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441、ラフレアの森 〜異界の超薬草

「ラフレアって……」


 ゼクトさんの言葉の意味がわからない。


「だから、ラフレアだよ」


 彼は、地面をトンッと踏んだ。ラフレアの株のこと? ここはラフレアの株の上に土砂が堆積してできた森だ。


 そういえば、さっきはなんだか、親らしき感覚が沸いてきたっけ。でも株というより、花のように移動していたけど。



「誇り高き精霊ラフレア?」


 そんな言葉が、なぜか口から出てきた。するとゼクトさんは、パチンと指を鳴らした。


「思い出したぜ! 確か、絵にはそんな説明が書いてあった。さっきのヴァンは、透けて見える巨大すぎる花だったから、取り込まれたかと焦ったぞ」


 あ、やはり株じゃなくて、花の姿だったのか。


「そんなものに化けていたんですね」


「いや、あれは変化へんげじゃねーな。精霊憑依じゃないか? だから、ラフレアの力を使えたんだろ」


 精霊憑依を使うと、言葉を発するときに念話になってしまう。だけど僕は普通に話せていた。ラフレアは何か違うのだろうか。


 ふと、鎧騎士が僕の視界に入った。不機嫌そうな雰囲気だ。デュラハンは誰かと話しているのだろうか。僕が見ていてもスルーしている。普段なら、何か文句を言ってくるはずだけど。


 あっ、デュラハンは実体を持つ精霊だから、普通に話すし、すべての人に見える。ラフレアも見えるからか? そもそもラフレアって、精霊だっけ? 精霊系の植物であって、精霊ではないような……。


 ゼクトさんは、ニヤニヤしているんだよな。これは、珍しい現象を見て、めちゃくちゃ楽しくなっている顔だ。



「黒く見えた花を溶かしたのが、ラフレアの力でしょうか」


「茶色の斑がある花への攻撃か? あれは、ヴァンの力だろ。王都の薬師があんな感じで、毒薬を使ったのを見たことがある。その後の方だよ。ドバーンって、周りを総攻撃したじゃねーか。アレは、異界に広く閃光が走ったぜ」


「あー、光の矢?」


「矢には見えなかったな。この周辺と、この付近の影の世界を浄化したみたいだ。かなりの範囲を一掃した感じだぜ」


 折られたつぼみを見て感じた怒りは、ラフレアの怒りだったんだ。影の世界を攻撃する力は、当たり前だけど僕にはない。


 あの不思議な衣は、ラフレアを憑依していたということか。いや、ラフレアに操られたのかもしれない。




「ヴァン、見てみろ。しょんべんが吹き出してきたぜ」


 地面から水が勢いよく吹き出している。


「わっ、ここにいると、びしょ濡れになりますよ」


 僕は慌てて、ゆるやかな斜面を登る。ラフレアの森の小さな池は、窪地にできるんだよな。



『ヴァン、ラフレアが詫びに必要な薬草を生やすって言ってるぞ。どんな薬草がいるんだ?』


 デュラハンの声が頭の中に響いた。デュラハンは、少し離れた場所で何かしているようだ。首無しだから、どこを見ているのかわからないんだけど。


 デュラハンさん、教会で待ってもらっているお婆さんの、背中の綻びを治療したいんだ。だから、異界の超薬草が欲しい。この森には、暗光草か嬉々草があったと思うんだけど。


『わかった。ラフレアが、そこで待ってろって言ってる。じゃ、オレは疲れたから帰るぞ。昼間に呼ぶなよな』


 召喚しろって言ったのは、デュラハンじゃん。


 でも、何をしてたんだろう? 弱音を吐かないデュラハンが疲れたと言うくらいだから、何かにチカラを使いすぎたのかもしれないな。


 ブラビィは……まだ、僕の腰にアクセサリーのふりをしてぶら下がっている。いろいろな調整をしてくれているのかな。




「ヴァン、ちょっとおかしいぜ」


 吹き出す水の勢いは、まだ衰えない。


「確かに、窪地から溢れそうな勢いですね」


 僕がそう言うと、ゼクトさんは首を横に振った。溢れることはないということか?



