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414、自由の町デネブ 〜自然の摂理

 ラフレアの花が完全に枯れた状態になったことで、ギルドの職員さん達は、ふーっと息を吐いている。猛毒を撒き散らすかと警戒していたのか。


 だけど、ゼクトさんが来たことで、職員さん達は口出しをしなくなった。レジェンドランク冒険者には、何も言えないのかもしれないけど、それ以上に、ゼクトさんへの厚い信頼があるのだろう。


 その点、僕はまだまだ未熟だな。何かやらかすと思われている。いや、何かをやらかしたときに、被害を抑えるスキルがないためか。



「ヴァン、狩ったラフレアの花は3つか? 4つの赤い花の目撃情報があったが、ひとつは逃したか」


 ゼクトさんは、僕達を覆っていたバリアを解除し、巨大なラフレアの花をギルドの床に並べて、何かを確認している。


 枯れて縮んでいるのに、ラフレアの花は、まるで敷物のようにギルドの床を覆う。というか、この部屋より、花の方が大きいんだよな。


「色とりどりのじゅうたんにデュラハンの加護を使ったから、逃がしてないです。数が合わないですか? あっ、一度に収納できなかったから、分割したかも」



 ラフレアの花をめくって調べていたゼクトさんが、動きを止めた。


「紫の花だな」


 ポツリと呟いたゼクトさんは、何かの術を使った。


『ギャアァァ!』


 えっ? ラフレアの声?


「これは貴重だぜ。貧乏人オールス、どこかへ持っていけば大金持ちになれるかもな」


 ゼクトさんの手には、白く光る楕円形の何かがあった。彼が持つと天井に届きそうな巨大な何かだ。花の一部から取り出されたように見えたけど、こんな大きな物が隠れていたのか?


「狂人、それは何だ? 俺にもわからねぇ。ラフレアの花から何を作った?」


「これは、ラフレアの種だ。デュラハンの呪詛から守ろうとして、ラフレアが自衛したのだろうな。闇のオーラに焼き尽くされても、この種から再びラフレアが生まれるということだ」


「は? 種だと? ラフレアにはそんなものは……」


「デュラハンの呪詛に負けると察したんだろ。ラフレアが滅びないのは、こういうことだ。完全に根を焼いても数年で花を咲かせる。この種は、枯れた花に擬態していた。紫色の花は、種を作ることができるようだぜ」


「ラフレアの擬態を解いたのか? おまえ、やべぇな」


「俺は、ラフレアハンターのスキル持ちだからな。初めて使った技能だが、擬態を解くと元の花は、種を残して灰になるようだ。ヴァン、室内の毒消しをしてくれ」


 えっ? 毒消し?


