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409、ラフレアの森 〜干物を手に入れる

「フラン様、ちょ、ちょっと……」


 僕は、彼女に押し倒された形になっている。僕を心配した神官様が、突進してきたんだ。


「あっ、ごめん、つい」


「いえ、なんだか、あの子達みたいで驚きました」


「うん? あー、あははは。いつも見てたから、似てきたのかも」


 竜神様の子達も、よく飛び込んできて、僕に尻もちをつかせるんだ。


 神官様は、恥ずかしそうに、僕から離れていく。ふふっ、かわいい。




 女性教師ララさんは、僕が託した透明なゴム玉を消したみたいだ。そしてメイサさんと一緒に、こちらに近寄ってくる。


「師匠〜、さっきのは何? 暗殺者もびっくりだわ〜」


 ララさんは、何のことを言ってるんだ?



「フラン様が、聖魔法の結界を張ってくださらなかったら、私は失神していたかもしれません」


 学生のメイサさんは、神官様に憧れの視線を送っている。もともと憧れていた彼女に守られて、より一層、憧れの気持ちが強くなったようだ。


「ヴァンのまとうオーラに、ピリピリとした怒りが混ざっていたからね。透明なゴム玉は、オーラの振動は通してしまうみたいだったから」


 えっ……そうだったんだ。


 僕は、王宮の人達の方に視線を移す。うわぁ……デュラハンの闇のオーラにやられたのか、ブルブルと震えている人が多い。



「ヴァン、この花の残骸はどうするの? まだ、闇のオーラが強くて触れられないけど、このままにしておくと、変なものが生まれないかな?」


 神官様は、気持ち悪い干物になったラフレアの花を、眉をしかめて眺めている。


「これは、持って帰りますよ。ギルマスの薬の素材にします」


「えっ? でも、ラフレアの生命は感じないわよ? 完全に闇のオーラにやられて、枯れてしまっているわ」


「干物状態ですね。これから枯れていきます。僕は、枯れたラフレアの花を探しにきたので、ちょっと多すぎますけど、持ち帰りますよ」


 僕は、このために用意していた特殊な魔法袋を取り出した。マルクから譲ってもらった結界付きの魔法袋だ。


 そして、ラフレアの干物を魔法袋へ収納した。


 容量10キロの魔法袋だけど、ギリギリ入らない。だけど、すぐに残量が表示された。時が止まる魔法袋の中でも、ラフレアの干物化は進んでいるのか?


 少し待つと、すべてのラフレアの干物を収納できた。闇のオーラがまとわりついた状態で収納したから、干物化が進むのだろうか。


 デュラハンの闇のオーラの力が、魔法袋の効果もマルクの結界も超えるということか。デュラハンは、めちゃくちゃ怒っていたもんな。




 ラフレアの花の干物が消えると、神官様とメイサさんの表情は明るくなった。やはり、気持ち悪い干物だったもんな。


「ねぇ〜、師匠〜、暗殺者にならない? そんなクールな姿で、こーんなことができるなら、一般人にしておくのはもったいないよ〜」


 はい? ララさんの神経がわからない。もしかして、スカウトされているのだろうか。


「ララさん、ヴァンは既に裏の顔も持っていますわ。ヤークの末裔だと言われてい……」


「ええっ? 師匠って、暗殺しない暗殺者ピオンなのぉ?」


 な、なんだ? 矛盾した呼び名だな。


「さぁ、どうでしょうね〜。そんなことより、このキャンプ場の人達の治療が先です。僕も加害者かな」


「そうね〜、あの闇のオーラは、酷かったわね〜。私は平気だけど、白魔導士系にはキツイかも。あの姿って、やっぱりデュラハンかしら?」


 ララさんは、わかるんだな。加護を強めた瞬間から、わかっていたようだけど。



「そうです。デュラハンの加護ですよ」


「うん? 憑依じゃないの? あれ? デュラハンって、人間に呪いを振り撒く人嫌いだよ〜。なぜ加護なんて……それに、妖精の加護なんかに、ラフレアがやられるの?」


 ララさんは、首を傾げている。そうか、デュラハンが精霊になったことを、まだ知らないんだな。


「デュラハンは、今は精霊です。闇の精霊様から託されました。だけど今は、人嫌いというわけでもないと思います」


「ふぅん、首を取り返したのね? だからノレアの坊やが、師匠を暗殺しようとしてたのね〜。ぷぷぷっ、あの暗殺者ピオンを暗殺できるわけないじゃない。他のピオンなら、簡単に始末できそうだけど」


