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411、ラフレアの森 〜密談?

 僕との話が終わると、ラフレアの赤い花は、大量のつぼみを引き連れて王宮のキャンプ場から出て行った。


 キャンプ場内の空気が一気にゆるんだ。赤紫色に変わっていた地面も、元の色に戻っている。



「師匠〜、ラフレアが言っていたことって……」


 女性教師ララさんは、僕の方へと歩いてくる。


 いまさっき、神官様が彼女に説明していたみたいだけど、ララさんは、自分で直接確かめないと気が済まないのか。


「海の竜神様の子です。僕が姿を借りたときに、うっかり、水辺の魔物を直視してしまったんですよ」


「ふぅん、じゃあ、師匠の子ね。そんなに可愛いの?」


 僕のことを完全に師匠呼びだな。気まぐれなララさんは、すぐに気が変わったり忘れそうだから、放置でいいか。


「まぁ、そうですね。不思議な太短いヘビみたいな子です。だけど、移動は、地を這うのではなく、ポヨンポヨンと飛び跳ねて移動します」


「へぇ、想像できないわ。見てみたいわ〜」


 あちゃ、また、これだ。


「デネブのドゥ教会に居ることが多いですよ。最近は、ちょっと行動範囲が広くなっているようだけど」


 たまに、どこに居るかが全くわからないときも、あるんだよな。心配性な一角獣が一緒だろうから、自由にさせているけど。


 そういえば、あの子達は、影の世界にも出入りできるようになったんだっけ。一角獣が連れて行くんだろうか。


「えー、デネブって誘惑が多いわね〜。精霊の森にも行かなきゃならないし、忙しいわ〜」


 雷獣を見たいと騒いでいたな。あの子達が従えていると教える方がいいのだろうか。




「あ、あの、アーネスト様と、その……えっと、貴方は……」


 王宮の使用人らしき人達が近寄ってきた。彼らは、僕のことを知らないみたいだ。魔導士風の人や門番にも知られていない。


 僕に、名乗るようにと促しているように聞こえる。だけど、自己紹介をしてもいいのだろうか。ノレア神父は、僕と関わる人達にも、いろいろと……。



「何? どうしたの〜」


「はい、あの、王宮への報告なのですが、どうすれば良いのかわからなくて……」


 王宮の紋章の入った服を着た男性が、困ったような表情を浮かべている。偉い人なのだろうか。


「ありのままで、いいんじゃない? 逆に隠すと問題になるよ」


 なんだかララさんは、嘘の報告をしたら問題にすると、脅しているように聞こえる。


「ですが、ラフレアの異常繁殖と先程のラフレアが話していたことは、我々が報告しても信用されないかと……」


 確かに、信じられないことだよな。実際に、自分の目で見ても、悪夢だったと思いたい。



 すると、神官様が口を開く。


「それなら、私から、王宮へ報告しましょう」


「えっと、失礼ですが、アウスレーゼ家の神官様でしたよね? 王への謁見は……」


 神官様のことも知らないのか。


「私は、フラン・ドゥ・アウスレーゼです。今は、アウスレーゼから独立して、デネブで小さな教会を……」


「うわぁあ! し、失礼しました。えっえっえっ!?」


 その男性は、神官様と僕の顔を見比べるように、交互に見ている。この人、大丈夫だろうか?



「彼は、ヴァン・ドゥ、私の伴侶です。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」


 神官様は、僕のことを紹介して、妙な言葉も追加している。いろいろと思い当たることが多すぎて、王宮の彼が何を慌てているのかわからない。


「な、なるほど。ラフレアまで手懐けてしまうとは……覇王持ちだという噂を聞きました。しかも、ノレア神父の覇王を上書きする凶悪な……いえ、あ、あの……すみません」


 凶悪か。僕は、そういうイメージなのか。ノレア神父が、そう言ってるんだろうな。


 王宮にいる人とは、僕はあまり関わらない方がいいだろう。僕と親しくするだけで、ノレア神父が何をするかわからない。


 ほんとに、精霊ノレア様の『坊や』だよな。



「えっ? 師匠って覇王持ちなの〜? だったら、もう、ノレアの坊やなんか追い出して、神殿教会を乗っ取ればいいんじゃない?」


 ララさんは、何を言ってるんだ?


