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432、黒石峠 〜蟲の木箱の謎

『ちょっと〜、デュラハンっ! この子達は、まだセンスが悪すぎるんだからねっ。邪魔しないでっ』


 光の精霊様が、まるで蟲達をかばうかのように、デュラハンをビシッと指差している。


「は? お子ちゃま精霊が何を言ってんだ? 夜が明ければ、影の世界の住人は、力が半減する。バリアの消えた蟲が太陽光から逃れるために、オレの棲家に入り込むじゃねーか」


 バリアが消えた? そういえば蟲からは、まがまがしいオーラが消えている。今なら焼き払えるのか。


 そう考えた瞬間、デュラハンがこちらを向いたような気がする。首無しだから、正確には、鎧の向きが変わったってことだけど。


 いや、こんなことを考える僕は、影の世界の住人から見れば、害獣か。


 もう、蟲は、洗脳状態ではない。覇王はわからないけど、洗脳系の技能はいったん破られると、同じ術者の技能にはかからないはずだ。


 影の世界の住人と共存していくことは、当然難しいと思う。この蟲達との共存さえできないなら、不可能だ。


 デュラハンが召喚しろと言ってきたのは、その調整役をしてくれるつもりなのかな。




「光の精霊様、この場所の脅威は去りましたよね?」


 僕がそう尋ねると、なぜかキッと睨まれた。ラクガキをやめろと言われたとでも感じたのか。


『ヴァン、光の精霊が去ると、蟲は木箱に戻るだろう。再び夜が来ると、同じことが起こる』


 土の精霊様が、そう教えてくれた。


 ゼクトさんも、ハッとして木箱に視線を向けている。僕にはわからないけど、木箱には、まだ発動していない仕掛けがあるようだ。


 火の精霊様が焼こうとしても、木箱は燃えない。ゼクトさんも燃やそうとしたけど、燃えなかったんだ。


 なぜだ? 


 魔法も精霊のチカラも排除するような仕掛けを、ベーレン家が作れるのか?




「腹黒国王、おまえらは、もう帰れ。神矢の件は、きちんと進言したのだろうな?」


 ゼクトさんはそう怒鳴った。だけど、これはきっと彼の優しさだ。国王様が帰らないと、黒石峠に集められた貴族達も帰れない。



 もう空は、だいぶ明るくなってきた。


 おそらく、ゼクトさんは、木箱に蟲が戻ったら何かの処置をするつもりだ。



「いや、私は王都には戻らない。自由の町デネブに行く」


 はい? デネブに来る!?


「フリック、おまえ、何を考えている?」


 ゼクトさんはそう尋ねたけど、理由は明らかだ。国王様が氷の神獣テンウッドに狙われているなら、彼のいる場所は、常に危険だからだ。


 王宮の騎士や兵の反応は、まちまちだな。だけど、国王様を心配するような視線もある。



「神矢は、自由の町デネブ付近に降らせるよう、依頼した。私も、スキル『道化師』の神矢を得たい」


 ええっ? デネブに神矢が降るの?


 僕は、13歳の誕生日の前日のことを思い出した。おでこに、金色の神矢が刺さって驚いたんだっけ。


「おまえなー、それは、影の住人に拾わせるための神矢だろ。北の大陸に降らせるべきじゃないのか」


 ゼクトさんが呆れ顔でそう言うと、国王様はニヤニヤと悪戯っ子のように笑う。


「北の大陸からデネブにかけての広域だ。海に落ちると海竜が集めてしまうだろうが、それはそれでいい」


 きっと、マリンさんが集めるよな。それを、国王様は知っているのか。


 マリンさんは神矢を見ると、何のスキルの神矢かがわかるみたいだ。いや、道化師だけがわかるのかもしれない。だから、海竜の島には、あんなにたくさん集めてあったんだ。


 スキルの青い神矢は、触れると吸収してしまうのに、どうやって集めるのかは謎だけど。



 ゼクトさんは、何か力を使っているみたいだ。淡い光が見える。神矢ハンターのチカラか。


「フリック、神矢が降るのは、まだ先じゃないか。それまで、デネブに居座る気か」


 やはり、神矢が降る時期を調べたんだ。


「私は、まだまだ未熟だということが、今回の件でよくわかった。だから、少し学ぼうと思ったのだ」


 国王様がそう言うと、ゼクトさんは怪訝な顔をした。いや、違う。嫌そうな顔をして見せているだけだ。


「フリック、俺は暇じゃねーんだ。ラフレアを狩りに行かなきゃならねぇし、ボックス山脈を見張る必要もあるからな」


 そうだ、ラフレアの大量すぎるつぼみ……ボックス山脈の方が多いんだよな。


 僕というか竜神様の子達と会ったことのあるつぼみは、まだ大丈夫かもしれないけど、それはほんの一部だ。大半は、開花すると狂うと言っていた。


「別に、ゼクトに用はない。私が学ぶべきなのは、ララさんの師匠だ」


 うん? はい?


