表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

440/574

440、ラフレアの森 〜怒るラフレア

 僕はジョブの印に触れ、沸き上がる感覚に身を任せた。焦りも強く感じる。そしてこれは怒りだろうか。身体の中をマナがすごい速度で駆け巡る。


 右手の甲のジョブの印は、徐々に熱くなっていく。印に触れているだけなのに、何が起こっているんだ? 


 突然、僕の身体から、何かが吹き出したような感覚を感じた。だけどゼクトさんさえ、それに気づかない。


 僕の身体を半透明な何かが覆っているようだ。人の目には、見えないのか?



 するとゲナードに似た顔を持つ花は、僕を警戒して少し離れた。


「ヴァン、何をした? まとうオーラが変色したぞ」


 ゼクトさんが僕の顔の前で、手を動かしている。僕に意識があるかを確認しているのだろうか。


 彼には、オーラに見えているのか。これはオーラではない。半透明な色とりどりに輝く衣のようなものだ。触れると少しヒヤリとしていて、弾力がある。



 ゲナードに似た人面花とは別の花が、急接近してきた。コイツも、まだら模様の花だ。それに……。


「ゼクトさん、危ない! 茶色のぶちがある花が……」


 僕が言い終える前に、ゼクトさんはバリアを張った。だけど彼は、ラフレアの花より僕の方を見ている。



「ヴァン、それは……」


 心配そうな顔をしてくれるゼクトさんに、僕は笑みを作ってみせた。


 僕の身体を覆っていたデュラハンのまがまがしいオーラは消えている。それに代わって、不思議な衣をまとっている状態だ。


 だけど、デュラハンの加護は消えていない。半透明な衣の中の僕は、鎧騎士の姿のままだ。



「もしゲナードが現れたらこうしろと、お気楽うさぎが言ってたんです。どうなっているか、僕にはイマイチわからないですけど……」


「まさか、全開放か? それでそんなことに……」


 ゼクトさんがそう叫ぶと、冒険者達は驚き、これまでとは違うバリアを張ったようだ。


 全開放? ブラビィは、そんなことは言ってなかった。


「感情に任せただけです。デュラハンの加護があるときなら、気にしなくても大丈夫だと言ってました」



『おい! 気にしろよ! オレは忙しいんだぞ。ってか……はぁ、やべぇことしてんじゃねーぞ。仕方ない、オレを呼べ』


 デュラハンが文句を言ってきた。


「ゼクトさん、ちょっと、口の悪い精霊を呼び出していいですか?」


「あぁ、召喚しろと言ってきたのか」


 僕が頷くと、ゼクトさんは苦笑いだ。



『デュラハン、召喚!』



 僕の身体に魔法陣が現れ、首無しの鎧騎士が現れた。


 デュラハンが出てくると、緑色の壁は、慌てて後退していく。つぼみまでが、トラウマになっているみたいだ。


 以前デュラハンは、ラフレアの色とりどりのじゅうたんの上で、鉄球を振り回して無双してたからな。



「ひっ……首無し……」


 冒険者達はデュラハンに驚き、顔を引きつらせている。ラフレアハンターなのにな。それほど、デュラハンが悪名高いってことか。



「ヴァン、どうするつもりだ?」


 やはりゼクトさんは心配してくれている。なぜだろう?


「おい、おまえ! 援護しろよ。影の世界からの干渉が半端ねーからな。オレとおまえは、ヴァンのサポートだ。こんなヴァンは、何をするかわからねーからな」


 デュラハンがゼクトさんに、無茶なことを言っている。


「意識は大丈夫か? 全開放なんか使うほどヴァンには魔力が……あー、そういうことか。ククッ、わかった。援護する。冒険者は邪魔だ。ここでジッとしてろ」


 ゼクトさんは、ニヤッと笑みを浮かべた。何に気づいたんだ?



「ヴァン、おまえは好きに動け。お気楽うさぎもサポートを開始したから、何をしても構わねーぞ」


「えっ? わかった」


 僕の腰には、いつの間にか、黒い毛玉がアクセサリーのふりをしてぶら下がっている。ゼクトさんは、ブラビィが現れたから、安心したんだな。




 僕は、まだら模様の赤い花が先回りした、ラフレアの小さな池へと歩いていく。


 地面には、僕達を先導していた赤い花たちの花肉片が、散らばっている。茎を折られたつぼみも転がっている。


 僕は思わず、転がっているつぼみに触れた。


 人面花は目を見開いたまま死んでいる。僕は、つぼみの顔にそっと触れ、見開いた目を閉じた。


 許せない。


 この子は、人の顔ほどの大きさしかない。まだ生まれてからの日が浅いんだ。それなのに茶色の斑のある花が……ラフレアの花がつぼみを殺すなんて、ありえない。


 許さない。


 僕は、怒りがフツフツと沸き上がってきた。



 空を埋め尽くす、まだら模様の狂った花。茶色の斑のある花には、生体反応がないと言ってたっけ。


 ラフレアの赤い花を狂わせているのは……とっくに消滅しているはずの堕ちた神獣ゲナードか。北の大陸の神獣テンウッドがゲナードを使って、こんなことをしているのか?


