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386、ラフレアの森 〜ギルマスの話

「赤い花なんて無いですよ?」


 僕は、ギルマスの言葉に、思わず反論していた。だけど、彼の方を向いてないから、気付かれなかったようだ。


 僕は、あたりを見回してみる。やはり、赤い花なんてどこにも無い。緑色の巨大な人面花のようなつぼみなら、あちこちに見えるけど。



 地面は、鮮やかな赤紫色に変色しているけど、これは、ラフレアのテリトリーの印なんだよな。このテリトリー内では耐性がないと、魔法が使えなくなる。


 しかも、ラフレアの声を聞くと、身体のチカラが抜けて動けなくなるんだよな。


 ゼクトさんは、彼には完全耐性はないと言っていた。魔法も使えるし動けるけど、あまりにも力が落ちているようだ。


 いま僕が、スキル『道化師』の技能を維持している。ゼクトさんから割れない透明なゴム玉を引き継いで、移動しているけど、これ、役割が逆じゃないだろうか。


 ギルマスは両足の腐食を遅らせるために、常にマナを循環させ、浮遊魔法を使い続けている。彼はラフレアに耐性がないらしく、いま、聴覚を封じているんだ。


 彼は、黄緑色に見える帽子を被っているけど、これは魔力値を大幅に上げる賢者の帽子らしい。これを使わないと、地面に触れなくても、魔法がいつものように使えないのかもしれない。


 ギルマスが魔法が使えなくなると、命に関わる。だから、ゼクトさんは、僕を側に置いているのか。


 だけど……。



『フフフ、モウ、ニゲラレナイワ』


『ソウネ、フフフ』


 声が聞こえる。嫌な感じの声、ラフレアの声だ。頭の中に直接響くように聞こえる。場所を特定できないよな。



 ゴム玉を蹴り、僕達を離したゼクトさんの方を見ると、バリアを張って浮遊魔法を使っているけど、やはり、あまりにも動きが悪い。


 片手には短剣を握っているようだ。長い剣を振り回すことができないのかもしれない。


 その直後、ゼクトさんを狙うように、黄色い何かが飛んできた。この辺りに漂う黄色い花粉ではない。


 ゼクトさんは避けようと動くけど、ギリギリだな。地面を踏めないからかもだけど、あまりにも不利だ。


 上の方から黄色い何かが飛んできたみたいだけど……。



「うわぁ! 赤い花が!!」


 空を埋め尽くすような赤いじゅうたんだ。


 僕が思わず驚いて転がったことで、ギルマスは少し動揺したようだ。ぐらりと身体が傾いた。僕は慌てて、彼の腕を支える。


「ヴァン、悪いな。聴覚を封じていると、平衡感覚が保てない」


「いえいえ、僕が悪いんです、すみません。僕が騒いだから。あの、ラフレアって空に咲く花なんですか」


「いや、地面に広がって咲く。攻撃するときは、茎がするすると伸びて、花が立ち上がるんだよ」


 聴覚を封じていても、ギルマスは読み取って的確に返事をしてくれる。すごいな。



「ラフレアの赤い花は、黄色い何かを飛ばしてますけど、あれは何ですか」


 僕がそう言うと、ギルマスはチラッとゼクトさんの方に視線を移した。その表情は、固い。やはり厳しい状況なんだ。


「黄色い液体は、蜜だろうな。空気中を漂う花粉が、何百倍も濃く濃縮されたようなものだ。アレに触れると、ゼクトでもタダでは済まない」


「バリアを張ってるみたいですけど」


「ネチョッと付着するし、浸透性が高いからな。バリアに付くと、張り直さないとバリア内で動けなくなる。どんな状態異常が起こるかわからないんだ」


 そんな危険な……。


「なぜ、ラフレアを完全に狩らないんですか。めちゃくちゃ危険じゃないですか」


「ヴァン、それは人間の都合だ。アレが居ることで、土壌も浅い地下水脈も浄化されていく。地下水脈の異物を吸ってくれるからな」


 そうなんだ。そうか、自然が保たれるために必要な植物なのか。だけど、花が増えすぎると狩ると言ってたっけ。そうやって、バランスを取りながら共存してるんだ。


 だけど、この付近は、なんだか変だな。



「あの、王宮の兵は、もっとたくさんいましたよね。さっきは、倒れている人もいたけど」


「倒れている奴らは、使えねぇな。王宮の主戦力は、ゼクトの進行方向にいるはずだ。しかし、ゼクトに、花が2つも構ってきているってことは、手遅れかもしれん」


「手遅れって、やられたってことですか」


 そう聞き返すと、ギルマスは頷いた。彼はチラチラと、ゼクトさんに視線を移している。


 やはり、厳しいんだ。ゼクトさんを一人で向かわせてはいけない。だけど、ギルマスをこのまま放置もできない。


 どうしよう。考えろ!




