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42、ボックス山脈 〜泉の復活

「じゃあ、すぐにやろう!」


 マルクは、緑色のトカゲ、チビドラゴンに向かって、何度も頷いている。了解という意味なのかな。


「チビドラゴンさん、マルクがやってみるって。みんなにちょっと離れてもらって」


「わかった。母さん、チビの仲間がゴミを燃やしてくれるみたいだ。危ないから離れてほしいらしいよ」


「ふふっ、その子も、坊やのお願いを聞いてくれるのね」


「うん、ぼくが思いついたんだ。みんな、賢いぼくに従うんだ」


「素敵ね、坊や」


「うん、うぷぷっ」


 この子竜、マザコンか。お母さんに褒められて、デレデレしてるよ。まぁ、まだ幼体だからか。賢いという自負がすごいけどね。ドラゴンは、褒めて伸ばすという教育方針なのかな。



 マルクは、水たまりに向けて魔力を放った。


 うわっ、水たまりの中から骨や肉片がたくさん出てきた。ちょっと気持ち悪い。そして、空中でボッと炎に包まれて一瞬で燃え尽きた。マルクって凄すぎる。


 魔術系の貴族って、すごく偉そうにしているけど、その理由がわかった気がする。家の名を名乗ることを禁じられているマルクでさえ、こんなにすごいんだもんな。


 あれ? マルクは、ため息をついている。


「マルク、どうしたの?」


「詰まっている骨や肉片が、気持ち悪いことになってる。一回では全然取れない」


 確かに、いま、水がぶわっと噴き出したけど、すぐに勢いは消えている。下から骨や肉片が上がってきて、また詰まったみたいだ。


「うん、気持ち悪い感じだね」


「ここにはマナがあるだろ。ということは……」


「ん? 何?」


 あれ? マルクのその顔は、ダメな顔だ。えっと、何?


「次に、詰まってる物を引っ張り出して、アンデッドが出てきたらどうすんだよ」


 あー…………なるほど。


「だ、大丈夫だよ。あ、そ、そうだ! さっき、山の守り神がどうとか言ってたじゃないか。そんな、なんていうか神聖な場所の泉に、アンデッドなんか埋まってないよ」


 僕が必死にそれっぽい話をしてみたけど、マルクはダメな顔のままだ。うーん、どうしよう……。




「アンデッドが、どうしたんだい?」


 オジサンが、興味を持ったみたいだ。僕達を警戒して離れていたんじゃないの? マルクの弱点がバレてしまう。どうしたら……あっ、そうだ!


「神官様がいれば、ここからは、アンデッドは出てこないだろうと話していたんです。貴方に神官の力があるのなら、ですけど」


 僕がそう言うと、オジサンは苦い顔をしている。それに対して、マルクの表情は復活している! よかった。


「家の名を名乗れなくても、トロッケン家の『神官』がいる場所に、まさか、闇系の化け物なんて、出てこないですよね〜」


 マルクがそう言うと、オジサンは、水たまりに向かって何かの術を使った。水面がキラキラと輝いている。これって、確か、神官の加護だよね? 彷徨う者を神の元に導く光だと、魔導学校で習った。


 この人、謎すぎる。さっきまでは、僕達を殺そうとしていたくせに、なぜ、こんな技能を使うんだ?


 何か、企んでいるのかな。もしくは、万が一、アンデッドが出てきたら困ると思ったのだろうか。


 だけどそれを見て、マルクは完全に元どおりだ。よかった。マルクの弱点も、バレてない。オジサンは、僕達が嫌味を言っていただけだと考えたみたいだ。


 それに、神官の加護を与えられた水たまりは、マナが濃くなったみたいだ。うん、聖なる感じもするから、大丈夫だね。




「よし! やるか〜」


 マルクは、ヤル気を出した。何度か詰まった物を燃やしたところで、水は勢いよく噴き出し始めた。みるみるうちに、水たまりは、泉に姿を変えた。


「マルク、すごい! ここって、大きな泉なんだね」


 緑色のトカゲ……チビドラゴンも、マルクを応援していた。そして、水が増えてくると、ザバッと飛び込んだ。あはは、やんちゃだね。


「チビ! チビの仲間ってすごい奴だな。チビなのに」


「うん、マルクは、すごい魔導士なんだよ」


「だけど、水がちょっとピリピリするぞ」


「えっ? あー、循環したことで毒が上がってきたんだね。さっきの毒消しでは効かなくなったか」


 オジサンの方を見ても、首を横に振っている。もう、超薬草はないってことか。



 でも、ピリピリするということは、毒消し薬が薄くなって、毒に負けている状態……あっ、できるかも。


 僕はスキル『薬師』の技能、薬師の目を使った。薄くなってしまっているけど、まだ毒消し薬は泉に残っているのが見える。


 これだけ残っていれば余裕だ。


 僕は、新薬の創造を使った。毒消し薬がこの場所に留まって、循環する水を解毒し続ければ、山の湧き水はおそらくすべて解毒できる。だからこの泉を、毒を分解する水薬にしたい。