 ありえない。ラフレアは、誇り高き精霊。それをもてあそぶような行為は、直ちに排除する!


 えっ? 僕は何を……。



 グンと視点が高くなった。勝手に変化へんげが発動したのか。


 周りを見回すと、つぼみが僕を見上げている。ふふっ、かわいい子供達……。


 はい? 何だ? この感覚は。



 空を埋め尽くしている花は、僕の方を見て慌てている。だが、茶色の斑のある花は……あれ? 真っ黒な花だ。死花と化して、悪霊に操られているのが見える。



 許さない!



 僕は手を向けた。あっ、手がない。だけど手を向けた感覚はある。何かに化けているためか? 


 だが僕は、不思議な半透明な衣をまとっているだけだ。手を動かせない感じはないが。



 許さない!!



 地面に落ちていた花肉片が、僕の手元にまで浮かび上がってきた。あぁ、愛しい子供達をこんな目に……。


 うん? 変な感情が沸いてくる。まるで、僕は誰か別人と同居しているかのような……、



 僕は手から、何かを放った。


 液体? いや、水滴のような何かが、スーッと静かに、空に向かって飛んでいく。雨が逆に降っているかのような錯覚を感じる。


 これは薬師の調薬、いや毒薬の調合か? だけど、何かが違う。雨のような水滴はキラキラと輝いている。この光は、精霊師の……。



『ギグ、ヤヤヤ……』


 黒く見える花が溶けていく。操っていた悪霊が慌てて逃げようとしている。



 逃がさない!


 ズッパーーンッ!



 僕の身体から、無数の光が飛び散るように広がった。光の矢は、至る所に飛んでいく。


 逃げようとしていた悪霊も、光の矢に射抜かれて弾け消えた。


 な、何だ? こんな技能なんて……。



 戸惑いながらも、僕は進んでいく。歩こうとしても足は動かない。足を見ると……確かにある。足も動かないようだ。この不思議な半透明な衣のせいだろうか。


 意識を向けると、行きたい方向へ移動できる。



 まだら模様の赤い花は、僕を見てオドオドしている。一度、怒りをあらわにすると、数日は消えないのよね、ふふっ、慌てているわ。


 えっ? いま僕は何を?



 小さな池に着いた。確かに、たくさんの装備品が落ちている。その中にはいくつか異質なものがあった。あれが、冒険者が捨てたものか。


 地面にも嫌な臭いを放つ場所がある。ここで彼らは……。


 僕は、その場所に手を向けた。手は動かないんだけど。


 そして何かを放つ。消臭剤か? キラキラ光るのは、なぜだ?


 しばらくすると、異質なゴミから違和感が消え、気になる臭いも消えた。やはり消臭したのか。



「キミ達がケンカばかりするから、影の世界から干渉されるんだよ。ラフレアとしての誇りはどうしたの? 貴女達は、気高き精霊なのよ!?」


 あれ? また、なんだか……。



 まだら模様の花は、ジリジリと僕から逃げていく。人面花は、その表情がよくわかる。親に叱られた子供のように、泣きそうな顔をしているんだ。



 その場所から、まだら模様の花が居なくなると、僕の視点はスーッと低くなった。


 そして、僕をまとう半透明な衣が、パッと消えた。




「ヴァン、大丈夫か? お気楽うさぎも問題ないか?」


 ゼクトさんが駆け寄ってきた。とんでもなく心配しているみたいだ。


「ゼクトさん、僕は大丈夫です。ブラビィは……余裕みたいですね」


 そう言うと、お尻に蹴りが入った。ふふっ、やっぱり元気じゃないか。


「そうか。よかった。ラフレアに取り込まれたかと焦ったぜ」


「えっ? ラフレア? 僕は、半透明な衣をまとっていただけですよ。なんだか、技能がごちゃ混ぜで勝手に発動したり……あっ、変な感情が流れ込んできましたけど」


 僕をあれこれサーチして、やっとゼクトさんは、ホッとした表情を浮かべている。



「さっきのヴァンの姿は、おそらくラフレアだ」


「それ、今も同じことを聞きましたよ?」


「あぁ、ラフレアの花じゃなくて、ラフレアだ。俺は、絵でしか見たことないがな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