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385、ラフレアの森 〜歌う緑色のつぼみ?

 ふわりと浮遊感を感じた後、僕達は、穴から外へと出ていた。透明な割れないゴム玉は、そのまま維持されている。


「うひゃー、これはなかなかデカイな」


 ギルマスが、明るい声でそう言ったけど、ゼクトさんは眉間にシワを寄せ、嫌そうな表情だ。


 だけど、近くには何もいない。二人は遠視を使っているのだろうか。


 人の声ではないような嫌な感じの声が聞こえてくる。話し声のように聞こえるから、魔物でもなさそうだ。



「ゼクトさん、何がいるんですか? 嫌な感じの話し声が聞こえるんですけど」


「ラフレアの声だ。やはり、おまえは平気みたいだな。精霊師には効かないってことがわかったぜ。間抜けなオールスには、無理なんだぜ」


 ラフレアの声? さっき、ラフレアが咲いているって言っていたよな。巨大な花だとも言っていた。話す花なんて、あるのか?


 薬師の知識を探っても、何も思い当たらない。魔獣使いの知識にも無いようだ。



 ゼクトさんは、少しずつ進んでいく。透明なゴム玉の中にいる僕も、歩かなくてもジワジワと進む。


 だけど、いいのかな。ギルマスには無理なら、近寄っちゃいけないんじゃないのか?


 ギルマスの顔を見ると、いつの間にか、見たことのない帽子を被っている。僕の視線に気づくとニヤッと笑った。


 魔道具だろうか。柔らかな素材の黄緑色に見える鮮やかな帽子だ。特に魔力は感じないが。



「ヴァン、間抜けなオールスは、いま、耳が聞こえねーから、どんな悪口を言ってもいいぜ」


「えっ? 耳が? 確かに、帽子にすっぽりと覆われていますけど」


 ギルマスは、このラフレアの声が聞こえないようにしているのか。何か、害のある声なのかもしれない。


「おい、何を言われているかはわかるぜ。なめたことを言ってんじゃねぇぞ、狂人」


「ふん、口元を隠せばわからねぇだろ」


 口の動きか。ふふっ、二人に軽口を叩く余裕があるなら、たいしたことはないのかな。




 ゼクトさんがジワジワと進む僕達の進行方向を、ジッと見てみる。さっき出てきた穴からは、まだそんなに離れていない。だけど、地面の色がガラリと変わった。


 さっきの場所は、乾いた白っぽさのある土壌だった。ギルマスがこの森の採取権を欲しがっていたという話に、なるほどなと思ったんだ。


 こういう土壌には、変わった植物が育つ。これは、薬草ハンターの知識でもあるし、ぶどう農家に生まれ育った僕の感覚でもある。


 薬草のサーチをしなくても、いろいろな珍しい植物がこの森にあることがわかるんだ。


 だけど、ジワジワと移動する僕達の足元の土は、赤紫色だ。まるで、白い布に赤ワインをこぼしたみたいな、鮮明な赤紫色なんだ。



「土の色がおかしくないですか?」


「あぁ、これは、ラフレアのテリトリーの印だ。このテリトリーに入ると、耐性のない奴は魔法が使えなくなる」


「えっ? そんな!」


 ちょっと待った。ギルマスは、常にマナを循環させたり、浮遊魔法を使っている。彼に耐性がないなら、帽子を被って声を聞かないようにはできても……。


「だから、嫌がってたんだよ。ラフレアのテリトリーに入るってことは、オールスは下手すりゃ死ぬからな。だが、踏まなけれいいんだ。オールスには足がないから余裕だぜ」


「いや、足がなくても、地面に触れるとダメなんですよね?」


「ククッ、だから、オールスは本気スイッチが入ってるぜ。その帽子は、賢者の帽子と呼ばれるダンジョン産の魔道具だ。大幅に魔力を増幅させる。聴覚を封じているのは、帽子じゃなくて、オールス自身だ。ラフレアの声を聞くと、身体のチカラが抜けるからな」


