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389、ラフレアの森 〜キレるデュラハン

「キュ〜ッ!」


 竜神様の子達は、僕を転がして楽しそうにしている。いや、僕が無事だったから、喜んでるのかな。


「キミ達、なぜ来たの? 危ないじゃないか」


「キュッ、キュー」


「キュ〜、キュキュッ」


 何を言ってるか、全くわからない。だけど、叱られていることに気づいてないことはわかる。



『オレの方がイケメンだって言ってるぜ』


 デュラハンさん、それは、ないよね? 



 僕から離れた場所で、デュラハンは、まだ鉄球を振り回している。地面に咲き広がっているラフレアの花をすべて破壊するつもりか。


『この淫乱花、ムカつくんだよ! 特に紫色の花が性悪ババアだ。いや、ピンクの方がうぜぇかもしれねーな。気取ってんじゃねーぞ』


 デュラハンは、変色したラフレアの花とケンカしているのだろうか。僕には、ラフレアの声は聞こえない。デュラハンが、怒り狂ってる声しか聞こえないんだよな。



 空を見上げると、堕天使が浮かんでいる。ブラビィは、ラフレアには敵わないのか。ふわふわと空を漂う赤い花が届かないほど、高い位置に浮かんでいる。


 ブラビィは、淡く光り、今も空を操っているんだよな。デュラハンのチカラが落ちないように、厚い雲で太陽を隠しているんだ。


 なんだかんだ言いつつ、二人は仲良いよな。同じ闇系だからかもしれない。



 竜神様の子達を連れてきたのも、ブラビィか。この子達を乗せてきた一角獣も、空に浮かんでいる。薄暗い空だとすごく目立つ。


 再び、一角獣が地面に雷撃を放った。デュラハンが破壊したラフレアの花の肉片のようなものが、一気に燃え上がる。


 色とりどりのラフレアのじゅうたんが、ぶわっと燃え広がった。僕達の近くにも、炎が近づいてくる。


 えっ、ちょ、ちょっと!



「ふっ、アイツら、雑だな」


 ゼクトさんは、僕達を包むバリアを張ってくれた。僕は、竜神様の子達を炎にのまれないように、抱きかかえた。


「キュ〜ッ!」


 遊びだと思ったのか、暴れるんだよな。はぁ、もう。もぞもぞする白い不思議な奴らを、ギュッと抱きしめた。


「キュ、キュ〜」


 めちゃくちゃ楽しそうだな、コイツら。



 ブラビィは、炎を放った。


 すると、燃えていたラフレアの花が跡形もなく消えていく。ブラビィの炎が、一角獣の炎を打ち消しているように見えるけど、それだけではないようだ。


 ゼクトさんは、興味深そうに二人の連携を眺めている。竜神様が従える雷獣と、黒い天兎だもんな。普通なら接点は無さそうだ。


 この一角獣は、竜神様ではなく、竜神様の子達が従えているんだけど。




 炎が収まると、空は明るくなり、堕天使は姿を消していた。デュラハンも、ぶつぶつ文句を言いつつ姿を消した。


 一角獣は、空から地上に降りてきた。


 明るい昼間だからか、身体が透けているように見える。雷獣は、影の世界に出入りできる。昼間の太陽は苦手じゃないかと、少し心配になる。



「キュー!」


「キュキュ」


 竜神様の子達が何か言うと、一角獣は、頭を下げている。褒めたのかな。



「ヴァンさん、大丈夫ですか。救助に来るのが遅くなり、申し訳ございません」


 一角獣が、僕にぺこぺこしている。


「雷獣さん、ありがとう。でも、こんな危ない場所にキミの主人達を連れてくるなんて……」


「主人に命じられました。ヴァンさんがたくさんの女に言い寄られて困っているから、助けに行こうと」


「えっ? 言い寄られ……てたのかな?」


 そう尋ねると、一角獣は首を縦に振っている。


 ゼクトさんに確認しようと、横を向いてみると、彼の姿がない!?


 キョロキョロと見回してみると、離れていくゼクトさんの姿を見つけた。何も言わずにどこに……うん?


 ゼクトさんの肩には、白いポヨポヨしたものが乗っている。


 ええっ? 僕の足元に視線を移すと、いちに……2体しかいない。1体を連れて行った? なぜ?



