387、ラフレアの森 〜絶対に嫌だ!
明けましておめでとうございます。
本年も、よろしくお願いします。
デュラハンが加護を強めてくれているから、今、僕の見た目は、まがまがしいオーラを放つ鎧騎士に変わっている。だけどデュラハンに首が戻ったのに、僕の頭部に兜はない。
顔も、まったくの別人になる。
商業の街スピカの飲み屋カラサギ亭では、女性客からクールでカッコいいと言われるけど、裏ギルドに出入りするような暗殺者っぽい顔なんだよな。
僕は普段は容姿を褒められることはないけど、この姿だとクールなイケメンって言われるから、ちょっと複雑だ。
鎧騎士の身体は、鎧しかない空っぽに見えるのに、不思議だよな。この顔って、いつ頃のデュラハンなんだろう?
『ラララン、ラララ〜』
緑色の巨大な人面花が、僕が歩く後を付いてくる。
歌ってるし、笑ってる!
ヤバイヤバイヤバイ、めちゃくちゃ気味が悪い。
デュラハンさん、毒花の上って、どういうこと? 赤い花は空に浮かんでるよ。
『おまえは知らないらしいが……というか人間は知らないのかもしれねーけど、この森は、ラフレアだぜ?』
ラフレアの森っていうのは知ってる。地面が赤紫色に変色しているのは、ラフレアのテリトリーなんでしょ。
『ふん、人間は何もわかってねーな。森全体が、ラフレアの株の上にあるんだよ。ラフレアに森が生えてるといえばわかるか?』
えっ? わからない。
『おまえなー。はぁ……。ラフレアに堆積した土砂に木や草が生えてるんだってことだ。地面が赤紫色になってるのは、発情期だ』
はい? 発情期? 植物でしょ。
『ラフレアはラフレアだ。分類なんて、できねーよ。緑色の状態は、まぁ、まだ未熟な恋する乙女だな。赤い花は、完全に生殖活動中だ。空をフラフラしてるから、末期だな。淫乱どころじゃねーぜ』
ちょ、デュラハンさん、何言ってんの?
『人間は、ラフレアが獲物を喰うと思ってるらしいが、花は生殖器だぜ。他の生き物を捕まえて生殖活動をするんだよ。ラフレアは、新たな動植物や魔物を生み出す源だぜ?』
ちょ、ちょっと待った。確かに花は、受粉することで実がなるけど、それはおしべとめしべが……。
『おまえ、何を焦ってんだ? おまえも、いちゃこらしてるだろーが。ラフレアは、今、いちゃこら中だってことだ』
まじ?
『あぁ、マジだ。緑色の奴らに、おまえは完全にロックオンされてるぜ』
でも、緑色はつぼみだから、大丈夫なんでしょ?
『いつ、赤い花が咲くかは、知らねーけどな。ご機嫌に歌ってるじゃねーか。おまえに惚れたんだろ』
ちょ、ちょっと待ってよ。意味わかんない。
『オレの方が意味わからねーよ。オレじゃなくて、おまえの方がモテている』
デュラハンさん、全く何を言ってんのかわからないよ。それより、ゼクトさんを助けないと。
『あぁ? アイツも粘着されてるみてーだな。なぜ、人間がモテるんだ? いや、赤い花は、もう頭がイカれてるからいいとして、緑色の奴らがなぜ、オレのオーラが邪魔だと言うんだよ』
えー? 知らないよ。あぁ、デュラハンさんの加護のせいで、僕を喰えないからじゃない?
『違う。顔がさっきの方がいいと言っている。オレの方がイケメンだって人間の女は言っているのに、ラフレアは、頭がおかしい』
なんだか、デュラハンがイラつくから、オーラがさらに強くなっているみたいだ。
この闇のオーラには、緑色の人面花は近寄り難いようだ。苦手な属性なのかもしれないな。透明なゴム玉の中にいたときのように、覗きには来ない。
僕としては、一定の距離を取ってくれるのは、ありがたいけど……付いてくるのは困る。
「ゼクトさん! 大丈夫ですか」
やっと、ゼクトさんに追いついた。僕がゼクトさんに近寄ると、赤い花からの攻撃は止まった。
『ヤーネ、キライダワ』
『デモ、カブッテイルダケヨ』
うん? 空の赤い花が何か話している。
「ヴァン、コイツらは闇属性が苦手なのかもしれない。デュラハンのオーラを嫌がっている」
ゼクトさんは、親指を立てた。素直に嬉しい。
「ゼクトさん、動きがかなり厳しそうですけど、大丈夫ですか」
「あぁ、いろいろな身体強化をしても、なかなか動けない。ヴァンは、何ともないか?」
「はい、デュラハンの加護があるので、大丈夫です」
「おまえ、まさか、つぼみとお友達になったのか?」
ゼクトさんは、僕の背後に視線を移し、なんだかギョッとしている。気持ち悪い人面花だもんな。
僕が振り返ると、笑うんだよね。かなり集まってきている。デュラハンの加護を嫌っているから、一定の距離は保っているんだけど。