 国王様が僕の方を向いた。


 えーっと、あっ、そういえば、ララさんはどうしてるかな。



 僕は気づかないふりをして、フロリスちゃん達がいる四角い箱へと向かっていく。大量の蟲がいるから、外から呼ぶわけにもいかない。


 土の精霊様が、僕の後ろを付いてくる。僕が、彼女達を気にしていることがわかるんだな。



「土の精霊様、中の様子は……」


『みな、眠っている。光の精霊の封印があったからな』


「絵は蟲に食われたのに、大丈夫なんですか」


『あぁ、完全に解かれてはいない。もし、そうなら、壁は崩れている』


「そうですか。よかった、眠れてて」


 僕がそう言うと、土の精霊様は大きく頷いてくれる。




『ねぇ〜、壁が足りないよっ』


 光の精霊様が叫んだ。


 うん? デュラハンは、何をしているんだろう? 壁に寄りかかって、たそがれている。いや、もしかして魔力切れか? 夜が明けてきたもんな。


 僕は、デュラハンの方へと歩いていく。


 土の精霊様は無言で、光の精霊様の近くに土壁を出している。キラッキラな目をした光の精霊様に反論する根性は、きっと誰にもないよね。



「デュラハン、魔力切れ?」


 そう尋ねたけど、デュラハンに手で制された。何かしてるのか。僕は、りんごのエリクサーを手で潰して、鎧に放り込んだ。


 うん、吸収している。もう一つ、いるかな?



 すると突然、頭の中に映像のようなものが流れた。真っ暗な場所で、何かを作っている。断片的に途切れる。いや、時間を遡っているような映像だ。


 こんなことができるのは、ブラビィだな。だけど、デュラハンから何かが流れてくる。デュラハンが経由しているのか。


 大きな生きている木が見えた。枝葉を揺らす魔樹は、ボックス山脈にもあるらしいけど、異界の樹木に特徴的な葉の黒さ。僕は、影の世界の何かを見ているのか。


 その木が生きたまま凍って、水分が抜けていく映像。そして、堕ちた精霊が何かに閉じ込められて苦しんでいる。真っ暗な場所、そして緑色の血が滴る。


 緑色の血は、異界の魔物か。そして、何かが押し潰されるような……うーん、よくわからない。それをさらに、黒いマナが覆う。



 パッと映像が消えた。


「おい、いつまで待たせる?」


 デュラハンの声で、ハッと我に返った。僕は、りんごのエリクサーを潰して、鎧に放り込んだ。



「デュラハン、今のは何?」


「さぁ? お気楽うさぎが送ってきた。蟲の記憶らしーぜ」


「蟲の記憶?」


「あぁ、ここに送り込まれた蟲には、親がいるみてーだな。親というか、オリジナルか。それを複写するようにして、コイツらは増産されている」


「えっ? 蟲の……」


「蟲を創り出すために、樹木を混ぜてるんだろーな。木箱は、コイツらと一体化しているかもな」


「どういうこと?」


「木箱は、影の世界の魔樹だ。この中に戻ると、コイツらは指示を思い出すかもな」


 デュラハンは、可能性の話ばかりだ。


「どうすれば良いの?」


「わからねー。だから、おまえにそのまま見せたんだ。もう、日が昇ってきたぞ」


 僕に考えろってこと? ちょ……うん? 魔樹? 木?



「土の精霊様!」


 僕は、思わず叫んだ。


『なんだ? どうした』


「前に見せてもらったアレをしたいんです。土の中に入っていくような感覚のやつ」


『は? あー、わかった』


 僕は上手く説明できてない。だけど、僕の頭の中を覗いてくれたんだ。



『土の精霊、憑依!』


 僕は、地中へと潜った。そして、辺りを見渡す。地中からマナが集まり、スーッと消える。やはりそうだ。木箱の下にマナが消えていく。


 さらに遠くを見ようと意識する。黒石峠の地中には、多くの生まれようとする妖精や精霊が見える。だが、生まれないんだ。木箱に吸収されている。


 僕は、地上へと戻った。


「土の精霊様、ありがとうございました」


 そう言うと、土の精霊様は、僕の身体からスーッと出て行く。


『なるほど、そういうカラクリだったのか。ヴァン、よく気づいたな』


「はい、デュラハンが見せてくれた蟲の記憶から、思いついたんです。生きている魔樹なら、きっと根を張る」



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