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395、カベルネ村 〜北の大陸の偵察、そして

 北の海で、ゼクトさんが僕に何かの術を使った。おそらく、幻惑系の魔法だと思う。


 そのままデネブへと近寄っても、道を歩く人には気付かれない。気づかれたら絶対に、パニックだろうな。


 町の門近くの道に、ゼクトさんとギルマス、そして大量の泥ネズミ達が入った玉を置いた。



 念のため、僕はそのまま、再び空へと舞い上がる。



 スキル『道化師』の変化へんげを使って僕が化けているのは、怪鳥ジーンと呼ばれる巨大な鳥だ。ボックス山脈の氷山に棲む冷気を放つ鳥なんだよな。光る丸い物を好む習性が有名だ。


 だから、ボックス山脈の氷山に迷い込み、怪鳥ジーンに遭遇したら、光る丸い物を投げ捨てて逃げろと言われている。


 王兵達は、光る丸い物を隠せと叫んでいた。あれは、逆効果なんだけどな。



 僕は、北の大陸へと向かった。巨大な鳥は、簡単に北の海を越えることができる。


 上空から見ると、北の大陸は想像以上に大きかった。溶けない氷で、小さな島の隙間を埋めて造られたようには見えない。


 かなりの数の悪霊が漂っているようだ。一部に黒い霧がかかっているように見える。


 高度を少し下げると、何かが飛んできた。だけど、僕に当たる前にその何かは、凍って落下していく。


 怪鳥ジーンって、近づくだけで凶器になるんじゃないだろうか。デネブの門近くが氷漬けになっていないか、ちょっと不安になる。



 僕は高度を下げ、何かが飛んできた方向に向かった。北の大陸に吹く強い風に乗って、かなりのスピードだ。


 弓を射る者達が、僕を狙っているのか。ノレア神父の調査隊だろうな。こんな氷の大陸では、剣は使いづらいんだろう。だが弓矢は、僕に近づくと急速に凍る。


「やめろ、怪鳥ジーンだ」


「なぜ、こんな場所に?」


「ボックス山脈にも、歪みができているのかもしれん」


「王都の外れに、火熊が現れたという目撃情報もあっただろう」


 それは、僕の変化へんげだ。王兵をあざむくために、王都の研究施設の地下室から穴を掘るために使ったんだ。


 まさかラフレアの森で、あんなことに巻き込まれるとは、予想もしなかったけど。



 僕は、声の聞こえない高さまで上昇した。


 ノレア神父の調査隊は、悪霊が集まる場所を調べているようだ。その近くには、北の海に追放された生き残りの集落がある。神官家やレピュールの人達だよな。


 空からだと集落は見えるけど、調査隊は気づいていないだろう。調査隊のいる場所との間には、高い氷の壁がある。


 奴らはおそらく、集落が見つからないように壁を作っているんだ。



 黒い氷の範囲が、かなり広がっている。


 あっ、空中に変な歪みが見える。影の世界から、悪霊が出入りしているようだ。



 やばい!?


 なんだか嫌な予感がして、僕は一気に高度を上げる。なぜか、心臓がバクバクする。


『そろそろ、戻る方がいいぜ』


 いつもとは違う聞こえ方の念話だが、ブラビィの声だ。影の世界に出入りする悪霊が、ぶわっと上空へと昇ってきた。その一部に、見覚えがある。


 昔のブラビィの姿だ。


 僕は、その悪霊に追い返されたかのように、くるりと向きを変えた。そして、そのまま逃げるフリをする。



 デネブを越え、さらに王都へ向かう。


『もういいぜ。目立つから、その森に突っ込め』


 僕は言われた通りに、知らない森に降り立った。



 すると、黒い兎が現れた。うん? ブラビィに似ている天兎だけど、ブラビィじゃない。


 次々に現れて、僕を威嚇してくる。だけど、近寄ってはこない。当たり前だ。怪鳥ジーンに近寄ると凍ってしまう。


 僕が降り立った森の土は、どんどん凍っていく。変化へんげを解除しようか。でも、黒い兎が怒ってるんだよな。



『おまえを撃つから、その隙に黒い兎に化けろ』


 はい? 僕を撃つ?


