強めてもらった状態で妖精に触れたら、回復できたんだよね。


『は? そいつは悪霊だぜ? 妖精と一緒にするな。体力なら取り憑いてる人間から吸収して、勝手に回復するだろ。あー、死人か』


 うん、そうなんだよね。お婆さんは既に死人だけど、本人は気づいてない。弱い霊が、密かに生かしてるんだよ。


『生かしてるっていうより……はぁ、面倒くせーな』


 僕をデュラハンのまがまがしいオーラが包む。


 これで触れたらいいの? お婆さんの中にいる霊は、めちゃくちゃ怯えてるけど。


『触れたら、そんな弱い霊なら消滅するぜ』


 えっ? じゃあ、なぜ加護を強めたんだよ?


『はぁ……少しは自分で考えろよ。薬師だろ? オレのオーラ入りの団子でも食わせとけ』


 うん? あー、お婆さんに飲んでもらえばいいのか。そうすれば直接触れずに、弱い霊がデュラハンさんのエネルギーを吸収できるね。


『あぁ、さっさとやれ。オレは、マジで忙しいんだ』


 わかった、ちょっと待って。



 僕は、いつもの正方形のゼリー状ポーションを作る過程で、一部改良する。そしてデュラハンのオーラを練り込むように意識すると、塗り薬ができあがった。


 飲み薬のつもりだったけど、デュラハンのオーラを混ぜているから、確かに塗り薬の方が良いか。


 黄緑色と灰色の2色のマーブル状になっている。塗り薬には珍しく、透明なガラス容器に入っているから、お菓子と間違えそうだ。


 完成するとすぐに、デュラハンの加護は消えた。本当に忙しいらしい。




「さぁ、できましたよ。先に作ったこちらは飲み薬です。背中の調子を整えます。毎日一つずつ忘れずに飲んでください。そして、これは塗り薬。背中に違和感があるときに塗ってくださいね」


 お婆さんにそう説明したけど、なんだか、引きつった顔をされている。二つ同時に話したから、わかりにくいかな。



「ヴァン、突然、鎧騎士になったから、みんなビビったんだぜ。それに、何か発動中だな」


 ゼクトさんにそう言われて、ハッとした。こんな近くで、まがまがしいオーラを放ったら、誰でも驚くよな。


「いま、精霊使いを発動中です。背中の怪我を治してくれる妖精さんと話をしようと思って」



 僕は、お婆さんにやわらかな笑みを向ける。


「塗り薬は、最初の1回は、僕が直接塗りたいので、背中を出してもらってもいいですか?」


「へっ? ここで服を脱ぐのかい?」


 あー、しまった。失敗した。


「いえ、背中を出して欲しいだけなのですが……」


 女性だもんな。お婆さんはオロオロしている。



「ヴァン、やらしーな。ククッ、婆さん、ちょっとジッとしてろよ」


 ゼクトさんは、スーッと空中を切るような仕草をした。すると、お婆さんの背中の服がパッカリと切れたんだ。


「ひゃっ」


 お婆さんは慌てているけど……うん? 切れた服は動かない。何、これ?


