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397、自由の町デネブ 〜オールスの両足

 有力な貴族のお嬢様が、小さすぎる神官家の当主に憧れを持つとマズイのだろうか。ゼクトさんの話は、全く僕には理解できない。


 それに、ペパーミント家の成人の儀を、神官様が担当することも、そういえば少し変だよな。古くからの有力貴族は、アウスレーゼ家の中でも、上の地位にある人に、成人の儀を依頼するはずだ。


 もしかして、そんなに前から神官様は、ペパーミント家を利用して、王族出身の女性との縁を繋ごうとしていたのだろうか。


 あっ、別件か。


 神官様が、独立する前に、言っていた言葉を思い出した。独立の後ろ盾のために、王族の誰かを一番目の伴侶にしようと考えていたんだ。そのために、接触しようとしていたのか。


 だけど、結局、それはやめたみたいだ。僕が、騒いだから……なのかもしれない。


 あのときの僕には、神官家や貴族の政略結婚の意味がわからなかった。だから、二番目の伴侶にしてあげると言われて、僕は怒ったんだったな。


 神官家も貴族も、一番最初の伴侶は、自分の地位を安定させるための政略結婚をする。そして、好きな相手は、二番目の伴侶に迎えるんだ。


 だから、二番目にしてあげるという言葉は、僕のことが好きだという告白と同じだ。だけど、それを知らなかったから、僕は、泣きわめいた気がする……。


 若かったよな。いや、幼かったよな……恥ずかしい。




「とりあえず、こちらとしては、あとは待つだけですね」


「そうだな。まぁ、もう大丈夫だろ。ヴァン、間抜けなオールスの薬を作ってやってくれ」


 まだいろいろと尋ねたいことがあるけど、ギルマスの薬の方が先だな。


 だけど、黒い兎だらけのあの場所の話は、ブラビィに聞かないとわからないか。あの怪鳥を炎で攻撃したのは、あの場所で怪鳥ジーンが討たれたという偽装だろう。


 追跡されていたのかもしれない。王都の兵か、それとも神獣テンウッドか……。


 はぁ、切り替えよう。




 僕は、超薬草から、断罪草をつくる。燃える草なんだよな。だけど、教会の光る神の像の近くで作ると失敗がない。


 燃える断罪草ができた。


「今日は、これを入れてみてくれ」


 そう言って、ゼクトさんが慎重に取り出したのは、赤い肉片のような何かだった。保護魔法がかけられているのか、よく見えない。


「なんですか? それ」


「あぁ、ラフレアの花びら、まぁ、花肉片だな」


「ラフレア? ちょ、なぜ、そんなものを持ってるんですか」


「デュラハンが頭突きしまくってたときに、飛んできたんだよ。ラフレアは、生命の源でもある。それに、花肉片は、放置していると奇妙な精霊が生まれる」


「精霊が?」


「あぁ、たいていは、すぐに朽ち果てて悪霊まっしぐらだ」


 めちゃくちゃ危険じゃないのか?



「狂人、俺にそんなヤバイもんを飲ませる気か」


 ギルマスも、ラフレアを口に入れるのは抵抗あるよな。だけど、僕はそろそろ限界だ。断罪草を持っているのは、熱くて辛すぎる。なぜか火傷にはならないんだけど。


「ゼクトさん、そろそろ手が限界です」


「じゃ、よろしくな。ガチガチに保護してあるから、解除した瞬間、何が起こるかわからねぇ」


 はぁ……危険すぎない?



 ゼクトさんは、僕にラフレアの花肉片を渡してから、パチンと保護を外した。


 その直後、花肉片はドロリと溶けた。どんどん黒く変色していく。


 僕は、断罪草をその上に重ね、調薬を開始した。


 だけど、いつもとは、まるで反応が違う。燃える断罪草は、ドロリとした花肉片と溶け合い、そして、無色透明なゼリー状の何かができた。


 薬師の目を使って見てみたが、そのゼリー状の何かは、無なんだ。何もない、ただの無。


 毒ではないけど、薬とも呼べない気がする。



「ヴァン、そのスライムは何だ?」


 ギルマスが気味悪そうに、そう言った。飲まされるわけだから、心配だよな。


「わかりません。ギルマスの薬を調合したつもりだったんですけど、無になってしまいました」


「む? むって何だ?」


「何もない、ただの無です。成分が無いんです。毒ではありませんが、薬とも呼べないかも」


 だけど、ゼクトさんは、僕の肩をバンバン叩いている。なんだか、興奮しているようなんだけど……。



「ヴァン、それって、生命の元だぜ」


「へ? 生命の元?」


「あぁ、貸してみろ」


 そう言うとゼクトさんは、僕から無色透明のゼリー状の何かの一部をすくいとった。すると、ゼクトさんの手の上で、虫に変わった。そして蝶に変わり、さらに花に変わり、種類や色がコロコロと変わっていく。