「勝手に付いてくるんです。僕は何もしてないです」
「ふぅん、コイツらに覇王を使ったのかと思ったぜ。だが、魔獣ではないから、弾くかもしれないな」
「ですよね。術返しをされたら……」
「覇王に術返しはないはずだ。それは、従属だろ」
「あー、そっか。じゃあ、使ってみてもいいのかな」
「ふふん、おまえ、お友達を殺せるのか? 言っておくが、つぼみがこれだけあるなら、赤い花はすべて狩るぜ。つぼみが開いても狩る」
そうだよな。赤い花が増えすぎると、人間が喰われる。いや、生殖活動だけなら、喰われるわけじゃないか。
「あの、ゼクトさん、赤い花に襲われた人はどうなるんですか? デュラハンは、喰うわけじゃないと言ってました」
さすがに、生殖活動だとは言えない。
「そうだな、その緑色のつぼみのひとつは、俺が知っている顔に似ている。喰うというより吸収するのかもしれない」
えっ……。
ということは、赤い花に襲われたら、やはり殺されてしまうのか。ラフレアの発情期だと、デュラハンは言っていたけど、どれくらいの期間、続くのだろうか。
地下水脈の汚れが原因で急成長したと、ゼクトさんは言っていた。北の大陸の問題を解決できないと、ラフレアの発情期は終わらないのかもしれない。
「ヴァン……」
ゼクトさんは立ち止まり、小声で僕を制した。
「えっ……何、ここ」
僕達の視界に入ってきたのは、色とりどりの巨大な何かが敷き詰められた場所だった。色鮮やかな肉厚な何かは、ラフレアの花だろう。だけど、花って赤じゃないのか?
「王兵がやりやがった。最悪だ」
「あっ、茎を切ったんだ」
茎を切ると、空を漂う花が地面に落ちて根を張ると言っていたよな。そして、茎から噴き出した何かを浴びると変色するんだっけ。
デュラハンの説明には、この状態の話はなかったけど……。
「ヴァン、オールスを回収して逃げるぞ」
「えっ? 逃げるんですか」
「もう無理だ。この森全体を焼くしかない。だが、ここまで増えていると……」
ゼクトさんが焦っている。こんな顔の彼は、初めて見た。僕は、頭がチリチリするのを感じる。
『フフフ、ニゲラレナイワ』
『ジャマネ、ドウシヨウカシラ』
『ガマンデキナイワ』
『オイシソウ、フフフ』
空には、巨大な赤い花が増えてきた。花の中心は白っぽく見えていたけど……よく見ると人面だ。空が赤く染まる。一体、何本の花が重なっているんだ。
「くそっ、王兵を先に行かせたのが失敗だった」
ゼクトさんは、思い詰めた表情をしている。逃げるぞと言いながら、動かない。動けないのか。
背後には、大量の緑色の巨大な人面花が、完全に僕達の退路を封じている。いつ赤い花が開くかもわからないんだよな。
「ゼクトさん、戻りましょう!」
僕は、ゼクトさんの腕をつかみ、緑色のつぼみ達の方に向かって早歩きする。走りたいところだけど、浮遊魔法で浮かぶゼクトさんを引っ張っているから、これが限界だ。
「キミ達、退いてよ!」
僕がキッと睨むと、つぼみがパタリと地面に倒れた。
「お、おい、ヴァン、つぼみに触れるとおまえでも……」
ビビっちゃいけないんだよな? ギルマスがそう教えてくれた。ラフレアは人間の感情に敏感だと言っていた。
「つぼみを踏んででも、戻ります」
「いや、危険すぎる!」
僕は、倒れたつぼみを踏んで歩く。
『アヒャッ』
変な声を出す緑色の人面花。だけど、さすがに顔は踏まないけどな。
『ダメヨ、ソノコタチニハ』
『ソウヨ、アゲナイワ』
赤い花が追ってくる。すると、倒れていた緑色のつぼみが一斉に立ち上がった。
ゲッ! 緑色のつぼみに囲まれた。道をあけてくれたように見えたのは、罠だったのか。
しかも、僕達を囲む緑色の人面花のいくつかは、人面の周りに赤い肉厚な何かを広げ始めた。
開花だ!
「ヴァン、おまえだけでも逃げろ。闇の精霊憑依を使えば、突破できるだろ」
ゼクトさんは、僕の腕を振り解いた。彼は僕を逃すために残る気だ。
「ゼクトさん、そんなの、絶対に嫌だ!」
日曜はお休み。
次回は、1月3日(月)に更新予定です。
3週間くらい前から始めた新作「まだスローライフは始まらない〜副題略」、よかったら覗いてみてください♪
読みにきてくださる方が非常に少なくて撃沈中ですが、作者は楽しく描いているので、そんなに悪くない出来だと思うのですが。(*'.'*)ウーム
正義感が強く、口の悪い男主人公です。11話に転機あり。序盤は伏線多めです。よろしくお願いします。




