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422、黒石峠 〜ヴァン、考え込む

本日より再開します。

よろしくお願いします。

 メリノスと呼ばれる巨大な魔物に姿を変えている僕に、ゼクトさんはまた、りんごのエリクサーを放り投げてきた。


 僕は、手でキャッチして口に入れる。ぐんと魔力が回復する。この姿でいると、ほんとに魔力消費量が半端ない。



「あっ! どこへ行った?」


 王宮の兵に拘束具を外してもらいながら、派手な鎧を身につけた男が叫んだ。その男そっくりの顔に化けた男は、その場所から消えている。


「また、兵に紛れ込んでいるのかもしれません。もしくは、逃げたか」


 王宮の兵ほ、互いに顔を確かめているようだ。


 だがメリノスに変化へんげした僕の目には、その男が少し離れた場所にいるのが見える。ただ、何もない空中に浮かんでいるから、影の世界にいるのだろう。影の世界だと、その場所には乗り物の荷台がある。


 彼らは、自由にこの世界と異界を出入りできるのだな。


 ゼクトさんが、戦乱になったら絶対に負けると言っていたのは、こういうことか。不利になったら異界に逃げ込まれ、そして突然現れるなら……僕達はあまりにも不利だ。


 それに、さっきのゼクトさんの話によれば、影の世界を見る能力のある人達は、かなり殺されているようだ。貴族の後継争いの形をとっているけど、実は、異界の住人にとって都合の悪い人が排除されているのか。


 確かに、もう、戦乱の準備が整っていると感じる。




「ヴァン、まだ居るか?」


 ゼクトさんは小声で僕に尋ねた。


「はい、異界に入っただけですね。こちらの様子を、乗り物の荷台らしき場所に立って見ています」


「ククッ、さすがメリノスだな。奴らは見られてないと思ってるぜ。俺には見えねーからな」


 やはり、この姿はすごい。だから奴らは、様子見をしているのだろう。だけど、きっとフロリスちゃんを殺したいんだ。


 おそらく、フロリスちゃんは成人の儀を終えると、ゼクトさんと同じ神矢ハンターのジョブ印が現れるだろう。


 だから今のうちに殺してしまいたいんだ。もしかすると、ゼクトさんも狙われているのかもしれない。



「ゼクトさん、どうしますか?」


「とりあえず、デュラハンが空けた穴が塞がるまでは、待ちたい。いま、俺達が強引に通ったからすぐに塞がるはずだ」


「うん? 通ったら、穴は逆に広がりません?」


「ククッ、メリノスが通ったんだぜ?」


 そう言うとゼクトさんは、親指を立てて見せた。


 僕には全く理解できないけど、彼がそう言うならそうなのかな。確かに上空の三日月形の穴は、細い三日月になっている。



「あっ! あれ?」


 上空の三日月形の穴の近くを、一角獣らしきものが通った。背には、白い丸いものを3つ乗せている。


「ヴァン、何だ?」


「いえ、いま、なんだかおかしなものが……」



『おい、それはしゃべるなよ』


 僕の言葉を中断するように、デュラハンからの念話が聞こえた。しゃべるなって、何?


『しゃべるとアイツらが拗ねる。おまえが声に出して話さなければ、気づかねーからな』


 どういうこと? 竜神様の子達は、何をしてるの?


『おまえに内緒のパトロールらしーぜ。雷獣は、自由に異界に出入りできるからな。あの穴を空けたのも、アイツらからの報告だ』


 やっぱりデュラハンさんが、空けた?


『あぁ、人間が魔道具による爆発で、異界に何かを撒き散らし、魔物を大量に集め、異界に繋がる大きな穴を空けようとしたからな。三日月形に切ってガス抜きをしたんだ』


 その人間って、異界からここを見張っている人達?


『さぁ? 影の世界から、こっちの世界に入り込んでいる奴らだ。こっちの世界の姿を得たから、自由にどこからでも出入りできるらしーぜ』


 こちらの世界の姿って、どうやって入手するのかな。


『乗っ取りに決まっているだろ。ゲナードも同じことをしていたじゃねーか』


 あぁ、確かに……。でも、あれはゲナードの力だよね? こんなにたくさんの人が……。


『逆だ。影の世界の奴らが、ゲナードに教えたんだよ』


 えっ? もしかして、ゲナードじゃなくて異界の住人が、この世界を奪おうとしているの?


