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423/574

423、黒石峠 〜ノワ先生の名前に驚く

「で、出た〜!」


 王宮の兵達は、騒然となっていた。


「何が出たんだ? 幽霊か?」


 ゼクトさんは、兵達をからかうようにそう言いつつ、警戒を強めている。


 大きな魔物メリノスに化けている僕には、こちらへと歩いてくる3人の姿が見える。王宮の兵達は、それを阻止しようとしているようだけど、無駄な抵抗のようだ。


 その3人は、僕の近くまで来ると、深く被っていたローブのフードを外した。その姿を見て、ゼクトさんは警戒を解いた。



「魔女だ! 3人の魔女だ!!」


「ひっ……どうする? アーネスト様の師匠殿をお守りせねば!」


 王宮の兵達は、慌てている。僕達の関係を知らないのか。そもそも僕のことを知らないのかもしれない。


 彼女達は、そんな王宮の兵達のことは、見えていないかのように無視している。何をしに来たのだろう?




「お兄さん、綺麗〜」


「バーバラさん、ありがとう。僕は、自分の姿が見えないんだけど、メリノスかな?」


「はい、メリノスです。しかも白髪ですね。カッコいいです」


 ポッと頬を赤らめる彼女の表情は、やっぱり少女だよな。出会ってから2年だから9歳か。見た目は年配の女性なんだけど。


 人工的に造られた変異種だから仕方ないのかもしれないけど、バーバラさん達の見た目をなんとかしてあげたい。彼女達は年齢も感覚も少女なのに、年配の女性なんだよな。



「ヴァンくぅん、誰?」


 背に乗せているノワ先生が口を開いた。高い場所からだと、彼女達の姿は見えないかな。


「僕の……デネブの小屋の管理をしてくれているバーバラさんです。他の二人は、バーバラさんのお姉さん」


 あやうく従属だと言いそうになってしまった。彼女達は、土ネズミの変異種だ。だけど、その素性はあまり知られていない。すべての魔法を操る魔女だと恐れられている。



「ふぅん、ヴァンくんの使用人なの。あたしは、ヴァンくんがお子ちゃまクラスだったときの先生なんだよぉ〜」


 ノワ先生は、割れない透明なゴム玉から手を出して、彼女達に向けてひらひらと振っている。


「知っていますよ、ノワ・ブロッコ・アーネスト様。バルト・ブロッコ・アーネスト様は、私が幼い頃にお世話になりました」


 はい? いま、アーネストって言った!? ララさんの子孫?


 バルトさんは王都で有名な薬師の一人だ。ブロッコという家名は知らないけど。


「うん? あたしはブロッコだけど、アーネストじゃないよ? あー、アーネストってば……」


 ノワ先生は何かに気づいたのか、口を閉ざしてしまった。透明なゴム玉の中で一緒にいるフロリスちゃんは、不思議そうにしている。


 僕が振り向いて見ていることに気づくと、フロリスちゃんは怖がるんだよな。メリノスは頭も大きいし、怖いか。僕の髪を掴むことは平気みたいだけど。


 天兎のぷぅちゃんも、いつの間にかゴム玉の中に入っている。白い天兎の姿に化けているから、小さすぎて気づかなかった。


 ぷぅちゃんをゴム玉に入れたのは、ゼクトさんだろう。いま、ゴム玉の支配権はゼクトさんにある。


 プライドの高いぷぅちゃんが、どう言ってゼクトさんにおねだりしたのかな。ふふっ、少し興味がある。




「バーバラさん、ここにはどうして?」


 僕がそう尋ねると王宮の兵達が、静かになった。彼らも、魔女が現れた原因を知りたいのだろう。


「お兄さんが困っているって聞いたから」


 誰から聞いたかは、尋ねないでおこう。王宮の兵達の視線が気になる。


「うん? そう、だね」


 だけど、どういう意味だ? 土ネズミの彼女達は、普段とは違ってローブ姿だ。まさか、戦うつもりじゃないだろうな?



 彼女達を狙ってか、突然、黒い巨大なネズミが現れた。人間ほどもある大きな黒いネズミだ。


 すると、ベーレン家の神官服をいつも着ていた一番戦闘力の高い土ネズミが、炎の剣を作り出した。


「ちょっと、待ってよ。キミ達」


 僕がそう言うと、魔女は止まった。僕の覇王効果が拡張されているからな。


 黒い巨大なネズミは、僕を睨みつけている。だけど王宮の兵には、そのネズミが見えていないらしい。影の世界のネズミか。


 こんな姿だと、黒いネズミは悪霊にしか見えない。だけど、おそらくまだ若いネズミだ。反抗期の子供のような目をしている。あー、魔女達と、同じくらいかもしれないな。


 見た目が……あっ! 