「操られるんですか?」


「は? ラフレアは食肉植物だぜ。何かを操る能力はない。魔法を封じ、チカラが抜けて歩けなくなるだけだ」


 食肉植物……。


 ゼクトさんはサラリと言うけど、それって、テリトリーに入って、声を聞いたら、絶対に逃げられないってことじゃないか。


 僕は、手足が冷たくなるのを感じた。ラフレアって、めちゃくちゃヤバイ植物だ。



「ゼクトさんは、大丈夫なんですね?」


「あぁ、動けなくはならねぇが、ラフレアに完全耐性はないからな。この歩みが全力疾走なんだが」


「えっ? ジワジワと近寄ってるんじゃないんですか」


「全力疾走だぜ。あー、おまえは動くなよ? 普通に動くと、花がこっちに来るからな」


 花が来る? 植物が歩くわけがない。テリトリー内はワープができるのか。



「僕は、どうすれば良いですか」


「とりあえずは、オールスのおりだな。このテリトリーの広さから考えて、花は1つじゃないだろう。ゴム玉が壊されないように維持してくれ」


「わかりました」


 ゼクトさんの表情からは、余裕の笑みが消えている。ギルマスは無言だ。浮遊魔法が途切れないように、集中しているんだ。


「チッ! もう少し早く来るべきだったな。ここまで急成長したのは、やはり地下水脈のせいか」


 ゼクトさんは、悔しそうに呟いた。


 僕に、あの施設からこの森に穴を繋げろと言ったのは、ゼクトさんだ。もしかすると、もともと、ここに来る予定だったのかもしれない。


 ラフレアの花が咲いているはずだと言っていたのも、そう考えると、スッキリする。ギルマスが来ているのも、ラフレアの森の何かを知っていたからか。




『ラーララ、ラララン……アヒャッ』


「うわ!」


「ヴァン、大声で騒ぐな。オールスの集中が途切れる」


「す、すみません」


「コイツは、つぼみだ。何の力もねぇ」


 いやいやいやいや、花が咲いてるじゃないか。それにこっちを見てる。しかも、僕の頭の3倍はあるほどの巨大な花だ。花なのに、人のような顔がある。


『ラーラララララ』


 歌ってるし!


 変な音程だけど、歌ってるし……ぎゃぁあ、いっぱいいるじゃないか。透明なゴム玉を不思議そうに覗き込む。巨大な緑色の顔! 人面花だ、緑色だなんて気味が悪い。


 うん? 緑色? 緑色の花?


 緑色の花なんて、あるのか? つぼみが緑色の花に見えるものならあるけど……。


 これは、つぼみなのか? ゼクトさんも、つぼみだと言っていた。だけど……こんなに巨大な人面のつぼみ? 不気味すぎる。




「あーあ、やっぱりな。オールス、お留守番できるか?」


 声が聞こえないギルマスに向かって、ゼクトさんは普通に話している。だけどギルマスは、胸元で小さくペケマークを作った。


 僕も困る。ゼクトさんがいなくなったら、緑色の巨大な人面花の中で、どうすればいいんだ。


「仕方ねぇな。ヴァン、オールスを頼むぞ。俺はちょっと行ってくるわ」


「えー、ゼクトさん、待ってください。ゴム玉から出ると、舞っている黄色い何かが付きますよ。ヤバそうです」


「ラフレアの花粉だろ? 一時的に視聴覚がやられるだけだ。水浴びをすれば、消える」


「ええ〜っ! マズイじゃないですか」


「だよな。服に付くと取れねぇからな」


 いや、服じゃなくて……。


「ククッ、何て顔をしてるんだ? 俺が花粉まみれになるわけねぇだろ。このシャツは気に入ってるんだ」


 そう言うと、ゼクトさんは、ゴム玉から出ていった。玉の動きが止まる。ま、マズイ!



 僕は、スキル『道化師』の玉乗りを使う。そして、ゼクトさんが残した透明なゴム玉の支配権を僕に移した。


 外に浮かぶゼクトさんのスピードに合わせて、ゆっくりと歩いていく。ギルマスを守れるのは、僕しかいない。嫌な汗が出てくる。



 少し進むと、王宮の兵が倒れているのが見えた。何かにやられて倒れているというより、酔っ払ってぶっ倒れているようだな。


 薬師の目を使ってみてみると、あらゆる状態異常のようだ。だけど毒ではない。これは、薬師には治せない。



 ゼクトさんの表情は固い。


 そして、彼の表情には焦りが見える。そういえば、スピードが落ちている。うっかり追い抜きそうになるんだよな。



 さっき、ギルマスを一人にしようとしたのは、ゼクトさんだけでは、厳しいと判断したからじゃないのか。



『アラ、マタキタノネ』



 ゼクトさんが、ゴム玉を蹴った。


 僕は、必死に回転しないように調整する。



「ギルマス、大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。しかし、ちょっとヤバそうだな」


 ゼクトさんは、僕達を自分から遠ざけたんだ。


「また来たのね、って聞こえましたけど」


 僕は、ギルマスに僕の口元が見えるように気をつけて話す。


「あぁ、ラフレアは不死だからな。しかも、会って逃げられた人間の顔は覚えている。俺もアイツも、恨まれてるからな」


「恨まれている?」


「テリトリーを広げすぎたときには、赤い花を狩るんだ。じゃないと、どこまでもテリトリーを広げていくからな」


 赤い花?



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