429、黒石峠 〜ジョブボードを見て悩む
『ちょ、何なのよぉ〜っ!』
光の精霊様が、空を見上げて怒っている。ラクガキをしている途中の土壁が消えたようだ。
あのラクガキは封印だと言っていたっけ。人々を覆う、白く輝いていた四角い箱は、輝きが消えているが、形は残っている。
土の精霊様が作った土壁だけの箱は、湯気のようなモノが吹き出したことで、消えてしまったようだ。
アレは、湯気じゃない。
兵らしき悲鳴も聞こえた。
「風の精霊様、地上へ降ろしてください」
『ヴァン、襲撃者の兵器が使われた。土の精霊の堅固な壁を吹き飛ばすほどの兵器だぞ』
「あれは、おそらく……」
僕は、上を見上げた。この多重結界のさらに上に、襲撃者がいるんだ。
一瞬、結界に隙間ができた。その直後、僕をめがけて何かが落ちてくる。だが風の精霊様が、すばやく動いて避けてくれた。
その隙間から見えたのは、空に浮かぶ人間の群れだった。人を群れと表現するのはおかしい。だけど群れだと感じた。人間の形をしているけど、人ではない。
『バカな奴らだ。結界を張らなければ、死なずに済んだかもしれないのに』
『もう、引きあげようぜ』
『まだ、国王が死んでいない。国王が死んだら、魂を捕獲しろとの命令だ』
奴らの声らしき声が、頭の中に響いた。誰かのチカラか? チラッと風の精霊様の方を見る。
『俺じゃない。この結界は、念話も通さないはずだ。だが、兵器を投げ落とすときには、漏れてしまうのかもしれないな』
「地上へお願いします。手遅れになる」
僕がそう言うと、風の精霊様は頷いた。
『だが、俺達は、ヴァンを守る役割があるのだがな』
そう言いつつ、一瞬で、光の精霊様がワナワナと震えている地上へと降り立った。
「ヴァン、大丈夫か」
ゼクトさんは、強い光を放っていた。聖魔法か。
「はい、風の精霊様が、上空へ逃がしてくれましたから。バーバラさん達は……」
「土ネズミは、穴に潜ったぜ」
ゼクトさんは、地面を指差している。
そうか、彼女達は、土ネズミの姿に戻れる。自由に土の中を動けるから、この兵器への対処としては正解だ。おそらく、彼女達は、木箱が落ちてきた段階で察しただろう。彼女達は、ベーレン家が創り出した変異種なんだから。
辺りを見回してみると、四角い箱の白かった壁は黒くなっていた。いや、黒く見えるだけか。
消え去った箱の中にいた人達は、どうなったんだ? 数人が地面に倒れているのが見える。そしてあちこちに、黒い玉が……。
「ゼクトさん、割れないゴム玉に……」
「あぁ、あれを使っておいて正解だった。だが、時間の問題だ。じわじわと溶かされている。マナを吸収する敵には、無理だな。この趣味の悪いモノは、ベーレン家のアレだな」
「はい、そうだと思います。精霊様達は平気なのかな」
「どうかな。光の精霊は、平気だろうがな」
『平気じゃないよっ! 激おこだよっ!!』
光の精霊様が、僕達の会話に入ってきた。
『あたしの絵を、食べてるんだよっ! あんな生き物、いないよ? 人間が創り出した人工物だよねっ。妖精が使われてる。ひどいよっ』
確かに、その通りだ。ベーレン家の知能は、別の方向に使われるべきなのに。
カタッ
僕の近くに、また木箱が落ちてきた。プシューッと、白い湯気のようなモノが吹き出す。
ゼクトさんが、僕を光でまとってくれた。飛びかかってくる大量の蟲。しかも、まがまがしいオーラを放つ蟲だ。
ボックス山脈で、マルク達が犠牲になった蟲の倍以上の大きさがある。
「もう、そろそろ終わりか。しかし……この量の蟲を焼くには、結界を外さねぇとな」
「ゼクトさん、上空で奴らの話が聞こえました。結界を張ったから、死ぬことになったんだと言っていたから……」
「こんな蟲で、即死はしないはずだ。ということはまだ仕掛けがあるのか?」
「蟲が、結界内に広がるのかもしれません。スピカにまで広がると、大変です」
僕がそう言うと、ゼクトさんはハッとした表情を浮かべた。
「ヴァン、蟲の数が少なすぎねぇか?」
「ゴム玉や壁に、密集していますね」
「おまえ、落ちてきた量を見ていないな? 転がっている木箱の数を見てみろ。ひとつの仕掛けで、ゴム玉なら2〜3個が真っ黒になっていた」
えっ? ゴム玉は10個もない。土の精霊様が作った四角い箱は、3個残っている。そして見える範囲に木箱は、20個以上転がっている。全く数が合わない。
『襲撃者は、異常だ。結界内すべての人間を、じわじわと殺すつもりだぞ』