 そうか、互いに恐れているだけか。互いに疑心暗鬼になって、悪い方へと進んでいるのか。


 そもそも完全に分ける必要はないよな? そうだ、分けなければ戦乱も起こらない。この世界が崩壊することはないはずだ!




「この姿をしていると、いろいろなことが見えてきたよ」


 僕は、黒い巨大なネズミに話しかける。すると、睨んでいた奴は、キョトンと首を傾げた。ふふっ、やはりそうか。



「お兄さん、どうしたの?」


 バーバラさんは、僕の視線の先を追い、不安げな表情だ。


「バーバラさん、そしてお姉さん達、来てくれてありがとう。おかげで、僕はいいことを思いついたよ」


「えっ? 私達は……お兄さんがここから動けなくて困っているから……」


 やはり、戦うつもりだったか。だがそれは、下手をすると戦乱のキッカケになってしまう。




「ヴァン、こっちを向け」


 ゼクトさんに呼ばれて振り返ると、またりんごのエリクサーを口に放り込まれた。ガツンと魔力が回復する。


「めちゃくちゃ減ってましたね」


「あぁ、ククッ、俺はおまえの餌やり担当か? 執事、おまえのとこの当主を呼んで来い」


 ゼクトさんはバトラーさんに、そんなことを言っている。僕がこれから話そうとしたことを察したのかな。



「ゼクトさん、それならもう、あちらに」


 バトラーさんは、この広場に降りる階段の方を指差している。階段の上の道には、たくさんの人の姿が見える。次々に転移してきているようだ。


 僕が視線を向けると、警戒し騒ぐ人達……。やはり、僕が人間だとは気づいていないか。


 スキル『道化師』の変化へんげは、本当にバレないよな。これなら、やはり、使える。




「ゼクトさん、神矢のリクエストって、トロッケン家だけにしかできませんか?」


 僕がそう尋ねると、ゼクトさんはニヤッと笑った。


「いや、神矢ハンターにも可能だ。だが、天兎を経由するから時間はかかる。あー、ぷぅ太郎をおつかいに行かせればいいんじゃねーか?」


「じゃあ、ぷぅちゃん……」


「断る!!」


 フロリスちゃんの腕の中で、天兎は僕を睨みつけている。ぷぅちゃんにも、黒いネズミが見えているようだな。だから、フロリスちゃんの腕の中に飛び込んでいるのか。


「ぷぅちゃん、そんなこと言わないの」


「コイツは、つまらないことしか言わない」


 フロリスちゃんに叱られても、小声で反論している。よほど嫌なんだろうな。




「神矢がどうしたんだ?」


「痛っ」


 僕のすぐそばに転移してきて、髪を引っ張る女性……。その彼女を護衛代わりにして、まさかの国王様が転移してきた。


 王宮の兵が一斉にかしづく。


「師匠〜、あたしもゴム玉に入りた〜い」


 緊張感のない声で、僕の髪を引っ張る女性……。


「えっ? このメリノスがヴァンなのか?」


 国王様は、目を見開いている。ゼクトさんがメリノスと話していると思ったのか。


「フリックちゃん、何を当たり前なこと言ってんの〜? そんなことより、師匠〜、その白いモフモフ触りたいよぉ〜」


 ララさんにロックオンされ、天兎のぷぅちゃんは固まっている。ふふっ、面白い顔だ。



「ララさん、その前に……この状況、見えてます?」


 一応、確認してみる。


「うん? 師匠がメリノスに化けてて、背に女の子を乗せてて、魔女っ子が3匹いて、フリックちゃんの下僕がいっぱいいて、貴族がなぜか集まってきてて……んん? 悪霊のデカネズミがいるわね〜」


「影の世界から、ジーッと睨まれてるのも見えます?」


「閃光弾を使えば見えるよぉ〜。使おっか?」


「いや、それはやめてください。異界の住人が怯えますから」


「ふぅん、わかった〜。メリノスなら見えるよね〜。ふたつの世界を繋ぐモノだもん」


 えっ? そうなのか? メリノスのことは、僕は知識としては、ほとんど知らないんだよな。




「ヴァン、神矢がどうした?」


 国王様が、再び問いかけた。僕を見上げている。僕が見下ろす形だけど、大丈夫なのかな。


「国王様、見下ろす形で失礼いたします」


「構わぬ。メリノスと話せることに、私は心が浮き立つようだ」


 いや、メリノスじゃなくて、ヴァンなんですが。


「フリックちゃん、何を言ってるの〜。メリノスは、メリノスじゃなくて師匠だよ?」


 おぉ〜、言いたいことを言ってくれた! 以心伝心だな。



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