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403、ラフレアの森 〜オールスにラフレアが……

 僕達はいま、ラフレアの森に来ている。土の色が変わっていると聞いていたけど、王都から入ってすぐの場所は、いつもの白っぽい土だった。


 地面が赤紫色になると発情期だと、以前デュラハンが言っていた。人間は、ただのテリトリーの印だと思っているらしい。


 ラフレアの森は、ラフレアの巨大な株の上に土砂が堆積してできている。だからラフレアの気分次第で、土の色に変化が現れるようだ。



「土の色が白いわ〜。赤くないのね〜」


 女性教師は、首を傾げながら歩いている。赤い花を狩ったことがあると言ってたっけ。暗殺貴族の仕組みを構築した、アーネスト家の創始者だという彼女は、ラフレアも狩れるんだな。


 白い土を知らないなら、通常時は来たことがないのかもしれない。採取権がないと立ち入り禁止だもんな。



「テントのある推奨地で、採取しましょう。人がよく採取する場所なら、危険は少ないはずです」


 神官様がそう言うと、メイサさんは輝く笑顔で元気に返事をした。ふふっ、神官様に憧れているというメイサさんは、ずっとテンションが高いんだよな。


 ラフレアの森には、王宮の採取のための小さなキャンプ場があるそうだ。その付近が推奨地だとされているらしい。


 僕としては、推奨地以外の方が珍しいものがあると思う。だけど、メイサさんのミッションの付き添いだから、安全第一だ。


 それに推奨地には、僕が必要とする物があるようだから、まぁ、いっか。



 ◇◇◇



 昨日あの後、受注のときに、ギルマスも教会に来たんだ。ラフレアの森の採取権の書類のようなものを持ってきた。


 そして、メイサさんと女性教師が帰ったあとに、ギルマスは着ていたローブをめくって僕に見せたんだ。


 両足に小さなラフレアのつぼみができていた。しかも、ひとつではない。左足に2つ、義足をつけている右足には5つもあったんだ。


 これは、両足の治療にラフレアの花肉片を使った副作用だ。


 これまでは、諸刃草から作った一般的な毒消し薬を渡し、毎日飲んでもらっていた。だけど、やはり、それでは無理だったみたいだ。


「ヴァン、ひと月以上ずっと薬を飲んでいて、何も起こらなかったんだぜ? もう余裕だと思って、ここ3日ほど飲むのをやめてたら、こうなっちまった」


「えっ……あの諸刃草の毒消し薬は、効いてたんですね」


「あぁ、そうだな。しかし、気持ち悪い声が聞こえてくるんだ。歌声みたいなのが頭の中で、ずーっと聞こえてる」


「緑色のつぼみは、歌いますからね。ララランって」


「うぎゃぁぁあ、それだ、それ。何とかしてくれ。眠れなくなっちまう」


 ギルマスは、大げさに騒ぐけど、焦っているようには見えないな。



 ラフレアを薬の素材にすると、必ず副作用が起こるというのは、本当だったんだな。ひと月以上も抑えていたのに。


 身体からマナを奪って、ラフレアの赤い花が咲き、気づかずに放置してると、青紫色に変化して猛毒を撒き散らすんだっけ。


 ラフレアの森なら、地面が赤紫色に変化すると発情期なんだよな。花が青紫色に変化するということは、地面に落ちた花の状態か。


 僕は、色とりどりの肉厚なじゅうたんを思い出して、背筋が冷たくなった。ゼクトさんが死を覚悟していたほどだ。


 いまのギルマスの両足は、ラフレアの苗床状態だ。


 ラフレアは、開花スピードは遅い。だけど、赤い花が咲いた後は、一気に変色する。そのときには、もう苗床は死んでいるとゼクトさんは言っていた。


 開花する前に、毒消し薬を使う必要がある。



「ギルマス、つぼみを見つけた状態で、あの毒消し薬は、飲みました?」


「あぁ、当然、飲んだぜ。そういえば、あれを飲むとしばらく歌声は聞こえなくなったな。だが、つぼみの数は増えていくんだよ」


 僕は、薬師の目を使って、ギルマスの足の状態を確認した。両足は赤くなって、ひとまわり太くなっている。


 赤く腫れているというより、完全にラフレアに乗っ取られているようだな。両足には、ラフレアの根がガッツリ張り巡らされているようだ。


 この根を枯れさせる必要がある。


 ただ、ラフレアは精霊系の植物だと言われている。おそらく、ラフレア自体を素材にしないと、適切な毒消し薬は作れない。


 だから、ゼクトさんは毒をもって毒を制すと言っていたんだ。枯れたラフレアを使えば、薬が作れそうな気がする。だけど、ラフレアって枯れるのだろうか?