「ヴァン、顔つきが変わってきたな。もう大丈夫か?」


「えっ? どういうことですか」


「ふふ、さっきはビビってたじゃねぇか。ラフレアは、人間の恐怖心に敏感だ。いくら精霊師でも、いや、精霊師だからこそ近寄ると危険だ」


 ギルマスは、ニヤッと笑った。もしかして、さっき一人でお留守番ができないと言っていたのは、ギルマスの状態じゃなくて、僕の状況?


「ヴァン、ラフレアの赤い花は、地面にへばりついているときと、空を泳いでいるときでは、属性までも変わる」


「属性? 弱点が変わるということですか」


「空をふらふらしている奴は、威嚇している攻撃形態だが、たいしたことはない。空に浮かぶ花には魔法は効かないが、炎で簡単に茎を切れる。茎を切れば、地面に落ちるが、瞬時に地面に根を張る」


「炎で茎を切れば、いいんですね」


 だけど、ギルマスは首を横に振っている。



「ゼクトは、切らねぇだろ? 茎を切ると地面に落ちる。ラフレアの赤い花は、地面に広がって咲く花の方が何倍も危険だ。そして切った茎から噴き出す液体は猛毒だ」


「猛毒!?」


「地面に咲くラフレアの赤い花に、茎から噴き出す液体がかかると変色する。それが最悪にヤバイ」


「じゃあ、どうすれば……」


「ゼクトは、ラフレアハンターのスキル持ちだ。極級ハンターに稀に現れる超レアスキルだぜ。ラフレアは精霊系の植物だと言われている。植物でも動物でもない特殊な個体だからな」


 やはり、ゼクトさんってすごい。


「精霊系……」


「だから、精霊師のヴァンは、状態異常にはならないんだろう。だが、ビビっていると喰われるぜ。ノレアの坊やは、ラフレアの増殖があっても、絶対に王宮の精霊師は使わない」


「ノレア神父自身が、討伐に行かれるんですか」


 そう尋ねると、ギルマスは、変な顔をした。


「ノレアの坊やが、行くわけねぇだろ。だから、ラフレアのことは、ギルドにも詳細な情報がないんだ。地面に広がって咲く赤い花には、魔法は効くが、個々の花によって弱点が異なる。ラフレアハンターが使うのは、多属性の剣だ。有利属性の魔法は吸収するからな」


 ギルマスがそんなことを教えてくれるということは、僕に、行けと言っているんだ。



「ギルマス、口を開けてください」


「は? 口?」


 僕は、ギルマスの口に、木いちごのエリクサーを放り込んだ。僕の覚悟が伝わったのか、ギルマスはニヤッと笑った。


「ヴァン、ビビるなよ? ラフレアの赤い花は、あらゆる状態異常を使う。毒なら薬師に消せても、毒じゃねぇから毒消しは効かない」


「わかりました。ギルマス、このゴム玉の維持はできますか」


「あぁ、一応、スキル『道化師』は上級だからな」


 スキルがあることは、なんとなくわかっていた。僕が尋ねたかったのは、浮遊魔法を使いながら、ゴム玉の維持もできるのか、だったんだけど。


「ギルマス、じゃあ、僕、行ってきます」


「あぁ、俺は、おとなしくお留守番してるぜ」


 僕は頷き、ゴム玉から、スーッと外へ出た。


 ゴム玉の支配権は、すぐにギルマスに移った。すごいな、たくさんの魔法や技能を同時発動できるんだ。



 ギルマスの様子をもう一度確認し、僕は、軽く手をあげた。彼も、それに応えてくれる。うん、大丈夫だな。




 僕は、ゼクトさんのいる方へと歩いていく。


『ララン、ラララ〜』


 緑色の巨大な人面花がついてくる。


 ビビるな、ビビるな!


 目を閉じてスゥハァと深呼吸をする。目を開けるとバチッと、緑色の人面花と目が合った気がする。


 ビビるな!


 あっ、そうだ。



「キミ、歩けるの?」


 半分、やけくそだけど、僕の技能が何か使えるかもしれない。植物なら、農家の技能が使えるか。


『フフフ、ラララン、ララン』


 褒められたと感じたのか、離れた場所にいた人面花も、近寄ってくる。うぎゃぁぁあ、逆効果だ。だけど、僕の動揺はバレていない?


 あっ、デュラハンが加護を強めているのか。僕の身体をまがまがしい闇のオーラがまとっている。


 デュラハンさん、ありがとう。


『ふん、バリアも張れないくせに、毒花の上を歩いてんじゃねーぞ』



皆様、今年一年、ありがとうございました♪

良いお年をお迎えくださいませ。(*≧∀≦)

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