土の精霊様が、そう教えてくれた。スピカの様子もわかっているみたいだ。
だけどいまさら、結界は外せない。蟲がどこまでも広がることになってしまう。
『焼くと増えるぞ、ヴァン』
火の精霊様が、イラついているのがわかる。
『火の精霊に当たった蟲は、焼けて数倍に増えましたわ。精霊からマナを奪って、増殖するのよ』
水の精霊様は、氷のように冷たい表情をしている。こんなものを創り出した人間に、めちゃくちゃ怒っているんだ。
「襲撃者は、蟲が焼き払われることを想定して、改良したってことか。ボックス山脈の蟲は焼き払えたし、異界にいた蟲も、雷獣が焼き払った」
ゼクトさんは、無表情で呟いた。
彼は、神官家には、これまで散々な目に遭わされているから、慣れたと言っていたが……狂人と呼ばれていた頃の表情に戻ってしまっている。
黒い玉が近寄ってくる。
「おまえ、指揮官だろう? なんとかしろ」
声は聞こえるけど、真っ黒で姿は見えない。
「おまえら、蟲を近づけてくるなよ」
ゼクトさんがそう言って、ゴム玉を蹴る。一部の蟲が地面に落ちた。中にいるのは、王宮の騎士と兵か。
国王様は、四角い箱の中だろうか。
光の精霊様の絵を蟲が食っていると言っていた。封印が消えると、土の精霊様の作った箱は、崩れてしまうか。
「何とかしてくれ。ゴム玉から出た兵は、蟲に襲われて倒れた。王宮でも特に有能な兵が、一瞬でやられたんだぞ」
騎士は必死だ。戦えない貴族が騒ぐなら、まだわかる。だが、騎士だろう? なぜ、国王様の安否を心配しないんだ?
「おまえ、近衛騎士じゃないのか? 若き国王を守るのは、おまえらの役割だろ!」
ゼクトさんが怒鳴った。
もう、ゴム玉の中は見えない。どんな顔をしているのか……。
彼は、前国王に仕えていた人なのだろう。若き国王フリック様への忠誠心は低いのかもしれない。
孤独な国王だな。
だから、ゼクトさんを頼ったのだろうか。子供の頃にいろいろと教わったゼクトさんを。
ふと見ると、ゼクトさんはジョブボードを表示して考え込んでいるように見えた。
僕も、ジョブの印に触れて、ジョブボードを表示してみる。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.6)New!
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.5)New!
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.3)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』極級(Lv.Max)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
●魔獣サーチ
●異界サーチ
●族長
●覇王
『道化師』極級(Lv.3)New!
●ポーカーフェイス
●玉乗り
●着せかえ
●なりきりジョブ
●なりきり変化(質量変化、無制限)
●喜怒哀楽
『木工職人』中級(Lv.10)
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』超級(Lv.3)New!
●精霊使い
●六属性の加護(超)
●属性精霊の憑依
●邪霊の分解・消滅
●広域回復
●精霊ブリリアントの加護(極大)
●デュラハンの加護(極大)
『釣り人』上級(Lv.10)
●釣りの基礎技術
●魚探知(中)
●魚群誘導
『備え人』上級(Lv.3)
●体力魔力交換
●体力タンク(1倍)
●魔力タンク(1倍)
『トレジャーハンター』中級(Lv.3)
●宝探知(中)
●トラップ予感
『神官』下級(Lv.5)New!
●祈り
『薬草ハンター』上級(Lv.10)
●薬草の知識
●毒薬草の知識
●薬草のサーチ(中)
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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いくつかのスキルがレベルアップしているけど、新たなスキルはない。
蟲は死んでもゾンビのように復活する。一体、どうすればいいんだ?
ゼクトさんは、難しい顔をしている。下手なことをして蟲を大増殖させると……この世界が潰されてしまう。