『は? あー、こっちの人間がそう考えているのか。影の世界の住人を怒らせた自覚があるんだな』


 デュラハンさん、全く意味がわからない。



『そもそも、こっちの人間が害獣なんだよ。影の世界の住人は静かに暮らしている。ただ、馴染めない奴らが、こっちの世界に住みたいだけだ』


 そうなの? 異界って、悪霊がウヨウヨしているし……。


『あのなー。異界は、こっちよりも魔物も人も強いんだぜ? 悪霊ってひとくくりに言うけど、堕ちた霊は、まだ異界の住人に生まれる前のピュアな卵だろーが』


 ピュアな卵って……。異界の住人を怒らせたって、どういうこと?


『こっちの世界の汚れは、影の世界にも影響するんだよ』


 いやいや、地下水脈を汚しているのは、悪霊じゃないか。


『地下水脈なんて、狭い範囲のことは言ってねー。地下水脈を、影の世界の奴らが偵察で泳いでも、ラフレアが浄化するだろーが』



 ちょっと待って。頭の中が混乱してきた。



 地下水脈を汚して変な流行病を起こすのは、北の海に、異界との出入り口があるからだよね? 竜神様も、黒い氷をなんとかしろと言われたし。


 そして、氷の神獣テンウッドを閉じ込める檻の溶けない氷を利用して、北の海に追放された人達が、北に大陸を作ってしまった。


 地下水脈の汚れのせいで、ラフレアのつぼみが異常発生しているし、開花すると狂うと言ってた。


 それに、この黒石峠では、フロリスちゃんが狙われたんだ。今も、隙あれば殺そうと、ジッと見張っているじゃないか。



『テンウッドは、こっちの世界の害獣を狩る気だぜ。おまえ、ロックオンされてたよな?』


 ちょ、僕が害獣?


『どう見ても害獣だろ。影の世界の住人の気持ちで考えてみろよ。勝手に入り込んで、物騒な鎌を捨てていくんだからな』


 あー、あれは、黒石峠の安全のためだよ。


『こっちの世界のことしか考えてねーだろ。なぜ影の世界を悪だと決めつける? 影の世界には、完全な秩序がある。こっちのような不安定な世界じゃねーんだ。こっちの世界から、邪悪な悪霊が流れてくる。それを阻止しようとしてるだけだぜ』


 えっ? 邪悪な悪霊?


『あぁ、こっちの世界の人間の怨霊か。生まれ変われないゴミみたいな魂は、影の世界に来る。そいつらは影の世界の秩序に従わない』


 でも、ゲナードとか……。


『アレは、異界に居場所がなくて、こっちの世界に戻りたがっている悪霊だ。なぜ消滅しないのかはわからねー』


 ゲナードは、どちらの世界でも悪霊扱いなんだね。


『あぁ、この件には関係ねーよ。オレも、精霊になるまでは知らなかったことだけどな。テンウッドは、こっちの世界の害獣を、異界の住人に狩らせようとしている。いったんリセットしないと、この世界は正常化しないと考えているようだな』


 でも、それならなぜ、フロリスちゃんを殺そうとするの? まだ子供だよ?


『異界の住人は、殺すというより、計画の邪魔になる者を、影の世界に取り込もうとしているようだぜ。異界には、特殊な能力を持つ人間の住む街がある。黒石峠で消えたというフロリスの母親も、そこに居るんじゃないか?』


 えっ? デュラハンさん、まじ?


『いや、予想だけど。個体名は知らねーし、見た目も変わるだろうからな』


 もし、そうなら……こんなに嬉しいことはない。黒石峠で魔物に喰われたというサラ様が生きているなら。


 この世界の害獣を狩る……か。


 確かに視点を変えれば、彼らから見れば僕は害獣だ。


 地下水脈の汚れも、影の世界からの霊がうろつくことで起こっている。逆に見れば、彼らの偵察だ。こっちの世界の汚れ……土壌の汚れよりも、酷いのは人の心の汚れか。


 氷の神獣テンウッドは、影の世界の住人の怒りを知り、それを調整しようとしているのかもしれない。


 テンウッドは、こちらの世界の住人を悪だと判断したんだ。


 そうか、ノレア神父は……おそらくそれを知っている。戦乱になったら、こちらの世界が滅ぼされることを知っているんだ。テンウッドが、影の世界に味方するのだから。




「ヴァン、どうしたんだ? 魔力切れか?」


 ゼクトさんが僕の口に、りんごのエリクサーを放り込んだ。ぐんと魔力が回復する。


「あ、いえ、それもありますけど……」


 竜神様の子達が、僕に内緒でパトロールをしているのは、もしかすると竜神様からの命令かもしれないな。僕が害獣認定されたからか。いや、それなら、そもそも……。


「何? どうした?」


 ゼクトさんには話せない。

 こんなこと、誰にも話せない。



「うわぁ!」


 突然、王宮の兵が叫んだ。



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