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427、黒石峠 〜国王に、はめられた?

 黒く長い髪を不気味に揺らしながら、赤い目のバンシーは、僕の顔を覗き込んでくる。


 まるで僕に取り憑いた悪霊のようだな。僕の頭の上に浮かび、逆さになっている。威嚇だろうか。



『あー、もう、うっぜーな』


 うん? デュラハンの苛立つ声が聞こえてきた。



「な、何だ?」


 国王様が慌てた。


 突然、首無しの鎧騎士が現れて、僕にまとわりつくバンシーを引き剥がした。


 呼んでないのに出てきたってことは、何かあるのか。


 デュラハンは、実体を持つ精霊だ。だからバンシーが見えない人達にも、デュラハンの姿は見える。


 王宮の兵達が、剣に手をかけた。デュラハンが現れたのは国王様の近くだから、襲撃に見えるか。



「皆さん、大丈夫です。デュラハンは、僕の契約精霊です。呼んでないのに出てきたってことは、何か事情がありそうですが」


 僕がそう言っても、兵は剣から手を離さない。



「ヴァン、もしかして、バンシーがデュラハンを怒らせたのか?」


 国王様は、明らかに動揺している。


 デュラハンは、何も話さない。たぶんバンシーを睨んでいるだろうな。首無しだから、わからないけど。



「いえ、デュラハンは、そんなことで怒って出てくることはありません。他に理由があるのだと思いますけど、ちょっと今は話せないみたいですね」


 僕がそう言うと、国王様は少し落ち着いたか。兵に、剣から手を離すようにと指示をしている。



 もう、黒石峠にできていた裂け目は閉じたから、僕としては、ここには用はない。メリノスの変化へんげを僕の判断で解除したけど、ゼクトさんは軽く頷いてくれた。


 国王様は、貴族を集めたが、その話も済んだ。


 貴族達は、影の世界との戦乱のキッカケになりそうな行動は、避けてくれるだろう。


 そして国王様は、スキルの青い神矢を降らせるよう、王宮の神殿教会を通じて神に依頼してくれるはずだ。『道化師』の神矢が近いうちに、どこかに降ることになる。


 フロリスちゃんも無事だし、僕をここに呼び出したバトラーさんやノワ先生も救出できた。


 ノレア神父の策が失敗したらしいけど、その報告を受けて国王様は、バンシーを召喚した。おそらく彼女に交渉役を任せ、氷の神獣テンウッドに考えを改めさせるつもりだろう。


 国王様は、バンシーを上手く制御できていないみたいだけど、それは僕にはどうにもならないことだ。


 暗殺貴族アーネスト家当主のララさんや、土ネズミの変異種のバーバラさん達は、僕がここにいるからやってきたんだ。少し疲れた顔をしている。


 もう解散してもいいと思うんだけど……なぜか国王様は動かない。忙しい人なんじゃないのか?


 なんだかゼクトさんの表情が……不機嫌になってきた。ゼクトさんも、帰りたいんだよな。


 だが、なぜデュラハンが出てきたんだ? 何かに集中している気配がする。話しかけると中断させてしまうか。




「飽きちゃった〜、師匠、デネブに帰ろ〜」


 ララさんが、あくびをしながらそんなことを言った。大人はともかく、フロリスちゃんも疲れただろう。


「おまえ、それで本当にアーネスト家の当主か?」


 デュラハンが、口を開いた。やはり何か理由があるんだ。


「師匠〜、不気味な鎧騎士が失礼なんだけど〜」


「ララさん、すみません。デュラハンは口が悪いんです。僕には察知できないけど、デュラハンが何かをしています」


 すると、ゼクトさんが口を開く。


「首無しは、黒石峠からスピカまでの広い範囲に、まがまがしい結界を張っているようだな」


 やはりデュラハンは、何かを察知したんだ。


 僕は、りんごのエリクサーを握り潰して、デュラハンの鎧に放り込んだ。この方がデュラハンは吸収しやすい。




「ヴァン、嫌な予感がしてきたぞ。腹黒国王に、はめられたかもな」


 ゼクトさんは不機嫌すぎる顔で、木いちごのエリクサーを食べた。僕の口にも放り込む。


 ちょ、僕はもう、人の姿に戻っているのに。


「国王様に?」


 僕が国王様の方を見ると、チロッと舌を出している。悪戯がバレた子供のようだな。まさか……。


「ゼクト、人聞きの悪いことを言うなよ。神父ノレアの策が失敗したら、必ず報復がくる。私が王都にいると、王都が吹き飛ばされかねない」


「えっ……国王様……」


 僕は、言葉が続かない。それがわかっていて、王都から遠く離れた黒石峠にわざわざやってきて、長居していたのか?