「あの、僕は、ラフレアには何のスキルも使っていませんよ? おそらくラフレアには、覇王なんか効かないでしょう。ラフレア自体が覇王みたいなものですし。それに僕は、神殿教会って苦手ですから」


「キャハハ、師匠おもしろ〜い! 確かに、ラフレアって覇王そのものって感じ〜。でも、ラフレアって、花ごとに個性が違うよね〜。不思議だわ〜」


 ララさんは、キャッキャと手を叩いて笑っている。この人、ほんと自由だよな。



 なんだか、王宮の人達の視線が変わったような気がする。


「あの、なぜラフレアは、ヴァンさんとあんな親しげな会話を……愛らしい子というのは、何なのでしょう? 人ではないような印象を受けました」


 どうしようか。僕は、王宮の人達とは距離を置くべきだと思う。しかし……。


 ふと、デュラハンやブラビィの言葉を思い出した。ゼクトさんにも言われたことがある。


 隠そうとするから、面倒なことになる。


 はぁ、そうだよな。ぶっちゃけようか。知られて都合の悪い話は、ブラビィがなんとかしてくれそうな気がする。



「愛らしい子は、竜神様の子だよ〜。師匠ってば、うっかり者なのよね〜。私も見せてもらうから、貴方達も見たいなら、一緒に行く?」


 僕が迷っていると、ララさんがさっさと答えてくれた。


「竜神様の子……。もしかして、ラフレアを抑える力があるのでしょうか」


「うーむ、わかんな〜い。だけど、さっきの緑色の人面花は、竜神様の子のことなんて、なんとも思ってないみたいだったね〜。森の木々が、精霊師に惹かれてるって言ってたよ〜」


 ララさんは、木々の声が聞こえるのか。あっ、エルフの血が混じっているからだろうか。


「精霊師というのは、ヴァンさんのことですよね。ラフレアは、精霊系の植物だから、精霊師には心を開くことがあるとの言い伝えがあります」


「まぁ、適当に報告しなさいよ〜。それから、ラフレアが言っていた北の海の氷の獣の話は、絶対に報告しなさい。異常繁殖をしている原因だって、ラフレア自身が言ってたんだから」


 ララさんは、顔から笑顔を消して、冷たい口調でそう言った。一瞬、ヒヤリとした。クリスティさんと同じだ。暗殺貴族特有の威圧感だな。逆らうと死が待っているかのような、恐ろしさを感じる。


 王宮の人達にも、緊張が走ったようだ。


「アーネスト様、ですが、地下水脈の件については、我々には何も口出しをする権限がありません」


「師匠が居なかったら、あんた達も死んでたよ? わかってんの? ノレアの坊やに任せていたら、もっと悪化するわ。王宮は、ラフレアの森への立ち入りを、今後永遠に完全に封鎖するしかないわよ」


「なぜ、そんな……」


「当たり前でしょ。ラフレアのつぼみは、私が数えただけでも、千個以上あったわ。ラフレアのテリトリーに人間が入ると、ラフレアは人を捕まえようとテリトリーを広げるよ? 王都なんて、一瞬でラフレアに飲まれるわ」


 千個もあったか? 彼女のハッタリだろうか。だけど、このままだと、軽く千個を超えるかもしれない。


 王宮の人達は、シーンと静まり返っている。


 みんな、狂った赤い花がここを襲撃して来たことを思い出しているんだろう。そして、大量すぎる緑色のつぼみと、赤い花が話した言葉……。



「アーネスト様のおっしゃる通りです。このままだと、王都がラフレアに飲み込まれる。ノレア神父が、意地になっておられることは、皆、知っています。我々にもプライドがある。ですが、今はもう、そんなことを言っていられません」


 王宮の紋章のついた服を着た男性は、思い詰めた表情で、そう、決意表明のようなことを言っている。


 もしかすると、ノレア神父に逆らうことは、彼にとって死を意味するのかもしれない。



 すると薄い笑みを浮かべて、ララさんが口を開く。


「貴方達には、任せておけないわ〜。ノレアの坊やには、私から言うわ。こんなに大量のつぼみを異常繁殖させたことに、坊やは気づいてないみたいだもの」


「アーネスト様、ですが……」


「ふふっ、ノレアの坊やに、私が処刑されるとでも思ってるの? 甘いわね。先に別のところから、ノレアの坊やの暗殺依頼を受ければ問題ないわ」


 そう言うと、ララさんは、チラッと神官様の方を見た。


 えっ? ちょっと待って。彼女に依頼させる気なのか。ドゥ家の当主なのに?



「ララさん、わかりましたわ。私から、貴女に依頼します」


 神官様がそう言うと、暗殺貴族アーネスト家の当主は、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。



日曜日はお休み。

次回は、1月31日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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