 その次の瞬間、空から突然、炎の玉が僕を目掛けて飛んできた。


 凍っていた木々が、真っ白な水蒸気を発生させる。


 僕は、慌てて変化へんげを変更しようと意識した。一瞬、人間に戻り、再び姿が変わる。いつもなら鳴るはずの変化音も、水蒸気の音で聞こえない。


 黒い兎に姿を変えた僕は、兎たちの群れに飛び込んだ。


 炎の玉は、僕が居た場所に命中している。凍っていた土からも、一気に水蒸気が吹き出す。



『キミは何? 見たことない』


『氷の中から出てきた』


『バケモノに捕まってたのか』


『バカじゃない? 鈍いやつ』


 黒い兎の声だろうか。なんだか口が悪いよな。天兎に見えるけど、別の種類なのかな。



『あっ! ご主人様だ』


『行儀良くしないと消される』


 黒い兎たちは、慌てて集まっている。白い水蒸気で、ご主人様の姿は見えない。


 もしかして、ここは、黒い兎の養殖場なのか? 天兎は美味しいもんな。でも、黒い天兎は食べたことがないけど。



「誰が誰を食うって?」


 水蒸気で姿は見えないけど、この声はブラビィの声だ。


 ひょいと、耳を掴まれた。


 そして浮力を感じた直後、僕は、カベルネ村のぶどう畑に移動していた。



 ◇◇◇



「もう、いいぜ」


 振り返ると、僕と同じ姿の黒い天兎。僕は、変化へんげを解除した。


「ブラビィ、もしかして助けてくれた?」


「まぁな。しかし、おまえなー、氷の神獣テンウッドに、ロックオンされてんじゃねぇぞ」


「えっ? 僕、テンウッドの姿なんて見てないよ。そもそも、神によって、氷の檻に閉じ込められているんでしょ? そのチカラは、氷の檻の外には……」


「おまえなー、いつの話をしてんだ? 空から、あの獣の檻の付近の変色が見えただろ? あれだけ真っ黒に染まっているってことは、分離できるようになったに決まってるじゃねーか」


 分離? 何を言ってるんだ? 神獣が分離するの?



『何だ? どうした?』


『突然、こんな場所に入ってくるなんて、急用か?』


 黒い兎と話していると、カベルネのぶどうの妖精が集まってきた。僕は、カベルネのぶどう畑の中に、座り込んでいる状態だ。


 まずいな、思いっきり不審者じゃん。



「シッ! おまえら、あっちに行け」


 ブラビィが手で追い払おうとしているけど、ますます集まってくる。黒い兎は、怪しすぎるもんな。いや、僕の方が怪しいか。



『何をしているんだ? ヴァン』


 あーあ、名前まで呼ばれたら、ぶどうの妖精の声を聞く能力のある人に、聞こえてしまう。


「カベルネの妖精さん達、こんにちは」


『もう、夜だぞ』


「あ、あはは、間違えました。こんばんは〜」


 慌てる僕を黒い兎は、しらーっとした目で見ている。そして、ブラビィは、僕を残してスッと姿を消した。


 うわぁ、逃げた。


 カベルネの妖精達は、紳士なんだけど……僕の心の動揺を見透かしているかのような、クールすぎる視線が突き刺さる。



「えーっと……」


『ヴァン、何か慌てているのか』


『まさか、ヴァンが何かから逃げているわけでも……うん?』


『そ、そうか……いや、知らなかったから』


 な、何? 妖精同士の念話だろうか。


『始めからそう言ってくれたら、名前を出すことなど……』


 なぜか、カベルネの妖精が慌てている。


 誰かが何かを伝えている?


『だが、こんな場所では、すぐに見つかるぞ』


『座り込んでも、向こうのあぜ道からは、まる見えだ』


 何を言っているのか、全くわからない。僕が、隠れているとでも、ブラビィが吹き込んだのだろうか。


 まぁ、勝手にカベルネのぶどう畑に、座り込んでいるんだもんな。


『あー、どうする?』


『平然としていればよいのではないか』


『通用しない、かもしれない。名前を出したのは誰だ?』


『俺は、知らなかったから』


 紳士的なカベルネの妖精が、ケンカしている? 


 ふと、リースリングの妖精が懐かしくなってきた。彼女達なら、僕が畑の中にいたら、もっと大騒ぎするだろうな。



「ヴァン、見つけたわ。こんな所で何をしているのかしら」


 えっ? 神官様?


 あぜ道に立ち止まって、こちらを見ている彼女は、なぜか腕を組んでる。もしかして、怒っているのか?


『ヴァン、わ、悪いな』


『知らなかったんだ、言ってくれたら隠してやるのに』


『何をしたのかは知らないが、さっさと謝って許してもらう方がいい』


『そうだぞ。ヴァンが悪かったんじゃないか?』


 はい? 何? どうなっている? ぶどうの妖精は、横の繋がりがすごいんだ。一気に、噂が駆け巡るじゃないか。



「カベルネの妖精さん、僕は何も……誰に何を聞いたんですか」


『いや、それは言えない。早く帰りなさい』


『そうだぞ。帰って謝りなさい』


 いや、ちょっと待った。僕は何も……。



「ヴァン! いつまでそんなとこに座り込んでいるの? ご迷惑よ」


「は、はい」


 僕は立ち上がり、神官様の方へと歩いていく。


 なぜ、彼女がここに来たんだ? ブラビィだよな。絶対にブラビィだよな?



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