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434、自由の町デネブ 〜国王の説得は不可能

「フリック様、とてもじゃないですけど、国王様には……」


「気にするな、フラン。私は、隠れ住むことには慣れている」


 神官様は戸惑いつつも、やわらかく微笑んでいる。


 国王様の視線が外れると、彼女は僕をキッと睨んだ。そんな顔をされても、僕だって困っているんだ。




 国王様は、あの後、魔道具を起動させて、黒石峠に残っていた人達を全員、デネブのドゥ教会へと移動させたんだ。土の精霊様が作った箱の中で眠っていた人達も、全員だ。


 だがら今、教会の中には、国王様とその側近と兵、そしてフロリスちゃんと同じ箱の中にいた人達がいる。


 他の2つの箱にいた貴族の人達は、デネブに着くとすぐに、寝ぼけ眼で帰って行った。


 箱の中にいた人達は、みんな寝てたみたいだ。おそらく、光の精霊様の封印の効果だろう。



 魔道具で転移しないはずの六精霊も、僕達を追うように、なぜかデネブへと移動してきた。


 デュラハンは、黒石峠に棲家があるから来ていない。国王様の契約妖精バンシーは姿を消したようだ。


 困ったことに、光の精霊様を追って、大量の蟲達もデネブに来てしまったんだ。あー、だから、六精霊は帰れないのか。蟲達を惹きつけ、おとなしくさせているのは、光の精霊様だ。




「フリックちゃんが師匠の家に泊まるなら、あたしも〜」


 いやいや、ララさん……。


「フランちゃんの家に泊まるの? 私も?」


 フロリスちゃんまで、何を言ってるんだ? 少女が抱きかかえる天兎は、めちゃくちゃ嫌そうにしている。


 そういえば、フロリスちゃんは、もう1匹天兎を飼っていたよな? 成体になったのだろうか。幼体のままなら、もう死んでしまっているかもしれない。気になるけど、フロリスちゃんに尋ねるわけにもいかないな。


「バトラーさぁん、ヴァンくんの近くにいる方が安全ですよね〜。また、フロリス様のぷぅちゃんが狙われるかもしれませんよ〜」


 ノワ先生は、寝ぼけ眼だ。だが確かに、フロリスちゃんがまた狙われる可能性は高い。


 ぷぅちゃんが狙われたことにしてあるけど、影の世界の人達の狙いは、自分達の邪魔になる者の排除だったよな。


 神矢が降るまでは、状況は変わらないか。



「フラン様、構いませんか? 黒石峠に近いスピカの屋敷に居るよりも、ここの方が安心です」


 バトラーさんは、神官様にそう尋ねた。フロリスちゃんのことを考えると、お気楽うさぎのブラビィが守るこの町の方が安全か。


 だが、ここデネブは、北の海に近いんだよな。普通に歩いて行ける距離だ。


 それに国王様がここに居座るなら、断然、リスクは高まる。いや、逆か。守るべき人達をこの町に集めておく方が守りやすいとも言える。


「バトラーさん、この町に泊まるなら宿を利用してください。話がよくわからないですが、ここに居ても……」


 神官様は、中庭を気にしている。六精霊とゼクトさんが中庭にいるためだ。いや蟲を気にしているのか。


 彼女は、僕に何かを合図してきた。中庭の様子を見てこいということかな。



「ちょっと、僕は中庭を見てきます」


「ヴァン、逃げないでよね」


 えっ? 神官様の片眉があがった。さっきの合図は、そういうことじゃないのか?


「でも、中庭が……」


 泥ネズミ達の声が聞こえる。大量の蟲に驚いているみたいだけど……。


「ヴァン、皆さんにお引き取りいただくように、キチンとお話して。勝手に連れてきて、どうするつもりよ」


 神官様は、小声で僕にそう言った。中庭の方をチラチラ見た合図は、彼らを外に追い返せということだったのか。


 そんなの、無理に決まっている。



「フラン、私はリースリング村で長く隠れ住んでいた。それに、ヴァンが依頼した薬屋の警護の仕事もしていたぞ。その報酬を私はもらっていない。だからその報酬として、しばらくここで世話になる」