「ギルマス、ラフレアの森に行かないと、これはどうにもできないです。枯れたラフレアを使えばいいような気がするんですが、ラフレアって枯れますか?」


「あー、そういえば、王都の極級薬師の爺さんが、枯れたラフレアと諸刃草を使って、解毒したんだったな〜」


 ちょ、早く言ってよ。だから、ギルマスもゼクトさんも、お気楽な顔をしていたのか。知らないって言ってたのは、僕を試していたのか。


「ギルマス、その情報、もしかしてわざと隠してました?」


「いや、忘れてたんだよ。何か、ラフレアの森に素材があったなーってのは、覚えてたけどよ。子供の頃に聞いた話だからな」


 そんなに古い記憶か。それなら仕方ない。



「枯れたラフレアって、どの辺にあります?」


「知らねぇよ。ラフレアが嫌う場所じゃねぇか? 人間が出入りする門の付近……には、ラフレア自体がないか。あー、あの森の小さな池は、ラフレアが吐き出したもので出来てるらしいぜ」


「ラフレアが吐き出したもの?」


「あぁ、ラフレアは、地下水脈から水を吸ってるだろ? そして、不純物を取り込んで養分にしている。だから、不要な水分を吐き出して、池になっているらしいぜ」


「ラフレアが不要なものなんですね」


「そうだ。ラフレアのしょんべんだが、人間にとっては必要なものだ。純度の高いきれいな水らしいぜ。確か、その近くに王宮の簡易宿があるはずだ」


 しょんべんって……。


「わかりました。小さな池の近くを探してみます」


「デュラハンが派手に暴れたから、あちこちに、枯れたラフレアが散らばっているかもしれねぇがな」



 ◇◇◇



 ラフレアの森を結構進んだ先に、推奨地の看板が出ていた。木々が少なく、明るいひらけた場所だ。


「なんだか、ただの草原ね〜。採りつくされたって感じだわ〜」


 女性教師は、ぶつぶつと文句を言っている。神官様の片眉が、かすかに動いた。きっと苛ついている。


「この辺に、池があるそうですよ。純度の高いきれいな水の池だそうです。珍しい薬草も生えているんじゃないかな」


 僕がそう言うと、女性教師は、また変なスイッチが入ったようだ。ニタァ〜っと笑ってる。



「謎の少年さん、そんな綺麗な水で育った薬草なら、私でも美味しいグミポーションを作れるかしら」


 この人、僕の名前を完全に忘れている。というより、覚える気がないのだろう。


「そうかもしれませんね。だけど、この辺に生えている薬草からでも、普通に作れますよ?」


「私にはできないの! 弟子にしてくれるのよね?」


「作り方は、あとで教えます。弟子入りするほどのことじゃないですよ? 僕は未熟ですから、そもそも弟子なんてとっていません」


 僕は、やんわりと断った。だが……。


「じゃあ、私が弟子1号なのねっ!」


「弟子はとりません」


「超級だからでしょ? そんなの気にしたら負けよ〜。極級じゃなくても、弟子のいる薬師はいるわ〜。謎の少年さんは、もっと自信を持ちなさいよ〜」


 この人、ほんとに話を聞かないな。


 ボレロさんが、何百回も冒険者ギルドの仕組みを説明しても、ダメみたいだもんな。


「僕は、弟子はとりません! そんなのは、ジョブ『薬師』の人のすることですよ」


「遠慮しなくていいのよ〜。ジョブが偉いなんて決まりはないんだから〜」


 ダメだな。言うだけ無駄だ。スルーしておこう。




 いくつかのテントが見えてきた。そして、王宮の制服を着た人達の姿が見えた。兵ではなく、王宮の使用人だ。もちろん護衛らしき兵も、数人いる。


 男性ばかりだけど、大丈夫なのだろうか。ラフレアの森は、いまもまだ警戒令が出されている。


「男の人ばかりですね」


 メイサさんが、ぽつりと呟いた。


「この付近は、男性でも比較的安全なのだと思いますよ」


 神官様がそう説明すると、メイサさんは嬉しそうに頷いている。憧れている神官様に、呟き声をひろってもらえたら、嬉しいよな。



「こんにちは、採取権をお持ちですか?」


 キャンプ場に入ろうとすると、門番兵に声をかけられた。神官様は、書類を提示している。


「あー、男性はダメだよ。ラフレアが不安定ですからね。女性3人は、どうぞ」


 はい? いまさら?



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