「あ、あの〜」


 不安げな悲鳴に近いような声が聞こえた。ラフレアハンターの冒険者か。かなり離れた場所から、僕達を見ている。


「おまえらは、動くなと言っただろ! いま、ラフレアが脈打っているのがわかるだろ? 下手に動くとゴミとして始末されるぞ。おまえらをラフレアは許してねーからな」


 ゼクトさんがそう怒鳴ると、冒険者達は、うなり声に似た変な声をあげた。


 冒険者達の周りは、つぼみが取り囲んでいる。緑色の人面花に囲まれると不安だよな。


 だけどおそらく、つぼみ達は、あの冒険者達を守っているんだと思う。


 つぼみの声は理解できないけど、なんだか僕を見る表情が自慢げなんだ。褒めてくれと言っているように見える。


 さっき、不思議な衣をまとったからか、僕の目に映るラフレアのつぼみや花の印象が変わった。これまでは恐怖心や気持ち悪さを感じでいたけど、なんだか可愛らしく見える。


 いや、人面花は気持ち悪いんだけど……パッと見た印象というか何というか……変や感覚だな。




 突然、小さな池が、いろいろな色に輝き始めた。


「すごい、綺麗ですね」


「何を言っているんだ? ヴァン」


 ゼクトさんには見えてないのか?


「池がいろいろな色に輝いていますよね?」


「は? 水面から変な霧が出ているな。あー、しょんべんをしたばかりだからかもな。ククッ」


 また、しょんべんって……。



 ケラケラと笑ったゼクトさんは、ふと黙った。そして驚きに目を見開いている。


 池の周りには、スルスルと草が生えてきたんだ。生育魔法だな。だけど、僕達が使う生育魔法よりも高度なものだ。こんな様々な種類を一度に生やすことなんて、人間には不可能だ。


 デュラハンは僕のリクエストを、ラフレアに伝えてくれたようだ。しかも、見たことのない薬草も生えている。



「ヴァン、おかしなことになっているぞ」


 ゼクトさんは、異界の影響だと思ったのか、警戒した表情だ。あたりのサーチを始めたのか。


「さっき、デュラハンから欲しい薬草を尋ねられたから、僕がリクエストしたんですよ」


「は? なぜデュラハンが……あぁ、アイツがラフレアとの通訳をしたのか」


「通訳というか、まぁ、そうかもしれません。ラフレアからのお詫びらしいのですが……何の詫びかは聞いてなかったな」


「ふぅん、なるほどな。精霊師の身体を勝手に借りた詫びじゃねーか? ククッ、しばらくはこの付近の影の世界には、何も近寄らないはずだからな」


 ゼクトさんはニヤッと笑った。


「光の矢を放ったからかな」


「あぁ、異界のあちこちに、おまえが飛ばした何かが見える。影の世界の住人が嫌がる光を放っているようだ。あれが消えるまでは、堕ちた神獣も、近寄れねーだろ」


 そうだ、ゲナードに似た人面花が居た。あれは、ラフレアの赤い花が殺されて、悪霊に乗っ取られていたということだ。


 誇り高い精霊だと自負するラフレアにとって、許しがたい屈辱だったのだろう。だから、僕にチカラを貸してくれたのか。じゃなきゃ、契約もない精霊を、憑依できるわけないもんな。




 池の光が収まってきた。


「ゼクトさん、僕は薬草を摘んできます」


「あぁ、俺も行く」


 護衛のつもりかと尋ねようと振り向くと、ゼクトさんは、少年のように目をキラキラと輝かせていた。


「ゼクトさん?」


「ククッ、影の世界の草がこっちの世界に生えているって、きしょいよな」


 きしょい? 



 僕の後ろをゼクトさんは付いてくる。いつもとは逆だ。



 僕は、薬草サーチを使いながら、必要な薬草を摘んでいく。見たことのない薬草は、触れるだけで命を落としてしまう危険なものもあるかもしれない。


 やはり……ヤバイのがあった。


 小さな淡い黄色の花を咲かせている草……。これは、影の世界の超薬草だ。この可憐な花には強烈な毒がある。


「あー、ゼクトさん、ちょっ、止まってください。その黄色の花に触れると死にますよ!」


「ククッ、わかってるって。俺の危機探知系の技能が全部、ビービー鳴ってうるさいぜ」


 いいなぁ、その技能。



 僕は、黄色の花を咲かせている超薬草を数本、農家の技能を使って引き抜き、風魔法で根を切り、そして根は土に戻した。


 これは、このまま魔法袋へは入れられない。僕は、使い捨ての魔法袋に入れてから、結界付きの魔法袋へと収納した。


「ヴァン、そんなヤバイもんを持って帰るのか? 魔石持ちの魔獣でも、その花を食わせると簡単に死ぬぞ」


「これは、異界の虹花草みたいです。おそらく万能な超薬草ですよ。花粉は猛毒だから、花に触れなければ大丈夫です。それに、この毒がいいんですよ」


 僕がそう説明すると、ゼクトさんは怪訝な顔をした。


「ヴァン、おまえ、頭大丈夫か?」


「なっ? 誤解ですよ? これほどの猛毒は効果を反転させれば、蘇生薬が作れます。まだ、僕のスキルでは無理だけど」



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