 国王様がそう言うと、神官様は固まってしまった。だよね、びっくりするよね。


 そして、僕の方を見て、目をパチパチさせている。あー、これは、この話を信じられないということだな。だけど、彼女は立場上、国王様の言葉を否定できない。


 国王様は、その様子を見て、子供のようにニヤッと笑った。彼は、こうして意見を通してきたのか。相手が反論できないような理由を並べる。確かにズル賢い。



「国王様、それは、ドルチェ家からの依頼でしたよね?」


「スピカに新たに作るヴァンの薬屋の護衛だと聞いた。だから、雇い主はヴァンだろう?」


 やはり反論しても、僕には国王様を説得することは不可能だ。チラッと神官様の方を見ると、片眉があがった。これは絶対に怒っている。


 どうしよう……あっ、国王様が嫌がる条件を出せばいいか。ついでに、ララさんもお引き取りいただこう。



「そうですか。それなら、僕はドゥ家当主の伴侶として、言わせてもらいます。このドゥ教会の主人は、僕の妻です。ここに滞在するなら、彼女の指示には従ってもらいます。それができない人には、滞在許可は与えません」


 ふふっ、プライドの高いララさんや国王様は怒って帰るよね。あっ……怒りすぎて剣を抜かれたらどうしよう。


 一瞬、シーンと静まり返った。ま、まずい、精霊様もゼクトさんも中庭だ。



「ふむ。構わぬぞ。ドゥ教会の規律に従う」


 えっ? 国王様は素直に頷いた。


「師匠〜、何を当たり前のことを言ってるのぉ〜?」


 ララさんは、キョトンとしている。


「私もフランちゃんの教会に泊まれるね〜。ちゃんとフランちゃんの言うこと聞くもの」


 フロリスちゃんまで……。


 神官様の片眉があがった。やばっ、彼女は、めちゃくちゃ怒ってる。



「ドゥ教会では、皆、働いています。教会の掃除や、礼拝に来た信者さんの案内、軽食も提供しますからその用意や片付け、様々な雑務があり……」


「ちょっとヴァン、それはさすがに……」


 神官様が迷いながらも、僕を制した。さすがに失礼だったか。ここに居たいなら、雑用をしろと言ったんだもんな。



「ふむ。私には神官中級のスキルがある。母の血だろうな。だから、教会の仕事を経験してみたいと思っていた」


 えっ!? 国王様……。ちょ、僕は神官下級なのに。


「師匠がグミポーションの作り方を教えてくれるまで、あたし帰らないからね〜」


 今すぐ教えますよ、ララさん。


「私、フランちゃんのお手伝いするよ〜。知らない町で楽しそう」


 フロリスちゃんは、目をキラキラと輝かせている。確かにずっとスピカに居るもんな。ファシルド家の屋敷から出るときは、魔導学校に通うときだけだろう。



 神官様が、僕にまた合図を送ってくる。だけど、もう僕には無理だ。国王様を説得できるわけないし、キラキラなフロリスちゃんにダメとは言えない。


 すると、彼女は小さなため息をついた。


「わかりました。ですが、ここでは身分は伏せておいてください。奴隷だった人達の集まる町です。そして、ドゥ教会は、何かに失敗してやり直しをしようとする人達を導く教会ですから」


「承知した。ならば早速、この町の空き地に小さな屋敷を造るとしよう。私がここにいると、王宮の者がちょろちょろ来るだろうからな」


 なんだ、別邸を建てるんだ。心配して損した。神官様も、ホッとした顔で口を開く。


「では、その屋敷の準備が出来るまでの数日間であれば、客室にお泊りいただいても……」


「フラン、何を言っている? 私は、ここで見習い神官をするぞ。屋敷を建てるのは、ここに王宮の者が来ないようにするためだ。国王として必要な雑務を行うためだけの屋敷だぞ」


「えっ……」


 神官様は、ポカンと口を開けている。僕も同じだ。それって、まるで……国王様がこの町に引っ越してくると言っているように聞こえる。


 国王様はそんな僕達の顔を見て、満足げに笑っている。悪戯っ子かよ。


 あっ、違う。国王様は、王宮に帰るのが怖いのか。


 黒石峠では、近衛騎士の本音を聞いてしまったんだもんな。彼に仕えるほとんどは、前国王への忠誠心しかないようだ。



「ですが国王様、王宮を留守にしてしまうと、近衛騎士や側近の方々が、心配されませんか」


 神官様が彼に残酷なことを尋ねた。彼女は、黒石峠でのことを知らないから……。


「私が居る場所が狙われる。だから王宮の者達は、ホッとするだろう」


 国王様は何事でもないように笑った。僕は心がズキンと痛んだ。


「ですが……」


「フラン様、その件については、その通りなんですよ。ノレア神父が、神獣テンウッドを怒らせたので」


 僕は、彼女の反論を止めた。あとで説明しよう。




『わ、我が王! た、たたた……』


 リーダーくんが僕の頭の上に、ポテっと落ちてきた。



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