「ゼクトさん、毒が漂ってますか?」


「あー、おまえには見えてねぇか。フラン、おまえにもできるか?」


 ゼクトさんが神官様にそう言うと、彼女は片眉をあげた。この眉の動きは、ちょー不機嫌だということだ。


「ヴァン、あの人がラフレアの灰を撒き散らしたのよ。放っておくと、この部屋からラフレアの小さな花が咲くかもしれないわ」


「えっ!? わ、わかりました」



 僕は、枯れたラフレアを少し使って、散布用の吸着剤を作った。同じ性質のものは、吸い付くはずだ。


「ゼクトさん、ラフレアを片付けてください。花も種も」


「ククッ、人使いの荒い奴だな」


 ゼクトさんが魔法袋に片付けたのを確認し、室内に薬を撒いた。うわぁ、ほんとに散らばっていたんだな。僕が撒いた薬は、ラフレアの灰を吸い寄せてキラキラと輝いている。


 職員さん達は、ピクピクと引きつった半笑いだ。でも、締め切った室内で正解だったと思う。外だと、風に乗って町全体に広がってしまったら、大変なことになる。



「あちこちがキラキラしているわ〜」


「ララさん、服に付いたキラキラははたいて落としてください」


「はーい、師匠〜」


 ララさんだけでなく、職員さん達もみんな、服をパタパタと叩いている。だけど、ギルマスとゼクトさんは動かない。なんだかポカンとしている。


 あれ? 叩かなくてもよかったのかな。だけど、ただの吸着剤なんだけど。



「あの、ゼクトさん? ギルマス? 僕、間違えましたか?」


 すると、ギルマスが口を開く。


「いや、ヴァン、あの女が何者かわかっているよな? 俺の聞き間違えか?」


「へ? あー、ララさんは王立総合学校の先生ですよね?」


「暗殺貴族の元締めだぜ?」


「あ、はい、アーネスト家の当主ですよね」


 ギルマスは微妙な笑顔なんだけど、何が言いたいのだろう? ゼクトさんは、もういつもの通りだな。ククッと笑っている。



 すると、ララさんが話に割り込んできた。


「ちょっと、ギルマス! 何か文句でもあるわけ? あたしの師匠に何かしたら許さないんだから」


 ララさんが自分のことを、あたし呼びしているときって、とんでもない勢いがある。感情があふれ出るというか……だが、暗殺貴族らしさは皆無だ。


「ララ・アーネスト、また悪い癖が出てるんじゃないか?」


「もうっ! 家の名前を言う必要ないでしょ! あたしは、ララちゃんなんだから〜っ!」


 なぜか、ガキんちょな発言だ。メイサさんも、驚いた顔をしている。


「はいはい、ララちゃん、まさかとは思うが、ヴァンに弟子入りしたのか」


「うんっ! 謎の少年に弟子入りしたし、フランさんの教会の信者になったよ〜」


 するとギルマスは、大きなため息をついて、僕の方に視線を移した。



「ヴァン、おまえ、正気か?」


「いや、あの、僕は、ララさんを弟子にするなんて、一度も言ってないのに、師匠扱いされてるんです。言っても聞いてくれないから……」


「きゃあっ! 師匠、ありがとう!」


 ララさんが、手をパチパチ叩いて喜んでいる。何?


「ララさん、何ですか?」


「あたしを弟子にするって宣言した〜」


「へ? してませんよ?」


「嘘っ、いま、言ったじゃない」


「はい? 僕は、ララさんを弟子にするなんて……むふぉ」


 突然、ララさんに口を塞がれた。な、何なんだ?


「きゃあっ、また言ったぁ〜。嬉しいな〜」


 キャッキャと喜ぶ彼女に……もう、反論できる気がしない。



「ヴァン、この女は、こういう性格だ。一度興味を持ったことへの執着心は半端ない。ククッ、さすが極級魔獣使いだな。半魔にも好かれるらしい」


 ゼクトさんは、ニヤニヤと笑ってるんだよな。半魔って……あっ、そっか、エルフは魔族だ。



「ヴァン、彼女は、すぐに飽きるから……まぁ、しばらく師弟ごっこをしてやってくれ」


 ギルマスは、僕に哀れみの目を向けて、そう言った。悪い癖って、師弟ごっこなのか。


「は、はぁ」




「じゃあ、報酬を精算してくれ。ヴァンは、薬だな」


 ギルマスがそう言うと、職員さんはハッと我に返ったかのように、テキパキと動き始めた。あっ、元ギルマスだけど。


 神官様は、僕のギルドカードの手続きもしてくれるみたいだ。ララさんとメイサさんも、職員さんの方へと移動した。



「ゼクトさん、さっき撒いたのは吸着剤なんです。床に落ちた物は、僕の目には見えないんですけど……」


「あん? 俺にも見えねぇぜ。ククッ、互いに打ち消し合ったみたいだな。俺も、床を掃除しようかと思ったが、消えている。ラフレアは、わからないことだらけだ」


 打ち消し合った? 枯れたラフレアの花が、新たな種を残して灰になったラフレアとくっついて消滅したのか?


「それならいいですけど……」


「オールスの薬を、枯れたラフレアの花から作れるのも、同じ理屈かもしれないな。枯れたラフレアと生きているラフレアは、打ち消し合うってことらしい」


 ゼクトさんも、よくわからないみたいだ。



 僕は、ゼクトさんから、枯れたラフレアの花を受け取り、超薬草の諸刃草とラフレアの池の氷を使って、調薬する。


 出来上がった薬は、黄金色に輝く液体だ。その成分を、薬師の目を使って確認して、僕は目を疑った。


「うん? ヴァン、俺の薬を失敗したか?」


「間抜けなオールス、これのどこが失敗なんだよ」


 ゼクトさんも、僕の手の上に浮かぶ液体に釘付けだ。だよな、これなら絶対に効くよね。



「ギルマス、とりあえず飲んでください」


「苦くねぇだろうな?」


「諸刃草を使ったから苦いです。でも苗床は、これで消えるはずです」


 僕がそう言うと、ギルマスは顔をしかめながら、黄金色に輝く液体を飲んでくれた。


 僕は彼の身体の中を、慎重に観察した。薬がマナの流れに乗って、彼の身体を一気に駆け巡る。


「うぉっ、何だ、これ。足が熱いぜ」


 ギルマスは、慌てて義足のようなものを外した。だろうな。足を支えるための魔道具は、もう必要ない。


 そして両足を確認し、ギルマスはニヤッと笑った。


「枯れたラフレアと、ラフレアのしょんべんを使ったんだったな。ラフレアの大量発生は、歪んだこの世界の浄化のための自然の摂理か」



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