表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

405/574

405、ラフレアの森 〜囲まれた

「あれは、ラフレアの赤い花です」


 僕がそう答えると、神官様だけでなく女性教師ララさんまで、驚いた顔をしている。


「空を飛んでいるの?」


「いえ、茎を伸ばして空を泳いでるんですよ。獲物を探しているのでしょうね」


「謎の少年、何を言っているの? ラフレアは地面に広がるように巨大な花を咲かせるのよ〜」


 ララさんは、ラフレアの赤い花を狩ったことがあると言っていたけど、事実だろうか? もしかすると、空をウロウロするラフレアの方が珍しいのかもしれないけど。


 学生のメイサさんは、その表情をひきつらせている。怖がらせるような言い方になってしまったのだろうか。



「あっ、わかった! 空を漂っている方が若いのね〜。そして、茎が折れて地面に広がるというわけね〜」


 彼女……暗殺貴族アーネスト家の創始者は、やはりわかっていないようだ。興味のないことは、忘れてしまったのかもしれないな。


「ララさん、違います。地面に広がるように咲くラフレアの赤い花は、茎を伸ばして空を漂うことができるのです。茎を切ってしまうと、花は地面に落ちます。そして、茎から飛び散る液体を浴びると花は変色します」


 茎から飛び散る液体が、猛毒だとは言えないな。


「ええ〜っ? それって毒花畑のこと? ラフレアの森に何十年かに一度、色とりどりの毒花が現れるらしいよ〜。ラフレアハンターじゃなきゃ狩れないし、毒花畑に近寄った男性はすべて死ぬわ〜」


 まぁ、そうだろうな。デュラハンや一角獣そしてブラビィが来てくれなかったら、僕達もどうなっていたかわからない。


「それで、王宮の兵の部隊がひとつ全滅したんですよ」


「ふぅん、情けないわね〜。ラフレアぐらいで〜」


 いや、それは、女性だから言えることじゃないかな。まぁ、反論はしないけど。




「ラフレアの赤い花が空を泳いでいるなら、ここで休憩しましょうか。さっきの案内板まで戻るのも、危険かもしれないわ」


 神官様は、そう言って、メイサさんに何かを渡している。僕にも、そして女性教師にも配ってくれた。


 デネブで売っているぶどうパンだ。すぐ近くのシャルドネ村から売りに来ているそうだ。


 婆ちゃんが焼くリースリングのぶどうパンとは違って、細長い形をしている。外で食べやすいと、冒険者に人気だそうだ。


 パンを食べると、僕も少し元気が出てきた。メイサさんも同じみたいだな。池の水をパシャパシャと飛ばしている。何をしているのだろう?


「この水をかけると、草が輝くみたいです」


 無邪気な笑顔だ。まだ13歳だもんな、若い。


「メイサさん、子供みたいな遊びはやめなさい〜」


 そう言いつつ、女性教師ララさんは、池に足を突っ込んでバタバタしているんだよな。




 小さな池のほとりで休憩していると、ドーン、ドーンと、地面が揺れた。池に手を突っ込んでいたメイサさんは、慌て、僕達の方へと駆け寄ってきた。


「何かしら?」


「あっ、フラン様! 空を泳いでいた赤い花がいません」


 メイサさんは、王宮のキャンプ場の方を指差している。


「まさかとは思うけど……地面の色がなんだかおかしいわね」


 彼女達の視線の先は、うわぁ……赤紫色だ。この色は、ラフレアの発情期なんだよな。ここって推奨地じゃないのか?


「キャンプ場に転移してきた人達のせいね〜。草の生えていない地面が真っ赤に染まっている〜。ラフレアのテリトリーだわ〜。まともな魔法が使えなくなるわね〜」


 ララさんがそう言ったことで、神官様は驚き、小さな氷を作っている。彼女は使えるみたいだな。


「本当ですねー。魔力は10分の1以下だわ」


 女性には、影響はないかと思っていたけど、そうでもないらしい。



「じゃあ、離れる方がいいかな。今日は帰りましょうか」


「謎の少年さん、何を言ってるの? ラフレアのテリトリーが広がっているということは、赤い花を狩るチャンスじゃない。普段は見つけられないのよ〜」


 ララさんは、やはり狩りたいんだ。


「メイサさんの先生ですよね?」


「あー、うーん……でも、空を泳いでいたラフレアが居なくなってるってことは、地面に戻ったんでしょ? まともな魔法が使えなくても、物理攻撃が効くわよ〜。ラフレアってバカよね〜。物理攻撃を封じる方がいいんじゃない?」


 あれ? 知らないのか?