「ククッ、面白すぎる。イメージしたものに変わるぞ。だが、イメージをやめたら、魔力を注いでも変わらなくなったな。無駄にしたか」


 ゼクトさんは、淡いピンク色の花を振っている。確かに、もう変わらないみたいだ。



「俺の薬だぞ! 狂人」


「一応、人体に無毒なのか、確認してやったんだ。それに、そんだけあれば十分だろ」


 僕は、ギルマスの手に、無色透明なゼリー状の何かを流し入れるようにして渡した。渡してしまうと、手にはもうゼリー状の何かは残っていない。不思議な質感だな。


 ギルマスは、それをゆっくりと口に流し入れた。


 僕は、薬師の目を使って、慎重に経過を観察する。ゼクトさんも、ピンクの花を振り回しながら、ジッと見ている。


 何もない無のゼリーなのに、身体の中を駆け巡っている。彼の体内のマナを吸収しているのではないかと心配になる。


 そして、腐食が進み、腐ってしまっている両足にも、マナの流れに乗って広がっていった。



 ゼクトさんが、何かの術を使った。すると、ギルマスの体内が濁ったかのように見えなくなってきた。いや、濁りというより、これって……怨念のような……。


「フラン、浄化魔法! オールスを消し去るくらいの全力で撃て」


「はい、いきます」


 神官様は、事前に打ち合わせをしていたのだろうか。待ち構えていたかのように、真っ白な光を放った。


 かなり強い聖魔法だ。波動が僕にも伝わってきた。ギルマスは、吹き飛ばされている……大丈夫なのだろうか。



 やがて、光が消えると、床に転がるギルマスの姿が見えた。脱力したかのように寝転んでいる。


 薬師の目を使って、ダメージを確認してみると……あっ! う、嘘だろ。



 ギルマスが、両足をバタバタさせた。


「ガハハハ、足が気持ち悪いぜ」


 僕は、慌てて駆け寄って、彼の足を確認する。両足とも腐食は消え、きちんと身体にくっついている。皮がむけているが、その奥には、新たな皮膚が生まれているようだ。


「皮をはいでやったらどうだ?」


 ゼクトさんが皮を剥がそうとするのを、僕が制した。


「自然に剥がれ落ちるまで、このままの方がいいです。あー、もう! 皮膚がきたなくなりますよ」


 ギルマスは、自分で、ビーッと剥がし始めた。


「だって、かゆいんだぜ? おわっ、血が出た! 足から血が出たぞ」


 また、足をバタバタさせている。


「ちょっと診てみますから、ジッとしてください」


「へーい。ヴァンに叱られちまった」


 ギルマスは、なんだかそのセリフが気に入っているらしい。足が繋がったから、テンションも高い。



 足の状態を診ていくと、左足は問題はない。だけど、ジョブの印のある右足は、ジョブの印の陥没により、一部が大きく変形してしまっていた。


 これでは右足は、使えない。立ち上がることはできても、補助魔法なしで歩くのは厳しいだろう。


 それには、ゼクトさんも気づいているようだ。まぁ、これは仕方ないことなのかもしれないな。



「オールス、おまえのジョブの印が陥没しているぜ。ジョブ無しになってんじゃねぇか?」


「いや、一応、下級だけど、存続中だぜ。しかし、すげぇな。もう、これで風呂に入っても、足が溶ける心配はないな」


 ギルマスの表情は明るい。


「ヴァン、それからフランちゃん、ありがとうな。二人の力がなきゃ、俺は一生風呂に入れない身体だったぜ」


 ゼクトさんへのありがとうは、言わないんだ。ゼクトさんのツッコミ待ちなようだけど。


 しかし、ラフレアの花肉片って、とんでもないな。だけど、危険すぎる素材だ。



「やっと、オールスさんが自分の足で立てるわね。印の陥没を戻すには、ジョブを与えてくださった神への祈りが必要ですわ。貴方なら、数年で元に戻るんじゃないかしら」


 神官様がそう言うと、ギルマスは神の像へ祈る仕草をした。神の像は、それを聞き入れたかのように、またたいた。


 これで、もう大丈夫かな。



「ヴァン、苦い解毒薬をオールスに与えてやってくれ。たぶん、丸一日で、ラフレアが騒ぎ出す」


「えっ!? ちょ……やはり、危険じゃないですか」



大変遅くなりました(>人<;)

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