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424、黒石峠 〜メリノスとメリコーン

「それはわかっているよ。はぁ、まいったな」


「フリックちゃんが、シャキッとしてないからよぉ〜。で、師匠〜、神矢が何なの〜?」


 国王様は、ララさんには頭が上がらないらしい。


 ララさんは、王族に生まれた人だし、暗殺貴族の仕組みを構築したアーネスト家の当主だ。それに、エルフの血が混ざっているらしく、とても長寿だからな。見た目は僕よりも若いけど。



「貴族にも聞かせる方がいいんじゃねーか? 抜け目ない国王が、ヴァンの話を握り潰すかもしれないからな」


 ゼクトさんは相変わらずだ。国王様とは彼が王子の時代からの知り合いみたいだけど、こんな言い方をしても大丈夫なのだろうか。


「ちょ、ゼクトさん……。でも確かに、多くの方々のご意見を聞きたいです。特に、影の世界との出入り口がある場所の近くに住む人達には、重要なことです」


 メリノスに化けている僕がそう言うと、国王様は頷き、近くにいる兵に視線を向けた。


「そうだな。この峠に来ている者達を、ここに集めよ。ヴァンがこの姿に化けていることは、彼らに言う必要はない」


「はっ!」


 近くに控えていた王宮の兵達が、次々と転移していく。


 しかし国王様には、どういう意図があるのだろう。僕が、スキルを使っていることを口止めしたかのようだな。


 チラッとゼクトさんの方を見ると、フンと鼻を鳴らした。不快だということかな。ゼクトさんが言うように、第二王子なのに国王の座に就いた彼は、策略家なのかもしれない。




「ヴァン、口を開けろ」


 ゼクトさんは、ポーンと何かを放り投げてきた。りんごのエリクサーとは色が少し違う。


 口の中に入ってきた瞬間、木いちごのエリクサーだとわかった。バトラーさんから貰ったのか。木いちごのエリクサーは、魔力タンクまで全回復できる。


「ゼクトさん、それは」


「おまえの下僕が持っていたぜ」


「えっ? バーバラさん?」


 魔女達の方に視線を向けると、バーバラさんは少し照れたような笑みを浮かべていた。


「おまえに餌やりしたかったんじゃねぇか?」


「そう、ふふっ、ほんとに餌やりされている気分だな。僕は自分では、魔力残量がわからないから」


 バーバラさんは、ますます照れたのか、うつむいてしまった。仕草は年齢相応の少女なんだよな。



「師匠〜、あたしも餌やりしたい」


「おまえ、師匠に餌やりか?」


 ララさんの餌やり発言に、ゼクトさんがツッコミをいれている。だけど、ララさんは首を傾げているだけだ。


「うん? メリノスは魔物だから餌やりで合ってるじゃない。でも、師匠〜、なぜメリノスに化けられるの? 特殊な個体って、関わりが深くないと、スキルでは姿を借りられないよ。会ったことないよね〜」


 確かに、メリノスに遭遇したことはない。ボックス山脈のどこにいるかも知らないんだよな。


「そうですね。会ったことはないですね」


「ヴァン、おまえ、会うどころじゃねぇぞ? その子孫を下僕にしているだろ」


 ゼクトさんは、また意味不明なことを言う。


「ゼクトさん、僕が従属を使っているのは、ボックス山脈ではビードロとロックドラゴンとメリコーンしかいないですよ」


 その話を聞いていた国王様の視線が突き刺さる。えーっと、警戒されてしまったのかな。



「にゃんにゃのは、メリノスの子孫だぜ? アイツらの生態はよくわからねぇが、メリコーンの長老の寿命が尽きると、稀にメリノスに生まれ変わると聞いたことがある。メリノスは、メリコーンを生み出して生殖器官を移したらしいぜ」


