表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

412/574

412、ラフレアの森 〜ノレア神父が焦る理由

「フラン様、そ、そんな、ノレア神父の暗殺依頼だなんて、ダメですよ。ドゥ家が潰されてしまいます」


 僕が慌てて神官様にそう言うと、彼女は、ふふっと笑っているんだ。笑ってる場合じゃないだろ。


「ヴァン、何を言っているの? 私は、そんなことは一言も言ってないわよ」


「でも、さっき、ララさんに依頼するって……」


 暗殺貴族の仕組みを作ったアーネスト家の当主であるララさんの誘いに乗るかのように、さっき、そう言っていたじゃないか。



「師匠〜、そういうとこって、お子ちゃまね〜。神官が名指しで暗殺依頼なんか出さないわよ。ノレアの坊やでさえ、王都の泥ネズミを掌握している男とか言ってたもの〜」


 そ、そうなのか?


「じゃあ、どういう依頼を受けたことにするのですか」


「そうね〜。私達が死にそうになったから、ラフレアが話していた北の海の件を、国王に言って冒険者ギルドに依頼するよ〜。その調査に支障となる海賊とかがいたら、排除する依頼でどう?」


「なるほど、邪魔をする人を排除する依頼ですね。それなら、大丈夫かなぁ」


「うん、ここにいる人達が、ノレアの坊やに告げ口しなければ、大丈夫ね〜。告げ口して、邪魔されることになるなら……」


 うわぁ、怖い顔だ。


 ララさんは、わざわざ言葉を止めて、王宮の人達の顔をひとりひとり見ている。無言の圧力に、一瞬でピリピリとした雰囲気になる。



「アーネスト様、そのようなことは、決して致しません。我々も、もう猶予がないことは理解しています。ノレア様が力を尽くされても、どうにもならない相手だとわかりました」


 王宮の魔道士がそう言うと、他の人達も力強く頷いている。もうプライドがどうのとか、つまらないことを言っている場合じゃないもんな。


「そうよね〜、海の竜神様が師匠に命じたときに、ノレアの坊やが邪魔しなければ、ラフレアは、こんなことにならなかったかもしれないもんね〜」


 ララさんは、王宮の責任だと言っているのだろうか。


「この数ヶ月で、一気に状況が加速しました。悪霊を操る誰かが、ノレア様に嫌がらせをしているのかもしれませんが」


 そんなことをノレア神父が言っているのか。僕のことみたいだけど、この人達は気づいてないらしい。



「ふぅん、やはり、師匠〜、ノレアの坊やを追放する方がいいよ。あの坊や、頭がおかしくなってるよ〜」


 ララさんは、むちゃくちゃなことを言う。


「ララさん、それはないんじゃないですか? ノレア神父も、状況を改善しようと必死なんですよ」


「能力がないのに、改善できるわけないよ。だから王宮の一部の権力者達が、王宮に神殿教会は要らないって言ってるんだよ〜」


 えっ……それでノレア神父は、成果に焦っているのか。


「神殿教会には、大切な役割がありますよ。神と各地の神殿跡を繋ぐ経由地ですから」


「うん? 神殿教会にはそんなのないよ〜」


「精霊ノレア様が守っておられます」


「師匠〜、精霊ノレア様は死んだよ?」


 えっ!?