「まぁ、いろいろと、ノレア神父には嫌われています。さぁ、メイサさんも、お手伝いいただけますか? 冒険者は互いに助け合うものです」


 メイサさんにそう言うと、彼女は素直に頷いた。ほんと、悪い大人に騙されそうな子だよな。




「皆さん、とりあえずポーションをどうぞ」


 僕は、正方形のゼリー状ポーションを作り、王宮の使用人っぽい女性に渡した。この場で作ったのは、おかしなものではないと、彼らに見せるためだ。


 魔導士風の女性は、ひとつ食べて確認し、他の人達へ配ってくれた。彼女は、僕が雑草を摘んだときから、手元をじっと見ていた。やはりここで作って正解だったな。


 普通なら薬草から作るけど、このゼリー状ポーション程度なら、僕は雑草を薬草に改良し、薬を作ることができる。



「グミポーションか。甘味の後に苦味が残るから、しつこい後味が……あれ? 苦くない」


「本物か?」


「アナタ達! 私の師匠に、失礼なことを言わないでよね。強欲な薬師の爺さん達が作る偽物が、王都に出回ってるから、師匠は迷惑してるんだからねっ!」


 いや、そんなこと……僕は初耳だ。ゼリー状ポーションが、王都で出回っているのか。


「アーネスト様の師匠!? し、失礼いたしました!」


 僕を門前払いした門番も、コロッと態度を変えた。それだけ、ララさんの地位が高いということだ。王族だったわけだから、当然だな。


 しかし、完全に師匠扱い……弟子は取らないと言ったのに。



「メイサさん、フラン様と一緒に、ポーションで回復しなかった人の治療をお願いします」


「はいっ!」


 キラキラと目を輝かせて張り切っているお嬢様に、神官様は優しい目を向けている。


「ヴァン、あなたも、ポーションを配っておしまいじゃないわよ?」


「あ、はい」


 なぜか、叱られた?



 ララさんも、回復魔法が使えるらしい。テキパキと、ポーションで治らなかった症状を治療していく。


 僕の出番は無いような気がする。ちょっと気になるアレを調べてみようか。




「師匠〜! この人の足、作って〜」


 キャンプ場内の一部の土の色が戻らない原因を調べようと、赤紫色の地面の方へ近寄って行ったときに、ララさんに呼ばれた。


 仕方なく僕は、彼女達の方へと戻っていく。



「ララさん、足を作ってって言われても……あー、なるほど」


 二人の鎧を着た男性が、壊れたテーブルの上に座っている。自力では身体を支えられないようだな。魔導士が、二人を支える補助魔法を使っている。


 その二人の男性は、ラフレアの赤い花の茎を焼き切ったときに、茎から吹き出す液体を浴びたらしい。身体のあちこちが変色し、両足は、猛毒のせいで使えない状態だ。



「ラフレアの花の茎の毒にやられてますね」


「師匠〜、私の毒消しは効かないよ。フランさんの浄化魔法も効かない。メイサさんは試してないけど〜」


「浄化魔法は、効果がありません。ラフレアは精霊系の植物ですから。そして、この毒は猛毒です。普通の毒消しでは消せませんよ」


「ええ〜っ! この二人は、死ぬのね〜。空を漂うラフレアの茎を切った罰ね〜」


 ララさんは、軽くそんなことを言う。暗殺貴族だけど……そういえば、裏ギルドに出入りする人達って、こんな感じだっけ。



 僕は魔法袋から、超薬草の諸刃草と薬草を取り出した。そして、ラフレアの猛毒に効く解毒薬を調合する。


「これを飲んでみてください。超薬草から作りました。これで無理なら、別の手段を考えます」


 二人に手渡すと、すぐに飲んでくれた。苦そうに顔を歪めたが、薬が身体を巡ると、どんどん毒は薄くなっていった。


 しかし、猛毒で体力も魔力も奪われたようだな。まだ、二人は苦しそうにしている。



「これも食べてみてください」


 僕は、木いちごのエリクサーを二人に渡した。二人は、すぐに口に入れ、そのまま固まってしまった。何か、おかしな副作用か?


 薬師の目を使って丁寧に診ていったが、木いちごのエリクサーは、ラフレアの毒に邪魔されることなく、きちんと仕事をしている。


 体力と魔力を回復し、やっと身体に残っていたラフレアの毒が綺麗に消えたようだ。


 ラフレアの猛毒って、めちゃくちゃ厄介だな。



「体調は、どうですか? もう異常はないと思うんですけど?」


 僕がそう尋ねると、二人は頷いているが……。



「もう、終わりだ……」


 ひとりがポツリと呟いた。



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