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393、王都シリウス 〜オールスの企み?

「えっと、僕の妻をご存知なのですか?」


 僕が家の名も名乗ると、白魔導系のペパーミント家のメイサお嬢様は、目を輝かせた。神官様のことを知っているようだ。


 貴族や神官家って、家の名前まで名乗ることで様々な関係性がわかる。便利だけど、なんだか慣れないな。


「はい! 私の成人の儀には、フラン様が来てくださいました。とても優しくて神々しい方で、私、すっかりファンになってしまいました」


「そうでしたか。僕も、実は彼女に成人の儀を……」


「知ってます! フラン様が、成人の儀を担当したのが縁で、旦那様と知り合ったとおっしゃっていました。旦那様の方が年下なのに、フラン様よりも大人っぽいんだとおっしゃっていましたっ!」


 お嬢様は、すごい勢いで話している。ふふっ、なんだか、かわいい。だけど、僕の方が神官様より大人っぽい?



「あはは、彼女に憧れていらっしゃるのが伝わってきます。彼女も喜ぶと思いますよ。ありがとうございます」


「い、いえ。あの、フラン様が白魔導士として冒険者をされていると伺い、私も、冒険者ギルドに登録したんですっ! 私も、白魔導士ですっ」


 さっきまでの、学生さん達に見せる顔とは違って、随分と幼く見える。神官様に憧れる女の子は、少なくないだろうな。


 彼女は、神官としての仕事中は、確かに神々しい。だけど、本当の彼女は、すぐに不機嫌になる普通の女性なんだけどな。



「メイサさんは、冒険者登録をしたばかりなんですか」


「はいっ。私、半年ほど前に13歳の成人になったんですが、なかなか父が許してくれなかったのです。だけど、オールスさんが、父を説得してくれました。ありがとうございます!」


 まぁ、お嬢様だもんね。って、ギルマスが説得? だから僕に、名乗れってうるさかったのか。


 チラッとギルマスに視線を移すと、彼はニヤッと笑った。



「ヴァン、お嬢様は、まだロクなミッションを受注していない。ペパーミント家の旦那様は、SSランクの冒険者が一緒じゃなきゃ受注させねぇってよ」


 ギルマスは、何が言いたいんだろう?


「僕は、SSランクじゃないですよ? ゼクトさんに言ってください」


「は? ヴァン、俺もSSランクじゃねぇぞ」


「あー、そっか。ゼクトさんは、Lランクでしたっけ」


「あぁ、ロンリーランクだ」


 いやいや、レジェンドランクだよ。


「狂人、レジェンドは一人じゃねぇぞ。スピカなら、青ノレアのスキルコレクターもレジェンドだ」


 うん? ギルマスは勘違いしてる? 確かに青ノレアのサブリーダーも、Lランクだけど。ゼクトさんを雇って神矢集めをしたと聞いたっけ。



「間抜けなオールス、ひとりぼっちで孤独な方のロンリーだ。はぁ、冗談も通じねぇのか」


 だよね。でも、ギルマスはわざと外してるのかな。その方が、ネタになるというか盛り上がる。


「最近は、全然ひとりぼっちじゃねぇだろ。何かあれば、すぐに俺のとこに来るじゃねぇか」


「その何かを引き起こしてるのは、おまえだろ」


 二人の相変わらずな掛け合いだけど、学生さん達は引きつっている。だよな、ギルマスと伝説のハンターのケンカに見える。二人は、ただ、じゃれているだけなんだけど。



「学生さん達が困ってますよ。仲がいいのはわかりましたから。二人とも声が大きすぎます」


 学生さん達を安心させようとしてそう言うと、二人がニヤッと笑った。


「また、ヴァンに怒られちまった」


「ククッ、俺も怒られちまった」


 はい? 僕に集まる店内の視線が……覇王持ちをバラした後だからか、ピリピリしている。


 ここで文句を言うと、二人はさらに悪ノリしそうだな。スルーしよう。



「ギルマス、それで、結局、何なんですか?」


 メイサさんが、僕の横に立ったままだ。自分の席に戻るに戻れない感じなんだよな。僕は、話を戻した。


「やべぇ、マジでヴァンが怒ってる」


「怒ってません。学生さんを困らせないでください」


 あっ、しまった。結局、ハメられた。僕のことを怖がるふりをして、二人はニヤニヤしている。


 僕が彼らと対等だと思わせたいのか。僕は、全然お話にならないほど弱いのに。


「はぁ〜、楽しいな」


 ギルマスの口からは、思わず本音がポロッと出ている。



「ヴァン、たぶんオールスは、薬草摘みのミッションにでも同行してやれって言いたいんだぜ」


 ゼクトさんは、面倒くさそうに言った。


「あぁ、ラフレアの森のミッションを出すから、フランちゃんも一緒に頼むわ〜。メイサお嬢様は、薬草を見分けられるか?」


 えっ? お嬢様をラフレアの森に? やばくないか。まだ、とんでもない数の緑色のつぼみが残っている。あんな巨大な人面花……。


 もしかしてギルマスはメイサさんに、冒険者をやめると言わせたいのか?