「ララさん、それ、いつの話ですか」


「うん? えーっと、わからない。たぶん、神官家が戦争してたときだったかな〜」


 神官家の戦争? あー、トロッケン家とアウスレーゼ家の戦争か。もう50年いや60年くらい前のことだ。


 神官様の方をチラッと見ると、彼女は首を傾げている。ララさんの記憶は、おかしいよな。



「ララさん、僕、何年か前に、精霊ノレア様に会いましたよ?」


「ふぅん、じゃあ復活したのかな〜。精霊ノレア様が死んだから、各地の神殿が崩れたんだけど〜」


 ララさんは、まるで昨日のことのように話す。ボックス山脈のあちこちにある神殿跡は、当然、神殿だったんだよな。精霊ノレア様が、管理をされているのか。


 神殿守の天兎が、今も神殿跡を守っている。それを管理しているのが、精霊ノレア様なんだ。


 精霊と天兎は、仲が悪そうだけど……もしかすると、ここに何かの原因があるのかもしれない。



「ボックス山脈には、神殿跡がいくつもありますよ。天兎の神殿守が守っています」


「ええっ? ふわふわの天兎? まだ絶滅してないの〜?」


「はい、神殿跡には、ふわふわな天兎の幼体が生息していますよ。成体になるのは少ないみたいですが」


 あ、ありゃ。ララさんの表情がまたおかしい。


「見たいわ! 私、ふわふわな天兎を飼いたいのよ〜。でも王都には、食用に改良された種しかいないの。食用の兎って、まだら模様でかわいくないの〜」


 彼女を天兎に近づけるのは、とってもマズイ気がする。


「あっ、ドゥ教会には、黒い天兎がいますよ。白い天兎の眷属ですが……」


「真っ黒なの〜?」


「はい、真っ黒です」


「フランさんが飼っているの〜? 天兎って、天の導きのジョブの人に仕えるでしょ。神官なら飼えるよね?」


 チラッと神官様に視線を向けると、片眉があがった。僕の失敗だよな。



「ララさん、黒い天兎は、ヴァンの従属ですよ」


 神官様がそう言うと、ララさんの表情が輝いた。嫌な予感がする。


「師匠〜! じゃあ、私、デネブに住むわ〜。デネブには、雷獣もいるし、竜神様の子もいるし、ふわふわな天兎もいるんでしょ? それに、弟子は師匠の近くにいるものだもんね〜」


 はい? 移住する気?


「ちょ、ララさん、いやララ先生、学校はどうするんですか。それに、アーネスト家の当主ですよね?」


「うん? デネブから通えばいいじゃない。何も問題ないわ。そうだ! メイサさん、いいこと考えたよ〜」


 学生のメイサさんは、素直に耳を傾けている。彼女は、ペパーミント家の当主になるはずの、まだ13歳の女の子だ。メイサさんにも、デネブに住もうと言うんじゃないだろうな?


「先生、何でしょうか?」


「メイサさんも、デネブに移住しなさいよ」


 やはり、言った。


「えっ? で、でも……学校もあるし、転移魔法はあまり……」


「大丈夫だよ。デネブに分校を作るから〜。そうねぇ、狭い学生寮も作るよ〜。デネブにはレモネ家が学校を作ってるから、学者系の貴族の別邸も多いんだよ」


「まぁ! ビンセント先生の学校には、興味があったんです。いろいろな教養のセミナーがあると聞きました」


 メイサさんが目を輝かせている。しかも、王宮の人達まで、興味津々なんだよな。


「うん、ドルチェ家のセミナーが面白いらしいよ〜。経営者やそれを目指す人達で、すぐに予約がいっぱいになるんだって。レモネ家は、年齢関係なく、誰でも学べる学校にしたいらしいよ〜」


 レモネ家の旦那様は、確かに、そんな感じだ。奥様のシルビア様が、少女のまま大人になったみたいな人だし、学びたい人には、身分に関係なく平等に接してくれる。


 きっと、評判が良いのだろう。



「わぁ〜っ、でも、家を出るのは……」


「レモネ家が、王都への転移魔法陣も作ってるよ。確か、ドルチェ家の黒魔導士が描いたらしい」


 マルクのことだ!


「ドルチェ家の黒魔導士? あっ! ルファス先生ですよね。すっごくカッコいいって、女性ファンがたくさんいますよ」


 マルクが先生? 王立総合学校でも先生をしているのか?


「あー、ルファス家の後継者争いをしてるんだっけ。でも、あの子で決まりだよ〜。貴族は、所詮は権力でしょ〜。どれだけヤバイ知り合いがいるかで決まるよ〜」


 マルクに、ヤバイ知り合い? 黒服のテトさんとか……あっ、ドルチェ家の地下倉庫には、魔族の使用人もいたよな。


「確かに、そうですよね。私も、もっと交流を広げるようにと、父から言われています」


 メイサお嬢様は、素直だな。




「とりあえず、帰ろうか〜。王宮の人達も、いったんラフレアの森から出る方がいいよ。師匠が居なくなって、狂った赤い花が来たら、絶対に死ぬよ?」


 ララさんがそう言うと、王宮の人達は、神妙な表情で頷いている。確かに結界が役に立たないのだから、危険だ。


「アーネスト様、デネブに作るという分校は、入学試験はあるのでしょうか」


「うん? 学長に話してみるけど、本校よりも厳しい条件にすると思うよ。ただし、あの町に合わせて、年齢や身分の条件は無しにするかな〜」


「おぉ〜、そうですか」


 王宮の人達は、色めきだっているように見える。王立総合学校に、通いたいのだろうか。身分や年齢のせいで、受験ができなかった人達なのかな。




「じゃあ、師匠〜。あれ、やって〜」


 はい? 何ですか、そのキラキラな笑顔は……。なんだか、泥ネズミのリーダーくんに似てるんだよな。


「もしかして、僕に運べと言ってます?」


「うん! 楽しいもん。あんなに速く空を飛べるなんて〜。飛翔魔法では無理だよ〜。デネブまでお願いしますっ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