表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

418/574

418、黒石峠 〜派手にいこうぜ!

 異界を照らす閃光弾に目が慣れてくると、僕は、驚きで声が出なくなった。


「ひっ」


 ノワ先生も小さな悲鳴をあげ、そのまま固まってしまったようだ、バトラーさんは、この光景がわかっていたのか冷静に見える。


 ゼクトさんは剣を抜いた状態で、僕の方を見てニヤニヤしているんだよな。


「何ですか」


「あぁ? ヴァンが何に化けるのか楽しみだと思ってな、ククッ」


 はぁ、子供かよ。


 だけど、このゼクトさんの言葉のおかげで、少し落ち着いてきた。僕は再び、閃光弾に照らされた影の世界に視線を移した。


 目に映るモノは、すべて大きな黒いバケモノだ。奴らには閃光弾の光がわからないのだろうか。僕達の方を見ていない。眩しそうな奴もいない。


 奴らは、一点を見つめているようだ。僕には何も見えないが、何かいるのだろうか。



「ヴァン、あの先に、浅い地下水脈から出てきた悪霊が溜まっているみたいだ。異界のバケモノ達を呼んでいる」


 ゼクトさんは、黒いバケモノが見つめる場所を指差している。


「あの先は、僕達の住む世界なんですね」


「あぁ、だが、あそこからは出られないぞ。うっかり裂くなよ? せっかくデュラハンがつくった層が無駄になる。巨大な魔物を通さないための層だ」


 あー、ジグザグの岩盤板か。岩盤板の並ぶ先の空に、ぽっかりと三日月形の穴が空いている。あそこからバトラーさんとノワ先生が落ちたのか。


 三日月形の穴はじわじわと上に動いているように見える。デュラハンが動かしているのだろうか。



「ゼクトさん、穴が動いています」


「あぁ、異界との出入り口は動くもんだ。地面からあの高さまで上がったのだろう。出入りがなければ自然に閉じる仕組みらしいぜ」


「えっ、閉じ込められませんか」


「ククッ、この二人だけなら閉じ込められて餌になるだろうが、俺達がいるんだぜ?」


 ゼクトさんは親指を立てて見せた。ノワ先生を落ち着かせようとしているのかな。



「さぁ、ヴァン、早く化けろよ」


「ゼクトさん、僕が闇ってどういうことですか」


「俺が光を使うからだ。異界の魔物が混乱するだろ?」


「意味がわからないです」


「ククッ、アイツらは、光を使う敵には光耐性のシールドを張るんだ。逆に闇を使う敵には、その闇が深い方が勝つから闇を濃くしようとする。光耐性は闇には弱く、闇を濃くした奴は光に弱い」


「なるほど、わかりました」



 僕は、念のために木いちごのエリクサーを食べた。あー、やはり魔力は減っていたな。結構回復した。ゼクトさんも手をひらひらさせるので、木いちごのエリクサーを渡した。


「ヴァン、これ、イマイチなんだけどな」


 そう言いながらも、彼は口に放り込んでいる。ゼクトさんは、このドライフルーツのような味が嫌いなんだよな。だけど、魔力タンクまで全回復する。


 いつもなら他のを寄越せというけど、今回は素直に食べている。やはり、この場所はそれほど危険なんだ。


「執事にも渡しておけ。ヴァンが魔力切れになりかけたら、補給する役だ」


「私なら持っていますよ。ヴァンさんの木いちごのエリクサーは、旦那様が見つけるたびに買い占められますので」


 えっ……ファシルド家の旦那様が? 武術系ナイトの貴族なのに? 魔術系に渡さないためだろうか。


「ふん、貴族がそんなことばかりするから、なかなか流通しねーんだよ。ヴァンの魔力量の変化を見ておけよ。サーチ系の技能はあるよな?」


「かしこまりました。お任せください」


 バトラーさんの余裕の笑みに、ノワ先生はポカンとしている。僕も、バトラーさんのそんな技能は知らなかった。


「ククッ、ヴァン、魔力は気にせず、派手にいこうぜ。この場所に近寄ると危険だと、異界の奴らを恐れさせる必要がある」


「わかりました」



 僕はスキル『道化師』の変化へんげを使う。闇、闇、闇……異界の魔物が恐れるような闇……。そうイメージすると、ボンッと音がして、僕の視点はほんの少しだけ高くなった。


 なんだ、これ?