「ラフレアの声を聞くと、身体のチカラが抜けて動けなくなるそうですよ」


「ちょっと、何を言ってるの? ラフレアがしゃべるわけないじゃない」


 しゃべるし、歌うんだけどな。ほら、こんな風に……げっ!?



『ラララン、ラン、ララ』


 すると、女性教師はキョロキョロし始めた。


「誰? 私の名前を連呼するのは……中性的な声ね〜。聞き覚えがないわ〜」


『ララン、ララララ〜』


『ラン、ラララン〜』


『ララララ〜……アヒャッ』



「きゃー! な、な、な、何……」


 メイサさんが、僕の後方、かなり上の方を向いて、ひきつっている。僕は、振り向かなくても、彼女が何を見ているのかは、わかる。



 女性教師が剣を抜いた。


 だけど、つぼみだよな。ゼクトさんは、つぼみはスルーしていた。理由はわからないけど……。


「ララさん、緑色の花に見えるものは、つぼみです。切っちゃダメですよ。ラフレアハンターもスルーしていました」



 キン!



 はぁ、人の話を全く聞かないんだよな。


「ちょっと、どういうこと?」


 彼女の剣は、ポキリと折れている。別の剣を出して、斬りかかっていくけど、同じく折れたようだ。



 振り返ってみると、緑色のつぼみがいた。人面花の形相が怖い。彼女に斬りかかられて怒っているのか。


「どういうこと? 全然、切れないわ〜。暗殺用のタガーまで弾くなんて……」


「ララさん、やめてください。ラフレアが怒っていますよ」


「なぜ、キャンプ場の方に赤い花があったのに、ここにつぼみがいるのよ? ラフレアって、一度にいくつも咲かないわ〜」


 彼女が疑問を持った。地下水脈の話をするチャンスだ。



「きゃー!」


 神官様と一緒に少し離れていたメイサさんが、悲鳴をあげた。神官様も、顔面蒼白だ。


 ララさんは、すぐに彼女達の方へと駆け寄り、動きを止めた。手に持っていたタガーが、地面に落ちた。


 僕も池を離れて、彼女達の方へと向かうと……。


『ララ〜、ランララ〜』


『ララン、ララ〜』


 緑色の人面つぼみの大群だ。僕を見ると……笑顔になる。うー、気持ち悪いけど、ビビってはいけない。


 だが、さらに数が増えている。以前は、40個もなかったはずだけど……見渡す限り、緑色の巨大な人面花だ。



 ララさんが、攻撃魔法を使おうとしても、小さな火にしかならない。そして、つぼみに届く前にかき消される。


「ど、どうなっているのよ、こんな……ありえない」


 ラフレアは、ララさんを敵認定したのか、彼女に向ける顔は、怒りに満ちている。


 マズイな……。でも、緑色のつぼみは、何もできないとゼクトさんが言っていたっけ。しかし、これ以上、ララさんが攻撃を続けると赤い花が来るかもしれないな。



 僕は、スキル『道化師』の玉乗りを使う。そして、透明な割れないゴム玉の中に、彼女達を入れた。


「な、なんですか?」


「割れないゴム玉です。皆さん、この中に避難してもらいますよ。ちょっと、つぼみが怒っていますからね」


 僕も一緒に、その中に入ることで、緑色の人面花から、怒りの表情は消えた。でも、僕達の周りからは離れないな。ゴム玉の中を覗き込んでいる。だけど、それだけだ。


 歌声は次第に揃い、どんどん大きくなってきた。


『ララン、ランラン、ララ〜』




「さっきのは、偵察の個体だったのね。まさか、こんなにたくさんのつぼみを呼び集めるなんて……身体が重くて仕方ないわ。この声のせいね」


 ララさんの話し方と表情が変わった。


「嫌な声ね。動けないほどではないけど、動きたくない重だるさを感じるわ」


 女性3人は、身体が重いと言うけど、普通に動けるようだな。



「この声は、男性なら動けなくなるようです」


「なぜ、謎の少年は何も変わらないの?」


「たぶん、精霊師には効かないんです。ラフレアは精霊系の植物みたいですから」


 するとララさんは、僕を殺意を含んだような目で、キッと睨んだ。


「アナタ、まさか、ノレアの坊やの手先?」


「はい? 僕は、ノレア神父に嫌われています。だから、何度も暗殺しようと……」


「あー、そうだったわね。忘れていたわ。しかし、なぜこんな量のつぼみ? 地下水脈がラフレアの養分であふれているのかしら」


 チラッと神官様の方を見ると、彼女は微かに頷いた。話すタイミングだな。



「これは、地下水脈の汚染が原因だと思います」




日曜日はお休み。

次回は、1月24日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