 僕が驚いたのを見て、ゼクトさんはククッと笑った。


「スキル『盗賊』の技能だ。便利だろ? 3分で元に戻るから、さっさと薬を塗ってやれよ」


 めちゃくちゃ便利だな。



「はい、じゃあ、失礼しますね〜」


 僕は、お婆さんの背中の綻びに、薬を塗っていく。彼女に取り憑いている霊は、僕をガン見してるんだよな。


「塗り薬を塗ったら、キミが必要な成分を吸収しなさい」


 僕は、霊を真っ直ぐに見てそう言うと、霊は、慌てて一気に吸収している。すごい吸引力だな。そんなに急がなくてもいいんだけど……僕に怯えてるんだよな。


 さらに薬を塗ると、今度はジワジワと吸収されていく。僕の考えが伝わっているらしい。



「すごい! 背中の怪我が一気に治っていくよ」


 僕の作業を見ていた焼き菓子のお婆さんが、驚きの表情を浮かべている。


 確かに綻びは完全に塞がり、皮膚も綺麗になっていく。


 スーッと、切れていた服が元に戻った。もう、時間か。ほんと、めちゃくちゃ便利な技能だな。



 僕は、精霊使いを解除した。


 精霊使いは、これまであまり使っていなかった技能だけど、スキル『精霊使い』の極級と同じく、すべての精霊や妖精への指示ができるものだ。


 だけど、別に使わなくても話はできる。意味のない技能だと思ってたけど、隠れた霊との会話には必要だな。


 あっ、もしかすると、強制力があるのかもしれない。弱い霊の慌て方は、ちょっと尋常じゃなかった。


 それにデュラハンも、見下す技能だとか言って、めちゃくちゃ嫌がっているような感じだったし。



「ヴァン、技能としての精霊使いは、精霊師レベルによって、その効果も大きく変わるぜ。ただ、使うと精霊は嫌がるだろうがな」


 ゼクトさんは、僕の頭の中を覗いていたのか。


「命令系の技能でしょうか」


「あぁ、単独で使っても、舐められていると効果は期待できない。おまえの場合は、やばいレア技能持ちだからな、ククッ、舐められる心配はねぇよ」


 覇王か。


 ちょ、カベルネ村の団体さんが、ビビってるんだけど。



 僕は、お婆さんに、薬2種類を渡した。ちょっとオドオドされているけど、まぁ、いっか。たぶん、みんな一晩寝たら忘れてくれる。


「旦那さん、ありがとうね。背中がポカポカするよ」


「それはよかったです。飲み薬も忘れずに飲んでください。ひと月分くらいをお渡ししたので、無くなったらまた来てくださいね」


「無くなる前に、また来るよ?」


「そうさね、ワシらは、毎週遊びに来るからの」


 あっ、もう忘れてる。彼らの僕を見る目が、以前のものに戻った。



「それより、旦那さん、稼ぎが悪くないなら、なぜまだ子供を作らないんだ?」


「へ? あー、はぁ」


 この話は、忘れてないのか。


「もう、フラン様は……いくつだったかな? しっかりしているから、30歳くらいかい? そろそろ、ねぇ」


 ちょ、怒られるよ? 彼女は23歳だ。


「いやいや、そんな歳には見えないね。そういえば、いくつなのか、尋ねたことがなかったね」


「30歳は、旦那さんの方だろ?」


 いやいや、数時間前に19歳だと言ったよね?


「旦那さんは、そんなもんだったかねぇ?」


 僕に尋ねるわけでもなく、彼らの話題は、神官様と僕の年齢当てに移った。


 彼女の耳に届かないことを祈りつつ、僕は、そっと離れた。




「ヴァン、おまえも大変だな」


「はい、まぁ、そうですね」


 ゼクトさんは、ニヤニヤしている。何を言いたいかわかるけど、気づかないふりをしておこう。子供なんて授かりものだもんな。


「しかし、フリックは、本気で神官になる気か?」


 ゼクトさんの視線の先には、国王様がいた。変装しているわけではないけど、ドゥ教会の見習い神官の制服を着た彼が国王様だとは、誰も気づかない。


「困ったことに、よく働いてくださってますよ」


 そう、僕は困っている。信者さんの中では、彼が神官様の二番目の伴侶になるんじゃないかという噂があるんだ。


「ククッ、まぁ、フリックは、見た目はイケメンだからな。天兎の血が混じっていると、だいたい整った顔になる」


 ゼクトさんは、噂を知っているらしい。



「ぷぅちゃんも、ブラビィも、イケメンですもんね。そういえば、フロリスちゃんはもう1体、天兎を飼っていたんですけど、どうなったかわかりませんか?」


 僕がそう尋ねると、ゼクトさんは、一瞬不思議そうな顔をした。すべての天兎の情報を知るわけないか。


「ヴァン、おまえ、何を言ってる? ぷぅ太郎のライバルは、そこにいるじゃねーか」


 ゼクトさんが指差した先には、フロリスちゃんのメイドが居た。僕がよく知るマーサさんではない。もう一人の若い獣人の女性だ。


「ゼクトさん、もう1体は、確か、みるるんという名前のオスなんですよ? フロリスちゃんはメスだと思ってるみたいだけど」


「あぁ、だから、メイドになってんだろ」


 あれ? 話が噛み合わない。



「みるるん、お花は〜? あっ、ヴァン、いたのー?」


 フロリスちゃんが奥から出てきた。そして、ゼクトさんが言ったとおり、若いメイドを、みるるんと呼んだ。



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