 ギルマスから話を振られて、メイサさんは目を輝かせた。


 でも神官様に、そんな時間があるのだろうか。デネブの教会を……いや、違うか。フラン様は、ずっと神官として教会にいる。気分転換というか、息抜きが必要だよな。


 だけど、ラフレアの森は危険すぎる。



「は、はいっ! えっと、よく使う薬草ならわかります」


「そうか。白魔導士の技能だけか。薬師か薬草ハンターのスキルはあるか?」


「ジョブ『白魔導士』しかないです。スキルは、何も……」


 すると、ギルマスはゼクトさんをチラッと見た。そして、彼女に視線を戻す。


「メイサお嬢様は、ペパーミント家を継ぐんだよな? それなら、他のスキルも取得する方がいい。白魔導系に役立つスキルは、いくつか持っておく必要があるぜ」


 ギルマスからそう言われて、素直に頷く彼女。なんとなく、彼女の父親が反対した気持ちがわかる。彼女は簡単に、人を信用してしまいそうだ。



「はい、私も、そう思います」


「じゃあ、神矢ハンターを雇うか? ちょっと高いが」


 そう言われても、ゼクトさんは他人事のように素知らぬフリをしている。


「いえ、私は、冒険者として一人前になれたら、自然とスキルも手に入ると思うんです。お金でスキルを買うような真似はできません」



 うっ……彼女の言葉は、僕にグザリと刺さった。


 僕は、神矢ハンターを雇ってスキルを増やしたんだ。まだ、肝心なハンターのスキルは、さっぱりだけど。



 僕がうなだれているのがわかったのか、ゼクトさんは、フッと笑った。そして、僕にだけ聞こえるような小声で囁く。


「純粋な子供の言葉は、汚れた大人には刺さるだろ、ヴァン」


「ええ、まぁ、あはは」


「俺も、純朴なヴァン少年には、めった斬りにされたからな」


「ちょ、ゼクトさん」


 そっか、僕は必死だったな。今のメイサさんも、似たような感じなのだろうか。


 ギルマスは彼女の父親から、何かを託されているような気がしてきた。


 だけど、ラフレアの森はダメだ。




「ヴァン、じゃあ、おまえとフランちゃんで、世話をしてやってくれ。ラフレアの森での珍しい薬草の採取だ。デネブに戻ったら、すぐに依頼を出すぜ」


 ギルマスは、彼女が神矢ハンターを雇うと言えば、ゼクトさんを護衛につけるつもりだったんじゃないかな。僕だけでは、あまりにも役不足だ。


「ラフレアの森は危険ですよ。それに僕は、Sランクです」


「ふふん、ヴァンがいれば大丈夫だろ。ゼクトをつけると逆効果だからな」


 あぁ、狂人と呼ばれているからか。ペパーミント家のお嬢様の冒険者仲間にはしたくないのかもしれない。


「いや、でも、夜というわけにもいかないですよね。昼間に、ラフレアの森は……」


「ヴァン、ラフレアの花はすべてメスだぜ。だから、男しか狙われねぇ。それに、おまえなら絶対に襲われねぇだろ。下手に他の男が混ざるより、安全だぜ」


 えっ? 男しか襲われない?



「あ、あの……ラフレアの森は、校則で立ち入り禁止なんですよ。立ち入るには、学長の許可と王立総合学校の教師の同行も必要なので……」


 話をおとなしく聞いていた学生のひとりが、そう言った。恋人同士っぽい男性の方だ。


「学長の許可なら、俺が話せば問題ない。教師の同行? ラフレアの森は、今、男は無理だぜ。力自慢の王兵が1部隊、全滅したばかりだからな」


 うん? ギルマスは、その条件を知っていたみたいだ。学内の規則も把握しているのか。


 僕と目が合うと、何かちょっと意味深な笑みを浮かべたように見えた。ギルマスは、何かを企んでいる?



 学生さん達は、何か相談している。同行できる女性教師がいないかを議論しているのか。


「あっ! ひとりいる。メイサの同行なら、引き受けてくれるだろ」


「あの先生は、王族の出身だもんな」



 ニヤリと笑うと、ゼクトさんが立ち上がった。



日曜日お休み。

次回は、1月10日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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