「フリックちゃん、サイテー」


 ララさんが呆れたような、諦めたような顔をしている。


「これが最適な選択だ。黒石峠には屋敷はない。そして完璧な人選だ。十分な戦力が集まっている。バンシーを呼ぶのが遅すぎた。報復を避ける手段がない」


 いやいや、バンシーは拒否してたじゃん。ゼクトさんが、腹黒だと言っていた意味が、今、よくわかった。


 王都が壊されないように離れていたんだ。もしかして、デネブの冒険者ギルドにもホイホイ来たのは……これは違うか、ララさんの強制力だな。



「フリック、おまえ、ノレアの坊やが失敗したら、俺やヴァンに守らせようと企んでいたな? ヴァンに関する知識が少し歪だと思っていた。誰もが知ることを知らないなんてな」


 ゼクトさんがそう言うと、国王様は、またチロッと舌を出した。ガキんちょかよ。僕よりも年上だよな?


「神父ノレアが敵視する男なら、逆に喜んで私の力になってくれると思っていた。しかも、ゼクトと親しい。これ以上の人選はないだろう? だが、イメージとは少し違ったな」


 国王様は僕の顔を見て、ニコリと微笑んだ。


 どういうイメージだったのか、だいたい想像できる。そして実際に会うと、残念だったんじゃないか? だからデネブのギルドでは、この状況について何も言わなかったんだ。




「フリック、指揮権は、誰に託す?」


 ゼクトさんがそう尋ねると、国王様は僕を指差した。


 はい?


「対人戦では、圧倒的にゼクトやララさんだが、この予測不能な状況では、精霊師が指揮を取るべきだろう」


「ふん、腹黒国王だけあって知恵はよく回るようだな。ヴァン、おまえが指揮官だ。王宮の兵も従えよ?」


「ちょ、ゼクトさん、無茶振りです」


「俺も、ここにいる中では、おまえが最も適任だと思う。バンシーに油断するなよ? 簡単に裏切る」


 ゼクトさんも、国王様がバンシーを制御できてないことに気づいている。だけど、配慮しているんだ。


「わかりました。確かにバンシーは、影の世界に棲む妖精ですからね。影の世界に味方する氷の神獣テンウッドの指示があれば、神獣に従う可能性が高いです」


「ククッ、ヴァン、おまえが奪ってもいいんじゃねーか?」


 いやいや、絶対にいらない。ゆらゆら浮かんでいるバンシーは、僕に近寄ろうとしてくる。赤い目が不気味すぎる。


「まさか。国王様から奪うなんて、あり得ませんよ」




『おい、うぜーのが来るぞ』


 デュラハンが念話してきた。鎧騎士は、まがまがしいオーラを放って結界を維持しているようだ。


 デュラハンさん、何が来る?


『人間だ。だが、中身は死人だな。飛翔魔法を使っているから、転移できない理由がありそうだ』


 影の世界の住人? たくさん来るの? でも、この世界の姿を持つなら、どこからでもここに来れるんじゃないの?


『すり抜けられねーんだろ。おそらく兵器だ。飛んでいる人間は、ここにいる人間の数くらいだな』


 えっ……100人以上? それって戦争じゃないか。


『戦乱のキッカケになっちまったんだろ。ノレアの坊やが』


 でも、まだ……止められるよね? 


『国王が手出ししなけりゃな。それから、バンシーは、完全にあっち側だぜ。この場所に誘導している』


 えっ……まじ?


『あぁ、だから、お気楽うさぎが厳戒態勢で守っていたデネブは、完全スルーだ』


 そっか。それなら、よかったのかな。


『そろそろ、奴らを察知するんじゃねーか? おまえ、どーするんだよ』


 僕が指揮官になったから……とりあえず、話し合う。


『は? おまえの話なんか聞くかよ』


 だよね、どうしよう。だけど反撃すると、戦乱のキッカケになってしまうよな。


『おとなしく国王が殺されればいいんじゃねーの?』


 いやいやデュラハンさん、それ、本気で言ってる?


 フッとデュラハンが笑ったような気配がしたが、返事はない。結界に集中したのか。




「何かが飛んで来ます!」


 王宮の兵が叫んだ。


「その数は、約120! 人型ですが正体不明」



 僕は、国王様の方を振り返った。


「国王様、王宮の人達には、おとなしくしておいていただきます。ゼクトさん、アレを」


「精鋭だぞ?」


 ゼクトさんがニヤッと笑った。


「おまえらは、邪魔なんだよ」


 彼らは、透明なゴム玉に覆われた。



日曜日はお休み。

次回は、2月21日(月)に更新予定です。よろしくお願いします。

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