「ヴァンさん、彼は、ギルマスを迎えに行きました。念のために、主人が護衛についていくようです」


 一角獣は、少し誇らしげだ。


「竜神様の子が、彼を守っているんですか」


「はい、そうです。ラフレアは今、生殖期が終わり、生育期に移行したようです。我が主人は、非常に珍しい新種です。ラフレアは、新たな種族を定期的に生み出す役割があるようです」


 ちょっと、待った。情報が多すぎて、僕は理解が追いつかない。ラフレアのテリトリーの印だと言われていた土が赤紫色に変化するのは、発情期だとデュラハンが言っていた。


 いま、土は、普通の土色に戻っている。だから発情期ではないことはわかる。なぜ変わったかは、わからないけど。


 デュラハンが花を破壊したり、一角獣やブラビィがそれを焼き払ったからじゃないの?



「雷獣さん、あの子達が珍しい新種だから、ラフレアが鎮まったと聞こえるのですが」


「いかにも、その通りです。主人を肩に乗せた男を、ラフレアは間違っても捕らえることはありません。まぁ、緑色のつぼみは、ヴァンさんのことしか見ていませんが」


 僕は、周りを見回した。


 地面に広がっていた色とりどりのじゅうたんは、跡形もなく消えている。竜神様の子達に踏まれて喜んでいた花も、消えている。


 空をフラフラと赤い花が3つ漂っている。竜神様の子達にその視線は釘付けのようだ。


 緑色のつぼみと、赤い花が半分ほど開いている花は、少し離れた場所から、ジッと僕の方を見ている。かなりの数だな。30〜40は、いるだろうか。



「赤い花は、随分、減りましたね」


「精霊デュラハンを怒らせたから、始末されたんですよ。砕かれた花肉片は、そのままにすると悪しきモノを生み出すので、主人の命により焼き払いました」


「ブラビィも、炎を足していましたね」


「はい、灰がラフレアの成長を促すからと、消滅させてくださいました。ですが、このラフレアの異常な成長は、まだ収まっていません」


 一角獣は、緑色のつぼみの大群の方を見ている。



「つぼみが多いのでしょうか」


「はい、ラフレアは通常、年に何度か1つだけ、赤い花を咲かせます。あんなに大量のつぼみを見ると寒気を覚えます」


 一角獣は、もともとは王都の貴族の次男坊だった。だから、貴族としての経験から、話しているのだろう。


「デュラハンが破壊した花の数はわかりませんが、つぼみも、開花を始めている花も、通常時の何十倍ですね」


「空から、この地を見たときに、100を越える生殖器がうごめいていました。おぞましい淫乱花です。清純な主人が、あの花の中に飛び降りていかれたときは、心配で気を失いそうになりましたよ」


 ええっ……一角獣さん。


「僕も、驚きましたけど、この子達は、ラフレアの花を怖れていないのですね。怖いもの知らずな行動が、僕はヒヤヒヤします」


 足元では、2体でポヨンポヨンとぶつかり合って遊んでいる。コイツらは、おとなしいな。ゼクトさんについて行った子が、いつも率先して悪戯をしていたっけ。


「主人の姿は、誰が見ても愛くるしいかと思います。ラフレアは、自分が生み出すことのできない主人の可愛らしさに、すっかり魅了されたのでしょう」


 一角獣は、自慢げだな。


 まぁ、かわいいけどね。白くて太短い不思議な生き物だし、いつも楽しそうに笑っているし。




「うぎゃっ」


 僕は、また尻もちをついた。


 足元にいた竜神様の子達が急に腕の中に飛び込んできた直後、その上から、さらに乗っかってくる奴がいたんだ。


 僕を転がして、3体の竜神様の子達は、嬉しそうに僕の腹の上で飛び跳ねている。地味に苦しいけど空腹な今は、いつもよりはマシだな。



「ギルマス、大丈夫ですか」


 ゼクトさんに腕をつかまれて、ギルマスが合流した。一角獣に少し驚いたようだ。薬師の目を使って『診て』みたが、魔力の消耗以外は問題は無さそうだな。


「あぁ、俺の方には、何も寄って来なかったからな。こんな所に集まっていたんだな」


 ギルマスは、つぼみの大群をチラ見して、苦笑いを浮かべている。だよな。普段ラフレアの赤い花は1つしか咲かないなら、この量のつぼみは、ギルマスでも冷や汗が出るはずだ。


「空には、3つ漂ってるぜ」


 ゼクトさんがそう言うと、ギルマスは空を見上げて、ため息をついた。あっ、あの帽子はかぶっていないんだ。


 そういえば、ラフレアの声は聞こえない。緑色のつぼみも、歌ってないよな。あれは、土が赤紫色のときの現象なのかもしれない。



「王宮の兵や魔導士は、全滅か」


「奥に行って、空を漂う赤い花の茎を切った奴らは全滅だな。まぁ、自業自得だ。ラフレアの森の端で状態異常になっていた奴らは、逃げ帰ったみたいだぜ」





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