「えっ? メリコーン? あ、だからメリノス?」


 ゼクトさんは、軽く頷いた。さすが極級ハンターだな。いろいろなことを知っている。


 すると、ララさんが目を輝かせて口を開く。


「師匠〜、メリコーンの長を従属にしたのね〜。それなら納得よぉ〜。だけどメリコーンの生息地なんて、普通は人間は出入りしないよね〜。よく見つけたね〜」


 ゼクトさんが連れて行ってくれたことは、言わない方が良さそうだな。


「薬草の群生地だったからですよ。でも僕の従属は、長じゃなくて、メリコーンの子供です」


「ふぅん、じゃあ、覇王を使ったのかぁ〜。白い髪のメリノスは、影の世界を嫌ってるのよね〜。そのメリコーンの長は、竜神信仰かしら〜」


 ララさんが、またとんでもないことをサラリと言う。だけど、メリコーンに関する話が全くわからない。



 すると、バーバラさんが口を開く。


「ララ・アーネスト様、そのメリコーンの生息地には竜神様の立ち寄る神殿跡があります。神殿跡を守る魔物は、竜神様に守られています」


「やぁだぁ〜、魔女っ子ちゃん、私はララちゃんだよ? 家の名前を言わないで〜」


「はい、失礼いたしました、ララ様」


「うふっ、師匠の配下って素直ねぇ〜、かわいい」


 かわいいと言われて、バーバラさんは少し照れたようだ。やはり彼女達の姿を、年齢相応にしてあげたいな。



「ララ様、白い髪のメリノスは、希望を繋ぐ存在です。異界を嫌っているわけではありません。私達のような者を守ってくださる神でもあります」


「えーっ、悪霊をガンガン消しちゃうじゃない。ボックス山脈で見たもん。異界の番人がケンカしてたとき、白い髪のメリノスが怒って、ブワァ〜ッてしたよ? 異界の番人まで消しちゃうよ?」


 異界の番人って、あの巨大な……メリノスよりも圧倒的に大きいよな?


「影の世界に追い返したのではないでしょうか。銀髪のメリノスは、魔力が高く危険だと聞きますが」


「あー、銀色の髪だったかも〜」


 ララさんとバーバラさんの会話は、僕だけでなく、ゼクトさんも、国王様も興味深く聞いている。


 土ネズミの変異種のバーバラさんが、なぜこんなに詳しいのかは謎だ。あっ、他の従属から聞いたのかもしれないな。海竜のマリンさんは、いろいろなことを知っている。


 そういえばバーバラさんは、僕の髪が白いことを嬉しそうな顔をして見ていた。メリノスは個体ごとにいくつかの髪色があるようだな。


 しかし……メリノスって、凄すぎる。だから姿を借りるだけで、魔力消費も半端ないのか。




「ヴァン、そろそろいいんじゃねぇか?」


 ゼクトさんは小声で囁いた。そして、僕の背に乗っていた透明な割れないゴム玉を地面に移動させた。だけどフロリスちゃんは、僕の髪を掴んでいて離さないんだよね。


 声が届く距離に、貴族が集まってきている。



 国王様は、僕が本物のメリノスだと思わせたいのか、僕に軽く頭を下げた。


「先程の話の続きを聞かせてもらえるか?」


「かしこまりました」


 僕がそう言うと、貴族の何人かがヒソヒソと話している。メリノスに変化へんげしている僕には、聞こえてしまうようだ。


 僕が何者なのかを探る声や、本物のメリノスだと信じている声、そしてそんなメリノスと対等に話す国王様へのいろいろな声が聞こえる。


 僕が前足で地面を軽く叩くと、パカパカと乾いた音が響いた。すると貴族は話をやめ、シーンと静まった。



「国王様、どうやら影の世界とこちらの世界、いずれも互いに疑心暗鬼になっているようです。このままだと、異界との戦乱が起こります。そうなれば、こちらの世界は潰されてしまいます」


 僕の話で、人々の感情が大きく揺れたことが伝わってきた。だが、メリノスに睨まれると誰も反論しないようだけど。


「……続けてくれ」


 国王様は、否定も肯定もしない。予想していたことなのか、その表情に驚きはない。


「二つの世界を行き来できるモノがいることからも、完全に分けることはできないと思います。それなら逆に、行き来を積極的に認めれば良いのではないかと考えました」


「えっ……異界の悪霊を受け入れるということか」


「もちろん、無制限にというわけにはいきません。だから、神矢が存在するのではないでしょうか」


 僕の意図がわからないのか、国王様は何か言おうとしているようだが、言葉が見つからないらしい。



 すると、ゼクトさんはニヤッと笑い、口を開く。


「おまえらに尋ねる。このメリノスの素性を知る者は、挙手しろ。それが答えだ」


 ゼクトさんは僕が何を言いたいのかを察したようだ。いつもなら、彼は僕の考えを覗くこともある。だが、今の僕の考えは、覗けないだろう。


 ゼクトさんの呼びかけには、貴族は従わない。だけど、メリノスが偽物なのかという囁きが聞こえてくる。



「そういうことか。わかったよ、ヴァン」


 国王様が、僕の名前を呼んだ。すると貴族達が騒ぎ始めた。偽物だとわかると、こうなるんだな。


「皆には、彼の言葉が届かぬか!?」


 国王様の凛とした声が、騒いでいた貴族達を静めた。



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