 自分の身体を見ると、黒っぽい何かに巻かれているように見える。ミイラだろうか? 手がない? 手を動かそうと力を込めると……。


 バサッ


 えっ? 羽? 手は細くて短い。胴体がぷっくらとしていて足が見えない。



「ヴァン、おま……」


 僕が羽を広げると、ゼクトさんは慌てて、バトラーさんとノワ先生に何かのバリアを張ったようだ。


「ヴァンくん? キレイ〜」


 はい? ノワ先生がポワンとした顔で、変なことを言っている。バトラーさんがノワ先生に何かを飲ませた。


「ククッ、おまえ、やべぇ。それは予想外だったぜ」


「僕は、何に化けてます? 飛べそうですけど」


「それは、死蝶だな。異界でも数は少ない。あー、そうか。竜神のひとりが、死蝶を下僕にしているという噂もあったな」


「死蝶? 初耳です」


「だろうな。遭遇すると必ず死をもたらす蝶だと言われている。俺も、見たのは初めてだ。これだけ距離を取っていても、ヒリヒリするぜ」


「えっ……」


「ククッ、行くぜ!」


 ゼクトさんは、黒いバケモノ達に向かって走り出した。



 僕も、羽を動かす。すると、ふわふわと上昇していく。鳥の動きではない。ひらひら、ふわふわだ。だが、スピードは速い。


 僕は、ゼクトさんを追い越し、巨大な魔物達に近寄っていく。これって、どうやって攻撃するんだ?



 黒い魔物達の反応は両極端だった。


 僕を見て、ポワンとした表情で固まる魔物が多いが、完全な戦闘モードに突入して濃い闇を纏う魔物もいる。


 どうしようかな。


 ゼクトさんの方を振り返ると、彼の服が変わっていた。鎧を身につけて、淡い光で覆っている。


「ヴァン、最高だぜ!」


 そう言いつつ、ゼクトさんは、戦闘モードに突入した魔物を、光の剣で斬り裂いていく。


 す、すごい。


 ゼクトさんに対抗しようと、纏うモノを変えた魔物に僕は近寄っていく。すると、僕が上をひらひらと通っただけなのに、その魔物はドタッと倒れた。


 何が起こっている?


 僕は、とりあえず、ひらひらと魔物の上を通ることにした。すると次々と倒れていくんだ。


 まさか、また、水辺の魔物ウォーグのときみたいに妊娠してないよな? 僕は全く声は出していない。


 あっ、大丈夫か。この姿は竜神様ではない。よくわからない蝶なんだから。



 ガンッ!


 近寄りすぎたのか、後ろから殴られた。いや、羽を破られたのか。


『ピュラララ〜ッ!』


 思わず、怒りから変な言葉を発してしまったが……。


 あれ? 僕の身体が揺れる。何? 魔物に捕まれている? いや、違う上昇していく。何? 


 ボンッと音がした。


 僕の姿が変わったみたいだ。羽はない。ローブを着ている? だけどゆらゆらと浮かんでいる。手には銀色の棒を持っていた。


 よくわからないけど、武器が手に入ったんだ。



 僕は、さっき僕の羽を破った巨大な魔物に近寄っていく。その魔物は、呆然として身動きができないように見える。


 仕返しだ! 棒で殴ってやる!


 僕は、魔物に棒を振り下ろした。


 シュッ


 魔物は簡単に……まるで影を切ったかのように簡単に切れた。そして、地面に倒れる前に、魔物は溶けてなくなった。


 はい? 棒で切れるの?



 僕は、地面に降り立った。


 すると、魔物は恐怖に震えているようだ。巨大な魔物を切ったからだな。



「ヴァン、おまえ、大丈夫か?」


 ゼクトさんから心配そうな声が聞こえる。だけど、僕の声は出ない。声が出ないことを身振りで知らせた。


「ククッ、そりゃそうだろ。その姿に声帯はねぇだろうからな。意識はあるな?」


 コクリと頷く。


「じゃあ、仕上げるか」



 ゼクトさんは、強い光の何かを魔物達に放った。魔物達は、瞬時に纏う何かを変えたようだ。


 僕は、魔物達に向かって、棒を振り回す。


 当たると魔物は、影のように簡単に切れて溶けるように消えていく。


 ひときわ大きなドロドロしたモノを纏う魔物が、僕に向かってきた。僕の棒を避けて体当たりしてくる。だけど、僕には当たらない。というか、僕をすり抜けて後方に転がった。


 その魔物をゼクトさんが、大剣で斬り裂く。


 しかし、死なない。


 魔物は、再び僕に突進してきた。僕は今度こそ、狙いを定めて棒を振った。


 シュッ


 棒は魔物の肩を切り裂いた。片腕が落ち、溶けるように消えていく。だが、魔物は消えない。腹を切らないと消えないか。


 魔物は、僕をジッと睨んでいたが、くるりと向きを変え、走っていく。逃げたのか?


 僕は追いかけようと、ふわっと浮かぶ。


「ヴァン、放っておけ。逃す方がいい」


 僕は、スッと地面に降りた。


「ククッ、もういいぜ」


 ゼクトさんにそう言われて、僕は変化へんげを解除しようとした。


 だけど、戻らない!?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