 そうイメージして、魔力を放った。一瞬で、水の色が緑色に染まった。そして、ゆっくり沈殿していくかのように、水が透き通っていった。


 グラッとめまいがした。まずい、魔力切れだ。僕は、慌てて、ぶどうのエリクサーを食べた。……焦った。

 僕は、魔導士のスキルがないから、うまく魔力の管理ができない。こんな調子だと、すぐにエリクサーがなくなってしまうな。


 あっ、そういえば、マルクが、湧き水のある場所は、マナも濃くなっているって言ってたっけ。でも、作りたくても、ぶどうがないよな。



「チビ、ピリピリしなくなったぞ。ツンツンもしないから、飲めるよな?」


「飲んで大丈夫だよ」


 緑色のトカゲは、バシャバシャと楽しそうに、妹らしきトカゲと遊んでいる。めちゃくちゃ上機嫌だね。




「ヴァン、どうする?」


 マルクが小声でささやいた。オジサンの方を見ると、僕達から離れてコッソリと、泉の水を採取しているようだ。嫌な予感しかしない。


「洞穴から出ると、どうなるかな?」


「きっと、アイツらが拘束しようとする」


「だよね……」


「あの場所へ戻るか」


「うん?」


「俺、特殊な転移魔法を使うよ。洞穴から出た瞬間を狙う」


「わかった、任せる」



 泉の水の採取を終えて、素知らぬ顔をしてオジサンが近寄ってきた。妙な笑顔を貼り付けている。さっき、僕達に向かって剣を抜いたことを忘れたのか?


「ここは、もう大丈夫だ。似たようなことが、あと二十ほどの山で起こっているんだ。キミ達、力を貸してくれないかい? 当然、報酬は支払うよ。口止め料も含めて、キミ達の言い値で構わない」


 うわぁ、脅してダメなら、今度は金で言うことを聞かせようということ? 最低だな。


「俺達は子供なんで、そんな重責は負えませんよ。ヴァン、そろそろ戻ろう。一緒に入山した人達が心配しているかもしれないし」


 そう言って、マルクは目配せをした。


「うん、そうだね」



 僕は、緑色のトカゲ……チビドラゴンの方を向いた。


「チビドラゴンさん、僕達は、そろそろ戻るね」


「あぁ、また遊びに来いよな。人間が喜びそうな場所に連れて行ってやるよ。魔法使いのチビにも言っておいて」


「うん、言っておくね」



 何かを察知したのか、ドラゴンが一体、近寄ってきた。お母さんの方かな?


「洞穴の出口まで、見送ろうかしら」


「そうだね、母さん、そろそろ腹が減ったよ」


 狩りにいく時間なのかな? まさか、僕達を食べないよね? 洞穴の外の兵も……ドラゴンの餌には小さすぎる。


「あらあら、坊や、そんな風に言うと、坊やのお友達がびっくりするわよ」


「大丈夫だよ、チビは、わかってるよ」


 へぇ、賢いじゃない。


「ふふっ、いいお友達ができたわね、坊や」


「うん! あ、ぼくが友達にしてやったんだからね」


「あら、坊やは、凛としているのね」


 いやいや、彼は、ふんぞりかえっているだけですよ、お母さん。



「じゃ、またねー」


 僕は、洞穴の出口付近で、親子に向かってそう叫んだ。それを合図に、マルクは転移魔法を使った。





 たどり着いた場所は、入山して少し進んだ場所……僕達が再会した崖の上だった。


 着くと同時に、マルクはガクリと倒れ込んだ。顔色が真っ白だ。貧血? 何? 


「マルク、どうしたの?」


「魔力……切れ」


 僕は慌てて、ぶどうのエリクサーを、マルクの口に放り込んだ。ゴクリと丸呑みしてるよ……。


 そっか、特殊な転移魔法を使うと言っていたっけ。


 入山するときに、近距離転移しかできないと説明されたとき、マルクが確認していた。そのとき、魔力が大丈夫ならご自由にという言い方をされたよね。


 ものすごく、魔力を消費する転移魔法なんだ。


「マルク、大丈夫?」


「あぁ、なんとかね。ふっ、アイツら、俺達を見失って、焦ってるぜ」


「長距離転移だよね? 頂上からふもとまでって」


「いったん、村を経由したからな」



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